Kaleidoscope(pkmn トウヤ夢)
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ーーーいつか認めてくれる。
そう思って耐えてきた。
でも、それはただの独り善がりで一方通行な思いだった。
「お前もういらねぇや」
それを思い知ったのは全部が終わった後だったのだけれど。
※※
「イーブイ、電光石火」
「あー!ミネズミ!!」
トドメの電光石火が炸裂し、今時珍しい短パン小僧のミネズミは目を回した。
ーーーここは1番道路。
カノコタウンから出た私は最初のジムサンヨウジムに行くため、一先ずその前にあるカラクサタウンを目指して歩いていた。
その道中、やはりと言うべきかそれなりのトレーナーが屯っていた。
今手持ちは2匹。
片方は出番はいつかないつかなと尻尾をブンブン振り回すパートナーであるが……流石にこの子を出しては相手が可哀想だ。見た目も中身も強いのだ。うちの子は。
もう1匹は、イッシュ行きのチケットが取れたその日に生まれたイーブイである。生まれて間もないが、イーブイの見聞を広めるためにも、鍛えるにもそろそろいい頃合いだろう。
オーキド博士にアップデートしてもらったポケモン図鑑に記録を加えるついでにバトルをしていた。
「イーブイ、お疲れ様」
「ぶぃ」
ちょこちょこフィールドから戻ってきたまだまだ甘えたなイーブイを撫でて腕に抱く。
標準サイズより小さい今は重くはないので抱えることはできるがそれもあと少しだろう。
流石に平均6kgオーバーを抱えるのは腕が辛い。出来なくはないけども。
「姉ちゃんのイーブイ強いなぁ!」
「君のミネズミも強いかったよ」
「ホント!?」
そうだよな!イーブイと姉ちゃんが強いだけだもんな!じゃあまた強くなったら再戦な!とフレンドリーというか遠慮知らずというか形容に困る少年と私はそこで別れて、1番道路を歩く。
あとはイッシュのポケモンセンターではお馴染み、でも草むらでレア扱いなタブンネで出現ポケモンはコンプリートなんだけどな、と思っていた時である。
「…ん?」
「ぶぃ?」
「タブンネ発見。…だけど、何やってるのかな」
視線の先には何故か私に背を向けて路傍で座り込むタブンネがいる。
日が暮れる前にカラクサタウン、もっというと町に着いたのに野宿は勘弁したいのでPCで一夜を明かしたい私としてはラッキーだが、野生のポケモンが不用心に背中を見せるわけがない。
これは何かある。そう思って出来るだけタブンネを驚かせないように彼女(?)に話し掛けた。
「タブンネ、何やってるの?」
「!たぶんね…」
「…これは、」
「ぶぃぶぃ!」
「(…カラクサタウンはもうすぐだったな…)すぐにポケモンセンターに連れて行かないと」
本来、ここに生息するはずのない鳥ポケモンワシボンが傷だらけの虫の息でタブンネの前に気絶していた。
タブンネは癒やしの波動で治そうとしていたようだが、それでは間に合わない。私はイーブイをボールに戻すとタブンネに見送られながらワシボンを抱えるとポケモンセンターまで一直線に走った。
大慌てでカラクサタウンのポケモンセンターへ駆け込む。血相を変えた私に目を丸くしたジョーイさんだったが、ピクリとも動かないワシボンを見ると慌ただしくストレッチャーを用意、タブンネと手術室へ入って行った。
私に出来ることはもうない。出来るのは待つことだけだ。息をついて長椅子に座った私はランプが消えるのをひたすら待つ。
そこで思い出すのはワシボンの傷である。
ザッとしか見ていないけれど、あのワシボンの傷は2種類あった。
1つはポケモン、恐らくバトルによって出来た傷。もう1つは…人によって付けられた傷だ。
ポケモン同士の傷の上から作為的に作られた傷が上書きされていたことから考えると、バトルに負けた腹いせでトレーナーがワシボンに八つ当たりでもしたんだろう。
旅は楽しいことばかりじゃない。
まさか自分で言ったことが自分に跳ね返ってくるとは。
「…やだね、ほんと…」
ハァ。ともう一度ため息をついた。
人間と一括りにしても良い人ばかりでは無い。分かっているが、やるせない気持ちになるのは確かだ。
私はワシボンのトレーナーではないのでここにいる必要はないが…人間不信に陥っているかもしれない彼をこのままにしておくことは憚られた。
顔も名前も知らないトレーナーの仕業ではあるが、同じトレーナーが起こした所業だ。見てみぬ振りは出来ない。
それに倒れているところを見つけて、ポケモンセンターに連れてきた責任が私にはある。人を恨んでいようとも見届ける義務がある。
決意を新たにするも、ワシボンの治療は数時間にも及び、ボールから珍しく自分から出てきた相棒が地べたに丸くなって座り込み、イーブイは私の膝上で丸くなって眠っていた。
この子達なりにワシボンのことを心配しているのだろう。
「ありがとう、ウィンディ、イーブイ」
「ばう」
「ぶぃ」
2匹の頭を撫でているとランプが消えて、扉が開く。手術室は終わったようだ。
椅子から立ち上がると同時に扉の奥から疲れた様子でマスクを取るジョーイさん、ワシボン、タブンネがやって来る。
ワシボンは大小様々な器具に繋がれ胴体を中心に包帯を巻かれていたが胸は上下し、タブンネが押す移動式のベッドで眠っているようだった。
「ジョーイさん、ワシボンは…」
「手術自体は成功しました。今は眠っていますが、命に別状はありません。ご安心を」
「そうですか…」
窮地は脱した。そのことにホッと息をついて病室にベッド毎移動するワシボンをジョーイさんと見送る。
トレーナー歴はそれなりだが、ここまで大事になった治療は全く無いとは言わないが、やはり心臓に悪かった。
ベッドが見えなくなると、ジョーイさんは「あなたはあのワシボンのトレーナーではないですね」と確信を持った声で言われた。
素人目でも人間から暴行を受けたポケモンだと分かったくらいだ。その道のジョーイさんが分からないはずがない。
確かにワシボンのトレーナーではないのだが、絶対に最初は罵られるか罵声を浴びせられるかを想像していただけに驚いた。
「どうしてそう思うんです?」
「あなたのウィンディとイーブイ、特にウィンディはとてもよく鍛えられているわ」
チラリとジョーイさんが見るのは私に向かって首を傾げる相棒とその頭に乗るイーブイ。
「そういう人は痛みと恐怖はポケモンにとって害しかないってことを知っているし、あの子達とてもあなたに懐いているもの。害ある人間にポケモンは心を開かないわ。
何より私はジョーイよ?傷から加害者がどんな人物像かくらい分かります」
「…、…大変失礼しました」
「ふふ、分かればよろしい」
感服するしかないその洞察力に私は頭を下げた。流石日に何人何体もの相手に怪我を処置するエキスパート。よく見ている。
それから私はジョーイさんにワシボンと出会った時の状況をできるだけ説明した。しかし、私もすぐにここへ飛んできたので詳細は分からない。見ているとすればあのタブンネだろうが、今頃どこにいるのやら。
ジョーイさんも打つ手なしと思ったのだろう。憂いた表情でため息をついた。
「…そう」
「私今日はポケモンセンターで泊まるので明日ワシボンの様子、見に行っても?」
「…相当暴れると思うわ。捨てられたポケモン達は皆心に傷を負っていてパニック状態になることも珍しくないし」
「構いません。トレーナーの尻拭いはトレーナーがやるべきです」
遠回しにやめておいたほうがいいと忠告されたが、私は頑として譲らなかった。譲らないというよりは譲れないといった方が正しいだろうか。
あのワシボンの中では既にトレーナー=自分に暴力を奮う人間になっているだろう。もしかしたらいろんな人間がいると思ってくれているかもしれないがあんな目にあった後だ。それも望み薄だ。
しかし、そんな輩と一緒にされては私が嫌だった。ポケモンがそうであるように人間と言っても十人十色。悪い奴もいれば良い奴もいる。
だからワシボンに会いに行くのはあの子のためではなくただ単に私自身の為。自己満足なのだ。
そんな心情を知る由もないジョーイさんは目を瞬かせるといつもの可愛らしい笑顔を浮かべた。
「あの子にあなたの誠実さが少しでも伝わると良いのだけど」
「なるようになりますよ」
結局世の中はそういう風に出来ているのだから。