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点々とした街灯がぼんやりと照らす夜道を歩く。時折そよぐ風が火照った身体を適度に冷やしていく。おぼつかない足取り、とまではいかないけど、どこかふわふわとした心地は先程まで飲んでいたお酒が原因なのは明確だった。
夜の静けさを引き立てる虫の鳴き声に耳を傾ける。特徴的な重低音は牛蛙だろうか。この辺にも居るんだなぁと大して重要でも無い疑問を抱く。
「あ、ミョウジさん危ない」
どうやら夜の音に集中しすぎていたらしい。後ろから自転車が通り抜けていく。横から伸びた腕が私の身体を引き寄せていた。
「ありがとう、仙道くん。全然気づかなかった」
「いーえ。随分真剣な表情してましたけど、何考えてたんですか?」
へぇ、見てたんだ。何となしに聞いてくる仙道くんを見上げる。
「考えてたって言うより虫の鳴き声を聞いてたって方が正しいかな。牛蛙の鳴き声、聞こえた?」
「あぁ、あの地鳴りみたいな音」
地鳴り。なるほど。仙道くんはそう表現するのか。ふむふむ、とこれまた意味の無いことを考える。お酒が入るとどうにもいけない。どうでもいいことばっかり考えてしまう。
私の身体を引き寄せている仙道くんの腕は離れない。そのまま歩き出す彼に押されるように足を動かした。腕、離さないんだ。暑く感じるぐらいに密着した身体。でも、私も仙道くんも何も言わない。それどころか私は思わず笑みをこぼしてしまう。
「なんだかこうやって歩いてると恋人みたいだね」
思ったことがポロリとこぼれてしまう。あ、言っちゃった。まぁ、いっか。ふふ、とそれがまた面白くなる。
「あはは。手、繋ぎます?」
「んー……繋いじゃお!」
手を差し出すと、時間を空けず仙道くんの手のひらに包まれる。わぁ、と思わず声を上げてしまった。普段から思っていたけれど、やっぱり仙道くんの手は大きい。私の手とひと回りは違う。
「すごい。私の手すっぽりだ」
「オレは逆にミョウジさんの手が小さすぎてびっくりしましたよ。悪気なく折っちまいそーだ」
えぇ、やめてよ〜。ははは、冗談ですよ。何よりも丁重に扱いますから。
ぎゅ、と握られた手は確かに優しい力に包まれていた。あたたかい。心の内側までもポカポカと温かい気持ちが広がっていく。ゆらゆらと揺らして鼻歌までも歌い出してしまいそうだった。
「ミョウジさんご機嫌ですね〜」
「えぇ。ミョウジさんは美味しいご飯を食べて、美味しいお酒を飲んで、大変ご機嫌です!」
あっはっはっ! と仙道くんは声をあげて笑う。結構な声量は余計に響いて、一体どこまで届いたのだろう。
「オレもミョウジさんと一緒に帰れて、手まで繋げて、大変ご機嫌ですよ」
「そっかぁ。仲間だね」
「えぇ。仲間ですね」
中身の無い会話をしながらふたり分の足音を響かせる。別れ道。私と仙道くんはそろそろ別の方向に別れなければならない。ちょっと寂しいなぁと思って、まぁ、仕方ないと割り切ってしまう。だって、家の方向が違うんだからしょうがない。
「じゃあ、私こっちだから」
いよいよ辿り着いてしまった。楽しかったね。また飲もう。おやすみなさい。そんな言葉は僅かに力の入った手のひらによって拒まれてしまう。
「帰したくねぇな……」
ボソ、と呟かれた言葉。聞こえるか聞こえないか微妙なぐらいの声量のその言葉にぱちぱちと瞬きをして、今度は私が笑い声を響かせてしまった。自分でも楽しそうだなって分かるほどの明るい声。
「帰したくないの? 私を?」
見上げて問い掛ければ素直に頷く仙道くん。うん、って可愛らしいとさえ感じる素直さに、彼の歳下らしさを実感する。そして、そんな仙道くんに対する私の気持ちも。
「そっか。帰したくないのかぁ」
多分すごく口元が緩んでるんだろうな。自分じゃあ、もうよく分かんない。
ぎゅう、って握り返す。とっても高い身長を見上げて、自然と微笑んだ。
「じゃあ、お持ち帰りされちゃおうかな」
ポカン、として、普段は涼し気な目が大きく見開かれた。マジ? と、分かりやすく驚きが表れている声に、あら、珍しい。と思ってしまう。
「オレ、ホントに連れ帰っちゃうよ?」
確認するんだね。こんなに分かりやすく態度に出してるのに。
うん、いいよ。にっこりと笑顔を浮かべたまま頷くと、仙道くんは一瞬視線を泳がせて、考えるように目を閉じた。そんなに長くない時間。開いた瞳にはもう迷いなんて無くて、私の手をいたって優しく引っ張った。
今日の飲み会がこんなに楽しかったのも、一緒に帰りながら手を繋いだのも、今から仙道くんの家に行くのも、全部、お酒の影響じゃない。だって、私知ってるもの。私が仙道くんのことが好きで、仙道くんだって私のことを好きだって思ってくれてること。
知ってるから私は、あなたの手を握る。
夜の静けさを引き立てる虫の鳴き声に耳を傾ける。特徴的な重低音は牛蛙だろうか。この辺にも居るんだなぁと大して重要でも無い疑問を抱く。
「あ、ミョウジさん危ない」
どうやら夜の音に集中しすぎていたらしい。後ろから自転車が通り抜けていく。横から伸びた腕が私の身体を引き寄せていた。
「ありがとう、仙道くん。全然気づかなかった」
「いーえ。随分真剣な表情してましたけど、何考えてたんですか?」
へぇ、見てたんだ。何となしに聞いてくる仙道くんを見上げる。
「考えてたって言うより虫の鳴き声を聞いてたって方が正しいかな。牛蛙の鳴き声、聞こえた?」
「あぁ、あの地鳴りみたいな音」
地鳴り。なるほど。仙道くんはそう表現するのか。ふむふむ、とこれまた意味の無いことを考える。お酒が入るとどうにもいけない。どうでもいいことばっかり考えてしまう。
私の身体を引き寄せている仙道くんの腕は離れない。そのまま歩き出す彼に押されるように足を動かした。腕、離さないんだ。暑く感じるぐらいに密着した身体。でも、私も仙道くんも何も言わない。それどころか私は思わず笑みをこぼしてしまう。
「なんだかこうやって歩いてると恋人みたいだね」
思ったことがポロリとこぼれてしまう。あ、言っちゃった。まぁ、いっか。ふふ、とそれがまた面白くなる。
「あはは。手、繋ぎます?」
「んー……繋いじゃお!」
手を差し出すと、時間を空けず仙道くんの手のひらに包まれる。わぁ、と思わず声を上げてしまった。普段から思っていたけれど、やっぱり仙道くんの手は大きい。私の手とひと回りは違う。
「すごい。私の手すっぽりだ」
「オレは逆にミョウジさんの手が小さすぎてびっくりしましたよ。悪気なく折っちまいそーだ」
えぇ、やめてよ〜。ははは、冗談ですよ。何よりも丁重に扱いますから。
ぎゅ、と握られた手は確かに優しい力に包まれていた。あたたかい。心の内側までもポカポカと温かい気持ちが広がっていく。ゆらゆらと揺らして鼻歌までも歌い出してしまいそうだった。
「ミョウジさんご機嫌ですね〜」
「えぇ。ミョウジさんは美味しいご飯を食べて、美味しいお酒を飲んで、大変ご機嫌です!」
あっはっはっ! と仙道くんは声をあげて笑う。結構な声量は余計に響いて、一体どこまで届いたのだろう。
「オレもミョウジさんと一緒に帰れて、手まで繋げて、大変ご機嫌ですよ」
「そっかぁ。仲間だね」
「えぇ。仲間ですね」
中身の無い会話をしながらふたり分の足音を響かせる。別れ道。私と仙道くんはそろそろ別の方向に別れなければならない。ちょっと寂しいなぁと思って、まぁ、仕方ないと割り切ってしまう。だって、家の方向が違うんだからしょうがない。
「じゃあ、私こっちだから」
いよいよ辿り着いてしまった。楽しかったね。また飲もう。おやすみなさい。そんな言葉は僅かに力の入った手のひらによって拒まれてしまう。
「帰したくねぇな……」
ボソ、と呟かれた言葉。聞こえるか聞こえないか微妙なぐらいの声量のその言葉にぱちぱちと瞬きをして、今度は私が笑い声を響かせてしまった。自分でも楽しそうだなって分かるほどの明るい声。
「帰したくないの? 私を?」
見上げて問い掛ければ素直に頷く仙道くん。うん、って可愛らしいとさえ感じる素直さに、彼の歳下らしさを実感する。そして、そんな仙道くんに対する私の気持ちも。
「そっか。帰したくないのかぁ」
多分すごく口元が緩んでるんだろうな。自分じゃあ、もうよく分かんない。
ぎゅう、って握り返す。とっても高い身長を見上げて、自然と微笑んだ。
「じゃあ、お持ち帰りされちゃおうかな」
ポカン、として、普段は涼し気な目が大きく見開かれた。マジ? と、分かりやすく驚きが表れている声に、あら、珍しい。と思ってしまう。
「オレ、ホントに連れ帰っちゃうよ?」
確認するんだね。こんなに分かりやすく態度に出してるのに。
うん、いいよ。にっこりと笑顔を浮かべたまま頷くと、仙道くんは一瞬視線を泳がせて、考えるように目を閉じた。そんなに長くない時間。開いた瞳にはもう迷いなんて無くて、私の手をいたって優しく引っ張った。
今日の飲み会がこんなに楽しかったのも、一緒に帰りながら手を繋いだのも、今から仙道くんの家に行くのも、全部、お酒の影響じゃない。だって、私知ってるもの。私が仙道くんのことが好きで、仙道くんだって私のことを好きだって思ってくれてること。
知ってるから私は、あなたの手を握る。