わがままDays





ちゅん、ちゅんちゅん




「………」




トンットン、トテトテトテ……




「……………」




##NAME1##はベッドの上で上半身だけ起こし、寝ぼけ眼で部屋の天井をぼんやり見つめていた。



最近、鳥の声と足音がやけにうるさいような……



……まさか。いや、まさかそんな…ね。



今日は土曜だし急ぐ必要もないけど、目も覚めちゃったし、窓でも開けるか……



そう思ってカーテンを開け、窓を開けて網戸にしておく。

すると、再び鳥が屋根の上を歩くトテトテいう音が聞こえた。


布団を畳もうとベッドに向かっていると、ふと何やら視線を感じた。

窓の方を振り向くと、窓の向こう側に張り出した枠の上に見慣れた黄色いふわふわの鳥がちょこんと座って、じっとこっちを見ている。


チルットは##NAME1##の視線に気づくと、嬉しそうに冠羽をぴょこぴょこ動かした後に網戸をガタガタ揺らした。


『今日はいつもより早いな! 休日だからあと2時間くらいは寝ているかと思ったぞ!!』


網戸を開けて招き入れると、チルットはそのまま部屋の中を飛び回り、しばらくして机の上にのっかって落ち着いた。


「早く起きるつもりはなかったんだけど、物音で目が覚めちゃってね……」


机の前の椅子に座り、頬杖をついてあくびをしながらチルットのまんまるい姿をじとっと見つめる。


「ねぇ、もしかして最近毎朝うちの屋根の上にいる?」


『はっはっは、よくわかったな!!』


悪びれもせずにチルットは答える。


そして、呆れている##NAME1##を尻目に、机の上で左右に行ったり来たりしながら話を続けた。


『いやぁ、実は一昨日、ボクが色違いチルットだということが、偶然町を訪れたトレーナーにバレてしまったんだ』


「色違い?」


##NAME1##が首を傾げると、こちらに向き直ったチルットが同じようにかくりと首を傾げた。

いや、正しくは「体ごと傾けた」と言うべきか。


『なんだ、知らなかったのか?
普通のチルットは体が空色なんだが、ごく稀にボクみたいな色のがいるんだ。
すっごく珍しいんだぞ!!
どうだ、すごいだろ!』


そういえばチルットについて調べてみた時、色が違うなとは思ったことはある。


が、地域で色が違うタイプなのかなと思っていてそれ以上調べはしなかったんだった。


チルットは胸をはってみせたが、しばらくして冠羽がへたりと下がった。


『でも、色が特別だからという理由だけで追っかけられるのはイヤだな。

ボクのスペシャルなところは色だけじゃないんだぞ!!

ボクはそう思った。
……そこでだ!!』



そこで何やらチルットはズイッと近づいてきて、左腕で頬杖をつき右腕を机に投げ出している##NAME1##を見上げ、その右腕にのっかった。


『ボクは生まれた場所を離れ、トレーナーに見つからない場所を目指して旅に出た。

そしてたどり着いたのがココだ!
ジムも近くにない、珍しいポケモンが近くにいるわけでもない、森や山に囲まれていて人が訪れにくい!

ついでに、近くにチルットが住んでないから色が違うことも気づかれない。

いや、正直もう何人かには気づかれてるが、皆のほほんとしてて「あら珍しいわね~」くらいで済んでいるぞ』


チルットは腕から降りると、今度は本棚の上へと飛んでいった。


もったいぶってチュンチュンさえずってから、チラチラと##NAME1##の方を見てわざとらしくため息をつく。


『でもな~、トレーナーに色違いだって気づかれちゃったからな~…。
まだ捜してるかもしれないしなー』


##NAME1##にもだんだん、チルットが何を考えているのか見当がついてきた。


『安全な住み処があれば問題ないんだけどなー?』


「……チルット」


『ん?なんだ?』


呼ぶと、待ってましたとばかりに机の上に舞い戻ってわくわくしながら見つめてくる。


なんとなくチルットの期待通りに答えるのが癪になって、答えの代わりに近くにあったクッキーを細かくして、ひとかけらチルットの口に押し込む。


『もごっ!…ちがーう!
おいしいけど違うぞ!!』


チルットはクッキーをもぐもぐ食べながら、ぷんすか怒っている。


『まったく、この「つんでれ」め!
他に何か言うことあるだろ!!』


クッキーを食べ終わると、チルットは頭の回りをパタパタ飛びながら嘴でつっついてきた。


相変わらず攻撃力は無くてひたすらくすぐったい。


それでいて当人は本気で攻撃しているつもりなのが可笑しくて、##NAME1##は毒気を抜かれ、笑ってしまった。


「わかった、わかった!
言うよ、言うからつっつくのやめて!」


『さ、最初からそう言えばいいものを……。
無駄に疲れたじゃないか!』


飛び回りながらつっつくのは結構疲れる仕事だったらしい。

チルットは再び##NAME1##の右腕にとまって、ゼェゼェ息を切らしながら##NAME1##をじっと見上げた。


そのふわふわの翼を撫でながら、そっと呟く。


「うちにおいで、チルット」


しかし、何が不満なのかチルットは頬をむくれさせる。


『本当にそれだけか?
もっと何かボクに言うことがあるんじゃないのか?』


「へ?」


『遠慮はいらないぞ!
ボクは心が広~いからな!!』


バタバタと忙しなく翼をはばたかせて胸をはった後、チルットは再び##NAME1##を見つめた。


##NAME1##が何も言わないでいると、徐々に体を傾かせ、『?』と言外に示してくる。

悔しいほどに可愛い。



遠慮するなということは、もっと踏み込んだお願いをしろということだろうか。

うーん………



「私のポケモンになってくれる?」


『ほぅほぅ……もう一声だな!!』


「何なの、その『もう一声』って」


『ちゃんと理由まで言ってくれないとボクは揺らがないぞ!』



こいつ……私に全部白状させる気だ!


『さぁ、さぁさぁ!
どこなんだ?
##NAME1##はボクのどんなところが好きで傍にいてほしいんだ~?

あっ、分かってると思うけど色のこと以外な!』


つぶらな瞳をキラキラ輝かせて、チルットがズイズイ迫ってくる。


思わず身を引いて頬杖をついていた左腕から顔を離すと、チルットはその左手人差指にとまって##NAME1##の顔を翼でぱふぱふ叩いてきた。


『恥ずかしがらなくていいぞ!後で思い出してニヤニヤしたりしないから!!』


絶対する。


##NAME1##はそう確信した。


『どうした、いっぱい思いつきすぎて絞れないのか?
もう、仕方ないな~、ボクが大好きなクセして##NAME1##は本当に素直じゃないんだか……らッ!?』



ぼふっ



ハイテンションで喋り続けるチルットに頭から帽子を被せて黙らせることに成功し、チルットがもがもがしている間に、##NAME1##は一気にまくし立てた。



「ふかふかな所と、手触りがいい所と、目と嘴が小さくて可愛い所と、意外と足が器用な所と、丸い所と、鳴き声と……えーっと とにかく可愛いところっ!!」


『わぁーい!!
ほーら、##NAME1##はこんなにボクのことが大好き……って!!』


帽子の中のチルットは単純に喜びかけて、ハッと我にかえった。


『ボクの素晴らしい性格について一言も触れられてないじゃないか!!
ねぇ##NAME1##、そこはどうなんだ!
何故なにも言わない!?
ねぇってばぁ!!』



本当はね、こういう性格も可愛い。


というより、こういう性格だからこそ可愛いと思ってるんだけど。


それを言っちゃったら、ちょっと悔しいから。







それだけは言ってあげない









『もう頭にきた……クッキー全部食べてやる!』

「別にいいよ」

『えっ』

「チルットの為に買ってきたやつだし
(それに一枚でお腹いっぱいになるだろうし)」


『わーい!
ボク##NAME1##大好きー!!』

「(ちょろい……)」
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