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私にはママが居ない。生まれた時からずっと、パパが一人で私を育ててくれている。ママは、私を産んで間もなく亡くなってしまったらしい。
仏壇の前で手を合わせるのは日課になっている。声も知らないその人はいつも写真の中で笑っているだけだ。自分とそっくりなその笑顔に、たまに寂しくなる。もしママが居たらどんな風に話していたのかな、とか、どんなご飯を作ってくれたのかな、とかそんなことを考えて。
もしママが居たら、パパが寂しそうに笑うことも無かったのかな、とも。
パパは多分、ママの姿を私に重ねている。おじいちゃんおばあちゃんが泣いてしまうぐらい瓜二つだって言われている私に、パパが愛してやまない人の姿を。
思春期の時はそれが辛かった。私がママに似てるからって、それだけでパパが私を育てていると思ってしまったからだ。多感な時期だったから、家に男の人しか居ないっていうのも辛かった。
その時期に一度だけ、パパと大喧嘩したことがある。喧嘩と言ってもパパはいつも冷静だった。私が一方的に捲し立てて、でも、そんなパパの落ち着きに余計に腹が立って。「私のせいでママが死んだんでしょ!」って叫んで、言った後に自分でも悲しくなって、勢いのまま家を飛び出した。行く宛てなんて無かったのに、何も持たずに身一つで飛び出したあの時の私は、やっぱり子供だった。あんなに危ないこと、今はもう出来ない。
パパの血をしっかり受け継いでいる私は、それなりに足が速かった。パパが後から追いかけてきた時には私の姿はもう見えなくなっていたらしい。「あの時は参ったよ……」と今でもその話が上がる度にパパは苦い顔をする。それからは色々な人を巻き込んで、まぁまぁの騒動になってしまったけど、最終的に私の姿を見つけてくれたのはパパだった。
普段は穏やかで表情を崩すことのないパパが必死な表情で私を探して、私を見つけた途端顔を歪めて。多分一瞬、感情のままに怒鳴ろうとして、堪えていたのをどうしてか分かってしまった。ズカズカと大股で歩み寄って来たパパに叩かれでもするかと思ったけど、パパはそれをしなかった。
「おまえまで居なくなったらオレはどうすればいい……」震える腕に抱き締められた時、私は初めてパパの本音を聞いた気がした。「ごめんなさい」って泣きながら謝った私に、私のせいじゃないって何度も何度も言ってくれた。「全部オレが悪いから」って、それこそパパのせいじゃないのに。
パパは私がママに似てるから私を育てているわけではなかった。私がパパとママの子供だから、私を育ててくれていた。
だから、パパが私のことをちゃんと私として愛してくれていることを知っている。誰よりも私のことを想っていて、誰よりも私を幸せにしてくれたことを。
鳴り響く拍手の中をパパと二人で歩いている。私のドレス姿を見たパパは泣きそうな顔で笑って「綺麗だ」ってたった一言、多分ママのことを思い出しながら言った。私がパパに紹介したい人が居るって言った時は、一瞬驚いた顔をして、すぐに渋るような表情をしたのを覚えている。「まだ覚悟が……」とか「心の準備が……」なんて、らしくもなく動揺している様子がおかしくて笑ってしまったものだ。でも、彼の前ではずっとかっこいいパパのままで、「この子を選んでくれてありがとう」って言ったパパに、私だけではなく、何故か彼も泣いていた。
ママもちゃんとここに居る。パパと一緒に選んだ写真のママは、私が見惚れるぐらい綺麗だった。一度も会ったことが無いのに、本当にそこにママが居るようだった。
パパの、ずっと私を守ってくれていた大きな手のひらが、私から離れていく。名残惜しそうに握られた手が少しだけ震えていたことには気付かない振りをした。
私は今日、結婚してパパの元から離れる。でもずっと、パパとママの子供であることは変わらない。ふたりの元に生まれたことは、私にとっての誇りだった。
パパがずっと、ママのことを愛しているように、私も彼のことをずっと、愛していたいと思う。そして、パパが私を愛してくれているように、私も、パパのことをずっと愛している。
***
最愛の人と連れ添う娘の晴れ姿に胸がいっぱいになる。あの時は夢にも思わなかった。こうして、娘を送り届ける日が来ることを。
彼女が居たらどうだっただろうか、と思う。彼女と瓜二つな娘の姿に、どうしてもその姿を重ねてしまう。
彼女の笑顔を今でも忘れられない。忘れたくなくて、忘れないように必死になっている。娘の成長を喜ぶと同時に、彼女との思い出が消えてしまうのが怖くて仕方なかった。
あの日の絶望が今でも時々甦ってくる。その度にオレを救いあげてくれたのは、紛れもないたった一人の娘の存在だった。
娘が居ればそれでいい。娘が笑っていられるのなら、それで。それだけがオレの生きがいだった。だから、娘がオレの手から離れることがひどく寂しい。それでもあの時の絶望と比べると、それはどうしようもなく幸せな感情だった。
今でも何を恨めば良いのか分からない。
あっという間だった。娘が生まれてすぐ、安心したように笑った彼女がオレの見た最期だった。言葉を交わすことも無く、次に見た時にはもう彼女の目は閉じられていて、二度と開くことはなかった。
呆然とすることしか出来ないオレに、無情に告げられる医師からの言葉。そんな訳が無いと否定しそうになって、こんな時でも冷静な自分が嫌だった。青白い肌で眠る彼女は明らかに、生気を感じられなかった。
オレはその日、何としてでも守りたかった存在を失った。遺ったのは、保育器の中で眠る小さな存在だけだった。
彼女が居なくなっても時間だけは過ぎていく。まさか娘が生まれてすぐに彼女の葬儀を執り行うことになるとは思わなかった。色々な言葉を掛けられたが、オレにはその一つ一つに返す気力なんて無かった。
彼女の両親には頭を上げることが出来なかった。大切にする。幸せにすると誓ったのに、オレよりも、彼女の両親よりも先に旅立たせてしまったことを、謝っても謝りきれなかった。彼女の両親はオレのせいじゃないと言ってくれたが、オレは、オレのせいだと言い聞かせることしか出来なかった。
娘は小さかった。彼女が命に替えて生んだ我が子は、泣きたくなるぐらい可愛くて愛しかった。彼女と一緒に決めた名前は娘によく合っていたと思う。名前を呼ぶ度に無垢な笑顔を向ける娘を、彼女にも見せたかった。
せめて不自由なく娘が暮らせるよう出来ることは何だってやった。誰かの手を借りることは厭わなかったし、娘に愛情を注ぐことは惜しまなかった。幸いにも人に恵まれたオレは、沢山の人に支えられながら娘と共に歳を重ねていった。
彼女の遺影の前で何度弱音を吐いただろう。慣れないことだらけでどうしたら良いか分からない時、娘と喧嘩した時。返事は無くても、写真の中で笑っている彼女に話しかけているだけで、心が落ち着くような気がした。
一度、娘が家を飛び出したことがある。
──私のせいでママが死んだんでしょ!
そんな風に思わせたくなかったのに、そんな言葉を叫んで出て行った娘に、咄嗟に身体は動かなかった。ハッとして慌てて追いかけようとしたものの、オレの運動能力をしっかりと受け継いだ娘は俊足だった。家を出た時にはもう、その姿が見えなかった。
少なからず焦っていたのだろう。近辺に住むありとあらゆる知り合いに電話して、詳しい事情も説明せずに娘を探してくれと頼んだオレに、何も聞かずに探してくれた知人達には本当に感謝している。
娘は海辺の砂浜で一人蹲っていた。何事も無かったから良かったが、もし誰かに襲われたりでもしていたら、と思うと今でも肝が冷える。
危ないだろ、と声を荒らげそうになって、娘を責めるべきではないと理性で何とか留めた。娘の名前を呼ぶとビクリと震えた肩に怯えさせてしまっていることに気付いたが、安心感を得たいが為に娘の身体を抱き締めた。娘の前では弱い所を晒したくなかったが、この時ばかりは抑えきれなかった。オレはもうこれ以上、何も失いたくはなかった。
おまえのせいじゃない。悪いのは全部オレだから。ごめんな。不甲斐ない父親でごめん。
こんな時、彼女ならどうしただろうかと思う。彼女だったらもっと上手くやれたんじゃないだろうか、と考えても仕方ないことを何度も何度も頭の中で。
久しぶりに娘と手を繋いで家に帰ったあの日に、オレは遠い昔の彼女との思い出を思い返していた。甘酸っぱい恋をしていた、今でも色褪せることのない大切な思い出を。
「パパ」
不意に届いた娘の声に顔を上げる。今この場に居る誰よりも綺麗な娘の姿に、思わず息を呑んだ。
「──私を、愛してくれてありがとう」
彼女の姿が頭をよぎった。彼女と出会ってからの思い出が瞬く間に思い出される。娘と二人だけになってしまってからの怒涛の生活も、まるで走馬灯のように頭を駆け巡っていく。あぁ、駄目だと思った。堪えようと息を吸い込んで、すぐに震える呼吸が吐き出されて。滲んでいく視界を誤魔化す術を知らなかった。
いかないでほしい。オレを、置いていかないでくれ。
心の中の叫びはどちらに向けて宛てたものだったのだろう。まぶたを焼くような熱さに一度、目を閉じる。
おれこそ、ありがとう。小さな声で呟いた。瞬きをした拍子にこぼれる涙を、もう堪えようとはしない。
そんなオレを見て娘は柔らかく微笑んだ。そして、どこかから、大好きだった優しい声が聞こえた気がした。
仏壇の前で手を合わせるのは日課になっている。声も知らないその人はいつも写真の中で笑っているだけだ。自分とそっくりなその笑顔に、たまに寂しくなる。もしママが居たらどんな風に話していたのかな、とか、どんなご飯を作ってくれたのかな、とかそんなことを考えて。
もしママが居たら、パパが寂しそうに笑うことも無かったのかな、とも。
パパは多分、ママの姿を私に重ねている。おじいちゃんおばあちゃんが泣いてしまうぐらい瓜二つだって言われている私に、パパが愛してやまない人の姿を。
思春期の時はそれが辛かった。私がママに似てるからって、それだけでパパが私を育てていると思ってしまったからだ。多感な時期だったから、家に男の人しか居ないっていうのも辛かった。
その時期に一度だけ、パパと大喧嘩したことがある。喧嘩と言ってもパパはいつも冷静だった。私が一方的に捲し立てて、でも、そんなパパの落ち着きに余計に腹が立って。「私のせいでママが死んだんでしょ!」って叫んで、言った後に自分でも悲しくなって、勢いのまま家を飛び出した。行く宛てなんて無かったのに、何も持たずに身一つで飛び出したあの時の私は、やっぱり子供だった。あんなに危ないこと、今はもう出来ない。
パパの血をしっかり受け継いでいる私は、それなりに足が速かった。パパが後から追いかけてきた時には私の姿はもう見えなくなっていたらしい。「あの時は参ったよ……」と今でもその話が上がる度にパパは苦い顔をする。それからは色々な人を巻き込んで、まぁまぁの騒動になってしまったけど、最終的に私の姿を見つけてくれたのはパパだった。
普段は穏やかで表情を崩すことのないパパが必死な表情で私を探して、私を見つけた途端顔を歪めて。多分一瞬、感情のままに怒鳴ろうとして、堪えていたのをどうしてか分かってしまった。ズカズカと大股で歩み寄って来たパパに叩かれでもするかと思ったけど、パパはそれをしなかった。
「おまえまで居なくなったらオレはどうすればいい……」震える腕に抱き締められた時、私は初めてパパの本音を聞いた気がした。「ごめんなさい」って泣きながら謝った私に、私のせいじゃないって何度も何度も言ってくれた。「全部オレが悪いから」って、それこそパパのせいじゃないのに。
パパは私がママに似てるから私を育てているわけではなかった。私がパパとママの子供だから、私を育ててくれていた。
だから、パパが私のことをちゃんと私として愛してくれていることを知っている。誰よりも私のことを想っていて、誰よりも私を幸せにしてくれたことを。
鳴り響く拍手の中をパパと二人で歩いている。私のドレス姿を見たパパは泣きそうな顔で笑って「綺麗だ」ってたった一言、多分ママのことを思い出しながら言った。私がパパに紹介したい人が居るって言った時は、一瞬驚いた顔をして、すぐに渋るような表情をしたのを覚えている。「まだ覚悟が……」とか「心の準備が……」なんて、らしくもなく動揺している様子がおかしくて笑ってしまったものだ。でも、彼の前ではずっとかっこいいパパのままで、「この子を選んでくれてありがとう」って言ったパパに、私だけではなく、何故か彼も泣いていた。
ママもちゃんとここに居る。パパと一緒に選んだ写真のママは、私が見惚れるぐらい綺麗だった。一度も会ったことが無いのに、本当にそこにママが居るようだった。
パパの、ずっと私を守ってくれていた大きな手のひらが、私から離れていく。名残惜しそうに握られた手が少しだけ震えていたことには気付かない振りをした。
私は今日、結婚してパパの元から離れる。でもずっと、パパとママの子供であることは変わらない。ふたりの元に生まれたことは、私にとっての誇りだった。
パパがずっと、ママのことを愛しているように、私も彼のことをずっと、愛していたいと思う。そして、パパが私を愛してくれているように、私も、パパのことをずっと愛している。
***
最愛の人と連れ添う娘の晴れ姿に胸がいっぱいになる。あの時は夢にも思わなかった。こうして、娘を送り届ける日が来ることを。
彼女が居たらどうだっただろうか、と思う。彼女と瓜二つな娘の姿に、どうしてもその姿を重ねてしまう。
彼女の笑顔を今でも忘れられない。忘れたくなくて、忘れないように必死になっている。娘の成長を喜ぶと同時に、彼女との思い出が消えてしまうのが怖くて仕方なかった。
あの日の絶望が今でも時々甦ってくる。その度にオレを救いあげてくれたのは、紛れもないたった一人の娘の存在だった。
娘が居ればそれでいい。娘が笑っていられるのなら、それで。それだけがオレの生きがいだった。だから、娘がオレの手から離れることがひどく寂しい。それでもあの時の絶望と比べると、それはどうしようもなく幸せな感情だった。
今でも何を恨めば良いのか分からない。
あっという間だった。娘が生まれてすぐ、安心したように笑った彼女がオレの見た最期だった。言葉を交わすことも無く、次に見た時にはもう彼女の目は閉じられていて、二度と開くことはなかった。
呆然とすることしか出来ないオレに、無情に告げられる医師からの言葉。そんな訳が無いと否定しそうになって、こんな時でも冷静な自分が嫌だった。青白い肌で眠る彼女は明らかに、生気を感じられなかった。
オレはその日、何としてでも守りたかった存在を失った。遺ったのは、保育器の中で眠る小さな存在だけだった。
彼女が居なくなっても時間だけは過ぎていく。まさか娘が生まれてすぐに彼女の葬儀を執り行うことになるとは思わなかった。色々な言葉を掛けられたが、オレにはその一つ一つに返す気力なんて無かった。
彼女の両親には頭を上げることが出来なかった。大切にする。幸せにすると誓ったのに、オレよりも、彼女の両親よりも先に旅立たせてしまったことを、謝っても謝りきれなかった。彼女の両親はオレのせいじゃないと言ってくれたが、オレは、オレのせいだと言い聞かせることしか出来なかった。
娘は小さかった。彼女が命に替えて生んだ我が子は、泣きたくなるぐらい可愛くて愛しかった。彼女と一緒に決めた名前は娘によく合っていたと思う。名前を呼ぶ度に無垢な笑顔を向ける娘を、彼女にも見せたかった。
せめて不自由なく娘が暮らせるよう出来ることは何だってやった。誰かの手を借りることは厭わなかったし、娘に愛情を注ぐことは惜しまなかった。幸いにも人に恵まれたオレは、沢山の人に支えられながら娘と共に歳を重ねていった。
彼女の遺影の前で何度弱音を吐いただろう。慣れないことだらけでどうしたら良いか分からない時、娘と喧嘩した時。返事は無くても、写真の中で笑っている彼女に話しかけているだけで、心が落ち着くような気がした。
一度、娘が家を飛び出したことがある。
──私のせいでママが死んだんでしょ!
そんな風に思わせたくなかったのに、そんな言葉を叫んで出て行った娘に、咄嗟に身体は動かなかった。ハッとして慌てて追いかけようとしたものの、オレの運動能力をしっかりと受け継いだ娘は俊足だった。家を出た時にはもう、その姿が見えなかった。
少なからず焦っていたのだろう。近辺に住むありとあらゆる知り合いに電話して、詳しい事情も説明せずに娘を探してくれと頼んだオレに、何も聞かずに探してくれた知人達には本当に感謝している。
娘は海辺の砂浜で一人蹲っていた。何事も無かったから良かったが、もし誰かに襲われたりでもしていたら、と思うと今でも肝が冷える。
危ないだろ、と声を荒らげそうになって、娘を責めるべきではないと理性で何とか留めた。娘の名前を呼ぶとビクリと震えた肩に怯えさせてしまっていることに気付いたが、安心感を得たいが為に娘の身体を抱き締めた。娘の前では弱い所を晒したくなかったが、この時ばかりは抑えきれなかった。オレはもうこれ以上、何も失いたくはなかった。
おまえのせいじゃない。悪いのは全部オレだから。ごめんな。不甲斐ない父親でごめん。
こんな時、彼女ならどうしただろうかと思う。彼女だったらもっと上手くやれたんじゃないだろうか、と考えても仕方ないことを何度も何度も頭の中で。
久しぶりに娘と手を繋いで家に帰ったあの日に、オレは遠い昔の彼女との思い出を思い返していた。甘酸っぱい恋をしていた、今でも色褪せることのない大切な思い出を。
「パパ」
不意に届いた娘の声に顔を上げる。今この場に居る誰よりも綺麗な娘の姿に、思わず息を呑んだ。
「──私を、愛してくれてありがとう」
彼女の姿が頭をよぎった。彼女と出会ってからの思い出が瞬く間に思い出される。娘と二人だけになってしまってからの怒涛の生活も、まるで走馬灯のように頭を駆け巡っていく。あぁ、駄目だと思った。堪えようと息を吸い込んで、すぐに震える呼吸が吐き出されて。滲んでいく視界を誤魔化す術を知らなかった。
いかないでほしい。オレを、置いていかないでくれ。
心の中の叫びはどちらに向けて宛てたものだったのだろう。まぶたを焼くような熱さに一度、目を閉じる。
おれこそ、ありがとう。小さな声で呟いた。瞬きをした拍子にこぼれる涙を、もう堪えようとはしない。
そんなオレを見て娘は柔らかく微笑んだ。そして、どこかから、大好きだった優しい声が聞こえた気がした。