Pure rain
君を助けるため…
君を護るため…
Pure rain
「なるほど、そういう事だったんですね」
ここは桜花町にあるよろず屋。柚希自身、以前から噂には聞いていたし、通り過ぎる事はあったが、中に入るのは初めてだった。
こじんまりした、少し小さめの客間に通され、白銀の特徴的な髪に赤い目をした若い女性…琥珀にお茶をすすめられ、今、すべてを話し終えた。少し温くなった紅茶で口を潤していると、琥珀は一冊のファイルを棚から取り出し、柚希に差し出した。
「?これは……?」
「これは私たちが集めた『高嶺グループ』の資料です。愛莉さんでしたっけ、彼女のお父さんが一代で立ち上げて大きくした会社なんですよ」
「そうなんですか。ちょっとよく見せて貰ってもいいですか?」
「どうぞ」
柚希は軽く頭を下げ、ファイルを受け取り開いてみる。中には事細かに書かれた会社の内部の事や会長である愛莉の父親の経歴が写真付きで載っていた。パラパラとめくっていると、後ろの方のページに気になる記事を見つけた。
それは、新聞の切り抜きだった。
『高嶺グループの令嬢、イジメにあい自殺未遂。「もう堪えられない」と繰り返されたリストカット』
「こ、れ…?」
「その記事は、一月前に出た週刊誌の見だしですよ。最初はあまり気に留めていなかったんですけど、その令嬢…愛莉さんに嵌められてイジメられている子がいるって情報を貰ったんです。それでもしかしてと思いまして、調べてみたんです」
「あの、情報を提供した人って誰だか分かりますか?」
「本来なら守秘しなければならないかもですけど、レスカ達から話を聞いていますし……教えますね。………飯塚蓮汰くんですよ」
「え……?その人確か……」
「はい、雪菜さんの幼なじみの男の子です。ここに来たのは一週間くらい前です。雪菜さんの様子がおかしいと周りに探りを入れていたら、高嶺愛莉さんと雪菜さんの事を知ったそうです」
「…どれくらい前から雪菜は…?」
「はっきりとは分かりませんが、おそらく最低でも二ヶ月前。最初は下準備として自分を周りに売り込んだり、雪菜さんに酷い事をされたという裏付けを画策していたんでしょう。表立って行動しはじめたのは本当につい最近ですね。この写真は潜入捜査の時に、従業員が撮ったものです」
琥珀は柚希から資料を受け取ると、一番後ろのファイルのポケットから何枚か写真を取り出しテーブルに並べた。それを見た柚希は唖然とした。そこに写っていたのは…
自らの腕を切り付け、歪んだ笑顔を浮かべる愛莉の姿……おそらく、いままで雪菜にやられたと騒いでいた傷はすべて自作自演。という事は、彼女の取り巻き達やクラスメートは愛莉の嘘に躍らされ、騙されているという事になる。
柚希は眉間にシワを寄せ、写真を眺める。つのる苛立ち……。あの日の雪菜の様子は間違いなく他人に怯えていた。傷付けられる事を恐れ、目を合わせなかったり、逃げようとしたり……会って間もないとは言え、柚希が思うに雪菜はそんなに人見知りをするタイプではない。
これは、間違いなくこのイジメにより出来上がってしまった、雪菜の自己防衛のために生まれた人格だ。
許せない……それ以上に雪菜を早く助けてあげたいという思いが柚希の中で強くなっていく。
そんな柚希の心情を察したのか、琥珀は柔らかく微笑む。
「大丈夫ですよ。必ず助けましょう!私たちも全力でお助けします。希望はあります。絶対に諦めないで」
暖かく力強い琥珀の言葉に、柚希は精一杯の笑顔で頷く。
だって必ず助けると決めたんだ。この先、何が待ち受けていても、私は諦めない!!
柚希は頼もしい協力者を得て、決意を覚悟を決めた。大切な友達に、心の底から笑って貰えるように……。
Pure rain
―確実に真実に近づいているから
だから
私は恐れる事なく
この先へと歩いていけるの…きっとこれは平穏への―
~小さな一歩~