臆病少女と仲間たち




##NAME1##がホウエン地方のトクサネシティに引っ越してから、はや数年。


##NAME1##は、これからどうするか決めかねていた。


10歳からポケモントレーナーになって旅が出来る。




##NAME1##はまだポケモンを持っていない。

このままだと普通に進学することになるけれど、トレーナーになって旅をしてみたいとも思っていた。


ずっと前に別れた、あのストライクのことを思い出しては、自分のポケモンをもつ決心がつかずにいる。



そんな事を考えながら学校からの帰り道を歩いていたら、後ろからポンッと肩を叩かれた。

「##NAME1##ちゃん、一緒に帰ろー!」

「あっ、うん!」

引っ越してから、すぐに友達は出来た。

その子の後ろにはジグザグマが楽しそうについて歩いていた。

「ね、ジグザグマが何か拾ったみたいだよ?」

「あ、ホントだー!サイコソーダだね、飲んでいいよジグザグマ!」

するとジグザグマは美味しそうにサイコソーダを飲んだ。

2人はそれを笑いながら見守って、また歩きだす。


こんな風に人と話したりポケモンと一緒にいるのが怖くなくなったのも、あのストライクのおかげだなぁ。

そう考えると、彼が今ここに居ないのを寂しく思うのだった。



道が別れたので友達とさよならしてから、自分の家の方へ歩いていく。

すると、何やら何処かから妙な声が聞こえてきた。


『ウーン、ハナレナイヨゥ…ドウシタライイカナァ』

『……』

ドカッ

『ウワッ!イタイヨー!ハナレナイカラッテ、タタカナイデヨー!!』



「?」


不思議に思って声のする方へそろっと歩いていってみる。

草の茂みの向こうを覗き込むと、そこで2匹のポケモンが何やら揉めていた。


1匹はコイル。

もう1匹は、その時の##NAME1##には分からなかったが、ダンバルというポケモンだった。


『……(イライラ』

『ウェーン、ドウシヨオ………アレッ?』


どうやらコイルの磁石がダンバルにくっついて離れなくなっているみたいだ。

コイルが、そーっと見ている##NAME1##に気づいた。

『ネェ、ネェ!キミ、グーッテヒッパッテミテヨ!』

『……』

ダンバルの目もこっちを向いた。

##NAME1##は目をぱちくりさせ、やけに人懐っこいポケモン達だなと思いながら近づいていく。

「お、思いっきり引っ張っちゃっていいのかな?」

『ウン!オネガイネ!』

『…(コクリ』

##NAME1##は片手でダンバルを、片手でコイルを押さえて引っ張った。

すぐ離れるかと思ったら意外と強力で、なかなか離れない。

どんどん力を強めたけど、全然離れない。

##NAME1##は息を切らして、いったん手を離した。


「だ、だめかも…」

『エェー、ソンナァー!』

『……』

コイルが涙目になり、ダンバルが諦めるなと言うようにコツコツぶつかってくる。

「そ、そんなこと言ったってぇ…」


今度は##NAME1##が涙目になっていると、茂みの向こうから人影が現れた。


「ダンバル!こんな所にいたのか!…あれ、君は…?」

グレーの髪に黒いスーツを着た若い男の人には、何だか見覚えがあった。

##NAME1##はしばらく口をパクパクさせた末に、やっと思い出す。


「ほ、ホウエンのチャンピオンの……ダイゴさん!?」

彼はにっこり笑って歩いてきて、##NAME1##の横に座った。

「うん、そうだよ」

「あっ、あの…何でこんな所に…」

「この近くに家があるんだ」

にこやかにそう言うと、彼はコイルとダンバルの様子を眺めた。

「コイルの特性の『磁力』でくっついちゃったみたいだね。君は離すのを手伝ってくれてたのか…優しい子だね」

「えっ!?えっ、あの…そんなことないです…なかなか離れなくって…」

ダイゴさんに微笑まれて##NAME1##が混乱していると、ダンバルがコイルもろとも飛んできて、ダイゴさんの脇腹にドゴッと突進した。

「ぐは…っ!!ちょ、ダンバル…分かったから、分かったから突進しないでくれないかな!」

「だっ、大丈夫ですかダイゴさん!?凄い音しましたけど…」

「だ、大丈夫だよ…。君、名前は何ていうの?」

「あ、あの…##NAME1##っていいます…」

「そう、じゃあ##NAME1##ちゃん、君はコイルを引っ張っててくれるかい?」

「はいっ」

こうして、##NAME1##はコイルを、ダイゴさんはダンバルを抱えて引っ張った。

最初、力の違いのせいでダイゴさんの方へ転びかけたが、ダンバルがぶつかって押し戻してくれた。

(ダンバルが急に浮き上がったせいで、逆にダイゴさんが転んだりコイルとダンバルがぶつかったりして余計に大騒ぎになったけど)


##NAME1##が座ってコイルを抱きかかえて押さえ、ダイゴさんが立ってダンバルを力いっぱい引っ張ったら、やっと2匹が離れた。


ダイゴさんがそのまま後ろに転びそうになったのを、ボールから飛び出した大きなポケモン(メタグロス)が受けとめた。


…また凄い音がしてたけど、大丈夫かな…。


「はぁ、離れた…思ったより大変だったね」

それでも微笑むダイゴさんは凄く懐の広い人だと思う。

「何かすみません…」

「いや、全然君が謝ることじゃないと思うよ?」

座ったままペコペコ頭を下げていると、面白い子だね君は、と言われた。

私はいつもこんな感じなんだけどなあ。


気がつくと、膝の上にはコイルだけじゃなくダンバルまでも乗っかっていた。


あれ?この子、ダイゴさんのポケモンじゃなかったっけ…。


「ダンバル、##NAME1##ちゃんのことが気に入ったのかい?」

『…(コクリ』

ダイゴさんはそれを見て微笑んだ。

「そうか。じゃあ、このダンバルは君にあげるよ。可愛がってあげてね」

##NAME1##は驚いてダンバルとダイゴさんを見る。


「えっ!わ、私…まだ1匹もポケモン育てたこと無いんですけど…私なんかでいいんですか?」

すると、ダンバルは膝の上に乗っかったまま、ムギュッとくっついてきた。

ダイゴさんはそれを見て笑いながら答える。

「いいんだ、ほらダンバルも君が好きみたいだよ?
それに、君なら大事にしてくれる。そんな気がするからね」

「あ、ありがとうございます…!」

しかし、そう言ってから、またシンオウで別れたストライクのことを思い出してうつむく。


「どうしたんだい?何か気にかかることがあるなら、話してごらん」

ダイゴさんの優しい言葉に促されて、##NAME1##は家族にも言わなかった事を話した。


自分がポケモンや人と接することが怖くなくなったのは、昔出会ったストライクのおかげだということ。

引っ越しの時にそのまま別れてしまったのを、今では後悔していること。

今でも、出来るならもう一度会いたいと思っていること。


全部を聞いてから、ダイゴさんは屈んで##NAME1##と視線を合わせ、微笑みかけた。

「そうか…じゃあ、君の旅の目的地は、シンオウだね」

##NAME1##が意味が分からずに目をぱちくりさせていると、ダイゴさんは優しく肩を叩いた。

「もう一度会いたいなら、探しに行けばいいんじゃないかな。大事な友達を探す為に旅に出るっていうのも、有っていいと思うよ」

##NAME1##はしばらく考えた。
それから、心を決めて頷く。

「はいっ!そうしようと思います!」

すると、膝の上にいたコイルが飛び上がって自己主張した。

『ハーイ!コイルモイッショニイキターイ!!』

##NAME1##はびっくりして、それから笑った。

「ありがとう、これからよろしくね」

『ウンッ!ガンバルヨ!!』

笑って見ていたダイゴさんが、すっと右手を差し出した。

「頑張ってね、僕は応援しているよ」

##NAME1##はしばらくあたふたした末に、赤くなりながら握手した。

「ダイゴさん、色々とありがとうございました…」

「いいや、僕が君の旅のきっかけになれたなら、こんなに嬉しいことはないよ。じゃあ、またね##NAME1##ちゃん」

ダイゴさんはそう微笑むと歩き去っていった。


その後をメタグロスがついていく。




さすがチャンピオンなだけあって、落ち着きがあるなぁ…。大人だなぁ…。


ぽーっと見ていると、何故かダンバルがドカッとぶつかってきて、##NAME1##は慌てて2匹を連れて家に帰ったのだった。





《後日談》


「こ、こんにちはー…
ダイゴさんいらっしゃいますかー?」

「僕なら此処にいるけど?」

「うひゃあっ!!;」

ドアをノックしていたら後ろから声をかけられ、##NAME1##は飛び上がった。

振り返ってぎこちなく笑った##NAME1##を前に、ダイゴさんは不思議そうに首を傾げた。




****



「なるほどね、ニックネームが決まらない…か…」

「そうなんです…この子、なかなか気難しいみたいで…」

ダンバルは久々に入ったダイゴの家の中をゆっくり飛び回っている。

時々無意味に突進して物を壊すのを、ダイゴさんは諦めた目で、##NAME1##はハラハラした眼差しで見守っていた。

コイルはといえば、ダイゴさんのメタグロスに遊んでもらっている。

「あのコイルの名前はもう決まったの?」

「あ、はい!『マグナ』っていう名前になりました」

「マグナ、か。良い名前だね」

「普段はマグちゃんって呼んでます」

マグナが呼ばれたと思ってすっ飛んできた。

##NAME1##が慌てて、違うよと言うとがっかりして戻っていった。

ダイゴさんはそれを微笑ましく思いながら、話を続ける。

「実は、ニックネームが欲しいらしいから僕も色んな名前を提案したんだけど…全部拒否られたよ」

「ええっ!?じゃあ、なおさら難しいですよー…」

「そうだね…。ダンバル、ちょっとこっちにおいで?」

ダンバルはこっちを見たが、動かない。

「ダンバル、おいで!」

##NAME1##が呼ぶと、すぐに飛んできた。

そういえば、あのダンバルは前から僕を舐めきっていたような気がする。

ダイゴさんはうっすらそう思ったが、何も言わないでいた。



それから、夕方近くまで2人で思いつく限りの名前を挙げていった。

ダンバルはどれも嫌そうな反応をし、仕舞いにはつまらなくなってゴツゴツ突進してくる。

それを宥めたり叱ったりしながら、そろそろ完全なネタ切れに近づいてきた頃…

「い、いったいどんな名前が良いって言うんだい、ダンバル…」

「うう…もう思いつかないよぅ…」

ダンバルはまたしても、諦めるなと言いたげに##NAME1##にぶつかってきた。

「わーっ!分かった、分かったよ、ちょっと待って…め、『メタろう』とか…」


##NAME1##はダンバルが将来進化するはずのメタグロスの方を見て、投げ遣りに言う。

マグナは既に飽きて、メタグロスに乗っかって昼寝していた。

「ははっ…##NAME1##ちゃん、いくらなんでもそれは…」

ダイゴさんが思わず吹き出したが、ダンバルは思いもよらない反応をした。

『!(コクリ』

「えっ!もしかして今、頷いた…!?」

ダンバルは嬉しそうに##NAME1##の周りを飛び回っている。

##NAME1##とダイゴさんは顔を見合わせた。


「と、いうことは…ダンバルの名前は…」

「め、『メタろう』…ですね…」

「…ねぇ、ダンバル。本当にそれでいいのかい?」

ダンバルは、名前で呼べ!と言いたそうにダイゴさんにタックルをくらわせた。

「痛ッ!」

「わーっ、ダイゴさん!」

「本当にその名前が気に入ったみたいだね…とりあえず、決まって良かったよ」

##NAME1##はしばらく考えてから、飛び回るダンバル…いや、メタろうをつかまえた。

「よしっ、愛称は『たろさん』にしようかなっ!」

メタろうはそれにも頷き、##NAME1##に飛び付いた。

「わー!くすぐったいよ、たろさん!!」

それを呆然と見ていたダイゴさんが、こらえきれずに笑いだした。

「ふふ、ははははっ!本当に面白いね君たちは!君が旅に出たら、旅の途中でも会うかもしれない。それを楽しみにしているよ!」

「? ありがとうございます!」








しばらくして、今日は本当にありがとうございました、お邪魔しましたー、と言ってダイゴさんの家を出た。


何だかダイゴさんには色々とお世話になっちゃったな。

くっついてくるメタろうと、腕の中でまだ昼寝しているマグナを撫でながら考える。

「お礼に、珍しい石を見つけたら届けに来ようっと」

ダイゴさんの家に様々な石のコレクションがあったのを思い出して、ぽそっと呟いた##NAME1##だった───────────。



Fin...
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