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「……死ぬなよ」
「はい」
「慈悟朗さん、明衣をよろしくお願いします」
「責任を持って預からせて頂くよ」
今日、私は夜江(やえ)と兼吉老夫婦から離れ、桑島さんの元で鬼殺剣士となるべく彼が修行場としている山へ旅立つ。
朝も早いし、暇では無いというのにおじいさんとおばあさんは私の出送りに時間を割いてくれた。本当にいい人たちに拾われて、家族になった。拾われたのがこの人達で良かった。
今は渋々見送ってくれる兼吉おじいさんだが、私が鬼殺隊に入隊したいと言えばそれはもう怒った。
怒髪天を衝くなんて生易しい言葉では言い表せない程だった。
この三年で二回も鬼に遭遇して、そのうち一回は殺される寸前で、なんと当人は鬼にとって栄養価値の高い人間ときた。なのに態々鬼の元へ出向く隊士となると宣う。怒っても仕方ない。甘んじて受けた。
でも、私にも譲れない道というのがある。
私は何の因果か二度目の生を受けた。
仮に今生も普通に生きていくとしよう。なんてこともない平穏で穏やかな生活を送りながら結婚をしてきっと二人の最期を看取る。
しかし、稀血だという私はその影に常に鬼がつきまとう。いつ出てくるかも分からない鬼に怯えて生きていくことになる。
藤の花の香を纏えば大抵は大丈夫だと桑島さんは言ったが"大抵"は絶対ではない。
そんな人生私は嫌だ。
生きていくなら見えない影に怯えるんじゃなくて堂々と胸を張って生きたい。
そう言えば一瞬口を噤んだおじいさんは「好きにしろ」と不貞腐れて寝てしまった。
夜江おばあさんは、そんなおじいさん見て小さな声で、やっと出来た娘が出ていくって言うから寂しいのよ。強面で頑固だけど寂しがり屋なの。と言った。
可愛いでしょ?兎みたいで、と言って笑う言葉には賛同はできなかったけれども。
今までのことは勿論のこと、生活もギリギリで余裕なんてないのに山吹色の可愛い袴も手ぬぐいも他にもたくさん用意してくれた二人には感謝してもしきれない。
私は頭を下げた。
「夜江さん、兼吉さん。見ず知らずの私を拾って家族にしてくれてありがとう。
必ず生きて鬼殺隊士になって帰って来ます。
ーーいってきます」
「いってらっしゃい」
「明衣」
「はい」
「世の中、どんなお綺麗な志を持っていようと生き残った奴の勝ちだ。
生き汚くても生きろ」
「覚えておきます」
そうして、私は旅立ち、育手 桑島慈悟朗の弟子となった。
冬が目前に迫った秋のことだった。
雷解 弐話
兼吉おじいさんと夜江おばあさんと共に住んでいた山から三つ程離れた山中に桑島さんーーお師匠が弟子を育てる山はある。
その山中に小屋を建て、弟子ーー私にとっては兄弟子ーーと生活をしながらお師匠は弟子を育てているのだという。
不安半分、好奇心半分でドキドキしながらちょうど山の中腹あたりに建つ平屋へお師匠が入っていくのにならってお邪魔する。
中には同い年か少し年上らしき、物腰柔らかな少年がいた。剣を握るより物書き見習いだと言われた方が納得する面持ちの彼はお師匠の後ろに佇む私を見ると目を瞬いて尋ねる。
「師範、お帰りなさいませ。……もしかしてその子が?」
「あぁ、明衣」
「はい。
はじめまして、今日からこちらでお世話になります鹿嶋明衣です。よろしくお願いいたします」
彼は驚いたように少しだけ瞠目すると、やがてニコリと人好きのする笑顔を浮かべて「こちらこそよろしく」と言った。
【鬼】
日光でしか殺すことが出来ない人ならざる超常生物。
日輪刀以外の刀で足をもがれようと、体を両断されようと、首を落とされようと瞬く間に再生する驚異的な不死性を持ち、老いることもない。
加えて血鬼術と呼ばれる物理法則すらも無視した特殊な術を操る。
生きるために、力をつけるために人間を食する人間の天敵。
鬼とは、原初の鬼によって姿を変えられたーーー
「元人間……」
弟子になるにあたってまず最初にこれから戦う相手を知ってもらうとお師匠は一つの冊子を私に渡した。
お師匠お手製のそれはお師匠が現役時代から今までに知った鬼について記されていた。
そして読み進めていると私にとって衝撃的な一文をなぞり、口に出した。
鬼に一度は襲われた私からすると信じられないことだ。
首の骨折をもろともしない強靭な肉体、目を離した一瞬の隙に、100メートル近い距離を詰める俊敏性。
あれが元は同じ人間なのだという。とてもじゃないが信じられなかった。
つまり、私はこれから元は人間だった存在を相手取らないといけないということだ。
お師匠は、信じられないのも無理はないが、と前置くと立ち上がり、窓から外を見上げた。
日差しの弱い陽光が木々を照らす。
冬の初めらしい光景で、山中は既に羽織がなければ風邪を引きそうな程寒い。
「これだけは覚えておけ。
奴らは理性を失い獣に堕ちた畜生だ。だからお前に躊躇いなどいらない。
だが、元は人間であるのも事実。
鬼を殺すことが鬼殺隊士の使命だが……人だったものを人の道に戻してやるのが鬼殺隊士の役目だとも儂は思う」
「それはどういう…?」
「人を人の道に呼び戻すことができるのはいつの世も人間だけだ」
斬ることに躊躇しろというのではない。お師匠は、斬ることに意義を意味を見い出せ、優しい剣士になれと言った。
斬れば命は救われないが、救われる魂はあるのかもしれないと。
なんとも思わず斬ったほうが楽なのに敢えてこの人は意味を求めろと言う。
聞くところによればこの人は鬼殺隊の最高位 柱の立場にいた人だったらしい。というより育手は皆元柱なのだとか。
だからだろうとは思う。
『意思の無い剣は紙よりも軽い』
兼吉おじいさんも口を酸っぱくして『何の為に教えを請うのか考えろ』と言っていた。つまりはそういうことだ。
斬ることが命を刈り取る行為なのだと自覚し、それを踏まえた上で意義を見つけろという。
「難しいこと言うんですね」
「今すぐとは言わん。見つけろ、という話だ。
儂は人の死をなんとも思わん弟子をつくる趣味はないからな」
「はは……。
斬ることで救われる鬼はいるんでしょうか?」
「さぁな。それを含めて見い出してみろ」
「はい。…見つけます」
今日はここまで。明日から徐々に扱いていくからな、とお師匠は言い残して外へ出た。
この寒い中兄弟子は素振りの鍛錬をしているのだ。それを見るためだろう。
教材を腕に抱えた私は、初日からとんでもなく難しい課題出されたものだ。と思いながら、立ち上がって夕飯の支度をしているお手伝いさんのお手伝いへ向かったのだった。
「はい」
「慈悟朗さん、明衣をよろしくお願いします」
「責任を持って預からせて頂くよ」
今日、私は夜江(やえ)と兼吉老夫婦から離れ、桑島さんの元で鬼殺剣士となるべく彼が修行場としている山へ旅立つ。
朝も早いし、暇では無いというのにおじいさんとおばあさんは私の出送りに時間を割いてくれた。本当にいい人たちに拾われて、家族になった。拾われたのがこの人達で良かった。
今は渋々見送ってくれる兼吉おじいさんだが、私が鬼殺隊に入隊したいと言えばそれはもう怒った。
怒髪天を衝くなんて生易しい言葉では言い表せない程だった。
この三年で二回も鬼に遭遇して、そのうち一回は殺される寸前で、なんと当人は鬼にとって栄養価値の高い人間ときた。なのに態々鬼の元へ出向く隊士となると宣う。怒っても仕方ない。甘んじて受けた。
でも、私にも譲れない道というのがある。
私は何の因果か二度目の生を受けた。
仮に今生も普通に生きていくとしよう。なんてこともない平穏で穏やかな生活を送りながら結婚をしてきっと二人の最期を看取る。
しかし、稀血だという私はその影に常に鬼がつきまとう。いつ出てくるかも分からない鬼に怯えて生きていくことになる。
藤の花の香を纏えば大抵は大丈夫だと桑島さんは言ったが"大抵"は絶対ではない。
そんな人生私は嫌だ。
生きていくなら見えない影に怯えるんじゃなくて堂々と胸を張って生きたい。
そう言えば一瞬口を噤んだおじいさんは「好きにしろ」と不貞腐れて寝てしまった。
夜江おばあさんは、そんなおじいさん見て小さな声で、やっと出来た娘が出ていくって言うから寂しいのよ。強面で頑固だけど寂しがり屋なの。と言った。
可愛いでしょ?兎みたいで、と言って笑う言葉には賛同はできなかったけれども。
今までのことは勿論のこと、生活もギリギリで余裕なんてないのに山吹色の可愛い袴も手ぬぐいも他にもたくさん用意してくれた二人には感謝してもしきれない。
私は頭を下げた。
「夜江さん、兼吉さん。見ず知らずの私を拾って家族にしてくれてありがとう。
必ず生きて鬼殺隊士になって帰って来ます。
ーーいってきます」
「いってらっしゃい」
「明衣」
「はい」
「世の中、どんなお綺麗な志を持っていようと生き残った奴の勝ちだ。
生き汚くても生きろ」
「覚えておきます」
そうして、私は旅立ち、育手 桑島慈悟朗の弟子となった。
冬が目前に迫った秋のことだった。
雷解 弐話
兼吉おじいさんと夜江おばあさんと共に住んでいた山から三つ程離れた山中に桑島さんーーお師匠が弟子を育てる山はある。
その山中に小屋を建て、弟子ーー私にとっては兄弟子ーーと生活をしながらお師匠は弟子を育てているのだという。
不安半分、好奇心半分でドキドキしながらちょうど山の中腹あたりに建つ平屋へお師匠が入っていくのにならってお邪魔する。
中には同い年か少し年上らしき、物腰柔らかな少年がいた。剣を握るより物書き見習いだと言われた方が納得する面持ちの彼はお師匠の後ろに佇む私を見ると目を瞬いて尋ねる。
「師範、お帰りなさいませ。……もしかしてその子が?」
「あぁ、明衣」
「はい。
はじめまして、今日からこちらでお世話になります鹿嶋明衣です。よろしくお願いいたします」
彼は驚いたように少しだけ瞠目すると、やがてニコリと人好きのする笑顔を浮かべて「こちらこそよろしく」と言った。
【鬼】
日光でしか殺すことが出来ない人ならざる超常生物。
日輪刀以外の刀で足をもがれようと、体を両断されようと、首を落とされようと瞬く間に再生する驚異的な不死性を持ち、老いることもない。
加えて血鬼術と呼ばれる物理法則すらも無視した特殊な術を操る。
生きるために、力をつけるために人間を食する人間の天敵。
鬼とは、原初の鬼によって姿を変えられたーーー
「元人間……」
弟子になるにあたってまず最初にこれから戦う相手を知ってもらうとお師匠は一つの冊子を私に渡した。
お師匠お手製のそれはお師匠が現役時代から今までに知った鬼について記されていた。
そして読み進めていると私にとって衝撃的な一文をなぞり、口に出した。
鬼に一度は襲われた私からすると信じられないことだ。
首の骨折をもろともしない強靭な肉体、目を離した一瞬の隙に、100メートル近い距離を詰める俊敏性。
あれが元は同じ人間なのだという。とてもじゃないが信じられなかった。
つまり、私はこれから元は人間だった存在を相手取らないといけないということだ。
お師匠は、信じられないのも無理はないが、と前置くと立ち上がり、窓から外を見上げた。
日差しの弱い陽光が木々を照らす。
冬の初めらしい光景で、山中は既に羽織がなければ風邪を引きそうな程寒い。
「これだけは覚えておけ。
奴らは理性を失い獣に堕ちた畜生だ。だからお前に躊躇いなどいらない。
だが、元は人間であるのも事実。
鬼を殺すことが鬼殺隊士の使命だが……人だったものを人の道に戻してやるのが鬼殺隊士の役目だとも儂は思う」
「それはどういう…?」
「人を人の道に呼び戻すことができるのはいつの世も人間だけだ」
斬ることに躊躇しろというのではない。お師匠は、斬ることに意義を意味を見い出せ、優しい剣士になれと言った。
斬れば命は救われないが、救われる魂はあるのかもしれないと。
なんとも思わず斬ったほうが楽なのに敢えてこの人は意味を求めろと言う。
聞くところによればこの人は鬼殺隊の最高位 柱の立場にいた人だったらしい。というより育手は皆元柱なのだとか。
だからだろうとは思う。
『意思の無い剣は紙よりも軽い』
兼吉おじいさんも口を酸っぱくして『何の為に教えを請うのか考えろ』と言っていた。つまりはそういうことだ。
斬ることが命を刈り取る行為なのだと自覚し、それを踏まえた上で意義を見つけろという。
「難しいこと言うんですね」
「今すぐとは言わん。見つけろ、という話だ。
儂は人の死をなんとも思わん弟子をつくる趣味はないからな」
「はは……。
斬ることで救われる鬼はいるんでしょうか?」
「さぁな。それを含めて見い出してみろ」
「はい。…見つけます」
今日はここまで。明日から徐々に扱いていくからな、とお師匠は言い残して外へ出た。
この寒い中兄弟子は素振りの鍛錬をしているのだ。それを見るためだろう。
教材を腕に抱えた私は、初日からとんでもなく難しい課題出されたものだ。と思いながら、立ち上がって夕飯の支度をしているお手伝いさんのお手伝いへ向かったのだった。
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