わがままDays

暇だから散歩に出てみたら、またしても黄色い鳥に遭遇しました。





しばらく肩に乗ってピーチクパーチク喋っていたチルットは、自分と同じ色の花畑があるのを見つけて大はしゃぎで飛び立ち、花畑に突っ込んでいった。


##NAME1##はというと、特にやることもないので花畑の近くの草の上に座って帽子をかぶり直し、ぼんやりとその様子を眺めている。


「(それにしてもホントよく会うなぁ…)」


よっぽどこのチルットと気が合うのか、それともチルットが忙しなくウロウロしているからなのか、最近は出かける度に行き会っている。


そんなこんなでよく肩に乗せて歩いているものだから、この前など友達から「あれ?今日はチルットお留守番なの?」と聞かれた。

お留守番以前にあれは野生のポケモンだと話したらものすごく驚かれた。

自分でもそりゃ勘違いするよねとは思ったが、こうやって外に出る度にチルットが肩に乗っかったり体当たりしてきたりして、自分も何だかんだいってチルットについていったりしているのを考えると、そのうちいつの間にか家まで一緒に帰りついているのではないかとさえ思えてくる。


それはそれで楽しそう……ちょっと後で本人(?)にも提案してみよっかな。


穏やかな日差しを浴びながらほわーっと考え込んでいたら、その平和な想像は、突如として響き渡った悲鳴によってかき消された。


『えっ!? ちょっ… うわぁぁぁぁぁぁあ!!』


「!?」


驚いてチルットの姿を探したが、何故か見当たらない。

##NAME1##がごくっと息を呑むのと同時に、がさっと花畑の一部が動いた。


「チルット?そこにいるの?」


ホッとして声をかけたが、次の瞬間 真顔に戻った。


なんだか、チルットよりも…ずっと大きい何かが花畑に潜んでいるような…?


ザザッ


「チルッ……トじゃない!!」


花畑の中をごそごそと移動し、端から出てきたものを見て##NAME1##は目を見開いた。


##NAME1##が発した大声に反応して、そのポケモンがくるりとこちらを振り返る。


「と、思ったらチルット咥えてたーっ!!!」


こちらを振り返ってあからさまに「何だコイツ」と言いたげな顔をしているのは美しいクリーム色の毛並をもつ大きな猫のようなポケモンで、口にはしっかりと黄色い鳥…チルットを咥えていた。


だらだらと冷や汗をかきながら、その一瞬で色々なことを考えた。

どうしよう、あのポケモンを何とかして捕まえて、離させようか?
いやでも、迂闊に行動に出たら全力で逃げられておしまいかもしれない。
大きいし、強そうだし、素早そうだし、私では絶対にかなわない。


じゃあ、どうしよう?

そこまで考えたとき、その猫のようなポケモンが、別に警戒するような様子も見せずにただ単にこちらの行動を待っているように見えることに気がついた。


…これはもしかしたら、交渉が可能かもしれない!


「あ、あのその、突然ごめんね?
一応、そのチルット…私の友達のようなものなの!
せっかく捕まえたところ悪いけど、離してやってくれないかな~?」


そのポケモンからはどことなく気品が漂い、気難しそうなオーラが感じられて、機嫌を損ねたら一貫の終わりだと思ってなるべく柔らかい調子で、恐る恐る問いかけ、「お願い!」と両手を合わせて頼み込む。


そのポケモンは怒るでも逃げるでもなく、ただその鋭い目でじっと##NAME1##を見つめていた。


「…………ダメ?」


あまりにも間が空くので、マズったかと思って小声で付け加えたとき、何やらポスッと何かが地面に落ちる音が耳に届いた。


顔を上げると、そのポケモンは「これでいいのか」と言いたげな表情をしてその場で##NAME1##の方を見ていて、その足元にはチルットがそのまま地面に転がっていた。


「チルット!!」


##NAME1##が呼ぶと、どうやら恐怖の余り気絶していたらしいチルットはビクッと反応して勢いよく起き上がった。

そしてしばらくキョロキョロしたあとに頭上を見上げ、まだ天敵が近くにいたことにようやく気付いて再び悲鳴をあげた。


『ひぇえええええ!! ##NAME1##っ、##NAME1##―ッ!』


すぐさま飛び上がって##NAME1##の方へすっ飛んできて、肩の上に避難してぶるぶる震えだす。


『あわわわわわ…死ぬかと思った…』


「私だって心臓止まるかと思ったよ…。
でも、あの子がちゃんと話聞いて離してくれたから助かったんだよ?」


『えぇぇええ! 嘘だろ? どう考えても本気で狩ろうとしてたぞ!?』


揃って例のポケモンの方を向くと、いつの間にかそのポケモンは少し離れた木陰にゆったり寝そべってあちこち毛づくろいしていた。


「(…マイペースだなぁ…)」


しばらくすると、今度は木の幹でバリバリと爪とぎをし始める。


『はわわわ……あんなのがいたらボクは、ボクはもう恐ろしくておちおち地上に舞い降りられないじゃないか……っ』


そもそも今までが呑気すぎたのではないかと思わなくもないが、よく考えると今まで何故捕まらなかったのかと疑問になってきた。


「ねぇ、あのポケモンってこの辺りじゃ見たことないよね?」


『そそそそうだぞ! 見かけてたらボクだって、ちゃんと気を付けてる!!』


小声でひそひそと話していたのだが、どうやら丸聞こえだったらしく、そのポケモンは爪とぎをやめて向き直る。


『私は、ペルシアンという種類のポケモンだ。
この近くのブリーダーに飼われていて、今日はたまたま抜け出してここまで来ていた』


落ち着いた気品ある声でいきなり答えられて、##NAME1##とチルットは飛び上がるほど驚いた。


『………』


ガタガタ震えて黙り込んでいるチルットに代わって、##NAME1##が会話することになった。


「抜け出してきたって…大丈夫なの!?」


『どうということはない……気分転換しに来ているだけだ。
主人もとっくに感づいているだろうし、夕方までに戻っていれば何の問題もない』


「そ、そうなの…」


『週に一回くらいは抜け出しているからな…。
勝手に散歩しているようなものだ。
ここまで足を伸ばすことは少ないから、今まで見かけなかったのだろう』


前足の毛づくろいをしながら、ひどく落ち着いた口調で答える様子を見ていると、
確かにコレは何の心配も無いだろうなと思えてくる。


「随分しっかりしてるね……。
ホント、この子とは大違い… あっ、そうだ、言い忘れてた!
チルットのこと離してくれて、本当にありがとう!!」


頭を下げると、ペルシアンは目を細めてこちらを見、気怠げな声で答える。


『そいつが飛び回っていたから、つい捕まえてみたくなっただけだ。
腹は減っていないからな……もともと、すぐ放すつもりだった』


『(おい##NAME1##! 何を感謝してるんだ、ボクは死ぬほど怖い思いをさせられたんだぞ!
むしろ向こうが謝るべきところだろ!!)』


##NAME1##の肩にいれば安全だと思ってだんだん気が大きくなってきたのか、チルットがこそこそと耳打ちしてくる。



『…おい、鳥』


ペルシアンの耳には無論、はっきりと聞こえているらしい。

冷やかな声でたしなめられ、チルットは震え上がって裏返った声で答えた。


『えッ、ボク!? ぼ、ボクは何も言ってマセンよっ!!』





『……フン』





その時の、余裕たっぷりに構え、あからさまに馬鹿にした表情をたたえて小さく鼻で笑ったペルシアンの様子はきっとずっと忘れられないだろう。


ここまで何の言葉もなしに態度で感情を表せるものなのだと、##NAME1##は感動さえ覚えた。



「お前など私からすれば取るに足りないものだ」と、「いくら騒ごうが本当にどうでもいいから静かにしていろ」、と、その態度ではっきり伝わってきた。


そして、それが余りにも堂々として、姿も声も気品に溢れているものだから、普通なら少なからず腹が立つところなのだが、それよりも先に「美しい」と思ってしまう。






―― 一方、チルットはというと、今度は悔しさでプルプル震えていた。


『~~っ、うわあぁ、##NAME1##―ッ!!』


ペルシアンに対しては怖くてそれ以上何も言えなかったらしく、##NAME1##の肩を翼でぺしぺし叩いてどうにかしろと訴えてくる。


「諦めな、チルット……あんたの完敗だよ…」


『だって、だってー!!』


さらに、鬱陶しそうな声音でペルシアンが追い打ちをかけた。


『心配しなくとも、こんな煩い奴はもう二度と捕まえたくない。
……だから、しばらく黙ってろ』


『わーーーん、あんまりだーーーー!!』


『黙れと言ったのが聞こえなかったのか』


『…はい』


これ以上 苛立たせたらまた捕まえられそうだと察し、チルットはようやく静かになった。

そして、もぞもぞと落ち着きなく肩の上を歩き回った末、##NAME1##の耳元でこそこそと囁く。


『こ、こんなおっかない奴の近くになんていられるワケない!
ボクはしばらく遠くへ行ってるぞ! ##NAME1##も早く逃げるんだぞ!!
ま、間違っても仲良くなるなよ!? あとでまた一緒にいたりしたら絶交だからなー!!』


そう言うなり、大慌てでばたばた飛んで行ってしまった。


呆れて見送っていると、案の定これも聞こえていたらしく、木陰にいるペルシアンが不機嫌そうな低い声で呟いた。


『最後まで失礼な鳥だ……』


自分も立ち去ろうかどうか迷ったが、ペルシアンが興味なさそうな様子をしつつも横目でこちらの様子を窺っていることに気づき、敢えてそろりと近寄っていってみる。


ぴく、と耳が動いたが、逃げるでもなくその場に寝そべったままでいるのを確認し、怒る気配は無いと判断してゆっくり近づき、最終的には隣に座ることに成功した。


『……あいつが戻ってきたら絶交されるぞ』


「ん? 大丈夫、何回かケンカしたことあるけど、次の日には元通りだったから」


笑って答えると、ペルシアンは組んだ前足の上に顎を乗せて、眠たそうにゆっくり瞬きをし、様子を窺うようにじっと##NAME1##の方を見つめてくる。


神秘的な赤い瞳も、しなやかな体のラインも、なめらかな毛並も、何もかもが美しく気品に溢れていて、##NAME1##はさっきからある衝動が出てきてうずうずしていた。


ああっ、でも、そんなこと言ったら今度こそホントに怒られちゃうかも!


『………何が言いたい』


思いっきり顔に出てしまっていたようで、ペルシアンが起き上がって、ちょっと呆れたような声で問いかけてきた。

##NAME1##は、勇気を出して白状することにした。


「あのー…、ちょーっとだけ、触ってもいい…?」


『…………』


再びの、長い長い沈黙。


この、無言で見つめてくる時間がものすごくスリリングで、冷や汗をかかずにはいられない。

鋭く赤い瞳で品定めするようにじっと見据えられていると、こちらの心を全て見透かされているように思えてくる。



…いや、でも今見透かされてても、「触りたい!」しか思ってないから別にいいか…。



しばらくして、ようやく短い返事が返ってきた。



『…別に、構わない』


「ホント!?」


『………』


それには答えず、ペルシアンはふいっと違う方を向いて黙ってしまった。



もしかして、ちょっと照れているのだろうか。




##NAME1##はもう少しだけペルシアンの側に寄ると、そーっと手を伸ばして彼の背中に触れた。

そのまま背中のラインに沿って撫でていくと、その毛並みは思っていた以上になめらかで心地よく、そして彼の体は、思っていたよりも温かくて柔らかかった。

柔らかくしなやかで、それでいてところどころ感じる筋肉は強くたくましい。


最初はおっかなびっくり触っていたのだが、そのうち自然と頬が緩み、緊張などどこかへ飛んで行ってしまって、にへらーっと幸せな笑みを浮かべてペルシアンの背中や頭を撫でていた。


違う方を向いていたペルシアンはしばらくしてちらっとこっちを向き、##NAME1##が気づいていないことを確認すると、再びじっと様子を観察し始める。



そのまま1分ほどして、ようやく気付いた##NAME1##と目が合うと、ペルシアンはすぐにまたふいっと向こうを向いて、何事もなかったかのように、組んだ前足の上に顎を乗せてくつろぐ姿勢をとる。


その後、ペルシアンはしばらく落ち着かなさそうに時折身動きしていたが、##NAME1##も彼の尻尾の動きで、だんだん撫でていいところと触ってほしくないところが分かるようになってきて……


さらに数分経ってお互いにすっかり落ち着いた頃、それは起こった。



「(…ん?)」



ペルシアンの呼吸に合わせて穏やかに体が上下しているのとは別に、かすかに他の振動が手に伝わってきたような気がした、その直後のことであった。






   ゴロゴロゴロゴロ……








        ゴロゴロゴロ……ゴ、







「…………」



『…………!!』



##NAME1##が驚いて手を止めたのと同時に、ペルシアン自身が事態に気付いて我に返ってガバッと飛び起きる。


「い、今のは…!」



さっきのはもしかして、猫好きにとっては至上の喜びだという、あの…!!
 


『……忘れろ』

 
「無理そう!!」


初めて聞く慌てた声音で言われて即答すると、ペルシアンはものすごく困った表情をした。




正直、とても可愛い。




『無理じゃない。
何が何でも忘れろ……いいな!』



しばらく前までならすくみ上っただろうが、今では低い声で凄まれても、もう可愛くしか見えない。


『…はぁ…私はもう行く……。
いいか、さっきのことは誰にも言うなよ』


これ以上言い合いをしても手ごたえが無さそうだと感じたのか、ペルシアンはくるりと背を向けて去っていってしまった。



その背が花畑に隠れて見えなくなるまで見送ってから、##NAME1##はぽつりと呟く。








「なにあれかわいい…!」







(わたし、自分のこと犬派だと思ってたのに今ちょっと揺らいでる…!)

(うぅ…もっと、あのゴロゴロっていうの聴きたかったよー!!)
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