月に祈る子ども
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千花は今対呪霊用牢の中でお一人様専用の椅子に座っている。
悪いけど数時間くらいここで待っててね、と五条につれて来られたのは椅子が中央に一つだけある、外界との関わりを断ち切るように札がびっちりと張り詰められた四畳ほどの小部屋だ。
呪力封じ仕様だから居心地は悪いだろうけど、との言葉の通り千花は少し違和感がある。どこが、と言われると良くわからないが何となく気持ち悪い。千花が感じるのはその程度なのだが、いろははこの部屋に来てから少し元気がない。
いつもなら千花の側に控えているが今は大人しく影の中に潜みっぱはしである。
五条が言うには口数が少なくなっているだけで済んでいる事自体が彼女が特級呪霊である証だといった。
"呪術師に興味ない?"
そう問われた時このまま流れるままに生きていくのだと思っていた千花に一つの光が差した気がした。
いつも千花はやっかまれ、疎まれていた。疫病神だと罵られさて一体何度言われただろうか。
五条にいろはをどう思っているか尋ねられたときに答えた「家族」に嘘偽りはない。
人に見えなくても、その愛情が歪で、それが無償の愛ではなくとも、いつだって千花の側にいてくれたのはいろはだった。
その家族さえ分かってくれていれば千花は不特定多数にどう思われようが興味はない。
でも、それだけで満足かと言われたらそうではなく。
一度で良い。
人の役に立ちたい、感謝されたいと思っていたこともまた事実だった。
わたしは、口では他人がどうでもいいと言いながらどうしようもなく他人に認められたい欲深い人間だった。
千花はハァと椅子に座ったまま膝を抱えてため息をつく。何で今更そんなことに気付いたんだ。わたしのお馬鹿。
「…欲張りすぎて嫌になるなぁ」
「何が?」
「何ってわたしが…」
現在千花とサイレントモードに近いのいろはしかいない部屋で二人の内とちらでもない、もっとハスキーな声が聞こえ千花はパッと顔を上げた。
「五条さん」
「皆大好き五条さんが帰ってきたよ」
そこには数時間前に別れた五条が変わらず片手を上げて立っていた。
五条は遅くなってゴメンね、と言いながらどこから取り出したのか椅子に座り出す。
「え〜と、お疲れ様です…?」
「いやいや、ホント。老害が多いもんだから分からせるのに時間掛かっちゃって」
ヘラリと笑いながらとんでもないことをあっけからんと言い放つ五条に流石の千花もヒクリ、と頬を引き攣らせた。
老害って。
「……そんなこと大きな声で言ってもいいんですか?」
「良いよ。どうせあっちも僕のこと言いたい放題言ってるだろうし」
あの腐ったミカンのバーゲンセール共……と怨嗟のこもった声に千花はもう何も言わず何も聞かなかったことにした。
五条は呪術界の上層部と直接コンタクトを取れるほど上な立場の人間らしい。そんな素振りを一切見せなかったので千花は最初それを聞いた時驚いた。
どちらかと言えば五条に楽天的な一匹狼な印象を持っていたので権力とは無縁なんだろうなぁと勝手に思っていたのだが、蓋を開けてみればそんな事はなく。意外と権力に寄り添った社畜人生を歩んでるのかぁとぼんやり思っていた。
ところが、である。帰ってくるや否や上層部に対する悪口のオンパレード。
五条悟という男が組織の中枢に居座るような権力者と反りが合う性格をしているか否かといえば、間違いなく百人に聞けば百人が首を振る人間なのだからしょうがないといえばしょうがないのだろうが。
なら何故、この人はそんな立ち位置にいるのだろうと千花は純粋に不思議に思った。
「まぁ、そういうのは横に置いといて。
特級呪霊付きの人間を呪術師にするとは何考えてるとかそんなもの即刻死刑だとか色々言われたけど、無事千花の呪術高専行きが決定しました〜!はい!拍手〜!!」
「はい、五条さん」
「ハイ、千花どうぞ!」
「それ本当に大丈夫なんですか??」
千花は雰囲気に合わせて手を挙げ、当てられたので心中を暴露する。安心できる要素が見当たらない気がするのは千花だけなのだろうか。
五条は長いお御足で跨いだ椅子に寄りかかりながらグッと親指を立て、キランと目を光らせた。
「そこは最強呪術師五条先生が丸め込んだから安心して良いよ。生徒を守るのは教師の役目だからね」
丸め込んだとか普通に言うのもどうなのかと思いながら千花はそうですか、と返すが、ハタと何かとんでもない単語を聞き逃した気がしてオウムのように返した。
「…先生…教師?」
「千花が行く学校で先生してるんだ、僕。因みに一年生の担任です」
「……ギャグですか?」
「千花?そろそろ怒るよ?」
「マジか」
「マジだよ。大マジ」
至極真面目な表情で言われて千花はそれが嘘でも冗談でもなく、本物の現実であると間を置いて理解した。
こんなにも教職が似合わない人間初めてだ、とかとても失礼なことを思いながらとんでもなく失礼な事をポロリした。
言い訳をしておくと決して故意ではないのである。
「あ、これが世も末ってやつか」
「千花、君やっぱりここ出る前にちょっとお説教」
それから一時間くらい千花は椅子の上正座を強制された上、お説教を受けたのだが……ちょっと、いやかなり解せなかった。