臆病少女と仲間たち




##NAME1##が引っ越してから、はや1ヶ月が過ぎた。

ストライクは言い知れない虚無感に襲われていた。


毎日が単調すぎて辛い。

普通に生活して、たまにトレーナーに見つかって、勝って、捕まるのを逃れて。

時折、##NAME1##との日々を思い出して、また会う日は来ないと考えて余計に辛くなる。

今や、周辺の町では「なかなか見つからない上に凄まじく強い野生ポケモン」として有名になっているようだ。

捕まるつもりなど無かった。

…でも





もう、独りで居るのには疲れた。





だから、俺は





バトルを仕掛けてきたトレーナーが手持ちのポケモンを倒されて、最後にヤケになってボールを投げる。



いい機会かもしれない、そう思った。


何かが変わるかもしれない。
少なくともこの単調な日々から抜け出せる。



僅かに抵抗すれば簡単にボールから出られたが、敢えて抵抗せずに俺は捕まった。



俺を捕まえたのは、ごく普通の虫採り少年だった。

少年は静かになったモンスターボールを見て、しばらく呆然としていた。

それから、慌てて走ってくる。

何かと思えば、彼はいきなりボールから俺を出した。
「…な、なぁ。本当に捕まっていいの?」

俺がいまいち意味が分からずに黙っていると、さらに尋ねてくる。

「僕、そんな強くないけどいいの?ついうっかり捕まったとかじゃない?」

予想外だった。

俺はしばらくぽかんとしてから、くすっと笑って答える。

『いいや…お前のポケモンになってみたいと思ったから、捕まったんだ』

すると彼はしばらくあわあわして、それから嬉しそうに笑った。

「あっ、ありがと!!僕、頑張るから!」

『ああ…ひとまず、ポケモンセンターに急いだ方がいいんじゃないか?』

俺が倒してしまったポケモン達に目を遣る。

「あーっ!そ、そうだ急がないと!!」

『落ち着け…リュックを忘れている…』

「あっ、そうだった!」





何となく、この少年とならうまくやっていけそうだと…そう思っていた。






***

遠くの木の陰から、ストライク達を見ていたトレーナーがいた。


「……」

『一足遅かったようですね、マスター』

黒髪を高く結い、鋭い目つきをした彼女に、傍らに立つサーナイトが穏やかに声をかける。

「…別に。ただ、進化させる手間が省けただけ」

『フフ…言うと思いました。ではマスター、ご命令を…』

「…どうせ言わなくても分かってる癖に」

『いいえ…そのお声で聞かないと意味がありませんよ?私にとっては』

トレーナーは一度サーナイトの方を軽く睨み、それから淡々とした声で言った。

「サーナイト、あの男の子が他にどんなポケモンを欲しがってるか探って。…あなたなら、読めるでしょ?」

『フフ、分かりました…私のマスター』

「変な事言ってる暇があるなら早くして」


イライラした声でせっつく主人を横目で見て、サーナイトはまた微笑した。


『もう分かっていますよ。あの子が欲しいのはアーマルド。だいぶ前から憧れているようですね』

分かってたなら早く言いなさいよ。

トレーナーはそう言い掛けたが、たしなめられるのが目に見えていたので止めた。

「ふぅん…アーマルド。確かボックスにいたから余裕ね」

『いいんですか?なかなかレベル高かったような記憶がありますが』

「化石なら掘れば出てくるから……それに、」









「あいつ、思ったより役に立たなかったし」









『フフッ…相変わらず、手厳しいですね』



そう苦笑しながらも、サーナイトはどこか愉快そうだった──────。




少年は手持ちのポケモン達全員を大事にしていた。


特に一番最初のパートナーだというコロボーシはいつも一緒で、歩いている時もよく肩に乗っかっていた。

そのコロボーシがたまに自分の肩にぴょんっと飛び移ってきたりすると、仲間だと思われていると感じて安堵した。

『お前は本当に虫ポケモンが好きだな』

「うんっ、だってかっこいいじゃん!でもさ、僕どうしても見てみたい虫ポケモンがいるんだよねー」

『?』

「アノプスとか、アーマルドっていう大昔のポケモンで、化石から復元出来るんだって。
岩と虫タイプなんだ。
でも、化石なんて掘り方知らないしなぁ…」

『確かに、なかなか難しそうだ…』

そんな事を話していると、暇さえあればカランコロン、と不思議な音をたてて鳴いていたコロボーシが、ふと後ろを向いた。


『カラコロ。だれかくる』

「? どうした、コロボーシ」


少年がそちらを向くと、サーナイトやヘルガーを連れた女のトレーナーが歩いてきて、足を止めたところだった。

彼女の纏う何処か威圧感な雰囲気に、少年は少し身構える。

「なに、バトル?」

「…よく分かってるじゃない」

彼女は少し口の端を吊り上げて笑うと、傍らのサーナイトが前に進み出た。

「3対3でいい?」

少年もコロボーシを前に出させ、頷く。

その後ろで、ストライクは何か嫌な予感を感じていた──────。



* * *



「呆気なかったじゃない…つまらないバトルね」

「…っ!」


結果は惨敗。


相手のトレーナーは何も指示をしていないのに、サーナイトはまるで主人の意思が全部分かっているかのように、タイミングよく技を繰り出した。

その威力とバトルの巧さについていけず、二匹目もサーナイトに倒された。

少年が三匹目にストライクを出した時、相手がふいにポケモンを交代した。


出て来たのは、アーマルド。

一番の弱点である岩タイプの技で、ストライクは呆気なく倒されてしまった。



少年がバトルの賞金を渡そうとした時、彼女はいきなり思いがけないことを申し出た。

「ねぇ、ポケモン交換しない?」

「えっ…!や、ヤダよそんなの…」

「さっきのアーマルドとストライクを、でも?」

「…!!」

「どっちみち、私は賞金なんて欲しくないからいらない。ズイタウンのポケモンセンターにいるから、心が決まったら今日中に来てちょうだい」


それだけ言うと、彼女はポケモン達を連れてスタスタと去って行った──────。



少年は元気のかけらや傷薬などでポケモンを回復してからボールに戻し、しばらく木の切り株に座って考え込んでいた。

夕方近くなって、ズイタウンへ帰るべく歩き出す。




町もだいぶ近くなった頃、ストライクはボールから出された。

倒された後に相手のトレーナーの言葉を聞いていたストライクは、複雑な気持ちで少年の後ろを歩く。


しばらく黙っていた少年が、立ち止まって振り返った。

「ねぇ、」

『……』

覚悟をして、少しだけ身構える。

やっぱりやめておくよ、と言って欲しかった。

…けど、


「交換で…あの人んとこ、行ってくれるかな…?」

『……』

ピクッ、と体が震える。

「ほ、ほら!君は本当は強いのに、僕じゃ君の実力を生かしきれないからさ…。僕の所にいるより、あの人のポケモンになった方が、きっと……」



『分かった』

少年がそれ以上言い訳を続けるのを、多少大きな声で遮った。

驚いてビクッとした少年をこれ以上不安にさせないように、罪悪感を感じないように、ストライクは平気そうな声をつくった。

『そうだな…。俺は、向こうで頑張るよ…』


少年がホッとしたように息をついた。

本当に平気そうに笑いながら、ストライクは、お前にとっての俺の価値はそんなものなのか、と叫び出したい気持ちを必死で抑えていた。


せっかく掴みかけた絆は、確かに強固なものに見えたのに。

それが本当に呆気なく、崩れていったような気分だった──────。




* * *



「決まったみたいね」

少年がポケモンセンターに入ると、丁度ロビーにいた先程のトレーナーが冷ややかに笑った。

少年が頷くと、彼女は何か道具を手渡した。


「それ、ストライクに持たせてから交換して」

メタルコート、という名前らしい、ずっしりと重みのある道具は無言で俺に渡された。

正直、自分の進化などもうどうでもいい。

どんなに考えないようにしようと思っても、「信じていたのに裏切られた」という思いで頭がいっぱいになってしまう。


強さなんて、いらない。

俺はただ信じていたかっただけなんだ、あの場所にいたかっただけなんだ。

あの少年の隣は、居場所があった。絆があった。心地よかった。

だから俺は信じていた。
なのに、あっさり裏切られた。


少年は合わせる顔がないと思っているのか、もう俺の方を見なかった。




交換が済んで、進化が終わって、俺はストライクからハッサムになった。

以前より少々動きにくくなったが、防御は格段に向上したようだ。


トレーナーの名前は「雷」というらしい。

彼女は進化後の姿を一瞥すると、技マシンでいくつかの技を覚えさせた。

それからポケモンセンターを出て周辺でトレーナーを探して、試しだと言ってバトルをする。


一通り俺を戦わせ終わると、彼女は初めて愉快そうに笑った。

その笑いは心からというよりは、もっとひねくれたものだったが。


「なかなかやるじゃない」

そう言うと彼女は行くよ、と言ってポケモンセンターへ戻っていった。


すぐに雷の後ろについたサーナイトが、考えの底の読めない笑みをこちらに向ける。

その後方にいるヘルガーが、あまり近づくなというように軽く唸る。

他の手持ちポケモンはボールにしまわれているが、雷の周りにいるポケモン達の間には常に張り詰めた空気が漂っていた。


隙を見せれば蹴落とされそうな、そんな感じがする。

雷自身も、弱いと思えばすぐに切り捨てる、そんな事をほのめかしていた。



ハッサムはそれらを即座に理解し、決心する。

此処での俺の存在価値は、強さだけだ。
強さを示さなければ、切り捨てられる。


強くなるしかない。

一切の感情は捨てて、強くなることだけに集中するしかない。


甘えも、弱音を吐くことも、此処では一切許されない。

辛い、苦しい、寂しい気持ちは全て押し殺して、ハッサムは雷たちの後に従った。





あれから、5年ほどが経った。


「ハッサム、オボンの実持っておいて。どうせ炎技きたらヘルガーに交代するから、オッカの実いらない」

『…あぁ、分かった』


今、ハッサムは手持ちメンバーの中でサーナイトと1、2を争う位置にいた。

力関係が変わった為、雷に多少近づいてもヘルガーは唸らなくなった。

ただ、近くにいるとサーナイトから笑顔で牽制されるので、なるべく近づきたくない。


道具を整理している雷と、その周りにいるサーナイトやヘルガーから少し離れた所にいると、厄介なことにいつもちょっかいをかけてくるポケモンがいた。


『なぁなぁ、剣の舞ってどうやるんだ?アタシにも教えてくれよ!!』

『…お前が覚える必要はないだろう…』

『だって、かっけーじゃん!アタシもアンタみたいに戦いたいんだよ、だからさ、教えてくれよ!!』

『うっ…つっつくな』

『確かにアタシはアンタみたいに強くないけどさ!
憧れるくらいいーじゃんか!』

最近仲間に入ったエアームドが、やけに絡んできて困る。

雷もサーナイトも少しは扱いに困っているようで、特に何も介入してこない。


ハッサムがそれっきり黙っていると、エアームドは雷に直談判しに行った。


『なぁ、アタシこんなチマチマした戦法もう嫌だ!!
攻撃に特化した型がいい!』

雷は取り付く島もなくはねのけた。

「まきびし→吹き飛ばしが一番確実。それに攻撃もそんなに高くないし、今さら変えるのは無理よ」

『アタシだって剣の舞覚えられる!それで上げりゃ問題ないだろ!』

雷はため息をついた。

「パーティー内に同じような戦略のポケモンは二匹もいらない」

『何だとー!アタシだってやってみたらハッサム越えられるかもしれないじゃねーか!』

「それはない」

エアームドが雷に近づいたので、ヘルガーがグルルルル…と低い声で唸る。

『…んだよ、やってみなきゃ分かんねーじゃん!』

不服そうにぼやきながら、ヘルガーの迫力に気圧されて引き下がる。

気分を害したエアームドは、ちょっくら飛び回ってくる!と言って去りぎわに羽根でバシッとハッサムの背を叩いていった。

『アンタ、ほんっと無口な!たまには何か喋ったらどうだ?』

別に八つ当たりな訳でもなく、カラカラ笑いながらどついただけだったらしいが、慣れていないハッサムは面食らった。

こういうあからさまに馴れ馴れしい接し方は対応に困る。


メンバーの方を見れば、「お前が何とかしろ」オーラがほぼ全員から発せられていた。

無理だと思って何も言わないでいると、サーナイトが笑顔で言った。


『マスター…メンバー、変えませんか?』

雷はしばらく考えてから、ため息と共に首を横に振った。

『あいつは空を飛ぶ要員でもあるし、今さら他に補充するのは面倒だからいい…それより』

雷が荷物の整理を終え、立ち上がってこちらへ歩いてきた。



『言い忘れてた。
ハッサム、さっきのバトルはいったい何?』

『麻痺したからって、いつもいつも何であんなに動けないの?
…焦ってるだけでしょう、何度言ったら分かるの、だから勝てて当然なバトルで負ける訳だ』

『……』

『何か言ったらどう?
…あんたがメンタル面が弱いってことはよく分かった。
次またこんなことがあったら、しばらくメンバー抜けてもらうから』

『…分かった…こんなことが無いよう、努力する』

『…分かった?…フン、どうだか…』


この話、もう何回したかしらね。

皮肉たっぷりに言って、エアームドが舞い戻ってきたのを確認する。

そうすると、今日はもう行くよ、と言って歩き出した。


いつにも増して無表情なハッサムを、何も知らないエアームドが不思議そうに眺めていた─────────。




その日の夜、ハッサムは雷や他のメンバーが寝静まった頃にポケモンセンターの外へ出た。

近くの森へ入り、野生ポケモンを倒したり、技の練習をする。


ここ最近、ほぼ毎夜のようにこんな事を行っている。

雷は確かに、俺を信頼してはいる。

ただ、それを「当然これだけ出来る筈なのに、どうして出来ないのか」という形でしか表さない。

心を許そうなんてしない。彼女が見ているのは、強さだけだ。

彼女が求めているのも強さだけなのだから。








自分は、強くならなければいけない。

たとえ多少身体が壊れようとも、強くならなければいけない。
強くならなければ……捨てられる。

俺の唯一の存在価値は、強さだから。


それに、こうして自分の身体を酷使し続けていれば何も考えないでいられる。

不安も、寂しさも、誰にも向けられない言い知れない怒りも、隠していなければならない感情全て、忘れていられる。







ふいに、身体が動かせなくなった。

後方から、くすくす笑う声が聞こえてくる。

『あら…こんな所に居たんですか?こんな夜中に、ご苦労様…』

聞き慣れた、それでいて未だ警戒してしまうその声はサーナイトのものだった。

サーナイトは音もなく近づいてくると、すっと前方に回り込んだ。

サイコキネシスで動きを止められていると気づくのにそうそう時間はかからなかった。

『…何のつもりだ…っ』

『怖いですね…私は、無理はいけないと教えに来てあげただけなのに…』

『違う、俺はただ…』

サーナイトが、すっと人差し指を立てる。

するとハッサムは口も動かせなくなった。


『私には全て分かっているんですよ?貴方の心なんて読む気はなくたって勝手に伝わってくるんですから。

辛いですよね…好きでもない主人の為に好きでもないバトルをやらされて…』

『…ッ』

『貴方が従いたいのは雷じゃありませんね、他に誰かの面影を探している…。
なのに、雷のもとから逃げ出す覚悟も無い……』


サーナイトの眼差しに、だんだんと哀れみ以外の感情が籠もってきた。

このサーナイトは、笑いながら怒っているのだ。

そんな中途半端な覚悟の奴がどうして自分と同列にいられるのかと言いたいのだ。


サーナイトは殺気と哀れみのないまぜになった目でハッサムを見て、呟く。






『可哀想に…』






その言葉を聞いた瞬間、背筋がスゥッと冷たくなった。

本来は同情として使われる言葉なのに、自分がやってきた事全てを否定されたような気がした。


すっと伸ばされたサーナイトの右手が、ハッサムの胸に当てられる。

凍りついたように動かなくなった身体の中で、心臓だけが唯一、早鐘のように鳴っていた。


ああ、混乱している胸中もこのサーナイトには手に取るように分かってしまっているのだろう。

全てが思い通りであることを愉しむように、サーナイトは口角を上げて微笑み、慈愛に満ちた女神のように優しい口調で語りかける。


『強くならなくて、いいんですよ。諦めてしまえば、ずぅっと楽になりますよ…?

だって、貴方は本当はそんなに強くないんですから…ね…?
フフ…ほら、今だって…私を相手にこんなに怯えてる……』


胸に当てられていた手が離れ、視界を手で遮られた。

…かと思うと、ハッサムは急に強烈な睡魔に襲われてその場にくずおれた。

催眠術、だ。


『無理はいけません…もう寝ましょうね…?強くならなきゃ、なんて忘れて…』


雷のそばに居るのは、私だけでいいんですから。



サーナイトがそう呟いたのが聞こえてすぐ、ハッサムは意識を手放した────────。






『なぁ、サーナイトと何かあったのか?』


あれから俺はサーナイトを避け、サーナイトは何事もなかったかのように振る舞っている。

妙に優しいのが逆に居心地が悪い。

ことあるごとに囁いてくる。

諦めていいんですよ?強くならなくていいんですよ?

貴方なんて、いなくたっていいんですよ?


バトルの時も視線を感じて、あの言葉が頭をよぎって、余計に集中出来なくなった。


もともと良くは無かったメンバー内の雰囲気が、トップ2匹のギクシャクした空気に触発されて、余計に悪くなっていく。

それを感じたのか、勘の鋭いエアームドが聞きに来た。

『……』

感情の籠もらない目を向けたまま何も言わないでいると、エアームドはせっつくように嘴で腕を挟み、ゆさゆさと揺すぶりにかかる。

『アンタ、何か最近疲れてないか?前にも増して無口になっちゃってさ…なぁ、何も出来ねーかもしれねぇけど、話だけでも聞かせてくれよ』

『お前に関係ないだろう…』

『ない事はないだろ!居づらいんだよこの雰囲気!』

『別に何もないさ…前からこんな感じだっただろう』

エアームドは嘴を離し、怒ったように一回だけつっついて飛んでいった。

『アンタ、いっつも何も話さねーんだな!アタシら仲間だろ!?まるで仲間だなんて思ってねーみたいだ!』


遠くで聞いていたサーナイトが、くすくす笑っているのが見えた。

確かに俺もそうかもしれないが、あのサーナイトにこそ言って欲しい言葉だった。

あいつはメンバーの中の誰も、仲間だなんて思っていない。敵だと思っている。

そうして、一番の敵である俺がだんだん転落していくのを、愉しみに見ているんだ───────。









1ヶ月ほど後、エアームドが手持ちメンバーからいなくなった。

外されたのではなく、

『アンタら全員おかしい!仲間って助け合うものじゃねぇのかよ!?こんな所、アタシの方から願い下げだ!』

と好きなだけ罵ってから勝手に野生になったのだった。

去って行く前に一度だけ、『一緒に出てくなら連れてくぜ!』と言われた。

何も言えないでいたら、またバシッと背中を叩かれた。

『相変わらずだな、根性無し!』

やはり言いたい放題にそう言い残して、エアームドは晴れた空を軽やかに飛んでいった。

彼女らしすぎて、むしろ眩しかったのを覚えている。



俺には、彼女のような生き方は出来ない。

こんな嫌な雰囲気を引き摺ったまま、感情を殺したまま、いつか捨てられるかもしれないとびくびくしながら、それでも強がって生きていくことしか出来ない。


あぁ、俺は…
何処から間違えたんだろうか?





視界の隅で、サーナイトが妖しく微笑んでいるのが見えた───────。









-Fin.-



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