Kaleidoscope(pkmn トウヤ夢)
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
カントー地方を飛び立った飛行船が悠々と空を泳いで1日と少し。
「あれがイッシュ地方か…」
窓の外に空と海と雲だけだった視界に新しい土地や建物が見えて、ポツリと呟けば腰に付けられた2つある内の片割れのモンスターボールがカタリと揺れた。
彼は私が新人トレーナー時代から一緒に戦ってくれている最初のポケモン、所謂パートナーだ。
普段は凛々しく格好いいパートナーはその見た目に反して全力で甘え倒してくる。子犬だった進化前と違って私も全力で構うが、如何せん体格差が…。
バトルとなればそんな仕草の片鱗すら見せず迫力ある圧倒的なバトルをしてくれるのだけれども。
イッシュ地方に行くからね、と言ったときも可愛らしく「がぅ!」と鳴いて乗りかかってきた。のしかかり。そんな技覚えてないはずなのに。いやすごく可愛いのだけれども。
それはともかく、飛行船はもう間もなく目的地へ到着する。まずはお遣いを先に済ませるためにアララギ研究所へ直行だ。
「あなたがツヅリちゃん?噂はかねがね!遠路遥々ご苦労さま!」
「いえ。
こちらがオーキド博士からの資料です。一応確認だけお願いします」
飛行場から目的地のアララギ研究所はすぐだった。
というのも、飛行場が着いたのはカノコタウンの郊外。目的地は目と鼻の先。しかも、カノコタウンはそんな大きな町ではなかったのですぐに研究所の場所が割れたのだ。
そして、研究所の戸を叩いて出てきたのがこの明るい茶髪の溌剌とした女性 アララギ博士その人。若い女性と聞いてはいたけれど、本当に若くて名前を聞いた時は本当に驚いた。下手したらあの年齢詐欺師な姉さんより若いのではないだろうか。
アララギ博士に研究所へ招き入れられ、彼女が資料をパラパラと確認している間、お茶をご馳走になる。珈琲が美味しいと聞いていたが、確かにこれは美味しい。
オーキド博士のお土産は珈琲にしようと密かに決意していると、向かいのソファでアララギ博士は資料に不備はなかったようで出迎えてくれた時と同じ笑顔でOKサインを出した。
「はい、確かに!遠い所をどうもありがとう」
「ついでですからお気になさらず」
「あぁ、ジム巡りもするのよね?」
「えぇ、まぁ。それだけじゃないですけど…」
「ちょっと待ってて。お礼…ではないけどバッジケース渡すわ」
「エッ」
そんな、本当についででしたから!と言っても流石はこの年齢でポケモン博士となった女性だ。聞く耳持たず。結局押し切られるようにバッジケースが渡された。
「なんか…すみません」
「いいのよ!あるものは使わなきゃ!」
「…」
なるほど。アララギ博士のこのキャラクター性。あの癖のあるポケモン博士達に通じるものを感じる。実に逞しいポケモン博士だ。
人は見かけによらないな、と一人納得していると入り口からアララギ博士を呼ぶ声が聞こえた。
「アララギ博士〜!」
随分と若い女の子とそれを窘める男の子の声がする。多分10代前半。研究員にしては若すぎる声に疑問を持っているとアララギ博士は腕時計を見て、慌てて立ち上がる。
「アララ?ヤダ、もうそんな時間?」
「?…あぁ、もしかして新人トレーナーさんですか?」
「そうなの!3人に今日初めてのポケモンを渡してね!」
「へぇ…」
私達が初めて旅立つ時にも言われたが、3人一緒というのは珍しい。よっぽどの理由がない限り3人一緒というのがない。と、なるとその3人も私と同じ幼馴染なのだろう。
私には幼馴染が2人いる。
1人は現在、カントー地方最強と呼ばれるトキワジムのジムリーダーで、オーキド博士の孫 グリーン。
もう1人は生まれてこの方全戦無敗で現在もその記録を伸ばし続けるカントー地方最強のトレーナー レッド。
そんな2人と一緒に10歳の時、ポケモン図鑑とパートナーとは別にフシギダネを博士からもらって私はマサラタウンを旅立った。
あれからもう8年が経っている。そう考えると感慨深いものがある。
たとえ片や未だに子供のような突っ掛かり方をして来たり、片や頻度は下がっても未だにシロガネ山に山篭りするお馬鹿な幼馴染だとしても。
時が過ぎるのは早い。
「(懐かしいな…)」
「アララギ博士〜!!」
「ベル!ちょっと静かにしなよ。今お客さん来てるみたいだし…」
「ツヅリちゃん、ごめんなさいね」
「構いませんよ」
苦笑してアララギ博士は彼らの元に向かう。天真爛漫そうな女の子に眼鏡をかけた知的なそれと帽子を被った素直そうな男の子達。
新人トレーナーにポケモンを渡すのはポケモン博士の役目の1つだ。
そして博士に見込まれたトレーナーにはその地方にいるポケモンを記録する機械…ポケモン図鑑の完成を依頼することもある。ポケモンのステータスや分布、今どこにいるか、転送システム…などなど小さな見た目に反してとてもハイテクな機械である。
今回の3人はそれに該当したトレーナーのようでアララギ博士が3人に私と持っている図鑑の形状とは少し違うが、ポケモン図鑑を手渡しているのが見えた。
アララギ博士の台詞をBGMに私は出された珈琲を飲んでいると、急にアララギ博士から振られ、噎せる。
「ツヅリちゃん!先輩トレーナーから一言お願い!」
「…!?」
そういうのは事前に言っておいてほしい。
「あ!こんにちは!」
「博士、この人は…?」
「ツヅリちゃんよ。カントー地方から来てくれてるの。あなた達と同じでイッシュ地方には今日旅立つの。
ツヅリちゃん。この子達がさっき言った今日旅立つ子達。右からチェレン、ベル、トウヤ。皆いい子達ばかりよ。
チェレン、ベル、トウヤ。ツヅリちゃんは歳もトレーナー歴もチェレン達より断然上だから何かあったら聞いてみるのも手かもね」
「役に立てるかは分かりませんけど」
「謙遜しなくてもいいじゃない!なんたって、」
「アララギ博士」
「あっ、ごめんごめん」
「…?」
さり気なく口を滑らせそうになっていた博士に注意の意味を込めて名前を呼べば今気付いたらしく苦笑した。
人の噂とはどこで立つのか分からない。いつかは立つものだけれど、冒険が始まる前からバラされてはたまったもんじゃない。
目敏く気付いたチェレン君が目を光らせたり、トウヤ君が首を傾げたが私は見えなかった。ということにする。
その代わりと言ってはアレだけれど、1つ。
「まぁ、正直旅をしてると楽しいことばかりじゃないよ…でも仲間と壁を乗り越えるのも旅の醍醐味だと思うから挫けず頑張って」
「はぁい…じゃなくて、はい!」
与えられた任務を達成し、私は頷きを1つ。
ニコニコ笑うベルちゃんはさることながら何だかんだ素直な3人にこれは良いトレーナーになるな、と思いながら立ち上がる。
彼らを見ているといつかの自分たちを思い出して、柄ではないけれどウズウズしてきた。
「それじゃあ、アララギ博士。珈琲ご馳走様でした。あと、バッジケースもありがとうございます。
そろそろ行きます」
「あら、もう?」
「はい。
…先輩トレーナーとして負けてはいられませんので」
「ふふ、そう!」
「はい。
機会があればまたね、トウヤ君、チェレン君、ベルちゃん」
アララギ博士には頭を下げて、新人トレーナー達には手を振って、私はアララギ研究所を後にした。
「どんなトレーナーになるか楽しみだ」
彼等の旅立ちを祝福するかのような、雲1つない晴天の下私が言えばカタリ…とボールが揺れた。