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「お願い! 頼めるのあとナマエしか居ないの!!」
そう言って目の前で両手を合わせている友人にえー……と声を漏らす。友人が本当に困っているのは分かるのだけど、内容が内容なために私は頭を悩ませていた。
「合コンは流石に……」
「分かってる! 彼氏居るナマエにこんなの頼むのはおかしいって分かってるんだけど、ぜんっぜん捕まんないの! このままじゃ人数足りなくて流れちゃう〜!」
お願い! 一緒にご飯食べるだけで良いから! 無理に喋らなくても良いし!
あまりに必死な様子の友人にどうにかしてあげたいと思ってしまう。とはいえ、いくら人数合わせと言えど恋人が居るのに合コンに参加するのは如何なものなのだろうか。悩んで、迷って、結局私が友人に伝えた言葉は「彼氏に聞いてみる……」と言う何ともお人好しな言葉だった。
*
「は? 合コン? 絶対ダメだけど」
さっきまでニコニコと笑っていた彰くんの表情が一変したのが分かる。ビクッと肩を震わせて、「だよねー……」と誤魔化すように笑った。「うん、ごめんね。行かないから」と早口で告げて、一気に温度の下がった空気から逃げるように空のコップを持って流しへと向かう。いつにも増して低くなった声のトーンに恐怖を覚えた心臓はさっきからずっと嫌な音をたてていた。
失敗した。彰くん絶対怒ってる。思わず逃げてしまったけど、それも多分良くなかった。分かってはいるけど、今更戻れはしない。彼の顔なんて恐ろしくて見れなかった。
不意に全身を覆う大きな影に、手から滑り落ちたコップがシンクの中で音を響かせる。背後から回された腕が強く私を抱き寄せた。
「なに、オレ以外の男と遊びたいの?」
耳元で囁かれると同時に痛いぐらいの力が込められる。喉の奥から小さく悲鳴のような声が出て、咄嗟に「ちがうの……!」と声を上げた。
「と、もだち、が……どうしても、人数足りないから、って」
「ふーん……それで? 友達に頼まれたからっておまえは、オレ以外の男が居る所に行こうとしたんだ」
怖い。こんな彰くん知らない。指先が小刻みに震えている。息をするのも恐ろしいぐらい、全身が彰くんに怯えている。
喉元に上る手のひらに全身が硬直した。力の入っていない手のひらが喉元をゆっくりと擦る。命を握られている。少しでも彼が力を込めたら。想像して、血の気が引いた。
「……なぁ」
強引に顎を持ち上げられた。無理矢理上を向いた視界に、彼の綺麗な顔が映る。
「──おまえはオレだけで良いよな」
深い闇を湛えた瞳は、そんな端正な顔立ちとはひどく不釣り合いで。でも、私はそんな瞳から目を逸らせない。
あきらくんだけでいい……。気付けば口をついて出ていた言葉に、彼は目を弓なりに細めて笑った。
***
断ったはずの合コンに何故か来ている。故意では無く、完全に騙し討ちだった訳だけど、あれよあれよという間に自己紹介が始まって、抜けるタイミングを逃してしまった。
頭の中ではずっと、合コンの話をした時の彰くんが浮かんでいる。あの後散々な目に合って、次の日一日中動けなくて、もう二度と彼を怒らせないと誓ったのに。どうしよう。バレたら怒られるどころじゃない。浮かない顔をしている私に話し掛けてくる男性に作り笑いを浮かべる。正直何を喋っているか全く頭に入らない。友達に本当に無理だからって言ったのに、本命でも居るのか彼女は自分のことに必死になっている。いっそトイレに行く振りをして抜けようと立ち上がったら同じタイミングで私に話し掛けてきた男性も立ち上がるから、抜けように抜けられなかった。
そうこうしている内に一次会が終わった。必要なお金を払って、そそくさと店を出ようとする私に、頻りに話し掛けてきた男性が声を掛けてくる。二次会行かないの?と尋ねられて、行きませんときっぱり断る。
「そうかー。なら俺も帰ろうかな。家まで送るよ? どこ?」
「いや、大丈夫です。一人で帰るので」
「いやいや、女の子一人で帰らせられないって」
妙に近い距離感に顔を顰める。断っているにも関わらず、行こっかと肩に腕を回してきた男性にいよいよ声を張ろうとした時。
「あれ、友達と飲むって言ってなかったっけ」
ゾク、と背筋が震える。慌てて男性を押し退けて、声がした方へ視線を向けた。
薄ら笑い、とでも言うのだろうか。パジャマとまでは行かないけど、緩い格好でその場に立っている仙道くんの表情は穏やかなようで、視線はひどく冷ややかだ。
「あきらく、」
「聞いてた話と違ぇな。男が居るなんて一言も言わなかったよな」
コンパスの長い足であっという間に私の前に立つ。
「誰? そいつ」
顎で示す彰くんの視線は一度も男性の方へは向かない。ずっと、私を見ていた。
「ご、めん……」
「謝られても困るんだけど。おまえは今まで誰と飲んでたわけ?」
じっとりと浮かぶ汗が変に冷たい。何か、言わないと。そう思うのに、思うように口は動かない。
「誰だよお前。ナマエちゃん困ってるだろ」
何も知らない男性が割って入ってくる。その声に一瞬だけ視線を向けて、彰くんは呟いた。
「……へぇ」
それだけ。本当にそれだけなのに、身体の芯から冷えていくような感覚を抱いた。元々低い声が更に低く、威圧してくる。
「随分仲良くなったみたいじゃん」
いたって自然な動作で彰くんを私を引き寄せる。腕を掴んだ力は周りに気付かれないだけで、とても、強い。
「大方、飲みって聞いてたのに実際来たら合コンだったってところ? で、そのまま抜けないで参加しちゃったんだ」
彰くんの世界には私しか居ない。私しか居ないから、彼は、何も気にしない。
頬に触れる手は優しかった。壊れ物を扱うかのようにただ、優しく包む。
「オレだけで良いって、言ったよな」
諭すような口調に変わる。私は頷くことしか出来ない。
「なら、ちゃんと、オレだけにして」
彼の言葉が、声が、全身を巡る。彰くんだけにしないと。簡単に、私をそう思わせる。
帰ろっか。そう言って穏やかに笑う彼に、私はもう一度頷く。彰くんは、何も無かったかのように私の手を引いて歩き出した。その手が心地良い。そう思う時点で私はもう、彼から離れられないのだろう。
そう言って目の前で両手を合わせている友人にえー……と声を漏らす。友人が本当に困っているのは分かるのだけど、内容が内容なために私は頭を悩ませていた。
「合コンは流石に……」
「分かってる! 彼氏居るナマエにこんなの頼むのはおかしいって分かってるんだけど、ぜんっぜん捕まんないの! このままじゃ人数足りなくて流れちゃう〜!」
お願い! 一緒にご飯食べるだけで良いから! 無理に喋らなくても良いし!
あまりに必死な様子の友人にどうにかしてあげたいと思ってしまう。とはいえ、いくら人数合わせと言えど恋人が居るのに合コンに参加するのは如何なものなのだろうか。悩んで、迷って、結局私が友人に伝えた言葉は「彼氏に聞いてみる……」と言う何ともお人好しな言葉だった。
*
「は? 合コン? 絶対ダメだけど」
さっきまでニコニコと笑っていた彰くんの表情が一変したのが分かる。ビクッと肩を震わせて、「だよねー……」と誤魔化すように笑った。「うん、ごめんね。行かないから」と早口で告げて、一気に温度の下がった空気から逃げるように空のコップを持って流しへと向かう。いつにも増して低くなった声のトーンに恐怖を覚えた心臓はさっきからずっと嫌な音をたてていた。
失敗した。彰くん絶対怒ってる。思わず逃げてしまったけど、それも多分良くなかった。分かってはいるけど、今更戻れはしない。彼の顔なんて恐ろしくて見れなかった。
不意に全身を覆う大きな影に、手から滑り落ちたコップがシンクの中で音を響かせる。背後から回された腕が強く私を抱き寄せた。
「なに、オレ以外の男と遊びたいの?」
耳元で囁かれると同時に痛いぐらいの力が込められる。喉の奥から小さく悲鳴のような声が出て、咄嗟に「ちがうの……!」と声を上げた。
「と、もだち、が……どうしても、人数足りないから、って」
「ふーん……それで? 友達に頼まれたからっておまえは、オレ以外の男が居る所に行こうとしたんだ」
怖い。こんな彰くん知らない。指先が小刻みに震えている。息をするのも恐ろしいぐらい、全身が彰くんに怯えている。
喉元に上る手のひらに全身が硬直した。力の入っていない手のひらが喉元をゆっくりと擦る。命を握られている。少しでも彼が力を込めたら。想像して、血の気が引いた。
「……なぁ」
強引に顎を持ち上げられた。無理矢理上を向いた視界に、彼の綺麗な顔が映る。
「──おまえはオレだけで良いよな」
深い闇を湛えた瞳は、そんな端正な顔立ちとはひどく不釣り合いで。でも、私はそんな瞳から目を逸らせない。
あきらくんだけでいい……。気付けば口をついて出ていた言葉に、彼は目を弓なりに細めて笑った。
***
断ったはずの合コンに何故か来ている。故意では無く、完全に騙し討ちだった訳だけど、あれよあれよという間に自己紹介が始まって、抜けるタイミングを逃してしまった。
頭の中ではずっと、合コンの話をした時の彰くんが浮かんでいる。あの後散々な目に合って、次の日一日中動けなくて、もう二度と彼を怒らせないと誓ったのに。どうしよう。バレたら怒られるどころじゃない。浮かない顔をしている私に話し掛けてくる男性に作り笑いを浮かべる。正直何を喋っているか全く頭に入らない。友達に本当に無理だからって言ったのに、本命でも居るのか彼女は自分のことに必死になっている。いっそトイレに行く振りをして抜けようと立ち上がったら同じタイミングで私に話し掛けてきた男性も立ち上がるから、抜けように抜けられなかった。
そうこうしている内に一次会が終わった。必要なお金を払って、そそくさと店を出ようとする私に、頻りに話し掛けてきた男性が声を掛けてくる。二次会行かないの?と尋ねられて、行きませんときっぱり断る。
「そうかー。なら俺も帰ろうかな。家まで送るよ? どこ?」
「いや、大丈夫です。一人で帰るので」
「いやいや、女の子一人で帰らせられないって」
妙に近い距離感に顔を顰める。断っているにも関わらず、行こっかと肩に腕を回してきた男性にいよいよ声を張ろうとした時。
「あれ、友達と飲むって言ってなかったっけ」
ゾク、と背筋が震える。慌てて男性を押し退けて、声がした方へ視線を向けた。
薄ら笑い、とでも言うのだろうか。パジャマとまでは行かないけど、緩い格好でその場に立っている仙道くんの表情は穏やかなようで、視線はひどく冷ややかだ。
「あきらく、」
「聞いてた話と違ぇな。男が居るなんて一言も言わなかったよな」
コンパスの長い足であっという間に私の前に立つ。
「誰? そいつ」
顎で示す彰くんの視線は一度も男性の方へは向かない。ずっと、私を見ていた。
「ご、めん……」
「謝られても困るんだけど。おまえは今まで誰と飲んでたわけ?」
じっとりと浮かぶ汗が変に冷たい。何か、言わないと。そう思うのに、思うように口は動かない。
「誰だよお前。ナマエちゃん困ってるだろ」
何も知らない男性が割って入ってくる。その声に一瞬だけ視線を向けて、彰くんは呟いた。
「……へぇ」
それだけ。本当にそれだけなのに、身体の芯から冷えていくような感覚を抱いた。元々低い声が更に低く、威圧してくる。
「随分仲良くなったみたいじゃん」
いたって自然な動作で彰くんを私を引き寄せる。腕を掴んだ力は周りに気付かれないだけで、とても、強い。
「大方、飲みって聞いてたのに実際来たら合コンだったってところ? で、そのまま抜けないで参加しちゃったんだ」
彰くんの世界には私しか居ない。私しか居ないから、彼は、何も気にしない。
頬に触れる手は優しかった。壊れ物を扱うかのようにただ、優しく包む。
「オレだけで良いって、言ったよな」
諭すような口調に変わる。私は頷くことしか出来ない。
「なら、ちゃんと、オレだけにして」
彼の言葉が、声が、全身を巡る。彰くんだけにしないと。簡単に、私をそう思わせる。
帰ろっか。そう言って穏やかに笑う彼に、私はもう一度頷く。彰くんは、何も無かったかのように私の手を引いて歩き出した。その手が心地良い。そう思う時点で私はもう、彼から離れられないのだろう。