臆病少女と仲間たち




シンオウ地方のとある町に、##NAME1##という名前の幼い女の子がいました。

その子はとても気弱で怖がりで、いつも誰かの後ろや物陰に隠れておどおどしていました。

##NAME1##は知らない人も怖がっていたし、ポケモンも怖がっていました。

でも、ポケモンに触ってみたいな、とか、ポケモンと仲良しになりたいな、と思ってはいました。

でも、近づいてみようとするけれど、やっぱり怖いです。

嫌われちゃうんじゃないか、噛まれたりしちゃうんじゃないかと思って、いつもすぐに逃げ出してしまいます。

小さいポケモンでもそうなるのですから、大きくて強そうなポケモンなら尚更です。
近づくことも出来ません。

他の子たちがポケモンと遊んでいるのを遠くから見ながら、なんで自分はこうなんだろう、といつも思っていました。

羨ましいけど、やっぱり近づくと怖いのです。


##NAME1##のお母さんは、ポケモンセンターで働いていました。

お母さんがポケモンについて色んな話をしてくれます、そして##NAME1##はそれを聞くのが好きでした。


だからポケモンについては結構よく知っていたのです。
けれど、やっぱり本物を前にすると怖いのです。



普通の日は、お母さんもお父さんも仕事に行ってしまうので、おばあちゃんだけが家に居てくれます。

でも、おばあちゃんは足が悪いので外で一緒に遊んだりできません。

ポケモンと遊べたら楽しいだろうな、と思うのですが、やっぱり無理でした。


ある日、##NAME1##はおばあちゃんにおつかいを頼まれて出かけました。

町からちょっとだけ離れた所にあるお店で、モーモーミルクを買ってくるおつかいです。

そのお店はカフェも兼ねていて、モーモーミルクを買い終わって店を出る時に、ウェイトレスのお姉さんから「えらいね」と頭を撫でてもらっちゃいました。

ちょっと嬉しかったけど、それより帰りが心配でした。

草むらを避けて歩いていくのですが、何処かでガサッと音がする度にビックリしてしまいます。



何処かで一際大きい音がしました。
ビクッとして耳を澄ましてみると、何処か遠くでポケモンバトルをしているようです。

##NAME1##は、遠くからポケモンを眺めるのはわりと好きでした。

が、ポケモンバトルを観るのは苦手でした。

ポケモンが傷つくのを見ていると何だか自分も痛いような気がしてきてしまうのです。


##NAME1##は早く帰ろうと思ってちょっと早足になりました。


ガサッ



また何処かで草むらが揺れる音がしました。

周りの草むらは##NAME1##から見れば丈が長く、どっちから音がしたのかよく分かりません。

##NAME1##は不安になって辺りを見回し、なるべく草むらから離れて歩きました。


ガサッガササッ


音がだんだん大きくなってきます。##NAME1##は足がすくんで動けなくなりました。




次の瞬間、斜め前方の草むらが大きく揺れて、何かが飛び出してきました。


「ひゃ…っ!」

『…っ!!』

勢いよく飛び出してきた何者かが##NAME1##とぶつかりそうになって、寸前で止まります。

##NAME1##が恐る恐る片目を開けると、ギリギリで止まったらしいストライクがズザッと後退るところでした。

ストライクはゼェゼェと荒い息をしていて、身体にはいくつもの傷があります。


驚いたのと怖いのと心配なのが混ざって、##NAME1##は混乱して声が出せなくなりました。



向こうの方から、またガサガサという音が聞こえます。

「逃げられたか…?」

人の声がしたので今度は人間とその手持ちのポケモンのようです。

するとストライクはハッとして、音がした方と、呆然としている##NAME1##の方を一瞥してから、さっきと違う草むらに入っていきました。


すぐ後に草むらから現れたのは(##NAME1##から見たら大人な)若いトレーナーと、そのポケモンらしきスコルピでした。

##NAME1##はスコルピを見てビクッとしましたが、さっきの余波でまだ足が固まっています。


「あっ、ねぇ、こっちにストライク来なかったかな?」

若いトレーナーが、腰を屈めて##NAME1##と目線を合わせながら聞きました。

##NAME1##は目をぱちくりさせ、一瞬の間に色んなことを考えました。

そうして…


「…あ、あっち!あっちに行きました…」

咄嗟に指差して答えました。

「そっか、ありがとう!いくぞ、スコルピ!」

トレーナーはニコッと笑って、ストライクが実際に行ったのと違う方向に走っていきます。


そう、##NAME1##は咄嗟に嘘を言ったのです。




##NAME1##はちょっぴり罪悪感に駆られました。

それから、どうしようどうしようとオロオロしながらその場を右往左往しました。


一回、そのまま帰ろうとしましたが、どうしても気になってまた引き返してきました。


大丈夫かな、あのストライク…。
だいぶ弱ってたみたいだけど…。


さっき一度こっちを見た時の鋭い目つきを思い起こすと、足がすくみます。

でも、このまま放って帰る気にはどうにもなれなかったのです。


だめだ、しっかりしなくちゃ。

いつも、こうやって迷って、結局何も出来ないんだから…。


##NAME1##はごくっと息を呑んで、そうっと草むらの中に踏み込みました。




よくよく考えれば##NAME1##はかなり危険なことをしていました。

ポケモンを連れていないのに草むらをかき分けて歩いていたのですから。




「…どこ…かなぁ」

ほとんど草にうずもれながらキョロキョロしていると、向こうの方からドサッと何か倒れるような音がしました。

##NAME1##はビックリしてしばらく動けなくなりましたが、ゆっくりゆっくり、足音を忍ばせてそちらへ歩いていきます。


カサ、

控えめに草をかき分けてみると、ふいに視界がちょっとだけ開けました。

そこは木の根元で、その周りに草の生えていない一角があったのです。


その木にぐったり寄りかかっていたストライクが、##NAME1##に気づいて目を見開き、次いで身体を起こしてこちらをギッと睨みました。

##NAME1##は慌てて草の陰に引っ込みます。

それから、再びそーっと顔を出しました。

ストライクはまだこちらを睨んでいます。

##NAME1##は怖くて泣きそうになりました。
だってストライクは##NAME1##よりも大きいし、こちらを威嚇して両手の鋭い鎌を構えているのです。


##NAME1##が涙目になったまま何も言わずに震え上がっているので、ストライクが少々掠れた声で問いました。

『…何を…しに来た…っ』

その声が辛そうだったので、怖さより心配の方が勝って、##NAME1##はようやく一言喋れました。

「…だ、だいじょうぶ…?」

ストライクはしばらく真意をはかりかねたように疑い深い目で##NAME1##を見ていましたが、害意は無いとみたのか少しだけ力を抜いて、ぶっきらぼうに答えました。

『…大丈夫に見えるのか、これが』

寄りかからないと立っていられないのか、ストライクは木に背を預けたまま再び座り込んでしまいました。

普通の傷だけじゃここまで弱らないような?

そう考えた##NAME1##は、さっきのトレーナーがスコルピを連れていたのを思い出しました。

スコルピは確か毒タイプも持っていたはずです。
このストライクも、もしかしてスコルピとバトルをして毒に侵されてしまっているのかもしれません。

だとしたら、急いで毒状態を治さないとマズいです。


とりあえず薬も何も持っていない今の自分には無理です。

持っているのはモーモーミルク三本くらい。
あんまり役に立ちそうにないです。

…となると、もう確実な手段はひとつぐらいしか…


「ま、待っててね、ちょっと誰か呼んで来r『…! 余計な事をするなッ!!』ひゃっ!?」

くるりと方向転換して、進もうとした瞬間に、足元の地面に衝撃が走って、その辺りの草が薙ぎ倒され、所々はバッサリ切れて丈が短くなっていました。

ビックリして振り向くと、ストライクが険しい目で##NAME1##を睨みながら、鎌をこっちに向けています。

さっきのは、##NAME1##を止めようとその場から「真空波」を放ったようでした。

技の威力を目の当たりにして、##NAME1##はまた怖くなりました。

ぶるぶる震えている##NAME1##に向かって、ストライクが苦しげに息をつきながら言います。

『頼むから、放っておいてくれ……騒がれては困る』

「で、でも…」

そのままじゃ大変、と言いかけた##NAME1##の方を一瞥してストライクはぴしゃりと言い放ちました。

『…俺は人間が嫌いだ。だから、お前の助けも受けない。…分かったら、何処かへ行ってくれ』


##NAME1##はそう言われて引き返すしかありませんでした。

何か怒られた後のような気分になって泣きたくなってしまいました。

ポケモンが怖いのにいきなりこんな場面に出くわして対処しようとしても、「はーどるが高すぎた」のかもしれません。

けれど、何かしようとせずにはいられなかったのです。

##NAME1##は、そのまま放っておくには優しすぎて、何か行動を起こすには臆病すぎたのです。

結果的には何も出来ていない、いつもと同じパターンです。


ただ、すごすご家に帰ってうだうだと色んなことを考えながら、たまに1人で涙目になりながら、いつまで経っても落ち着きませんでした。

このままじゃいつまで経っても明日に移行できないような、訳の分からない焦りがありました。


一時間くらいして、##NAME1##はそろーっと出かけようとしました。

「おや、##NAME1##、何処か遊びに行くんかい?」

ちょうど近くにいたらしいおばあちゃんに聞かれて、##NAME1##は飛び上がらんばかりにビックリしました。

「ちょ、ちょっとねっ」

「そろそろお茶にしようと思ってたんだけどねぇ…何かおやつと飲み物でも持っていくかい?」

##NAME1##はうろたえて視線を泳がせた末に、はっと思いついて答えました。

「あっ、じゃあモーモーミルク一本もってって良い?」

おばあちゃんは首を傾げましたが、頷いて持って来てくれました。

しかも瓶では危ないからと水筒に入れ換えてくれたようです。

「はいよ」

「ありがとうおばあちゃん!行ってきますー」

小さな肩掛けポシェットに牛乳を入れて走っていく孫娘を見送って、おばあちゃんは笑って呟きました。

「ジュースもあったのに…おかしな子だねぇ」




##NAME1##が走って行ったのは、お母さんが働いているポケモンセンターでした。


透明な自動ドアを通して中の様子をのぞいていたら、ちょうど休憩時間に入っていたようでお母さんが出て来ました。

お母さんは##NAME1##を見つけて目を丸くして、それから優しくニコッと笑いました。

##NAME1##はほっとして、大好きなお母さんにトコトコ駆け寄ります。


「どうしたの、##NAME1##?」

「…あのね…お母さん…」

「うん」

「毒を治す薬って、ある?あと、傷薬とか」

思いがけない質問にお母さんは目を瞬かせました。

ですが、だいたい状況は予想できます。

「何処かに傷ついたポケモンがいるのね?じゃあ、ちょうどいいわ、時間があるから私も一緒に…」

しかし##NAME1##はギクッとして、ぷるぷる首を横に振りました。


「ち、ちがうの」

お母さんは不思議そうに##NAME1##を見ます。

どう考えたって##NAME1##がそんな質問をするとしたら、何処かで怪我したポケモンを見つけて困ってる、という状況以外には思い当たりません。

しかも伊達に母親をやっている訳ではないので、我が子が必死で嘘をついているのが容易に分かります。

しかし##NAME1##は躍起になって首を振っています。

「ちがうの。内緒なの…約束なの!」

お母さんにも、だんだん何となく事情が呑み込めてきました。

お母さんは珍しく強情な娘に感心すると同時に苦笑して、ちょっと待ってて、と言うとポケモンセンターに入っていきました。


しばらくしてお母さんが布に包んで持ってきたのは、モモンの実とオボンの実でした。

「野生のポケモンだと、普通の道具とか薬は警戒するかしれないからね。これを持っていくといいわ。
モモンは毒を回復、オボンは体力を回復できるから」

何で分かったんだろう、とはいう所までは##NAME1##の考えは及びません。

ただ追及されなかったことに安心して、##NAME1##は木の実を受け取るとニコッと笑いました。

「ありがとうお母さん!!行ってくるね!」

「いってらっしゃい。気をつけてね」

走っていく後ろ姿を見送って、お母さんは##NAME1##がポケモンを怖がっていたのを思い出していました。

それでも傷ついたポケモンを助けようとするなんて。

「…ふふ、優しい子に育ってくれたようで嬉しいわ…」










##NAME1##は、急いでさっきの草むらの所まで来たものの、どうしようかと再びウロウロしていました。


怒られる。
今また行ったら絶対怒られる気がする…。

さっきみたいな事態になったら逃げ出さないでいられる自信が無いよ。

でも毒にかかってる状態ってことは、一刻も早く治さなきゃだし…。


…………。
うぅ…わたしの意気地なしー…!

これ以上迷ってても何にもならない!

##NAME1##はそう思って、勇気を振り絞って草むらに足を踏み入れました。




幸い、他の野生ポケモンは出て来ませんでした。

さっきの場所を見つけてそろっと覗いてみると、ストライクは同じ場所で、苦しそうに息をしながらぐったりしていました。

恐る恐る近づいていくと、彼はようやく##NAME1##の足音に気づいて薄目を開けました。

そうして、やっとのことで一言だけ言葉を発します。

『……何故……』

怒るだけの元気もないようでした。

##NAME1##は焦ると同時に、攻撃してくることは無いだろうとちょっとホッとしてもいる自分の卑怯さを内心で責めました。


離れていては何も出来ないので、そろそろと近寄っていきます。

近くまで来ると、ストライクがギクッと身を強張らせたのがわかりました。

「…ゴメンね…人、嫌いだよね……でも…」

正直、##NAME1##も逃げ出さないように精一杯です。

こんなに大きなポケモンにこんなに近寄ったことなんて、一度もありませんでした。

今までは、怖くて出来なかったのです。


「お願い、これ…食べて?そうすれば、治るから…」

震える手でモモンの実を取り出して、ストライクの口元に差し出しました。


『……』

ストライクは薄目を開けたまま、無言で、じっと##NAME1##の様子をうかがっていました。

そのまま、何十秒、いや何分が経過したでしょうか。

やっぱり拒まれるかと思って##NAME1##が冷や汗をかき始め、泣きそうになった頃に、彼は一度深く息をついた後、ようやくモモンの実を一口かじってくれました。

しばらくまだ疑い深く吟味していましたが、その後も少しずつ食べてくれています。

最後の一口はついでに手まで齧られるんじゃないかと心臓がバクバクしましたが、勿論そんなことはありませんでした。

どうやらモモンの実の効果があったようで、ストライクの様子を見ればさっきよりだいぶ楽になったようです。

##NAME1##はひとまずホッと胸を撫で下ろしました。

この流れに乗っておこうと思って、控えめに提言してみます。

「…オボンの実も、あるんだけど…」

『………』

返答なしです。


信じてもらうのって難しい…。


##NAME1##が涙目になっていると、遅れて、ためらい気味な声で返事が返ってきました。

『…すまない………少し休んだら食べる…』


##NAME1##は思いがけず謝られたのと了承してもらえたのに驚いて、「ここに置いておくよ」とオボンの実をそばに置きながら、ひとつ発見をしました。



───どうしていいか分からなくなってるのは、私だけじゃなかったんだ!



しかしそう発見したら、何だか余計に何を言ったら良いのか分からなくなってしまいました。

取り敢えず、すごく気まずいです。

そのまましばらく時間が過ぎて、やがてストライクが片手の鎌の先にサクッとオボンの実を刺して拾い上げ、ゆっくり食べ始めました。


ああ、普段はそうやって食べるんだ…。

じーっと見ていると、ストライクが居心地悪そうにチラッとこっちを見ました。

「あっ、ゴメン、注目しちゃって…」

『…いや……』

「(あ、今すごい反応に困ってるっぽい…)」


オボンの実を食べ終わって一息ついたストライクは、じっと##NAME1##の様子をうかがっていました。


『……聞いていいか』

「へ?あ、どうぞ」

『…お前は……どうして戻って来た…?あれ程震え上がっていたのに…』

いきなり難易度の高い質問きちゃった!!
##NAME1##はしばらく考えた末に答えます。

「…なんか、じっとしていられなかったの…。あ、私の勝手だから…気にしないで…」

##NAME1##はそう言っているが、ホントに小学校低学年かと思いたくなるほど控えめな回答です。


『……あとひとつ、気になっていることがある…』

「なに?」

『俺を追って来たトレーナーが違う方に行ったのは…』

##NAME1##はまるで悪い事でもバレたかのように縮こまって頷きました。

「あ、それは…私が全然違うトコ教えたから……」

ストライクはしばらく黙っていました。

恐らく、何と言ったら良いやら考えあぐねていたのでしょう。

やがて彼はぽつりと呟きました。


『……ありがとう』

##NAME1##はだんだんこのストライクが怖くなくなってきました。

最初は彼も警戒していたから余計に怖かったのでしょうが、
今も少し距離を置いてはいるものの、##NAME1##を突き放したり、拒んだりはしません。

言葉の端々で、##NAME1##を怖がらせないように、傷つけないように気遣ってくれています。



ただ、##NAME1##は今までこんな風にポケモンと接したことが無かったし、

彼だってきっと今までこんな風に人間と接したことは無い筈です。


だからどことなくギクシャクしているけれど、もしかして##NAME1##とストライクは、少し似ているのかもしれません。


ちょっとだけ気が楽になってきて、##NAME1##はひょいと水筒を取り出しました。


「喉渇いてない?」

『……少し。…渇いてはいる、けど…』

「?」

『生憎、俺にはその入れ物は掴めそうにない』

ストライクは自分の片手(鎌)を少し持ち上げてみせました。

確かに持てそうにありません。


そこで##NAME1##は、再びちょっと近寄ってみました。

「…じゃあ、モモンの実の時と同じ感じで?」

ストライクは反射的に身構えてしまいました。

##NAME1##も自分から近寄っておきながら、鋭い目に怯んでちょっとすくんでしまいました。

それからお互いにハッとして、気まずくなります。

しばらくしてストライクが呟きました。


『…何だか、俺とお前は…似ているな』

1人と1匹は、顔を見合せました。

それから、クスッと笑い合いました。

「そうだね。…ねぇ、ちょっと触ってもいい?」

『あぁ、別に…お前なら構わない…』













それから、##NAME1##は毎日様子を見に来るようになって。

ストライクが完全に回復した後も、毎日会いに来るようになって。


1人と1匹の間柄に、不思議な関係が生じました。


パートナーという訳ではないく、ましてや主従関係などではなく。


強いて言えば友達のような関係だけれど、それよりも少しギクシャクしていて。


ただ、それでも何となくお互いに居心地が良いというか、ホッとするというか。

例えば、こんな時もありました。



ある日、##NAME1##がいつものようにそーっと草むらをかき分けてキョロキョロしながらストライクを探していると──────


ガサッ

「あ、」

すぐ後ろで物音がしたので振り向くと、そこにいたのはビックリした顔をしている野生のポニータ。

ポニータは一旦ちょっと後退りましたが、##NAME1##がオロオロしたまま何もしてこないので首を傾げ、興味を持ったように近づいてきました。

「わ、ちょ…」

いまだポケモン苦手を克服出来ていない##NAME1##は足がすくんで動けず、冷や汗をかき始めます。


…と、そこへ。


バサッと近くの草が薙ぎ払われ、気がついた時には視界が黄緑色。

何処からか現れたストライクが、##NAME1##を庇って間に入ってくれたのでした。

ストライクに威嚇され、ポニータは驚いて走って逃げていきます。

しばらくして、ストライクが無言でこちらを振り返り、##NAME1##はやっと我に帰りました。

「あ、ありがとう…」

ストライクは何か言おうとして、言葉に詰まったようでした。

草むらを抜けて開けた場所に行き、##NAME1##も慌ててついてきたのを確認すると、難しい表情をして呟きます。

『どう考えても、ポニータより俺の方が怖いだろうに……どうして俺は平気なんだ?』

##NAME1##は自分でも考えもみなかったことを聞かれてあたふたしました。

「え…どうしてだろう…?」

『ちょっと待て、それを俺に聞くのか?;』

「だって…何でだか分からないけど、あなたといるとホッとするの。どうしてかな?」

『……だから、俺に聞かれても…』

「うーん…逆にひとつ聞いてもいい?」

『…?』

「あなたは、人間嫌いなんだよね?」

『…ああ、出来ればあまり関わりたくはない』

「…あ、もしかして私欝陶しい…?」

##NAME1##が恐る恐る訊ねると、彼は慌てて首を横に振りました。

『違う…お前なら構わない』

「良かった、ありがとう…でも、なんで?」

するとストライクも、初めて考えたというように驚いた顔をしました。

しばらく考え込んでから、答えます。

『…お前は優しい。疑うのも馬鹿馬鹿しくなるくらいに』

「…//」

『それに、争いを好まない。……俺と同じように』

「…うん、そうかも。…私があなたを平気なのも、同じ理由なのかもしれない…あと」

『あと?』

##NAME1##はちょっと笑って下を向きました。

「…私、ちょっと寂しかったのかな……何となく。それで、あなたが優しいから、甘えたくなっちゃったのかも…」

顔を上げて相手の方を見ると、ストライクも何だか暗い表情になっていました。

またやってしまった、##NAME1##はそう思いました。


最初はちょっと怖かったけど、彼は本当はとても優しくて。

優しいから、私はつい人前では言わない弱音を吐いてしまって。

私が暗いことを言うと、私の心中を気遣って、共感してくれるから、私は彼まで暗くさせてしまう。


##NAME1##はそう考えて、無理に笑ってみせました。


「な、何でもないの。さっきのは忘れてね!それより…」

話題を変えようとして、はて何を言ったらいいものかと考え込んでいた##NAME1##は、ふと全く関係無いことがしたくなりました。


「それより…ちょっと触ってもいい?」

ストライクも余りに予想外すぎる質問に驚かされたようでした。

赤くなって、困ったように、ふっと目を逸らします。

『……いちいち断られると逆に照れる…』

「ご、ごめん」

『…いや、いい。触れられるのは、割りと好きだから…』

「え、人間嫌いなのに?」

『…お前限定で…な』

「ふふっ」

『…どうした…?』

「何か、照れちゃう…」

『…言うな。俺も照れる…//』







***






ただ、そんな日々が1ヶ月ほど過ぎたところで、とある事をきっかけに変化が起きました。


来月、##NAME1##は父の仕事の都合で遠い所へ引っ越さなくてはならないということが分かったのです。


それを話してからは、1人と1匹が一緒に過ごす時間は余計にギクシャクしがちになりました。


お互い、何か大切なことを言わなきゃならない事があるような気がして、でも言ってもどうにもならないような気がして。


ついに最後の日になって、最後まで##NAME1##は何も言えませんでした。


ただ、最後なので思い切ってぎゅっとストライクに抱きついて、それで別れました。

ストライクはやっぱり何か言葉に詰まったような、ぎこちない様子で。

結局、別れの言葉以外、お互いに何も言いませんでした。









あの時、「一緒に来て」と言っていたら、どうなっていたんだろう。

例え断られてしまったとしても、あのぼんやりした寂しさから抜け出せたのかな。


今でも、私はたまにそう考える。





あれからもう、数年が経った。

私はもう、ポケモンはすっかり怖くなくなった。


「ねぇ##NAME1##ちゃん、##NAME1##ちゃんはポケモン好きなのに、何で1匹も連れてないの?」

ポケモンを可愛がっている友達が、不思議そうに聞いてくる。

私はそう言われるといつも少しだけ困って、それから微笑んで答える。

「ううん…私は、いいの。見てるだけで充分…」




今でも整理のつかない、この気持ち。
自分でもいつも戸惑ってる。

あの時から、私は何も変わってない。


少しだけ大きくなったけど、今もあのまま。

勇気が無くて前に踏み出せなかった、あの時の私のまま…。


前を向いている時はいつも微笑んでいるけれど、下を向くとすぐ暗い気持ちになってしまう。

何がいけなくてこんな気分になっているのか、自分でも分からない。

けれど、正体の分からないこの寂しさはいつまでも消えてくれなくて…




でも、短い間だったけれどあの出会いは確かに私を変えてくれた。

人もポケモンも怖がってばかりいた私に、怖いコトばかりじゃないと教えてくれた。

だから私は今こうして、微笑んでいられるの。

あの時、誰かと一緒にいられることがあんなに幸せで、安心することなんだって分かったから。


ありがとう。

大事なことを教えてくれた優しい君に、今私が心から伝えたい、感謝の言葉です。



ただ、そんな君のそばにいられないのは…ちょっと寂しいな──────。









Fin...






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