臆病少女と仲間たち
そして再びやってきましたテンガン山!
##NAME1##たちは今日、当初の旅の目的は到達した訳だし、お礼代わりに珍しい石をダイゴさんにプレゼントしよう!
…という訳で、いい石ないかなとテンガン山に探しに来ていた。
ひとまずキョロキョロと皆で探し歩いていると、くたびれてきたマグナがぶつくさ言い出した。
『ネェ、##NAME2##ー…。ホントニアルノ~?』
「何かしら有るとは思うんだけど…」
『マグナツカレター…。
…ア!!』
ぴこーん!とビックリマークが頭上に出そうな感じで、マグナは明らかに何か見つけたような声を上げた。
「なになに?何か見つけた?」
##NAME1##が目を輝かせてマグナの方を見ると、マグナは誇らしげに何か掲げた。
『ミテミテ!ジシャク、ミツケター!!』
「…磁石…確かに石は石だけど…」
『エーイッ☆』
ぺいっ
かちっ
『……##6O##…##6P##』
マグナがふざけて投げた磁石が、興味なさげにあさってを向いていたメタろうにくっついた。
メタろうはしきりに腕を動かしたが原型の形上の問題で届かず、ジタジタした末に払い落とすと、
シュッ!!
ドガッ!!
『…いッつ…!?』
メタろうが腹いせに狭霧に向かって投げ飛ばした豪速球が、背を向けて1匹だけ真面目に石を探していた狭霧の背中に当たった。
「さっ、さぎりん、今すごい音が…!?」
『……だ、大丈夫だ……あ、いや、やっぱり大丈夫じゃないかも…』
「と、とりあえず今、傷薬を…」
##NAME1##がわたわたしているところに、ちょっとやりすぎたと思ったのか、申し訳なさそうにメタろうがやってきて、
落ちていた磁石をツメでつまんで、狭霧にそっと渡した。
『………;』
狭霧はなんとも言えない目で磁石を見、それからそっと返す。
『磁石なら、俺よりもマグナに渡してやってくれ』
返そうとして、ふと気づいた。
『……取れない…?』
「……あ」
『……!』
『アララー』
意外に強力で、はがすまでにはだいぶ奮闘が必要だったそうな……
******
「んー…」
『まさかこんなに強力だったなんて…;』
かちっ!
「やっと…やっと取れたあああ!」
『(ほっ…)』
##NAME1##がとれた磁石を持ってぴょんぴょん跳ねるのを、マグナと狭霧とは微笑ましく見守っていた。
ちなみに、メタろうは悪ノリして、凄まじい音をたてながら一緒に跳ねている。
ガガガ…
『ちょ、ちょっと落ち着いてくれ。洞窟が揺れてるぞ…』
『モー、##NAME2##モタロサンモ、ゲンキバクハツナンダカラー!』
「ごめーん」
『……(ピタッ』
ゴゴゴ…
「…あれ…?」
『な、何でまだ揺れて…?』
『…地震?』←メタろうです
『エッ、チョッ、ジシントカ…マジカンベンナンデスケド』
マグナがビビって挙動不審(言動も不審)状態になっているうちにも、揺れは続く。
しかも、だんだん大きくなっていって…
ゴゴゴゴォッ!!
「ひゃああああ!」
『ウワァァン!ジシンコワイヨーー!!』
『……;(わたわた』
『皆、とりあえず落ち着け…!ほら、##NAME1##!そっちにいないで、こっちに…』
「ふぇえ…足に力入んな……って、ひぇっ!?」
ガラガラガラッ!
狭霧が##NAME1##の方へ行こうとしたが、一足遅かった。
目を開けた時には、洞窟の一部が崩れ落ちてきて、洞窟内を2つに分断する厚い壁となっていた。
狭霧は茫然とする。
『……』
『アレッ!?##NAME2##ハドコー!?』
後方でジシンコワイヨーー状態で目を瞑っていたマグナが、崩れ落ちた岩を見て騒ぎ始めた。
マグナはキョロキョロして、後ろを振り返った。
最初に通ってきた出入口が見えるだけだ。
メタろうもいない。
『サギリンー』
『………』
『ネェ、サギリーン。##NAME2##トタロサンハー?』
『…ッ』
狭霧は突然、目の前の岩壁を殴り付けた。
ドガッと激しい音がして、ガラガラッと一部の岩が崩れる。
『ウワッ!?』
『……見る限り、崩れた天井は一部だけだった』
『ウン?』
『だから、俺達は二手に分かれさせられただけな筈だ。##NAME1##とメタろうがいる位置まで岩が崩れていたとは思えない』
狭霧はそこまで淡々と説明し、それから急に俯いた。
どうしても、最悪の場合を考えずにはいられない自分の性格が恨めしい。
マグナはしばらく考えていたが、やがて心得た様子で岩壁に向き直った。
『ヨースルニ、コレヲドカセバイーンダヨネッ!!
エーイ、ラスターカノーン!』
壁をちょっとずつ崩しながら、マグナがくるっと振り返って笑った。
『ダイジョーブ!タロサンモツイテルシ、##NAME2##ッテバ、イガイトシブトインダカラ!』
狭霧はまだ暗い表情をしてはいたが、静かに頷いて岩を砕き始めた。
*
その頃の##NAME1##はといえば、実はあまり『ダイジョーブ』ではなかった。
咄嗟に飛び退いた方向とか天井の崩れ方とか色々な要因が重なって、メタろうとの間にまで岩壁が出来上がってしまっていたのだ。
「ふぇー…どうしよう…真っ暗になっちゃった…」
コツッ
「あいたっ!」
上から小石が落ちてきた。
「こ、ここも危ないかなぁ…?」
此処にいたら、もしかしてさぎりんやマグちゃんやたろさんが助けに来てくれるかもしれないけど…。
コツッコツッ
「あいたた!だ、ダメだー、やっぱり行かなきゃ…」
そう呟いて手探りで歩きだした矢先のことだった。
すかっ
「あれっ?ちょっ…わー!!」
踏み出した先の床にぽっかり穴が空いていたようで、##NAME1##は悲鳴を上げながら落っこちてしまった。
**
こちら、メタろうside。
『………』
別に真っ暗でも目は見えるのだが、それにしても何故か##NAME1##が見当たらない。
メタろうは目の前の岩壁にガッガッとバレットパンチした。
なかなか崩れないのでイラついて、ドゴオォッとコメットパンチをかました。
その、信じられないような強烈な力で、壁に一気に穴が空く。
『♪』
当然そこに##NAME1##がいるものと思ってほくほくしていたメタろうだが、見回しても何処にもいなくて拍子抜けする。
『……?』
その場に止まったメタろうの上に、コツッと小石が落ちてくる。
危ないから奥に行ったのか、そう合点して、メタろうは足元の穴など見向きもせず、階段を見つけて下りていった───────。
*
『ラスターカノーン!
ラスターカノーン!』
『……』
『チョット!サギリン!
ナニオドッテルノ?』
『…剣の舞だ』
『ヘ?ナニソレ?』
『……』
ドゴォッ!
剣の舞を舞い終えた狭霧が岩壁にバレットパンチをすると、なかなか壊れなかった大岩が一瞬にして砕けて、ようやく向こう側が見えた。
『オオー!ワンダホー!』
『…行くぞ!』
勢いづいてすぐに向こう側に進んだ狭霧とマグナだったが、すでにそこには誰もいなかった。
『…アレー?』
『……』
またしても茫然とする狭霧。
『オクニイッタノカナ?』
『……』
『キ、キットソウダヨ!ソノウチゴウリュウデキルッテ!!』
何だかもう泣きそうになり始めた狭霧を見て、マグナが慌てて言った。
しばらくして、やっと狭霧が顔を上げて頷く。
『そう…だな。進もう』
『(ホッ…)』
こうして、狭霧とマグナは奥の階段……つまり、メタろうが先に進んでいった方へ向かったのだった。
****
『?』
地下一階にたどり着いたメタろうは、前に来た時にはなかった横穴を発見した。
岩壁を爪でちょっと引っ掻いてみる。
最近削られた跡のようだ。
崩れてはこなさそうだと判断して、奥に進んでみる。
横穴は曲がりくねりながら下に向かって進んでおり、しばらく進んでいる内に、だんだんと岩壁を砕いて削っているような、ガッガッという音が聞こえて始めた。
音はだんだん近くなり、急に開けた場所に出たかと思うと、その音の正体が現れた。
一匹のボスゴドラがその角や鋼の爪で岩壁を削り、鉄鉱石を掘り出しては食べていたのだ。
メタろうは、こいつは強そうだと思った。
バトルしてみたいと思った。
でも、##NAME1##捜しとバトルを秤にかけたら、考えるまでもなく##NAME1##捜しの方が大切だと思った。
ボスゴドラはこちらに気づいていないようだ。
メタろうは近づいていって、爪でつついた。
それでも気づかないようなので、軽くバレットパンチをかました。
こうか は いまひとつ の ようだ!▼
ボスゴドラはダメージこそほとんど受けなかったが、面食らって振り返り、角を向けて威嚇した。
『こら、いきなり何をする!?』
メタろうは相手の反応には頓着せず、ただ問う。
『…人を捜してる』
ボスゴドラはそれを聞いて、急に静かになってくるっと岩壁に向き直った。
『帰れ』
『…見たか、見ていないか…どっちだ』
『幸いにもまだ人間は誰も見かけていない。…見かけたとしたら…ただでは済まさないがな』
メタろうは目を瞬かせ、それから突然、ボスゴドラのすぐ横の壁をドゴォッと殴りつけた。
『……どういう意味だ』
ボスゴドラはうろたえる気配もなく、ただギラッと鋼の爪をあらわにした。
『私は人間が嫌いだ。勝手で、無責任で、約束も守らない最悪な生き物。貴様らはよくあんな奴らに付き合ってられるな!』
言い終わるが早いか繰り出されたメタルクローをかわして、メタろうは今度はボスゴドラを狙って本気でコメットパンチをした。
それを腕で受けとめたボスゴドラは、少々後ろへ後退ったものの、鋼の鎧があるおかげで平気でいた。
メタろうは一度距離をとって、相手の様子をうかがおうと振り返った。
…が、思いがけない事態になっていた。
『うおぉぉん…人間なんて…人間なんてっ…大っ嫌いだーー!』
『!?』
ボスゴドラがわんわん号泣しながら矢継ぎ早に攻撃してくる。
ヤケになっているせいで動きが読めず、驚いている内に吹っ飛ばされた。
どかっ
『なっ…!?』
『ウワーッ!ナニー!?』
『?』
そうして吹っ飛ばされてぶつかった先は、追いついてきた狭霧たちだった。
狭霧はすぐにガバッと立ち直ると、立ちはだかるボスゴドラと目を瞬かせるメタろうを見て、表情を険しくした。
『お前…っ、バトルなんてしてる場合か!?##NAME1##はどうした!?』
『捜してる内にこうなった』
『捜す…?どういうことだ、まさかお前も##NAME1##とはぐれて…?』
『最初に岩が崩れた時に別々になった』
狭霧が事情を呑み込めずにいる内に、ボスゴドラがだんだん迫ってきていた。
『貴様らも仲間なのか!!同じ人間とつるんでいるのか!』
振り下ろされた鋼の爪を、振り向きざまにメタろうが腕で受け止める。
鋼と鋼のぶつかり合う激しい音と共に火花が散った。
両者一歩も譲らず、後退ることなく睨み合っている。
狭霧はしばらく呆気にとられていたが、やがてスッとボスゴドラの後ろに回り込んで、相手が気づかない内に鋼の鋏を振り下ろした。
ところが空を切るヒュウッという音に反応したボスゴドラが、まるで鎧の一部のような硬い尾で逆に狭霧を攻撃した。
『ぐ…っ!!』
『…!』
『アー!サギリーン!!』
吹き飛ばされて岩壁に打ちつけられた狭霧に代わって、ひたすらオロオロアワアワしていたマグナが進み出て、追い打ちをかけようとするボスゴドラを遮った。
『マ、マグナガンバル!!カカッテキナサーイ!!』
ボスゴドラは怒ったような唸り声を上げたが、やがて突然ふっと冷めたような目をして3匹を見回した。
『…どうしてだ?』
『エッ、ナニソレ』
マグナがシリアスムードを読めないのは相変わらずであった。
『お前たちは、どうしてそんな一生懸命になる?
ほんの一時でも、人間を疑ったことはないのか?
信じていたのに裏切られたことがないからか?』
マグナは辺りをアワアワと見回して、ものすごく決まりの悪そうに目を背けている狭霧を見つけた。
『エーット、ソレナラ、サギリンガイチバン、ヨクシッテルヨ!』
狭霧がギクッとした。
メタろうがマグナをちょいちょいと招き寄せて、こしょこしょ耳打ちする。
『(ボソボソ)』
『エッ、トラウマ?ナニソレ、シンシュノポケモン?』
『(コソコソ)』
『エッ、ココロノキズ?ザックリ?ウワ、ゴメーン!』
『あーッ、もういい!そうだ、俺だって裏切られたことならある!悪かったな!!これで満足か!?』
いきなりキレられたボスゴドラは面食らって思わずペコペコ頭を下げた。
『すっ、すみません!申し訳ありません、いきなりこんなこと聞いて!!』
『アレー、ハナシカタ、カワッター!』
『…;』
その上、仲間を発見したと思ったらしいボスゴドラは狭霧に対して急にフレンドリーになった。
ドシン、とその場にゆったり座り込んだボスゴドラは狭霧を隣に手招きする。
『まぁまぁ、そうと分かればここはひとつ愚痴り合おうじゃありませんか、兄さん!』
『ニコニコするな、誰が兄さんだ』
『サギリン、マダオコッテルノー?』
『怒ってるも何も、まだ##NAME1##を見つけてないだろ!』
『アアッ、ソウダヨ!サガサナキャ!!』
『…上に戻るか』
メタろうの一言で踵を返して横穴へと急ごうてした一行の背後から、何やらぽかんとした表情でボスゴドラが問い掛けた。
『捜しに行っちゃうのか?』
口調の幼さになんか違和感を感じながらも、狭霧が振り返らず答えた。
『…当たり前だろ、俺の大事なトレーナーなんだから』
『……(ボカッ』
『ヒトリジメ、ダメ、ゼッタイ!』
『…す、すまなかった…俺たちの、だな…』
また歩き始めた一行の後ろの方から、今度は何やら音が聞こえてきた。
ひっく…うっ…グスッ……
『『『………;』』』
無視して進もうとした3匹だったが、やがてゴゴゴゴゴ……と洞窟全体が揺れ始めた。
『ヒィィイ!!マタ、ジシンーッ!?』
『…(アタフタ』
『まさか…あの時のは、あのボスゴドラの技だったのか…!?』
そうこうしている内に行く手の横穴が天井から崩れ始めた。
戻らざるを得なかった一行は再び開けた洞窟に駆け戻る。
『ドヒーッ!!』
『どっ、どうしたマグナ?』
予想外の悲鳴に仰天した狭霧が振り返る。
『タロサンガイナイ!』
『…あれっ…すごいデジャブが…』
ところが、瓦礫がボコッと盛り上がってメタろうがひょこっと現れた。
なんというか…タフだな…。
しかし、そうのんびりしている訳にもいかなかった。
『うわあああああー!!私だって…私だって…ずっと一緒に居たかったのに!!
大好きだったのにっ!
見た目が変わったからって……ううっ、あんまりだ!!あんまりだぁー!!許さない許さない!!』
わんわん泣き、地団駄を踏みながら、ボスゴドラは断続的に地震を起こし続けている。
何だかだんだん、トレーナーが手に負えなくなったもう1つの理由がわかってきた気がする………
かまってもらえないと、この調子で駄々をこねたんだろうか。
『…ハッ、まずい…このままだと上の階まで崩れる!』
自分たちは鋼タイプだから何とか大丈夫かもしれないが…
『アーッ、##NAME2##ガ!!タイヘン!!』
狭霧が、ザッとボスゴドラの前に立った。
かつてない程、声のトーンが低くなる。
『……おい、やめろ』
『イヤだ!やめるものか!もういっそ、お前たちも主をなくしてしまえ!!』
『……頼むから、やめてくれ』
『…へ?』
びっくりして目をパチクリさせるボスゴドラの前で、狭霧は深く頭を下げた。
『…頼む、この通りだ。
…わかるだろ…確かに、信頼に証拠なんてないけど…離れたくないんだよ』
マグナも慌ててすっ飛んできてズシャアッと地面に着地してスライディング土下座した。
『マグナカラモ、オネガイ!』
『…(ペコッ』
ボスゴドラは拍子抜けしたようにぺたんと床に座り込んだ。
グスッと鼻をすすり音がすると同時に、ピタッと地震が止んだ。
***
『ああ……やめる。私がそんなことされたら、すごく悲しいな…すまん…』
狭霧たちはホッとして顔を上げた。
このボスゴドラは、暴走さえしなければだいぶおとなしい性格なのかもしれない。
『じゃあ、早く##NAME1##を捜しに……』
ビシィッ ミシミシッ
『『『!?』』』
『?』
3匹とボスゴドラが同時に音がした方(天井)を見上げると、まさに今、天井の岩壁にヒビが広がりつつあるところだった。
まずい、崩れる…
そう思った瞬間、避ける暇もなく大きな岩の塊が案の定崩れ落ちてきた。
…狭霧の上に。
……俺だけ!?
**********
「ひぇぇぇ…また崩れた…ここ、どこぉ…?」
崩れてきた岩の上の方から、今にも泣きそうな声が聞こえてきた。
『アアッ、##NAME2##ーーーー!!』
『……!』
「あっ、マグちゃんっ!たろさんっ!!よかったぁぁぁ…!…あれっ、さぎりんは?」
『(……っ!?)』
『ア…アノネ?サギリンハー…』
ドゴッ!!
マグナが説明しかけた矢先、内部からの衝撃で岩の一部が吹き飛ばされた。
『ア、』
「わわっ!?」
下の方が崩れたので、##NAME1##の乗っていた岩が傾く。
下まで転がり落ちかけて、落下を覚悟して目を瞑ったら、ギリギリで誰かに受け止められた。
…決して「ふわっ」っていう感じじゃなくて、どっちかというと「ゴッ」って感じだったけど、これってもしかして…?
そっと目を開けると、狭霧がまじまじと腕の中の##NAME1##を覗き込んでいた。
『……##NAME1##』
ぽつりと呟かれた自分の名前に、どう答えたらいいか分からずに、とんちんかんな返事をしてしまう。
「…うん」
狭霧がそのまま黙っているので、何か言った方がいいのかと思って慌てて付け足した。
「ただいま、さぎりん」
『……………』
長い。
マグナなど、所在なさげにそわそわし出した。
「…大丈夫?…さぎりん」
じっと見上げている内に、狭霧の体にけっこう傷がついているのを見つけて、手を伸ばして、そっと頭を撫でる。
狭霧はただされるがままにしていた。
…そのうち、はらはらと温かい雫がこぼれ落ちてくる
「…ごめんね、心配した?」
『……っ、しないワケないだろ…!そんな怪我なんかして…』
「大丈夫、コケたり落ちたりしただけだよ?」
『笑い事じゃない!!』
「少なくともさぎりんほどじゃないよ…」
『俺は丈夫だから大丈夫だ』
「笑い事じゃないのはお互い様だよ」
狭霧と##NAME1##が言い合いをする一方、メタろうは別のことでハラハラしていた。
自分でさえちょっとヤキモチを焼きかけているのだから、例のボスゴドラが「リア充爆発しろ」的な心境になるのも致し方なi……
『うおおおん!何で私だけひとりぼっちなんだー!』
…ほら来た。
しかも喚くと同時にまた地震が始まった。
メタろうは動じないが、マグナと狭霧と##NAME1##にとってはほぼトラウマになりかけている。
「ひぇぇぇ、もう地震やだあああ!」
『俺から離れるな、##NAME1##!…メタろう、マグナ!!あいつを止めてくれ!』
『ウワァン、ムチャブリダヨー!!』
『……;(考え中』
しかし、座り込んでグスグス泣いているボスゴドラの様子を目の当たりにした##NAME1##は、目をぱちくりさせ、無理に狭霧の腕の中から抜け出た。
『あっ、コラ!##NAME1##っ…!?』
途中で地震のせいで ずべしゃッとコケた。
狭霧が助け起こそうとしている内にまたスルッと逃げて、ボスゴドラのそばに来て見上げる。
ボスゴドラが驚いて、地震は小さくなった。
「泣いてるの…?」
ボスゴドラは目を瞬かせたが、ハッと我に帰って唸り声を上げた。
『わ、私は騙されないぞ!人間なんてもう信じないからな!』
##NAME1##は首を傾げた。
「人間、きらい?」
『ああ、大っ嫌いだ!』
「…そう」
ぽんっ
『…?な、何を…』
突然、##NAME1##が背伸びをして、座り込んだままのボスゴドラの頭を撫でた。
周り全員が呆気にとられている中、彼女はふふっとはにかむ。
「…私は、好きだなぁ……なんか、可愛くて」
『『『『!?』』』』
***
確実に可愛さの基準がズレてきている##NAME1##は、ほわわわ~、とでも効果音のつきそうな和やかな顔でボスゴドラをなでなでしている。
ぽかーんとしていたボスゴドラが、やがてグスッと鼻をすすった。
『…嘘だ』
「えっ、ホントだよ?」
『…だって、あの人はそんなこと言ってくれなかった!』
「あの人…?」
『前のマスターは、黙って私をここに置いていった!!
ココドラの頃はあんなに可愛がってくれたのに、進化してからも嫌われないように迷惑かけないように頑張ったのに、ちっとも相手にしてくれなかった!!
だから、私はもう人間なんて嫌いだ…!』
ボスゴドラが叫ぶように吐き捨てると同時に、また地震が激しくなり始めた。
さっき崩れ落ちなかった岩や、そのさらに上方の岩が徐々にガラガラと崩れ落ちてくる。
ひときわ大きな揺れと同時に、##NAME1##たちのいる場所にふっと暗い影がさした。
上を見上げた時には、もう遅い。
「きゃ…っ!!」
仲間たちが焦って自分の名を呼ぶのを聞きながら、##NAME1##はきつく目を閉じた。
目を開けたら、周りは真っ暗だった。
一瞬、あれっ私、逝っちゃったかな…?と縁起でもないコトを考えたけど、少し動いたら何か硬い感触のものにぶつかった。
不思議に思って目を瞬かせていると、ふいに自分の周りを覆っていたものが ごそっと動いて、ガラガラガラと岩を砕いてどかす激しい音がした。
薄暗いながらも少しだけ明るくなって、上を見上げてみたら、さっきのボスゴドラが片腕で頭上の岩をどかし、なんとも言えない表情で##NAME1##を見下ろしていた。
『自分でやっておきながら…つい無意識に、守ってしまった…』
ボスゴドラは周りの岩を粗方どかすと、大きな両手でひょいと##NAME1##を持ち上げて、じーっと見つめる。
「?」
『………』
##NAME1##はとりあえず手を伸ばして、また彼の頭を撫でて笑った。
「助けてくれてありがとうね」
『……』
ボスゴドラは目を閉じて黙って撫でられていたが、そのうちにぼたぼたと大粒の涙をこぼし始めた。
『本当は…本当はッ』
「…うん」
『嫌いなんかじゃないっ…ずっと…今でも、大好きなんだ!!色々考えたけど、嫌いになんかなれなかった!!だからいつまで経っても辛いんだ!悲しいんだ!寂しいんだ!!!!』
涙が止まらなくて、情けない声になりながらもボスゴドラはまたわんわん泣いた。
##NAME1##は撫でる手を休めず、頷きながら話を聞いていた。
やっとボスゴドラが少々落ち着いて、ぐすぐす啜り泣くにとどまった頃、##NAME1##は あっ、と声を上げた。
「みんな、大丈夫かな…?」
ボスゴドラはゴシゴシと目尻の涙を拭うと、辺りの岩の山を見渡した。
『鋼タイプだから大丈夫だろうけれど、私も見つけるのを手伝う』
##NAME1##がそろそろと崩れた岩の上を歩き、ボスゴドラが大きな岩をどかし始めた。
歩き回っている内に、ボスゴドラがぽつりと呟くのが聞こえた。
『お前の仲間たちに、謝らないとな…許してくれるだろうか』
しょんぼりした感じの声を聞いて、##NAME1##は振り返った。
「…あの、ちょっと提案があるんだけど」
ん?と手を止めてこっちを見たボスゴドラに、##NAME1##はもじもじしながら話す。
「お詫びの代わりって訳でもないけど、よかったら…一緒に旅してくれないかなぁ…なんて…思ってたりするんだけど…」
ボスゴドラは目をぱちくりさせた。
『……いいのか?
何だかむしろ怒られそうな気がするけど』
「いっ、いや怒んないよ!みんな優しいから…ね?」
ボスゴドラは、再びじーっと##NAME1##を見つめた。
『ずーっと一緒に?』
「うん、ずーっと!」
『いつまでも?』
「うん!!」
##NAME1##が一生懸命頷くと、ボスゴドラはしばらくして、途端にぱぁっと笑顔になった。
そして、はた目に見て分かるほど張り切って岩をどかし始める。
『よぉぉぉし!!そうと決まれば頑張るぞ!』
「ありがとう!」
『イエス!マスター!!』
「えっ!?私、マスターなんて呼ばれるような柄じゃ…」
『じゃあ、「##NAME1##様」でいきます!!』
「ど、どうしたのそんな敬語で…しかも、様って…」
『敬愛の証です!!(キリッ』
こ、こんなキャラだったんだ…
##NAME1##とボスゴドラが探している内に、何処からか自力で岩をはねのけて出てきたメタろうが合流した。
続いて、大きな岩をどけたらその下からマグナが飛び出してきた。
『プハーッ!!モウ、ドウナルカトオモッター!』
「すまん、取り乱して…それから、私もこれから一緒についていくことになったんだ、よろしくな!」
『アレー、イツノマニ!マァイイカ!ヨロシクネー!アト、ジシンハヤメテネー』
ボスゴドラとマグナが握手している。
続いて、無言で近寄ってきたメタろうも無言で握手を要求した。
マグナはいつも通りニコニコしていたが、 おもむろにビシッとフリーズした。
『ア、アワワワ…』
「どうしたの、マグナ?」
『##NAME2##ー!ウシロ、ウシロー!!』
「へ…?あ、さぎりん!!よかったぁぁ、無事で!!
…………え、何か…もしかして、すごい怒って…る…?
えっとね、とりあえず今、傷薬を…!」
何処からか脱出してきたらしい狭霧は、怖いくらい無表情だった。
もしかしなくても怒ってる…よね?
『…いい、それより速く出よう。…洞窟なんて、もう懲り懲りだ』
声のトーンもなんか妙に低くて疲れた感じだ。
「ちょっと待ってね、傷薬を探すから…」
『いいから。』
有無も言わさず遮ると、こっちへ来いというようにわずかに腕を広げる。
反論したら後が怖いので素直にそばに行くと、ほんの、ほんのわずかな一瞬だけ狭霧が微笑んだ。
そのまま、軽々と抱き上げられる。
抱き方が俗に言うお姫様抱っこだったのが少々恥ずかしかったが、狭霧がずっと無言でスタスタ歩き続けているので何も言えなかった───────
洞窟から出ると、狭霧はそっと##NAME1##を降ろした。
降ろされるなり一言目が
『…コラ』
「はいぃっ!!」
めちゃくちゃ怒られるのを覚悟で背筋を伸ばしたが、予想に反して、狭霧はさっきまでの冷たい声音ではなく、疲れ果てたような弱々しい声で呟いた。
『…あんまり、心配させないでくれ。…わかってる、お前のせいじゃないって………だけど…』
「さぎりん……怒ってないの…?」
狭霧は目を瞬かせ、それから柔らかく微笑んだ。
『怒ってないよ…安心してくれ。
……俺が怒ってるのは…』
『やっと追いつきました、##NAME1##様ー!!』
すごい重量感のある足音をたてながら走ってきたボスゴドラに向けられた視線はかつてないほど鋭いものだった。
ボスゴドラはビシッと固まり、それから思わず敬礼する。
『にっ、兄さん!!今回は色々とどうも失礼いたしましt…』
『誰が兄さんだ、誰が!!とりあえずそこに正座しろ!』
『りょ、了解です!
あ、実は私、旅に同行することに…』
『それは分かってる!
だからこそ、俺がまずそのどうしようもない駄々っ子根性を叩き直してやる!!』
「さぎりん、さぎりん、落ち着いて…!」
『…##NAME1##、お前には怒ってない。けど、言っておかなきゃならないことなら沢山ある。
そもそもお前は何で自分の身の安全を考えない?』
「えっ、そ…それは…ごめんなさーい!!」
『ゼー、ハー…ヤットオイツイタ!…ッテ、アレ?』
『……ついにキレられたか』
マグナとメタろうがやっと追いついて見たのは、洞窟の出口付近で並んで正座して怒られている##NAME1##とボスゴドラ、それから延々と問いただし続ける狭霧の図だったそうな。
<<今日の教訓>>
さぎりんは滅多に怒らない。
けど、怒ると怖い。
※洞窟内の落石は後でボスゴドラさんが責任もって片付けました。
Fin...