しょうがないから
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アイラはお日様が元気に燦々と輝く元、島の往来で後悔していた。
原因は言わずもがな目の前の笑顔で片手を上げるエースである。
「よっ何してんだ?」
「…」
久々に買い物でもしよう!と思ったのがすべての間違い。アイラが意気揚々と島を出歩いていれば対面からエースがデュースを伴ってやって来たのである。
なーんで【そうだ、買い物に行こう!】とか思った数十分前の自分。ぶん殴りたい。
早々に気付き、急いで回れ右をするも残念ながら腕を掴まれ、時既に遅し。逃げられなかった。観念するしかないようだ。
エースは、海賊を物理で追い払ったあの日、アイラが暴れたあの空間に居合わせていた海賊で、あろうことかあの後仲間に誘ってきた酔狂な青年である。
これまで海賊勧誘されたことはそれなりにあるがあぁも面と向かって誘われたのは初めてである。
そして、こうもしつこいのも初めてだ。
「なぁ、アイラ一緒に海賊やろうぜ?」
「あのね…わたし、賞金稼ぎなの。前も言ったと思うけど」
「聞いたな。けど、賞金稼ぎから海賊になる奴も珍しくねぇだろ?」
「他所は他所、うちはうちなんで」
「やろうぜ?な?」
「…ねぇ、貴方の船長人の話聞く気ある?」
「……まぁ、諦めてくれ」
「…」
疲れきった顔をするデュースにああ、この人相当苦労してるんだな、と同情した。
そんな相方を他所にエースは至極不思議そうにアイラに尋ねた。
「何で海賊がダメなんだ?」
「デメリットの方が多いでしょう」
「そうか?」
「少なくともわたしにはそうよ」
海賊がそこら辺にいるこの時代は、実力があるのであれば賞金稼ぎは安定職ともいえる。
そんな職からいつどうなるかわからない海賊に転職?どこにメリットがあるというのか。意味がわからない。
「…とにかく、わたしは海賊にはならないから」
それだけ言うとアイラは回れ右をして来た道へ引き返す為、エース達に背を向ける。
しかし、背後から「アイラ」と楽しげなエースな声が投げられそのまま立ち止まる。
「おれは海賊だ。覚えとけよ」
「…」
言外に含まれている意味がわからない程世間知らずではないが……聞こえないふりをしてアイラはその場を立ち去る。
人混みに沿って特に目的もなくフラフラするアイラは誰に言うでもなく、参ったなぁ…と情けない声を出した。
ーー既に負けた気分だ。
会って間もないというのに彼は、エースは恐らくアイラの建前に気付いている。
それどころか、本心すらも見抜いているのではないだろうか。
いや、でも。
「運命感じたから仲間に入りたいです、は気持ち悪いでしょ…」
自分で言って自分でアイラは引いた。気持ち悪いにも程がある。何だ、運命って。
エースを初めて見たとき、「あぁ、この人だ」と思ってしまった。
先に言っておくと、一目惚れだとか好きとか愛してるとかそんな甘酸っぱくて可愛らしいものではない。
言葉にするのは難しいけど、一番近いのは【生まれてこの方ずっと欠けていたものが見付かった】という表現かもしれない。
出会ってしまったのが運のツキだ。
別に今の立場ーー築きたくて築いたわけではないがーーを捨てることに未練はない。
だが、海賊となれば少し話は違ってくる。何故よりによって海賊なのだろう。他ならば喜んでついていったかもしれないのに。
存命らしい元海賊の父は、母の一回り以上年上の人らしい。
単純計算70代前後の男性ということになる。もし仮にアイラが海賊になったとして一番に懸念するのは父に関して付きまわる尾ひれ背びれだ。
大物海賊団に所属していたあの人の子供です、など口が裂けても自分から言い触らすことはまずないが、海軍は海賊という海の犯罪者に生易しい対応など取りはしない。
特に有名所の海賊団の船長や船員の経歴をドン引きするほど調べまわる。
事実、かの海賊王に子供がいるのではないか?という噂が飛び交った20年程前は、それはそれは悲惨だったと聞く。
"西の海(サウスブルー)"にいるそれらしい時期の妊婦と子供達が数多く無実の罪で犠牲になったのは有名な話だ。
何が言いたいかというと、海賊になれば隠していようがいずれその人の子供だと知られる。その位海軍の情報網は凄まじい。
そうなった場合アイラはよく知りもしない父の娘という看板をつけられることになる。
そうーー母ならともかく父の。
大っっっっ変な屈辱である。
どう強くなっても「まぁ、あの人の子供だから当然だな」と思われるのも言われるのが我慢ならない。
育ての親兼師匠に関してグチャグチャ言われているのは、甘んじて受ける。勿論、母に関してもだ。
彼らはアイラの育ての親であり、生みの親なのだから。
しかし、会ったこともない血の繋がりのあるだけの他人とも言える父親に関しては、ゴチャゴチャ言われる筋合いは世間様にあってもわたしにはないのだ。
その点、賞金稼ぎならばアイラが口を閉じて、制限すら守っていれば探られることはない。
探られたところで父どころか母の墓位しか見つかるものはないと思うが。一応念の為だ。
ということなので、海賊だけはNO thank youという訳である。
あとは師匠に鍛えて貰った手前、というのも少なからずある。あの人のことだから海賊になろうが【そうか】の一言で終わらせるような気もするが…。
ようはアイラの気持ちの問題である。
片付くどころか増えた問題に、ハァと重いため息を溢したアイラ。
しかし思いの外、天は慈愛精神をお持ちらしい。
「…」
もう一度顔は動かさず視線を後ろにやれば不審な動きをする男数人がアイラから少し距離を取りながら歩いていた。隠れているつもりだろうがバレバレである。
アイラはエース達と別れた後からお世辞にも上手とは言えない、下っっっっ手クソな尾行をされていた。
最初こそエース達、無名とはいえ海賊と接触していたから海軍かとおもったのだが、このやる気あるのかお前等と言いたくなるレベルの尾行で違うな、とすぐに答えに辿り着いた。
お察しのとおり、昨日のチンピラ海賊のお仲間である。
特定の女に執拗な嫌がらせをやっていたのに、ボコボコにされて追い返されたばかりか負けたと思しき絵面を不特定多数に見られているのだ。
あのチンピラの頭からすると面目は丸潰れ。
どうやら報復的な事を起こす気はあるらしいが何のつもりだろう。こんな尾行するくらいなら最初から襲撃した方が効果的なのに。
……いや、あの頭の悪そうな部下の頭だ。理解しようとするだけ無駄か。
馬鹿の考えることは分からない、とアイラは頭を振って、メインストリートから適当に外れ、裏路地に入る。
一応、角を曲がる序に慌てて追い掛けてきた間抜け共を横目に確認するとやはり見覚えのあるマークを身につけていた。
確か、400万の賞金首が船長をしている海賊旗だ。
小物小物だと思っていたら予想よりもずっと小物で逆に驚いたアイラである。
まあ、しかし折角前菜が自分からぱっくんちょされに来たのだ。食事前の運動には付き合ってもらおうと思う。
標的を見失い、バタバタと追い掛けてそれが罠とは知らずまんまとやって来た彼らに壁に背を預けて待ち伏せていたアイラは微笑んだ。
海賊達からするとただの悪魔の微笑みである。
「追いかけっ子は楽しかった?ちょっと教えて欲しいことがあるんだけど…教えてくれる?」
その直後、野太い悲鳴が路地に響き、何だなんだと島民が見に行けば顔面をボコボコにされた見るも無残な男達が発見された。
が、それが日頃働き者のミゼル達夫妻に迷惑を掛けている海賊ということで即刻海軍に突き出されることになる。
日頃の行いって大事なのだ。
原因は言わずもがな目の前の笑顔で片手を上げるエースである。
「よっ何してんだ?」
「…」
久々に買い物でもしよう!と思ったのがすべての間違い。アイラが意気揚々と島を出歩いていれば対面からエースがデュースを伴ってやって来たのである。
なーんで【そうだ、買い物に行こう!】とか思った数十分前の自分。ぶん殴りたい。
早々に気付き、急いで回れ右をするも残念ながら腕を掴まれ、時既に遅し。逃げられなかった。観念するしかないようだ。
エースは、海賊を物理で追い払ったあの日、アイラが暴れたあの空間に居合わせていた海賊で、あろうことかあの後仲間に誘ってきた酔狂な青年である。
これまで海賊勧誘されたことはそれなりにあるがあぁも面と向かって誘われたのは初めてである。
そして、こうもしつこいのも初めてだ。
「なぁ、アイラ一緒に海賊やろうぜ?」
「あのね…わたし、賞金稼ぎなの。前も言ったと思うけど」
「聞いたな。けど、賞金稼ぎから海賊になる奴も珍しくねぇだろ?」
「他所は他所、うちはうちなんで」
「やろうぜ?な?」
「…ねぇ、貴方の船長人の話聞く気ある?」
「……まぁ、諦めてくれ」
「…」
疲れきった顔をするデュースにああ、この人相当苦労してるんだな、と同情した。
そんな相方を他所にエースは至極不思議そうにアイラに尋ねた。
「何で海賊がダメなんだ?」
「デメリットの方が多いでしょう」
「そうか?」
「少なくともわたしにはそうよ」
海賊がそこら辺にいるこの時代は、実力があるのであれば賞金稼ぎは安定職ともいえる。
そんな職からいつどうなるかわからない海賊に転職?どこにメリットがあるというのか。意味がわからない。
「…とにかく、わたしは海賊にはならないから」
それだけ言うとアイラは回れ右をして来た道へ引き返す為、エース達に背を向ける。
しかし、背後から「アイラ」と楽しげなエースな声が投げられそのまま立ち止まる。
「おれは海賊だ。覚えとけよ」
「…」
言外に含まれている意味がわからない程世間知らずではないが……聞こえないふりをしてアイラはその場を立ち去る。
人混みに沿って特に目的もなくフラフラするアイラは誰に言うでもなく、参ったなぁ…と情けない声を出した。
ーー既に負けた気分だ。
会って間もないというのに彼は、エースは恐らくアイラの建前に気付いている。
それどころか、本心すらも見抜いているのではないだろうか。
いや、でも。
「運命感じたから仲間に入りたいです、は気持ち悪いでしょ…」
自分で言って自分でアイラは引いた。気持ち悪いにも程がある。何だ、運命って。
エースを初めて見たとき、「あぁ、この人だ」と思ってしまった。
先に言っておくと、一目惚れだとか好きとか愛してるとかそんな甘酸っぱくて可愛らしいものではない。
言葉にするのは難しいけど、一番近いのは【生まれてこの方ずっと欠けていたものが見付かった】という表現かもしれない。
出会ってしまったのが運のツキだ。
別に今の立場ーー築きたくて築いたわけではないがーーを捨てることに未練はない。
だが、海賊となれば少し話は違ってくる。何故よりによって海賊なのだろう。他ならば喜んでついていったかもしれないのに。
存命らしい元海賊の父は、母の一回り以上年上の人らしい。
単純計算70代前後の男性ということになる。もし仮にアイラが海賊になったとして一番に懸念するのは父に関して付きまわる尾ひれ背びれだ。
大物海賊団に所属していたあの人の子供です、など口が裂けても自分から言い触らすことはまずないが、海軍は海賊という海の犯罪者に生易しい対応など取りはしない。
特に有名所の海賊団の船長や船員の経歴をドン引きするほど調べまわる。
事実、かの海賊王に子供がいるのではないか?という噂が飛び交った20年程前は、それはそれは悲惨だったと聞く。
"西の海(サウスブルー)"にいるそれらしい時期の妊婦と子供達が数多く無実の罪で犠牲になったのは有名な話だ。
何が言いたいかというと、海賊になれば隠していようがいずれその人の子供だと知られる。その位海軍の情報網は凄まじい。
そうなった場合アイラはよく知りもしない父の娘という看板をつけられることになる。
そうーー母ならともかく父の。
大っっっっ変な屈辱である。
どう強くなっても「まぁ、あの人の子供だから当然だな」と思われるのも言われるのが我慢ならない。
育ての親兼師匠に関してグチャグチャ言われているのは、甘んじて受ける。勿論、母に関してもだ。
彼らはアイラの育ての親であり、生みの親なのだから。
しかし、会ったこともない血の繋がりのあるだけの他人とも言える父親に関しては、ゴチャゴチャ言われる筋合いは世間様にあってもわたしにはないのだ。
その点、賞金稼ぎならばアイラが口を閉じて、制限すら守っていれば探られることはない。
探られたところで父どころか母の墓位しか見つかるものはないと思うが。一応念の為だ。
ということなので、海賊だけはNO thank youという訳である。
あとは師匠に鍛えて貰った手前、というのも少なからずある。あの人のことだから海賊になろうが【そうか】の一言で終わらせるような気もするが…。
ようはアイラの気持ちの問題である。
片付くどころか増えた問題に、ハァと重いため息を溢したアイラ。
しかし思いの外、天は慈愛精神をお持ちらしい。
「…」
もう一度顔は動かさず視線を後ろにやれば不審な動きをする男数人がアイラから少し距離を取りながら歩いていた。隠れているつもりだろうがバレバレである。
アイラはエース達と別れた後からお世辞にも上手とは言えない、下っっっっ手クソな尾行をされていた。
最初こそエース達、無名とはいえ海賊と接触していたから海軍かとおもったのだが、このやる気あるのかお前等と言いたくなるレベルの尾行で違うな、とすぐに答えに辿り着いた。
お察しのとおり、昨日のチンピラ海賊のお仲間である。
特定の女に執拗な嫌がらせをやっていたのに、ボコボコにされて追い返されたばかりか負けたと思しき絵面を不特定多数に見られているのだ。
あのチンピラの頭からすると面目は丸潰れ。
どうやら報復的な事を起こす気はあるらしいが何のつもりだろう。こんな尾行するくらいなら最初から襲撃した方が効果的なのに。
……いや、あの頭の悪そうな部下の頭だ。理解しようとするだけ無駄か。
馬鹿の考えることは分からない、とアイラは頭を振って、メインストリートから適当に外れ、裏路地に入る。
一応、角を曲がる序に慌てて追い掛けてきた間抜け共を横目に確認するとやはり見覚えのあるマークを身につけていた。
確か、400万の賞金首が船長をしている海賊旗だ。
小物小物だと思っていたら予想よりもずっと小物で逆に驚いたアイラである。
まあ、しかし折角前菜が自分からぱっくんちょされに来たのだ。食事前の運動には付き合ってもらおうと思う。
標的を見失い、バタバタと追い掛けてそれが罠とは知らずまんまとやって来た彼らに壁に背を預けて待ち伏せていたアイラは微笑んだ。
海賊達からするとただの悪魔の微笑みである。
「追いかけっ子は楽しかった?ちょっと教えて欲しいことがあるんだけど…教えてくれる?」
その直後、野太い悲鳴が路地に響き、何だなんだと島民が見に行けば顔面をボコボコにされた見るも無残な男達が発見された。
が、それが日頃働き者のミゼル達夫妻に迷惑を掛けている海賊ということで即刻海軍に突き出されることになる。
日頃の行いって大事なのだ。