双子岬と約束
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麦わらの一味は10代の少年少女と言っても差し支えない男女の海賊の集まりだ。
しかし、今目の前に起こっている現実は人生の経験値が足りないとか、そういう類のものではないことは揃って断言できる。
だってまさか……山に見間違えるほど大きなクジラが存在して、飲み込まれた先がリゾートアイランド風になっているなんて誰が思うのか。
寧ろこんなことよく考えたと感心すらしてしまうのが現在行方不明の船長を除くクルーの心情だった。
いや、現実逃避などしている状況ではないのだけどもクジラに食べられたと思ったら青い空、白い雲、おまけに一軒家が建っている島があるのだ。
理解が到底できない状況に混乱の極みである。
しかも、大王イカが現れたと思ったら無人だと思っていた一軒家から銛が飛んで来て、大王イカに一直線。ぶすり。
それでイカさんは海に沈んで昇天なう。あわてふためくのも無理はない。
「クロッカス先生〜私、そろそろイカの丸焼きは食べ飽きたんですけどぉ」
「我儘を言うな。食べられるだけ有り難いと思え、この馬鹿弟子」
「きゃー!暴力はんたーい!!」
「人はいるみたいだな…」
ズル…ズル…と大王イカが引き摺られて行き、一味は固唾を呑んで見守る。
そして聞こえたゴチン、という音と会話からして老人が女を殴ったものかと思われるが、女の声音からしてそう強いものではなく、窘める軽いジョブ程度の威力らしい。
モンキー・D・ルフィ率いる麦わらの一味は"東の海"での冒険を経て"偉大なる航路"へと突入した。
現在双子岬という偉大なる航路の入り口にいるのはずだが……何故かバカンスにいた。意味がわからないが現実である。そして、目まぐるしく変わる状況に更にギャーギャー騒いでいれば登場したのが人の数倍の大きさがある大王イカだった。
そこからはご覧のとおり、イカさんが討伐され、家からは謎の人間の声である。
次は何が出てくる…!?とイカが入って行った家を一味が凝視していると人影が現れた。
「花だ!!いや、花と麗しの花の精!?」
「サンジくん黙って」
「花!?」
「いや、人か!」
現れたのは髪か花か見間違えるほど派手なそれを付けた老人と、自分達と然程歳の変わらない少女。一人一味で通常運転で暴走しだした男をナミが氷の視線で射抜く。
そんなことを知らない彼女は、一味がいることに気が付くとこてん、と首を傾げる。
「あらら?花の精だなんてそんな可愛い歳じゃないんだけど…お客様?んん?こんな辺鄙なところに…?
ね、クロッカス先生どうし……、…先生?」
「…」
弟子が聞くもなんのその。無言でイカを回収した師は彼らと視線を交えるも、さもそんなものが無かったかのようにお気に入りのビーチチェアに座って新聞を広げた。図太い神経にも程がある。
「な、なんか言えよ!てめぇ!!」
「……」
「わぁ、さすが先生。ここまで華麗に無視するとかもはや神業ですね〜」
どうやら師弟関係にあるらしい二人はやはり師匠が師匠なら弟子も弟子だった。褒めてるんだか貶してるんだか分からないような褒め方をして、きゃっきゃっ言いながら手を叩く。
ウソップの声にようやく反応した先生は、睨みつけるようにウソップを見る。だがしかし、当人はその鋭い眼光に腰が引けてしまっていた。
「や…やるならやるぞ、コノ野郎!!こっちには大砲があるんだ!」
「やめておけ…死人が出るぞ」
「へェ………誰が死ぬって?」
人間の倍以上の大きさのイカを仕留めた老人からのあからさまな挑発に比較的好戦的なサンジが進み出る。
一触即発。
辺りに緊張が走る。唾を飲み込んだのは誰だっただろう。
しかし。
「私だ」
「お前かよ!!!」
至極真面目な顔で老人が宣った渾身のボケ(本人は本気である)にサンジのみ全力で叫び、その他は安堵の息を漏らす。
「まァ、熱くなるな。
おい、じいさん。教えてくれ。あんたは一体誰で、ここは一体どこだ?」
「…………人にものを尋ねるときはまず自分から名乗るのが礼儀ってもんじゃないのか?」
「あァ、そりゃ悪かった」
「私の名前はクロッカス。双子岬で灯台守をやっている歳は71歳。双子座のAB型だ」
「アイツ斬っていいか!!!!」
「因みに私はクラウス・D・ユイリ。双子岬で医者の卵やってる28歳獅子座です!」
「てめぇは堂々と嘘つくな!!!」
「まァ、落ち着け」
「えぇ…?嘘なんてついてないよ〜…」
サンジを窘めた筈のゾロも老人ーークロッカスとユイリの独特のテンポにに流され、憤る。勢い余って本当に刀を抜きそうな怒気だった。そして今度は逆に窘められるも、怒鳴られた少女は何が不満なのか口を尖らせてボヤいていた。
「ここが何処だだと?お前らよくも私のワンマンリゾートに入り込んでそんなデカイ口を叩けたな」
「先生〜、私もいるからワンマンじゃないで〜す」
「お前は黙ってろ」
「は〜い」
手を上げてゆる〜い口調で話す少女に一味は少々毒気を抜かれる。
「ここがネズミの腹の中に見えるか?」
「や…やっぱりここはクジラの腹の中なんだ…!!」
「正解正解!大せいかーい!ここはラブーンちゃんのお腹の中でーす!因みに出口はあちらでーす!」
ーーゴチン!
「…痛いよ〜…」
「黙ってろ」
「はい…」
「(((痛そう…)))」
拳骨を落とされ、膝をつき心痛な面持ちで…心なしか涙を浮かべるユイリに一味の同情心を誘った。
「ん?出口?」
「あぁ、出口はそこだ」
同情心攻撃が効くことがまあ少ない冷静なゾロはユイリの謎の言葉をクロッカスに問い質す。
クロッカスは、なんてことはないさも当然であるように鉄の扉を指でさした。
「出口あんのかよ!!」
ウソップは叫ぶ。
加えてこの空間の太陽と雲が絵であることも指摘すると、普通にクロッカスは答えた。
「遊び心だ」
遊び心とは…?一味の心がシンクロした。
ともかく、出口があるなら出るに越したことはない。一味はメリーを出口へ動かし始める。
すると、突然地震のような大きな揺れが襲った。
「何だ!!?」
「始めたか…」
「おい、一体何が…」
「このクジラが"赤い土の大陸"に頭をぶつけ始めたのだ」
そう紡いだクロッカスは胃酸の海へ飛込んで姿を消す。
胃の中へ入る直前クジラの頭が傷だらけだったことを見ている一味はクロッカスが体内からクジラを殺そうとしているのではという恐ろしい仮設を立てるが……ユイリは頬をかいて苦笑した。
「色々とあるんだよ、この子もクロッカス先生も」
「色々?」
「色々は色々よ〜」
釈然としないが、このままでは胃酸で船が溶けてしまうことを危惧した一味は船を進める。
そう言えば未だ姿を見せない船長は無事だろうか、と一味が気にしだしたところーーータイミング良く、鉄扉の横の人間が通る用だと思われる扉からルフィが飛び出し、一味は揃って目を剥いた。
「ル…ルフィ…!?」
「よォ!!みんな無事だったのか!」
笑顔で飛んできた船長は相変わらず常識が通用しない。なんでそうなる。序にバズーカを手にした謎の男女がルフィと飛んでおり、意味が分からない。誰だあいつら。誰も彼もがハテナマーク乱舞状態だ。
「とりあえず助けてくれ!!」
そんな言葉を残して、豪快にダイビングを決めた悪魔の実の能力者はブクブクブクブク。胃酸の海へ沈んでいった。
「ルフィは置いといてまた変なのがいるんだけど…!」
「おい、じいさんが逃げるぞ!」
「取り敢えず放っとけ!まずはルフィを引き上げるぞ!」
「…」
ウソップの言う逃げる先を知っているのでそっちは問題ないとして…と目を外したユイリは、わーきゃー騒ぎながらルフィとオマケを救出する麦わらの一味を見て、ひっそりと笑った。
「(…良い仲間を持ったのねぇ、ルフィくん)」
長らく会っていない海賊志望だった弟が元気に海賊になったこと、それから、とても優しい人達に出会ったことが嬉しかったユイリはもう一度笑った。
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