重力魔法使いとヤミさん(ブラクロ夢)
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「このちんちくりんが残りの新入団員だ。死なねー程度にシゴいてやれ」
「ハージ村から来たアスタです!お願いしゃァァーーす!!」
ヤミさんの前にやっと大人しくなった面々の前でアスタくんは本日二回目となる挨拶を元気よく言った。
ヤミさんの助言は死なない程度というのがミソである。
すると、自称ヤミさんの筆頭舎弟のマグナくんはヤミさんがアスタくんのことをちょびっとばかし目を掛けていることに気付いたらしい。
正座中大人しくしていたのは何処いった?というくらい目つきの悪いガンを飛ばしてアスタくんを威圧した。
「オイオイオイオイ。
テメェみたいな弱そーなのが『黒の暴牛』の新入団員だァーー!?」
…また必要以上に煽って、と嘆息する私を他所にマグナくんは息巻いた。
アスタくんは萎縮することはないタイプ…というか怖いもの知らずという珍しい人種だが、普通の人間はマグナくんの風貌を見るだけで怯えるというのをそろそろ覚えてほしいものだ。
一言で言えば、彼の出で立ちはチンピラそのものなのである。
「ヤミさんにどんな媚の売り方をしたのかは知らんが『黒の暴牛』ローブを着たきゃァ、ヤミさんの筆頭舎弟であるこの漢マグナ・スウィングを認めさせてみなァ!!!」
「か、カッケぇぇぇぇ!!!」
そんなマグナくんに乗せられているのか本気でローブが格好いいと思っているのかーー多分本気だーーアスタくんはマグナくんが見せびらかすローブに目が釘付け。キラキラ煌めかせてマグナくんにおねだりした。
………覚えのある展開に嫌な予感がめちゃくちゃする。
「クダサイ!!!」
「そーかそーか、そんなに欲しいか。そんじゃァ……
黒の暴牛入団の『洗礼の儀』を受けな……!!」
やっぱり。
頭痛が痛いとはこのことである。
いつから始まったのかといえば間違いなく、マグナくんが入団した次の年からこの良くわからない洗礼の儀は始まった。マグナくん流の新人歓迎…だとは多分恐らく思うが如何せん暴力的すぎる。
洗礼の儀のルールは至って簡単だ。
マグナくんの攻撃魔法【爆殺轟炎魔球】をどんな手を使ってでも良いから避けること。
言葉では簡単なのだが、新人にはとんでもなく難しい。
コレのおかげで私は何度新人のフォローをしていることか。それは救出するフィンラルさんも同じだけれども。
私が痛む頭を抑えていると隣から呑気なヤミさんの声が聞こえた。
「洗礼の儀なんかあったか?」
「あるわけ無いでしょ…マグナくんが勝手にやりだしてるんですよ」
「へぇー」
「へぇーって…」
なんて呑気な、と白い目で見るがヤミさんは"死ななきゃ大丈夫"のスタンスの持ち主である。
いざというときの為にフィンラルさんが魔導書を持ってスタンバイしているのでまぁ死にはしないが、怪我は避けられないだろう。
あんな輩のような立ち振舞に見た目をしていてもマグナは列記とした魔法騎士団の一員である。
そして、容赦手加減というものを知らない。
「止めないんですか?下手したら大怪我ですよ」
「あー……まぁ、アイツなら大丈夫だろ」
「はい?」
面倒くさそうに対峙する二人を見たヤミさんだったが、妙に自信溢れた言葉に首を傾げた。
まさか中堅のマグナくんよりもあの一介の新人であるアスタくんが強い、ということなのだろうか。
怪訝そうにする私にヤミさんは一言、まぁ見とけとニヤリと笑うので何も言えるはずもなく正面を見た。
「…」
なんとなーく、だがヤミさん楽しそうなんだよなぁ。
理由ないことを良しとしないこの人が洗礼の儀を止めないのもその辺の事が関係していたりするのだろうか。
それを横目に見ながら私も洗礼の儀を見守ることにした。
「行くぞォォォー!!魔導書構えろクソガキー!!!」
「いらっしゃいませ先輩ィィィ」
二人は同時に魔導書を開き、アスタくんはくすんだ身の丈程ある大剣を取り出し、
マグナくんは炎魔法【爆殺轟炎魔球】を勢いをつけて放った。
「死ねェェェェ!!!!」
「…後輩に死ねって言ってますけど本当に大丈夫なんですか」
「…大丈夫だ(多分)」
この適当男…!と内心詰り、横目でヤミさんを睨んで視線を戻すと、アスタくんに向かって一直線に火球が飛んでいく。
魔球は轟々と燃え盛り、そのスピードは更に勢いを増す。
しかし、自然体に構えていたように見えたアスタくんが間合いに入る直前、一瞬不自然に力んだかのように見えた。
が、彼は驚いたことに魔球を剣脊に当てそっくりそのままマグナくんへと返してみせた。
返してみせたということは勿論軌道はそのままなわけであるので、球もマグナくんへと一直線。放ったマグナくんは返球されるなんて思ってもなかったので驚いている内に被弾した。
…まぁ、マグナくんは頑丈なのが第二の取り柄だし大丈夫でしょ。恐らく。
「あの剣…魔法を斬るだけじゃなく跳ね返すこともできんのか」
「知ってたんですか」
「斬れるっつーのは知ってたけどな…まぁ、あの間抜け顔を見る限り本人も跳ね返せるのは今知ったってとこか」
はわわわ…とかなり驚いていることが見て取れるアスタくんにヤミさんはフゥと紫煙を吐いた。
つまり、魔法斬る剣…魔剣の使い手ということだろうか。それをヤミさんは入団試験の時に見て引き抜いた。
そんな希少な魔法の使い手ならばもっと引く手数多だっただろうに、余計にわざわざ評判の悪い黒の暴牛へ来た意味がわからなかった。
久しぶりに新入団員を助けずに済んだ、と魔導書を閉じたフィンラルさんが安心したように言ったが、そういえば確かにフィンラルさんの出番が無かったのは久しぶりだ。
「コンチクショウがァァ……」
一方、爆炎に包まれ、煙を纏っていたマグナくんはユラリと立ち上がると悪態をつきながらアスタくんへ近付いていく。
「もうちょいで自分の魔法で死ぬとこだったじゃねぇかァ〜テメェ……」
アスタくんはと言えばどんな手を使っても言われてはいても先輩にそっくり返すのはやり過ぎたかと冷や汗ダラダラ流していた。
顔を伏せてゆらりゆらり近付いてくるマグナくん。
しかし。
「やるじゃねぇかァァ〜〜!!」
マグナくんは満面の笑顔を浮かべてアスタくんの背をバシバシ叩いた。
アスタくんのことを認めたらしい。そう。魔法と一緒で真っ直ぐ素直なんだよ、彼。
「流石ヤミさんの舎弟。単純ですね」
「オイ、どういう意味だ」
「さぁ?」
「(##イスズ##ちゃんは何でそんなに団長に刃向かえるんだろう…)」
ズゴゴ…と凄むヤミさんを笑って流している傍ら顔を真っ青にするフィンラルさんがそんなことを思っているとは露知らず、私は団員に囲まれて歓迎されるアスタくんを見ていた。
「ほらよ」
「これでお前も魔法騎士団『黒の暴牛』の一員だー!!」
「あざァーーす!!」
マグナくんから魔法騎士団『黒の暴牛』である証の黒のローブを手渡されたアスタくんは大声で喜んだ。
「騒がしくなりそうですね」
「元々うるせーよ、ウチは」
さて、魔力のない、けれど反魔法の剣の担い手は一体どんな活躍をしてくれるのだろうか。
「楽しみだなぁ…」
キャーキャー騒ぐ団員達を見ながら私が呟くとヤミ団長もニヤリといつものように笑っていた。