わがままDays




図書館からの帰り道。

いきなり背後から飛んできた黄色い鳥に襲撃されました。





「いたい!
えっ、なになに、何が起こったの!?」


後頭部にドーンと何かがぶつかってきた衝撃でよろけて、すんでのところで踏みとどまって立ち止まると、今度は肩に何かが乗っかってきた。


『ボクだ!!』


「その声はいつかのチルット!」

横を向くと、チルットの羽毛にもふっと顔を突っ込むような形になってしまった。
もごもごしながら、何故かドヤッとしているチルットに問いかける。


「で、どうしていきなり後頭部に体当たりしてきたの?」


『肩にとまろうと思ったのに、おまえが急に動くから頭に思いっきりぶつかってしまった!』


もうちょっとゆっくり歩け!とチルットは##NAME1##の左肩の上でぷんぷん怒っているが、普通にぼんやり歩いていたら何の前置きもなく後頭部に体当たりされたこっちの身にもなってほしい。


「ちょっと、肩の上で足踏みしないで…くすぐったい!」


『だったら揺らすな!』


「無茶言わないでよ、歩いてるんだから揺れないわけないでしょ。
ちょっと、動かないで! 羽があたってくすぐったい!」


『むむむ…、ちょっとぐらい我慢しないか!』


しばらく言い合いしながら歩いているうちに頬をくすぐる綿のような翼と、肩をつかむ小さな足の感触にも慣れてきた。

いつまで経ってもチルットが飛び立つ気配がないので、##NAME1##は不思議になって聞いてみることにする。


「いつまで乗ってるの?」


『おまえの家までだ!!』

当然のことのようにきっぱり答えたチルットの方を向く。
チルットも『ん?』とこっちを向いた。


「なんで?」


『ボクが行ってみたいからだ!!
さぁ早く進むといい』


##NAME1##のことを乗り物か何かだと思っているのか、片翼で前方を指し示して先を促す。


「(たぶん暇なんだろうな…)」


特に見られて困るものがあるわけでもなし、別にいいかと思って言われたとおりに出発進行するとチルットは満足げに肩の上で揺られていた―――



*************



『次はあれを取ってくれ』


「はい、どうぞー」


『ふーむ…いや、やっぱり違う。さっきのをもう一回だ!』


「はいはい、こっちね」



結局、肩に乗っかったまま##NAME1##の部屋まで入って来たチルットは部屋の中にいっぱい置いてある帽子を見て大はしゃぎしていた。


帽子をかぶれるような大きさでもないのに、どうして他の帽子に興味を示すのかと思っていたら、チルットは##NAME1##に取ってもらった帽子をひっくり返して、片っ端から入り心地を確かめ始めた。

意味が分からないが、可愛いので許そうと思う。


『これが一番ちょうどいいかもしれないな。
うん、色もボク好みだし…』


真剣にブツブツ言っているチルットの方を見てみれば、確かにパステルイエローのつばが広い帽子の中にジャストフィットしていた。


つい手を伸ばして頭を撫でる。


『なにをする!
ボクはいま真剣に帽子を選んで……むむ…そこじゃない、こっちだ!』


怒ったかと思いきや、自分からぐりぐりとすり寄ってくる。

そうして、押しつけられたところを撫でていると気持ちよさそうに目を閉じてその場で落ち着いてしまった。



その様子があまりにも可愛くて、しばらく口元を緩めながら無言で撫でまわしていた。


数十秒後、ぽろっと呟く。


「あー、かわいい…」


『ふふーん、そうだ、かわいいだろー!』


チルットは調子に乗って、帽子から出した翼をパタパタさせて誇らしげに胸を張る。


「うん、すーっごくかわいい」


『もーっと褒めてくれてかまわないぞー!』


今度は帽子から出てきて##NAME1##の膝にのぼってきたチルットを、何の気なしに両手の平で包み込んで、ひょいっと持ち上げる。


『なっ!? な、なんだなんだ?』


それまで警戒心のかけらも無かったチルットもさすがに持ち上げられて驚いたようで、翼と足をじたばたさせる。


その様子を見てちょっとイタズラしてみたくなり、##NAME1##はわずかに背を屈めて、あわあわしているチルットに顔を近づけ、ちゅっと音をたてて額に口づけた。



「ほんと、こーんなことしたくなっちゃうくらい可愛い」



にこっと笑って顔を離し、チルットを膝の上におろす。


「…あれ?どうしたの?」


まるでぬいぐるみのように無反応になっているチルットが心配になり、人差し指でつっつくと、そのまま横にコロンと転げてしまった。
これは本格的におかしい。


本気で心配になってきたころ、チルットはハッと我に返って起き上がりこぼしの如くコロンと元に戻り、次いでわなわな震えだした。


「大丈夫?」


『……だ、だ、大丈夫! そう、大丈夫だ! もう大丈夫だからボクはそろそろ行く!』


膝から下りて、右へ左へ行ったり来たりしながら、わけのわからないことを早口で口走ったかと思うと、チルットは大きく翼をはばたかせて飛び上がった。


慌てて立ち上がって窓を開けると、チルットはすぐさま矢のように外へ飛んで行ってしまった。

『ではなーーーーーー!』という裏返った声がすごいスピードで遠ざかっていく。








あんなに速く飛べるんだ……










(あんなに照れられると、こっちが恥ずかしくなってくる)
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