その他短編
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時間軸は大規模侵攻でオサムが退院した辺り。
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『おーい、実力派無職。』
「...その呼び方やめてくれない?」
『じゃあ、自称エリート。』
「ほんとやめて。泣くよ?」
本部の屋上にいた迅に話しかけてきたのはなまえ。迅と同い年で、ボーダーへの入隊時期は彼女の方が随分あとだが、平均よりかなり高いトリオン量と彼女自身のたゆまぬ努力によって2人の実力は同じくらいと言っていい。
『言ってろ。本心じゃないくせに。』
「いやいや、さすがに傷つくよ?」
『もっとわかりやすく傷つけ。』
そう言いながら、迅の近くにあった適当なところに腰かけると今まで立っていた迅もその隣に座った。
「で、何?絡みに来たの?」
『そんなこっちの一方的な理由なら、サイドエフェクトで見えるでしょ。』
「でも今日はえらくイラついてるみたいだし。口調、いつもより酷くない?」
なまえは平均的な女性より身長が高く迅と並んでも少ししか変わらない。また口が悪く口調も荒っぽいので、よく男より男のようだと言われることもある。元々近界民によって母と姉を殺され、身近に女性がいなかった彼女は男勝りなところもあるが、それでも悪意のある揶揄を気にしていないわけではないので普段はそれなりの話し方をするよう気をつけている。しかし今日はいつもと違うようだ。
『イラついてる。でも、普段私の口調なんか気にしないでしょ。』
「うんまあね。だから俺の彼女になってくれたんでしょ?」
『...彼女だからイラついてるってわかんないの?』
声を低め、睨むように言ったなまえの言葉に迅は肩を竦める。その様子にいよいよ舌打ちしたなまえ。その顔は2人の言葉通り確かに恋人の関係である相手に向けるものとは到底思えない程。
『そうやってのらりくらり、本心見せずにはぐらかしやがって。』
「ちょっとなまえちゃん?ほんとどしたの。可愛い顔が台無しだよー?」
『はっ。可愛い彼女ここまで怒らせてんのはどこのどいつだよ。』
「えー?俺、なんかした?」
怒りを露わにするなまえに対してヘラヘラと笑ってみせる迅。その姿についにキレたなまえは立ち上がり、叫ぶ。
『何でもかんでも1人で抱え込んで笑ってんじゃねーぞバカ!』
「っ!?」
『ただでさえ風刃手放して傷心のくせにっ!後輩のことも、街のことも、ボーダーのことも!1人で何とかできると思ったら大間違いだって言ってんだよっ!!』
「...なにそれ。」
迅が表情を無くす。
「俺はそんなこと思ってない。風刃手放したこと、後悔してないし、俺一人でなんとかなるなんてそんな傲慢なこと、思ってないよ。」
『でも悲しんでないわけないだろ、師匠の形見手放して!』
「っ、」
『三雲くんが大怪我したこと、C級が連れ去られたこと、自分のせいだって責めてるだろ!』
「やめろっ。それ以上やめてくれ!」
『やめない。彼女の私が慰めてやるって言ってんの!甘えろ!泣け!このバカ!!』
彼女に釣られるように叫んだ迅に、なまえはさらに声をはりあげそう言い切る。
「...なまえ。」
騒がしい声が一気になくなり、風の音だけが響いていた屋上で、迅がぽつりと零すように彼女を呼んだ。
『何?...っ!』
その声に誘われるように迅に近づいたなまえ。その腰に縋るように腕が回される。突然の事で驚くなまえだったが、腹の辺りに顔を埋めた迅から鼻をすする音が聞こえてきて、それ以上言葉を発するのを辞めた。
「任務の時。」
『ん?』
「トリガー起動させようとして、手の中にあるのが風刃じゃないことに気づいて、時々胸が苦しくなる。」
『...うん。』
「腰のホルダーに風刃がないことに気づいて、しんどくなる。」
『うん。』
「大規模侵攻の時、俺の見てた未来、何が最善だったんだろうって考えることがある。」
『...。』
「仲間を傷つけない事だったのか、街の人を救うことだったのか、もっと別の最善があったのか。」
『それで?』
「それで、それで...。」
言葉のつづかない迅をじっと待つなまえの顔は先程目の前の人間に激情をぶつけていたものとは別人のようで、母のような、柔らかく優しい顔だった。それは迅の前でしか見せない表情。ただし、迅もあまりその顔を見ることは無いが。
「考えてもしょうがないことばっか...。未来が見えても、全部変えられるわけじゃない。過去なんて、もっとどうにもならない。」
『それがわかってる悠一は、偉いね。』
「...なにそれ。」
さっきと言葉は同じでも、少し拗ねたような口調。その変化に気づいてなまえが迅の髪を指で梳きながら言う。
『わかってるから、辛いね。』
「ん。」
『自分を犠牲にするのも、仲間を守れないのも、どっちも、しんどいよね。』
「...うん。」
『私は、悠一じゃないから変わってあげられない。でも、受け止めることくらいはできるよ。だから、思う存分泣けばいい。待っててあげるから。』
なまえの言葉に迅は腕の力をさらに強め、しがみつくように彼女を抱きしめる。
「...なまえ。」
『んー?』
「お前、ほんと男前だよね。」
『...だから好きになってくれたんでしょ?』
不意に迅が腕の力を抜き、顔を上げる。赤くなった目を細めてへにゃりと笑ったその姿は、実際の年よりも幼い少年のようで。
「好き。お前のそういうとこ、ホント、好き。」
『私も、悠一のその顔は好きだよ。』
「〜〜〜っ!なまえ!」
『わっ、ちょ!』
急に立ち上がったかと思うと再びなまえを抱きしめた迅。立ち上がるとなまえがいくら高身長とはいえ、その体格はやはり男女の差があって。予想外に迅が動いたせいでよろめいたなまえをその腕でしっかりと抱き寄せ、支える。
「...ありがと。」
『!普段からもうちょっと甘えろ、バカ。』
「なまえはもうちょっと普段から素直になればいいんじゃない?」
『余計なお世話!』
「うん、でもこれでも甘えてんの。愛してるから。」
『ふえっ!?』
「くくっ。なにそれ。」
『ゆ、悠一が急に変な事言うから!』
「えー?でも本心なんだけどなぁ。」
そんなふたりの騒がしく、幸せそうな声が静かな屋上へと溶けていった。
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迅さんにとにかく幸せになって欲しくて書きました。きっと同じようなことを考えている方は多いのではないでしょうか。ふわっと書いたのでふわっと見ていただけると助かります(笑)
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『おーい、実力派無職。』
「...その呼び方やめてくれない?」
『じゃあ、自称エリート。』
「ほんとやめて。泣くよ?」
本部の屋上にいた迅に話しかけてきたのはなまえ。迅と同い年で、ボーダーへの入隊時期は彼女の方が随分あとだが、平均よりかなり高いトリオン量と彼女自身のたゆまぬ努力によって2人の実力は同じくらいと言っていい。
『言ってろ。本心じゃないくせに。』
「いやいや、さすがに傷つくよ?」
『もっとわかりやすく傷つけ。』
そう言いながら、迅の近くにあった適当なところに腰かけると今まで立っていた迅もその隣に座った。
「で、何?絡みに来たの?」
『そんなこっちの一方的な理由なら、サイドエフェクトで見えるでしょ。』
「でも今日はえらくイラついてるみたいだし。口調、いつもより酷くない?」
なまえは平均的な女性より身長が高く迅と並んでも少ししか変わらない。また口が悪く口調も荒っぽいので、よく男より男のようだと言われることもある。元々近界民によって母と姉を殺され、身近に女性がいなかった彼女は男勝りなところもあるが、それでも悪意のある揶揄を気にしていないわけではないので普段はそれなりの話し方をするよう気をつけている。しかし今日はいつもと違うようだ。
『イラついてる。でも、普段私の口調なんか気にしないでしょ。』
「うんまあね。だから俺の彼女になってくれたんでしょ?」
『...彼女だからイラついてるってわかんないの?』
声を低め、睨むように言ったなまえの言葉に迅は肩を竦める。その様子にいよいよ舌打ちしたなまえ。その顔は2人の言葉通り確かに恋人の関係である相手に向けるものとは到底思えない程。
『そうやってのらりくらり、本心見せずにはぐらかしやがって。』
「ちょっとなまえちゃん?ほんとどしたの。可愛い顔が台無しだよー?」
『はっ。可愛い彼女ここまで怒らせてんのはどこのどいつだよ。』
「えー?俺、なんかした?」
怒りを露わにするなまえに対してヘラヘラと笑ってみせる迅。その姿についにキレたなまえは立ち上がり、叫ぶ。
『何でもかんでも1人で抱え込んで笑ってんじゃねーぞバカ!』
「っ!?」
『ただでさえ風刃手放して傷心のくせにっ!後輩のことも、街のことも、ボーダーのことも!1人で何とかできると思ったら大間違いだって言ってんだよっ!!』
「...なにそれ。」
迅が表情を無くす。
「俺はそんなこと思ってない。風刃手放したこと、後悔してないし、俺一人でなんとかなるなんてそんな傲慢なこと、思ってないよ。」
『でも悲しんでないわけないだろ、師匠の形見手放して!』
「っ、」
『三雲くんが大怪我したこと、C級が連れ去られたこと、自分のせいだって責めてるだろ!』
「やめろっ。それ以上やめてくれ!」
『やめない。彼女の私が慰めてやるって言ってんの!甘えろ!泣け!このバカ!!』
彼女に釣られるように叫んだ迅に、なまえはさらに声をはりあげそう言い切る。
「...なまえ。」
騒がしい声が一気になくなり、風の音だけが響いていた屋上で、迅がぽつりと零すように彼女を呼んだ。
『何?...っ!』
その声に誘われるように迅に近づいたなまえ。その腰に縋るように腕が回される。突然の事で驚くなまえだったが、腹の辺りに顔を埋めた迅から鼻をすする音が聞こえてきて、それ以上言葉を発するのを辞めた。
「任務の時。」
『ん?』
「トリガー起動させようとして、手の中にあるのが風刃じゃないことに気づいて、時々胸が苦しくなる。」
『...うん。』
「腰のホルダーに風刃がないことに気づいて、しんどくなる。」
『うん。』
「大規模侵攻の時、俺の見てた未来、何が最善だったんだろうって考えることがある。」
『...。』
「仲間を傷つけない事だったのか、街の人を救うことだったのか、もっと別の最善があったのか。」
『それで?』
「それで、それで...。」
言葉のつづかない迅をじっと待つなまえの顔は先程目の前の人間に激情をぶつけていたものとは別人のようで、母のような、柔らかく優しい顔だった。それは迅の前でしか見せない表情。ただし、迅もあまりその顔を見ることは無いが。
「考えてもしょうがないことばっか...。未来が見えても、全部変えられるわけじゃない。過去なんて、もっとどうにもならない。」
『それがわかってる悠一は、偉いね。』
「...なにそれ。」
さっきと言葉は同じでも、少し拗ねたような口調。その変化に気づいてなまえが迅の髪を指で梳きながら言う。
『わかってるから、辛いね。』
「ん。」
『自分を犠牲にするのも、仲間を守れないのも、どっちも、しんどいよね。』
「...うん。」
『私は、悠一じゃないから変わってあげられない。でも、受け止めることくらいはできるよ。だから、思う存分泣けばいい。待っててあげるから。』
なまえの言葉に迅は腕の力をさらに強め、しがみつくように彼女を抱きしめる。
「...なまえ。」
『んー?』
「お前、ほんと男前だよね。」
『...だから好きになってくれたんでしょ?』
不意に迅が腕の力を抜き、顔を上げる。赤くなった目を細めてへにゃりと笑ったその姿は、実際の年よりも幼い少年のようで。
「好き。お前のそういうとこ、ホント、好き。」
『私も、悠一のその顔は好きだよ。』
「〜〜〜っ!なまえ!」
『わっ、ちょ!』
急に立ち上がったかと思うと再びなまえを抱きしめた迅。立ち上がるとなまえがいくら高身長とはいえ、その体格はやはり男女の差があって。予想外に迅が動いたせいでよろめいたなまえをその腕でしっかりと抱き寄せ、支える。
「...ありがと。」
『!普段からもうちょっと甘えろ、バカ。』
「なまえはもうちょっと普段から素直になればいいんじゃない?」
『余計なお世話!』
「うん、でもこれでも甘えてんの。愛してるから。」
『ふえっ!?』
「くくっ。なにそれ。」
『ゆ、悠一が急に変な事言うから!』
「えー?でも本心なんだけどなぁ。」
そんなふたりの騒がしく、幸せそうな声が静かな屋上へと溶けていった。
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迅さんにとにかく幸せになって欲しくて書きました。きっと同じようなことを考えている方は多いのではないでしょうか。ふわっと書いたのでふわっと見ていただけると助かります(笑)
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