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倉庫(説明必読)

影浦雅人 中編? 設定の1話目的なもの、の書きかけ

A級8位影浦隊がB級に降格した原因はうっすらと多くの隊員が知っている。だがその全容を知っている人間はごくわずかで、さらには荒れに荒れていたかの部隊の隊長影浦雅人が、今の状態になるまでを知っているのはもっと少ない。

「あ、水城さんだ。」

「?」

ある日彼が自分の実家であるお好み焼き屋で空閑、北添、当真、村上といつものように過ごしていたところ、北添が不意に声を上げた。空閑は聞きなれない名前に首を傾げ北添の視線を追いかけると、そこにはいかにも家族であろう4人がなれた様子で店の奥の席に入っていくところだった。

「ゾエさんの知り合い?」

「うん、同級生だからね。ゾエさんは同じクラスだし。でもゾエさんのっていうか、カゲの幼馴染だよ。」

「んで、彼女な。」

「え、トーマ先輩カノジョいたのか。」

当真の発言に対して空閑の返した言葉に会話の様子を静かに見守っていた村上が吹き出した。そして釣られるように当真も笑い出す。北添は困ったように笑い、ちらりと向かいに座る己の隊長の顔色を伺えば明らかに機嫌を悪くし眉間に皺を寄せていた。

「そーそ。俺の彼女。」

「??」

「当真テメェ、」

「…なるほど。カゲ先輩のカノジョってことだな。」

当真の発言の嘘をあっさり見抜いた空閑はその反応からすぐに話題の人物が影浦の彼女であることを悟った。しかし、もう一つ気になることがある。

「さっきの、どっちがカゲ先輩のカノジョ?」

「ああ、そうか。俺たちは顔知ってるけど空閑は初めてなんだよな。」

「連れてきて紹介してやれば?」

納得した様子の村上に、揶揄うような言葉を被せる当真。その発言にイラつきを隠さず、影浦は同意を示さなかった。恥ずかしがるなとさらに面白がる当真が席を立とうとすればそれを静止したのは影浦ではなく北添の方で。

「向こうは家族できてるんだから、邪魔しちゃだめだよ。髪の長い方、って言えば空閑くんにも伝わるでしょ?」

「わかるけど、でも、なんかあるのか?親に知られちゃいけないとか?」

「…向こうの親も、ついでにうちの奴らも知ってる。」

影浦は視線をついたての影で見えなくなった話題の人物の方に向けながら、ポツリとこぼすように空閑の問いに答えた。彼が素直に答えたことに村上も当真も少なからず驚き目を見開いたものの、実際彼らもなぜ影浦が頑なに席を立とうとしないのか、話題には出すのにそれ以上の行動を起こさないのか、その理由を持ち合わせていなかった。この場でその理由を知るのは影浦本人と北添だけで、しかしその2人から詳細が語られることはなく、その場はそれ以上彼女についての話題が広がることはなかった。

『雅人くん。』

しかし、もう一度彼女が話題に上らざるを得ない状況が訪れた。食事を終え店の前で影浦が友人たちを見送りに出たすぐ後、同じように店の前に現れたのは先ほど話題に上がった女だった。彼女は影浦の他にも友人たちがまだそこにいることを知っていたのか手短に後で連絡するね?と声をかけただけでその場をさろうとした。

「あー、ちょっとまて。」

『?』

そんな彼女を影浦が呼び止める。それに素直に応じて振り返った彼女は年下である空閑から見ても、同じ歳である村上や当真から見ても随分と大人びて見えた。

「こいつ、空閑遊真。最近ボーダーに入った面白ぇやつ。」

「む?俺の紹介か?どうもどうもはじめまして。空閑遊真です。」

唐突に、空閑を紹介し始めた影浦に少し目を見開いた彼女だったが、直ぐにニコリと笑みを浮かべそれに応じた。

『初めまして、水城月花です。雅人くんとは幼馴染で他の人達とも同級生です。』

「彼女なんでしょ?カゲ先輩の。」

『おお、もう知ってるのか。ってことは、この子が最近雅人くんが機嫌のいい理由の子だね?』

楽しそうに笑って影浦をみやる月花に彼はうるせーと悪態をつく。けれどその雰囲気が決して険悪でないことは誰の目にも明らかで。ただどこか、恋人同士とも言い難いものであるのも確かで。

「なんつーか、カゲの彼女ってよりかーちゃんか姉貴みたいなやつだな。」

『…はは、よく言われるよそれ。』

「…おい。」

『大丈夫。雅人くん以外に対しても言われ慣れてるから。当真くんとは今まであんまり話したことないし、そういう感想でも仕方ないよ。…と、私あんま長居できないからもういくね。』

そう言ってそそくさと今度こそその場を後にした月花を見送った4人。じゃあ俺たちも帰ろうかと、北添がいえばそれに同意した面々が己の帰る方向へと足を向けようとするが、不意に当真が肩をすくめる。

「おいおいカゲ。なんか言いたいことあるんなら言えよ。そんな睨んでねーで。」

『…チッ。』

「何かあったのか?」

疑問を投げかける村上が当真と影浦をの顔を交互に見るが、舌打ちとため息の後視線を外したのは影浦の方で。

「テメェみてえにアイツは顔と感情が一致してねえんだよ。アイツの気も知らねえで、勝手なこと言ってんな。」

「顔と感情が一致しない?」

「犬飼みたいにか?」

「あんなのと一緒にすんな。」

またも当真を睨んだ影浦はついにクルリと体の向きを変え、友人たちに背を向ける。そしてじゃーなと低く言うと、さっさと彼にとっては家でもある店内へと戻っていってしまった。

「なんなんだ?」

当真も、村上も、空閑でさえ、影浦の態度の真意が読み取れず首を捻る。北添だけがなんとなく影浦の心情を察しているようで、めざとくそれに気づいた空閑が「ゾエさんなんかわかるの?」と尋ねた。

「うーん、ゾエさんが話せるのは…。俺らがB級に落ちてカゲが荒れてた時期があったの、遊真くんは知らないと思うけど、2人は知ってるよね?」

「ああ、あの時のカゲは近寄るのも難しかったな。」

「…そーだな。」

「それと、彼女、なんか関係あるのか?」

北添は、随分と言葉選びに悩んでいるようだった。というのも、知っていることを全て話すのは、影浦についてならまだしも自分とは深く関わりがあるわけではない月花には悪い気がしていたのだ。

「あのカゲが元に戻ったのは、水城ちゃんのおかげみたいなんだよね。」

ゾエさんも全部知ってるわけじゃないけど、と言う北添の発言はそっちのけで3人は顔を見合わせる。ボーダーにも関わりない彼女が、荒れていた影浦を戻すきっかけとは一体。その時のことを詳しく知らない空閑はもちろん、よく知っている2人も全く想像ができず意味がわからなかった。だがそれ以上を北添が詳しく語るわけでもなく、元々語れるわけでもなかったので、それ以上を知ることはその場の誰も叶わなかった。



「…おす。」

『!お、おはよ、雅人くん。早いね?』

「悪いか?」

『いやいや!全然!!』

そんなことのあった次の日、月花が朝自宅を出ると、そこには影浦の姿があった。普段は月花より早く登校することのない影浦がそこにいるのは大変珍しく、月花は声こそ出さなかったもののかなり驚いた。

『どした?なんかあった??』

「…あっただろ、昨日。」

『んー?』
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