その他短編
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諏訪さんが好きです、俺にそう言ってきた女が同じ大学だと知ったのは少し前のことだった。風間以上に年齢詐欺の奴が己の周りにいるとは思っていなかった。随分と幼い顔立ちのそいつは知り合ったころと何も変わっていなかった。垢抜けない、もう2年近く通っているであろう大学にもあまり馴染めていない様子のそいつがほっとけなかったのは事実だ。
だから見つける度に声をかけた。初めて学内で出会った日、こいつが俺に声をかけたのは相当の勇気を出したのだろうと簡単に予想がついたから。昼時に食堂に行くたびに視線をさまよわせた。また1人になっていないだろうかと心配になったから。
今思えば、出会った頃もこいつは、よく1人でいたように思う。本を買うために本屋でアルバイトする内気な高校生。それが俺のこいつへの初対面の印象だった。ボーダーに入るまで同じ店でバイトしていた年齢もバイト経験も1年上の俺に、こいつがどういう印象を抱いていたのかは知らないが。そういえば、あの頃も俺はこいつを心配していた。こんなに内気で接客などまともに出来るのだろうかと。実際は丁寧な言葉と所作で、顔立ちさえ幼くなければ、高校生とは思えないほどきちんと仕事をこなしていたが。ただ、休憩時間や仕事の前後に話す時も接客をしているかのように、随分と話し方が固かったのを覚えている。
『あ、の...諏訪さん?』
目の前の女、みょうじなまえが再び俺に声をかけてきて、過去へと飛んでいた思考を現実へと引き戻す。
「...理由は?」
『えっ、』
「なんで俺なんだ?」
そんなもの聞かなくてもわかっている。こいつが俺以外と喋っているところはあまり見たことがない。自分で言うのもなんだが、つい面倒を見てしまったことを優しさと受け取られてしまったのだろう。それを、好きに変換した。
『バイトで、いつも、話しかけてくれて。私、人と話すの嫌いじゃないけど、でも、距離を縮めるのは苦手で。無意識に、壁作ってしまって、でも、諏訪さんはそれを超えて、気にかけてくれて。』
やっぱりな、と思う。それでも、最後まで聞いてやるくらいは、してやるべきか。
『今まで友達と呼べる子が、いなかった訳じゃないんですけど、クラスが変わったり、学校が変わったり、色んな理由で物理的な距離が出来ると、友達が知り合いになる。思い出すことも少なくなる。でも、諏訪さんだけは、ずっと、ずっと忘れられなくて。私もボーダーに入ろうかと思うくらい、追いかけたくて。結局そんな勇気は出なかったんですけど。』
情けで聞いてやろうと思っていた話が少し予想外の方向に向き始めている。その事に何故か焦り出す自分がいた。
『ずっと探していた諏訪さんが、大学で目の前を通り過ぎた時のあの日の気持ち忘れられないです。やっと見つけたって。気が付いたら声をかけてしまったくらいに、舞い上がってしまいました。』
苦笑を浮かべるその顔を見て思い出す。そういえばこいつは好きなものに対してはまっすぐに向かっていくやつだったと。バイト時代、接客の時の愛想はかなり良くて、他の従業員と話す時も同じような顔でニコニコとしていて。でも、好きなシリーズの新作の本が出た時や仕事の帰り際、飲み物や食い物を奢ってやった時の表情はそれとは全然違っていた。もちろん笑顔も見せるが、予想を立てたり、感想を述べたりする時の表情は真剣で、それが少し面白いと思っていた。
『それから、諏訪さんから何度か話しかけてもらって、ようやく私は今まで片思いをしていたんだって気付くくらいには自分の気持ちに鈍感でしたけど。でも、気づいてしまったから。』
こいつが話したのは、俺を好きになった理由というより、ずっと好きだったという事実だ。それでも、何年も抱えていた想いを吐露されて、俺自身も気づいてしまう。いつもこいつを気にかけていたのは俺の方だと。数年ぶりにあって直ぐにこいつだと分かる程度には記憶の片隅に居続けた存在だと。ただ、笑うだけ以外の表情を見たいと思ってしまっていたのだと。
「俺、あんま時間ねぇぞ。」
『へ?』
「ボーダーの活動も、大学もある。それこそ物理的距離は絶対できる。」
『あ、えっと...?』
「付き合ってるって事実にあぐらかいて、ほっとく可能性だってある。俺がそんなマメな性格じゃねーことくらいさすがにお前も知ってんだろ。」
『そ、れは、つまり...』
「それでもいいのかって聞いてんだよ。」
『!』
ぶわっ。そう音がなりそうなほどの勢いで顔を紅くし、目を見開くみょうじ。そんな顔もできたのかとまたひとつ発見出来たことに口角が上がるのを感じた。
「言っとくが俺は、お前が思ってるほど優しいわけじゃねぇぞ。」
『...それは、ないです。』
「あ?」
『優しくない諏訪さんなんて、いるわけないです。でも、諏訪さんが優しいだけじゃなくても、そういうところも、ちゃんと知りたいです。』
「意外と言うな、お前。でも、悪くねぇ。」
自分の目線より割と低い位置にある頭を撫でるぐしゃぐしゃと撫でる。それほど気を使っているという訳ではなさそうな髪型だが、細く意外とサラサラな髪はあまり指に絡んでこない。
『それで、あの、諏訪さんは、私のこと、』
「言わせんな。...だから言ったろ、俺は優しくねーって。」
『じゃあ、私が勝手に解釈していいですか?』
「...それも癪だな。」
そう言ってみょうじの手を掴み、するりとその細い指に己のそれを絡める。ついでにそれをポケットに入れれば、既に中にあったタバコの箱がカサリと音を立てた。
「とりあえず、飯でも食いに行くか。」
『...はい!』
照れたように笑い、見上げてくるみょうじ。初めて見る表情、初めての角度から見えるその顔は今日から俺のものになったらしい。
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気がついたら書いてた。そして書き上がっていた諏訪さん夢。書いてて楽しいので続きも書きたい。