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「それ、オレじゃダメですか」
その一言で教室は静まり返った。まるで全ての音が世界から消えたかのような静寂だった。
──ねぇ、と含みのある低い声が割って入ってきたのはついさっきの話だ。前の席に座る友達と何気ない会話をしていた最中のことだった。突然目の前の机に置かれた手、私達をすっぽり覆えてしまえそうなほどの大きな影。そして、聞こえてきたさっきの発言。
私は混乱していた。それが誰に向けて宛てられた言葉か分かってしまったから余計に。
だから、私は咄嗟に返してしまったのだ。こちらを見下ろす垂れ目気味な目元を見上げながら、「オレじゃダメですか!?」と彼と全く同じ言葉を、教室中に響き渡るほど大きな声で。
静まり返っていた教室にざわめきが戻ったのは授業をひとつ挟んだ後の休み時間のことだった。唖然としていた私に言葉を続けようとした彼が口を開いたと同時に鳴った予鈴に助けられたと言っても良い。やべ、と短くこぼした彼はクラスメイトの魚住に「それじゃあ魚住さんこれ借ります!」と体操着一式を掲げ、そして私に「また後で!」と言って去っていた。
また後で……? ポカンとしたままの私に物言いたげなクラスメイト達の視線は、授業担当の先生がやってきたことで散っていったが、唯一魚住だけは申し訳無さそうな顔で私のことを見ていた。
「ウチの仙道がすまん」
そうして少し冷静さを取り戻した休み時間。律儀に私の席にやって来た魚住は、自分のことでも無いのに私に頭を下げた。
「いや……いや? 謝られるようなことでは無いけど……」
聞きたいことは山ほどある。魚住にもだし、問題の発言者である仙道にもだ。
とりあえず整理しよう。私は先の休憩時間、友達と雑談をしていた。具体的に言うと、所謂恋バナというものである。正確な内容までは覚えていないが、「彼氏良いな〜」とか「私も彼氏欲しい」とか友達の惚気話にそんな感じの発言をした覚えがある。するとそこに割って入ってきたのだ。仙道が。「それ、オレじゃダメですか」と。何度思い出しても意味が分からない。仙道の言う"それ"が私の言う"彼氏"を指すのなら、なおさらだ。
そもそも私と仙道はほとんど面識が無い。私はまぁ、一方的に知っているけど、(仙道は校内で超が付くほどの有名人な為)仙道の方は私の存在なんて認識していないレベルだろう。良くて部活の先輩のクラスメイトとかその程度の認識だと思っていたけど。
「もしかして私からかわれた?」
「いや、それは無い。断じて無い」
どうして魚住がそんなに必死に否定するのだろう。さっきまでしおらしくしていたのに、突然圧を強めるのはやめてほしい。ただでさえ大きいのだから。
「じゃあ、なに? 私、仙道とほとんど話したことないんだけど……」
「それは、まぁ……あれだ、あれ。察してやれ」
言葉を濁すような言い方をする魚住にいやいやいや、と思う。そんな反応をされるとまるで本当みたいじゃないか。仙道の発言が本当に本気で、魚住がそれを知っていたかのような。
「仙道って私のこと好きなの……?」
「そうですよ」
またしても突然割って入ってきた声に「ぎゃあ! 仙道だ!」と叫びながら跳び上がる。ドッドッと跳ね上がる心臓を抑えながら、苦笑いを浮かべている仙道を見上げた。
「ぎゃあ、って。そんなに嫌でした?」
「いや、だって……えぇ?」
魚住に体操着を返しに来たらしい。「ありがとうございました」と丁寧にお礼を言って魚住に渡している。そして、すぐにこちらに向く視線に思わず肩を震わせた。
「前から思ってたんです。綺麗な人だなって」
「ひぇ」
「彼氏欲しいって言うから、じゃあ、オレはどうかなって」
グイグイと距離を詰めてくる仙道に必死に身体を反らして距離を取ろうとする。そのせいで椅子の脚が浮いて、ひっくり返りそうになるのを何とか堪える。
──汗、とはまた違う、クラクラする匂い。目が回りそうになっている私に、仙道は更に距離を詰める。ガタッと椅子が音をたてた。
「──オレにしてよ、先輩」
耳元で囁く全身が痺れてしまいそうな声に思わず頷きそうになって、何とか押し留まって。
「友達! 友達からでお願いします!!」と叫んだ私は、結局椅子ごとひっくり返った。
その一言で教室は静まり返った。まるで全ての音が世界から消えたかのような静寂だった。
──ねぇ、と含みのある低い声が割って入ってきたのはついさっきの話だ。前の席に座る友達と何気ない会話をしていた最中のことだった。突然目の前の机に置かれた手、私達をすっぽり覆えてしまえそうなほどの大きな影。そして、聞こえてきたさっきの発言。
私は混乱していた。それが誰に向けて宛てられた言葉か分かってしまったから余計に。
だから、私は咄嗟に返してしまったのだ。こちらを見下ろす垂れ目気味な目元を見上げながら、「オレじゃダメですか!?」と彼と全く同じ言葉を、教室中に響き渡るほど大きな声で。
静まり返っていた教室にざわめきが戻ったのは授業をひとつ挟んだ後の休み時間のことだった。唖然としていた私に言葉を続けようとした彼が口を開いたと同時に鳴った予鈴に助けられたと言っても良い。やべ、と短くこぼした彼はクラスメイトの魚住に「それじゃあ魚住さんこれ借ります!」と体操着一式を掲げ、そして私に「また後で!」と言って去っていた。
また後で……? ポカンとしたままの私に物言いたげなクラスメイト達の視線は、授業担当の先生がやってきたことで散っていったが、唯一魚住だけは申し訳無さそうな顔で私のことを見ていた。
「ウチの仙道がすまん」
そうして少し冷静さを取り戻した休み時間。律儀に私の席にやって来た魚住は、自分のことでも無いのに私に頭を下げた。
「いや……いや? 謝られるようなことでは無いけど……」
聞きたいことは山ほどある。魚住にもだし、問題の発言者である仙道にもだ。
とりあえず整理しよう。私は先の休憩時間、友達と雑談をしていた。具体的に言うと、所謂恋バナというものである。正確な内容までは覚えていないが、「彼氏良いな〜」とか「私も彼氏欲しい」とか友達の惚気話にそんな感じの発言をした覚えがある。するとそこに割って入ってきたのだ。仙道が。「それ、オレじゃダメですか」と。何度思い出しても意味が分からない。仙道の言う"それ"が私の言う"彼氏"を指すのなら、なおさらだ。
そもそも私と仙道はほとんど面識が無い。私はまぁ、一方的に知っているけど、(仙道は校内で超が付くほどの有名人な為)仙道の方は私の存在なんて認識していないレベルだろう。良くて部活の先輩のクラスメイトとかその程度の認識だと思っていたけど。
「もしかして私からかわれた?」
「いや、それは無い。断じて無い」
どうして魚住がそんなに必死に否定するのだろう。さっきまでしおらしくしていたのに、突然圧を強めるのはやめてほしい。ただでさえ大きいのだから。
「じゃあ、なに? 私、仙道とほとんど話したことないんだけど……」
「それは、まぁ……あれだ、あれ。察してやれ」
言葉を濁すような言い方をする魚住にいやいやいや、と思う。そんな反応をされるとまるで本当みたいじゃないか。仙道の発言が本当に本気で、魚住がそれを知っていたかのような。
「仙道って私のこと好きなの……?」
「そうですよ」
またしても突然割って入ってきた声に「ぎゃあ! 仙道だ!」と叫びながら跳び上がる。ドッドッと跳ね上がる心臓を抑えながら、苦笑いを浮かべている仙道を見上げた。
「ぎゃあ、って。そんなに嫌でした?」
「いや、だって……えぇ?」
魚住に体操着を返しに来たらしい。「ありがとうございました」と丁寧にお礼を言って魚住に渡している。そして、すぐにこちらに向く視線に思わず肩を震わせた。
「前から思ってたんです。綺麗な人だなって」
「ひぇ」
「彼氏欲しいって言うから、じゃあ、オレはどうかなって」
グイグイと距離を詰めてくる仙道に必死に身体を反らして距離を取ろうとする。そのせいで椅子の脚が浮いて、ひっくり返りそうになるのを何とか堪える。
──汗、とはまた違う、クラクラする匂い。目が回りそうになっている私に、仙道は更に距離を詰める。ガタッと椅子が音をたてた。
「──オレにしてよ、先輩」
耳元で囁く全身が痺れてしまいそうな声に思わず頷きそうになって、何とか押し留まって。
「友達! 友達からでお願いします!!」と叫んだ私は、結局椅子ごとひっくり返った。