臆病少女と仲間たち
†††††††††††††††
『ほら、リオルー!早くおいでー!』
『ま、待ってよぉ…うわっ!』
パタパタ走る少女を一生懸命に追いかけていたリオルが、小石につまずいて転んだ。
幼い女の子は慌てて戻ってきて、涙目になっているリオルを抱き上げる。
『だいじょうぶ?』
『だいじょーぶだけど…ココがちょっといたい…』
転んだ時に石にぶつけた肘を示すと、女の子はワンピースのポケットから赤いハンカチを出して、くるくる巻いてきゅっと縛った。
『これでいたくないよ!』
『いたくない?ほんとに?』
『うん!へーきへーき!』
泣き虫リオルは自分の肘をながめ、動かしてみた。
そして、また少女の顔を見る。
彼女はにこにこ笑っていた。
ぼくの大好きな、お日さまみたいな笑顔で。
リオルはほっとして、元気を出してぴょんっと地面に降りた。
『うん、いたくないね!』
ぼくがそう言うと女の子はいっそう笑顔になって、またぱたぱたと坂道を駆け上がっていく。
リオルも笑いながら、後を追いかけていった。
†††††
『リオルもおいでよー!』
『やだよぅ…、高いトコはあぶないっていわれたし…』
『だいじょーぶだよ、いっつも遊んでるけど平気だもん!』
女の子は高台まで来て、花冠を作って遊んでいる。
ここは花がいっぱい咲いて天然の花畑になっていて、遊ぶのにうってつけだ。
おてんばな少女があちこち駆け回っているうちに偶然見つけた場所で、人もあまり来ない。
ただ、この辺りはもともと階段状の地形になっていて、そのさらに上の方にあるので、片一方はかなり高い崖になっていた。
高い所が苦手なリオルは、崖の方には絶対に近寄りたくない。
反対に、眺めのいい場所に座って花冠を作ったりしたいおてんば少女はわざわざ崖に近寄りたがる。
ある場所まで来ると足がすくんでしまうリオルは、しきりに、やめときなよー、危ないよー、と声をかけるが、本気で怒ることはないので少女は全然平気だった。
むしろ、リオルが来てくれないことに拗ねて余計に頑固になっている。
『リオルっ、かんむりできたよ!おいでってばー!』
『やだよ、キミがこっちに来なよー!』
『やだやだ、リオルが来てくれないとやだ!』
『もー…しょうがないなあ』
リオルはそろーりと歩いていくが、崖の先がだんだん見えてくると足が進まなくなり、止まってしまう。
『やっぱりやだよ…ぼく、行かない!』
『えー!リオルのこわがり!!』
女の子は拗ねてべーっと舌を出して見せて、くるっと背を向けてしまう。
・
・
・
しばらくして、ずっとその場をうろうろ行ったり来たりしていたリオルは女の子の背中に話しかけた。
『ねぇ、ねぇってば』
『……』
『そんなに、かんむりばっかり作ってどうするの?』
最初のひとつは自分でかぶったみたいだけど、それから作ったのは周りに置いてある。
お花の指輪も作ったみたいだけど。
少女はしばらくして、座ったままこっちを振り返った。
『やっぱり、リオルがいないとつまんないや』
他のトコで遊ぼっか!
やっと笑った顔を見たので、リオルは嬉しくなった。
彼女が葉っぱを払って立ち上がった時のことだった───────
何だか、ちょっとだけ、風景が揺れたような気がした。
気のせいかと思っていたら、今度は、地面が少しずつ揺れ始めた。
…地震だ!
服をはたいて花びらを払っている少女は、まだ気づいていない。
『はやく!あぶないよ!!』
リオルが呼び掛けると、驚いて手を止めた彼女はやっと地震に気づいた。
それとほぼ同時に、揺れが一気に大きくなる。
怖くなってリオルがいる方へ走ってこようとするが、揺れのせいでバランスを崩して、すぐ転んでしまった。
地震はまだ収まらない。
慌てて起き上がろうとした時、恐ろしい音がした。
崖が、先の方からガラガラと崩れ落ち始めていた。
リオルは目を見開き、少女の名前を叫ぶと同時にそちらへ向けて走った。
少女もびっくりして必死で崖から離れようとする。
だがしかし、彼女がやっと走り出したのと、彼女の足元の地面が崩れ落ちたのは同時だった。
リオル、そう泣き叫ぶような呼び声が聞こえた。
届かなかった。
間に合わなかった。
…揺れが、ようやく止んだ。
怖さを忘れて、もっと別の恐怖に突き動かされて崖下を覗き込んでも、姿を見つけられなかった。
急いで大人に知らせに行った。
けれど、崩れた岩の下から見つかった頃には、ぼくの大好きだったあの子はすっかり冷たくなっていた。
でも、ぼくはそれを言われた時どういうコトなのか解らなかった。
死んじゃうってどういうコトなのか、ぼくにはまだよく分からなかったんだ。
手遅れって何?
ちがう、ちがうよ。
そんなワケない。
だって、いつもあんなに元気だったじゃない。
いなくなっちゃったなんて嘘でしょ。嘘だろ?
ねぇ、嘘って言ってよ、誰か!!
きっと、あんなの悪い夢だったんだ。
目が覚めたらまた、いつもみたいに
『もう、泣き虫なんだから!』
って言って撫でてくれるんでしょ。
ぼくには分かってるんだから!
だいじょうぶ、へーきへーき。
キミがいつも言ってる、魔法の呪文。
ぼくは、この言葉を信じてるよ。
でも、「おそうしき」っていう日が来たら、何だか急に全部分かってしまった。
悪い夢だと分かるはずが、夢なんかよりよっぽど悪いホントのことが、呆気ないほどアッサリ分かってしまった。
ねぇ、なんで写真が置いてあるの?
そう聞いたら、本物のあの子はあの中にいるんだってあの子のパパとママが泣きながら教えてくれた。
急いで行って覗き込んだら、やっと、何でみんなが泣いてるのか分かった。
大きな箱の中には、頬っぺたはいつもみたいにピンク色じゃないし、笑いかけてくれないし、目を開けてこっちを見てすらくれないあの子がいた。
ぼくは何だか怖くなってパパとママの所へ走って戻った。
あの子が怖かったんじゃない。もう少しで大事なことが分かっちゃうような気がして怖かった。
…もう、あの子は遠い遠い所へ行っちゃって、二度とぼくに笑いかけたりしてくれないし、会うことさえ出来ないってことが。
大人のひとはみんな、地震のせいだって言っていた。
あの時、あの子のことを知らせに来たぼくを、えらいって言ってくれるひとも多かった。
…ちがうんだよ。
ぼくが、もうちょっとしっかりしてたら。
意気地なしじゃなかったら、もっと本気であの子を怒って、止めてたら、あの子はまだ此処で、この世界で、笑っていられたかもしれないんだよ。
ぼくはあの子に最後のお別れをした後、家を飛び出した。
ぼくが最後にあの子と過ごした高台に走って登って、いつまでもいつまでも大泣きした。
もう、泣き虫なんだからって叱って、優しく頭を撫でてくれるあの子はいない。
悲しくって、悔しかった。
ぼくが、もっとしっかりしていたら。
ぼくが、もっと強かったら。
今ではもう、遅い。
けれど.........
†††††††††††††††
※##NAME1##サイドに移ります。
***************
『##NAME1##!あ…危ないだろ、そんな端を歩いたら…!』
「大丈夫だよー、さぎりんは心配性なんだか…らッ!?」
ばしゃんっ
『ああ、もう…だから言ったのに…』
『マッタク、##NAME2##ッタラ、ドジッコサンナンダカラー☆』
「…てへっ?」
『てへっ、じゃないだろ?ほら、早く汚れを落とさないと…』
##NAME1##たちは今、ノモセシティの近くの湿原を歩いていた。
ちなみに、仲間になったボスゴドラはただ今ボールの中にいる。
彼はゴードンという名前をもらって、
(ボスゴドラ→ゴドラ→「なんかカッコいい名前ないかな」→「ゴド……ゴ…ゴードン卿!!」→「…卿!?(byさぎりん)」)
はしゃいでいたのだが、沼地に突入して早々にうっかり沼に沈みかけた為、不本意ながらもボールの中でおとなしくしているのだった。
…のだが。
『##NAME1##様、何かあったんですかーッ!?』
やり取りを聞きつけたらしく、自らボールから出てきた。
沼地で転んじゃったー、と##NAME1##が泥まみれの手と足を見せると、ゴードンは一大事とばかりに息巻いた。
『それは大変だ!どれどれ、よっこらせっと!』
それはそれは軽々と片腕で##NAME1##を抱え上げると、彼はのっしのっしと町に向かって歩いていく。
運んでいってくれるつもりのようだ。
「ありがとう、ボス!」
『いやいや、##NAME1##様の為ならば何のこれしき!』
最近、ボスと呼ばれるようになったゴードンは頭をかいて、にへらっと笑った。
ちなみに何故ボスかというと、大きくて貫禄があるし、あと単純に「ボス」ゴドラだから、という理由で##NAME1##がつけた愛称だからだ。
今ではマグナもメタろうも、それから狭霧もつられてそう呼ぶようになっていた。
ボスの肩の上に乗っけてもらって進んでいった。
途中でボス自身が沼地に足を踏み出しそうになって狭霧がひとり慌てまくったのは言うまでもない。
「さぎりんってば、ホント心配性だねー」
『ですよねー』
『……お前達がもっと慎重になってくれさえすれば、俺も少しは気が抜けるんだけどな…』
ノモセシティのポケモンセンターのロビーで、##NAME1##たちはそんなことを喋りながら一休みしていた。
ちなみに泥汚れは綺麗に洗い落とし、服も着替えた後だ。
メタろうとマグナも「まあ何とかなるでしょ」主義だから、慎重派なのは狭霧だけだ。
『(…俺が異常なのか?
いや、そんなまさか…)』
狭霧があれこれ考え込んでいる横で、##NAME1##がすっくと立ち上がった。
「よしっ、この調子でノモセの大湿原でポケモンつかまえよう!」
『おー!』
『……(ウキウキ』
『イエーイ!』
ボス、メタろう、マグナが盛り上がる中で、また慌てて立ち回るしかないのかと狭霧は頭を抱えていた。
***
***
「つかまえられなかったー…」
『##NAME2##、ゲンキダシテー!』
マグナがしきりに##NAME1##を励ましている傍らで、狭霧はさっきまでの##NAME1##の、ボールを投げる時の驚異的なコントロールの悪さをしみじみ思い出していた。
あれでは野生ポケモンは絶対捕まらないだろう……そういえば、仲間内にボールで捕まったポケモンはいない。
『……##NAME1##、ちょっとボールを投げる練習をしてみないか』
「え?…わあ!キャッチボールだねっ!!たのしそー!」
はしゃぐ##NAME1##に和んでいると、彼女はハンカチを団子状にしばって、いっくよー!と言って投げた。
かなり逸れたとしても何とか受け取って、自信をつけてあげれば上手くなるだろう。
そう、思っていたのだが…
「えいっ」
『……?』
球は何故か、斜め後ろで見守っていたメタろうの両目の間くらいにポコッと当たって跳ね返った。
「あっ」
『……orz』
まさか前方に飛んでこないとは思わなかった狭霧はがくっと肩を落とした。
「投げる前に手が滑っちゃった…」
『ドンマイです##NAME1##様ー!』
ボスが無駄に大声で激励する。##NAME1##は微笑み返してまた構えた。
「いくよっ」
『ああ、落ち着いて、力いっぱい投げろよ?』
「うん…えーいッ!」
力いっぱい投げた球は、##NAME1##が立っている所からたった1メートルくらい先の地面にポコッと当たって##NAME1##自身に跳ね返った。
「あいたっ」
それが頭に当たって、転がり落ちて##NAME1##が着ていた服のフードの中に入る。
「あれ?どこ行ったんだろ……」
しばらく辺りを見回して、途方に暮れた目で狭霧を見る。
「さぎりん……あれがどこ飛んでったかわかる?」
狭霧は何とも言えない心境でフードの中から球を取り出してやりつつ、決心して言った。
『##NAME1##…ボールくらい投げられなくても人生、何とかなるさ。
だからもう諦めよう、な?』
「う、うん…さぎりんがそう言うなら…」
『ダヨネー!マグナモナゲランナイモン、ダイジョブダイジョブー!』
『……(←投げる前に壊す派』
『どうしても投げなくちゃならない時はぜひ私に言い付けてくださいませ!!』
「うん…そうだね!」
総フォローを受けて##NAME1##はやっと、ぱあっと笑顔になった。
『(狭霧殿、もう少し粘ってみても良かったのでは?)』
『(いや…何だかあれはもう##NAME1##の個性のひとつで良い気がしてきたんだ)』
『(カワイイカラ、ユルスッテヤツダネ!)』
皆がこそこそ話しているのを尻目に、メタろうは##NAME1##に近づいていた。
『……(グイグイ』
「えっ、なに、たろさん?たろさんも投げてみたいの?」
メタろうの豪速球っぷりを身を以て知っている狭霧は慌てて止めに入った─────────。
「よーし、次はノモセを出て東に進もうかなー」
『えっ…?まだ進むのか!?』
そろそろ日も傾いてきたしてっきりこのままポケモンセンター行きかと思っていた狭霧は驚いた。
しかし##NAME1##はにこにこ笑って言う。
「ノモセからちょっと進むと、泊まれる所があるんだって!それに…」
『それに?』
「みんながいてくれれば、何があっても大丈夫だと思うの」
『…##NAME1##……』
これは、参った。
自分もまだまだ甘いなと思いつつ、こう言われては気恥ずかしいながらも嬉しくて引き下がってしまう。
狭霧が照れて目を逸らしている一方で、騒がしい3匹はまたしても盛り上がっていた。
『##NAME1##様が!我々を頼りに!!』
『キャー!マグナテレチャウ!!』
『……♪(肩慣らしにその辺の岩を破壊している』
マグナとボスはわいのわいのしていただけだが、上機嫌で岩を砕いていたメタろうが問題だ。
勢いよく砕かれた欠片がパラパラ飛んできて嫌な予感がしたが、案の定そのうち大きめな塊が##NAME1##と狭霧の方まで飛んできた。
狭霧が即座に片手の鋏で叩き落とす。
「わっ、さぎりんスゴイ!!今の、なんか『手練れ(てだれ)』って感じだったよ!」
『あ、ありがとう…。
…いや、感心してる場合じゃないだろう。
メタろう!お前、自分から危険つくってどうする気だ!?』
『……(´×`)ショボ-ン』
意外と素直にメタろうが反省したので狭霧は逆に戸惑って何も言えなくなった。
メタろうが、砕いた岩の欠片の中から何か取り出した。
何をするのかと思ったら、それを##NAME1##の方に持ってくる。
『…(←渡している』
「えっ?あ、光の石だ!!」
どうやら偶然砕いた岩から光の石が出てきたようで、これで許してね、みたいな目でじーっと##NAME1##を見ている。
「ありがとう、たろさん!これでダイゴさんにお礼できるよ」
##NAME1##になでなでされて、メタろうはまたルンルン気分になっている。らしい。
『ダイゴサンッテコトハー、ミンナデ、ホウエンニモドルノー?』
マグナが寄ってきて聞いた。
「うん。いったんナギサシティに戻って、船でホウエンに行こうと思ってるの」
『(…そうか。だから、やけに進むのを張り切ってるのか…)』
狭霧はひっそりとそう思った。
##NAME1##からすれば、久々に家に帰って両親とも会えるのだから足取りが軽くなって当然なのかもしれない。
『…家が恋しいか?』
狭霧が聞くと、##NAME1##はびっくりした顔をした。
それから、気恥ずかしそうに頭をかく。
「恋しくないって言えば嘘になるかなー…?
…あと」
『?』
「仲間が増えたよ!って、さぎりんとボスのこと、紹介っていうか自慢したいなー…なんて」
『……///』
狭霧は照れ、赤くなって(もともと赤いが)目を逸らした。
逸らした先にちょうどボスがいた。
目が合うと、ボスは何だか意気込んでファイティングポーズをとる。
『負けませんよ、狭霧殿!!』
『なっ、何が…!?』
別にどちらが良いパートナーか競う訳でもないだろうに、ボスはやけに張り切って対抗心を燃やしている。
…マグナと同じで、今イチ考えの読めない奴だ…
『アー!サギリン、イマナニカマグナノコトカンガエタデショ!!マグナ、シッカリ ジュシンシタヨー!』
ほら読めないだろう…!
「マグちゃんすごーい!」
『マグナノアンテナハ、コウセイノウ ダカラネ☆彡』
メタろうは退屈して、さっき自分で砕いた岩をまた積み上げている。
あ、崩れた。
ボスは何かと競争をふっかけてくる。
このメンバーで突き進む限り、なんの気がかりもなくのんびりしてはいられないなと考え、胃が痛くなってきた狭霧であった───────────。
***
ノモセの東側のゲートに入った。
ゲートの中にいた係員さんが、いってらっしゃいませと微笑みかけてくれる。
いってきます、とお辞儀してから##NAME1##は皆を連れて外へ踏み出した。
辺りは夕焼けの空の色に染まっている。
早く行かないとなあ、そう思っていくらか歩いた時のことだった。
道の先に、さっと誰かが現れた。
一行は驚いて立ち止まり、狭霧は用心して##NAME1##を守るように前へ出る。
しかし、さらに驚いたことに、道に立ちはだかっていたのは一匹のルカリオだった。
「ルカリオ…?」
この辺にルカリオなんて生息してたっけ。
『…野生か?』
狭霧が呟く。
「いや、でも首に赤いスカーフ巻いてるから…トレーナーいるんじゃないかな?」
『マイゴ?』
マグナがとんでもない発言をした。
『いや、あんな堂々とした態度の迷子はいないだろう…』
一行がこそこそ小声で相談しているうちに、ルカリオは数歩こちらへ近づいて、声をかけてきた。
『…お前たち』
「な、なあに?」
凛とした声にたじろぎながら、##NAME1##が答える。
『もう日が暮れる。暗くなると何が起こるか分からん。…進むのは諦めて帰ることだな』
「えっ…う、うん…」
有無を言わさない物言いに押し負けて頷いたものの動かずにいると、ルカリオは憮然とした表情をした。
それから、追い返すようにスタスタ間合いを詰めてくる。
##NAME1##は慌ててくるりと向きを変え、もと来た道を帰り出した。
狭霧は後を追いながら、振り返って問う。
『何なんだお前は?
トレーナーか誰かに言われてやっているのか?』
ルカリオは腕を組んで立ったまま何も言わなかったが、しばらくしてフッと鼻で笑った。
『…私の主はもういない』
真意をはかりかねている内に、ルカリオは##NAME1##の背に呼び掛けた。
『そこのお前』
「はいっ!?」
『……足元に気をつけて帰れ』
それだけ言うとルカリオは素早い身のこなしで駆けていき、森の中へ姿を消してしまった。
一同はぽかーんとしてしばらく何も言えず、しばらくして##NAME1##がやっと一言呟いた。
「…通りすがりの心配性?」
*********
「何だったんだろう…」
まだ呆然としながらもゲートまで戻ってくると、さっきの係員さんがきょとんとした目をして、それからクスッと笑った。
「追い返されちゃいましたか?
最近、この辺りで噂になってましてね…門限ルカリオがいるって」
「も、門限ルカリオ…?」
何じゃそりゃと思ったが、係員さんが説明してくれた。
1ヶ月ほど前から、いくら親が注意しても暗くなるギリギリまで外で遊んでいたような子供たちが、毎日夕暮れ頃には家に帰ってくるようになった。
それに、いつも擦り傷をつくって帰ってくるような無鉄砲でやんちゃな子供も、突然ケガが少なくなった。
やんちゃで遊び盛りな子供たちに頭を悩ませていた親たちは、不思議に思って子供たちに聞いた。
するとみんな、口を揃えて「ルカリオに注意されるから」と言うのだ。
どうやら、子供たちが危ないことをしていたり遅くまで遊んでいると、何処からともなく赤いスカーフをしたルカリオが現れて、やめるようにとか、すぐに帰るように言い聞かせて去っていくらしい。
最初、周りの大人は皆、やっぱりやんちゃな子供を持つ親が自分のポケモンに頼んだんだろうと思った。
だが、そういう訳でもないらしい。
噂は広まっていって、やがてまたひとつ分かったことがあった。
この周辺にルカリオが現れるようになる少し前、彼は他の場所にいたらしいのだ。
しかも、ある時突然現れて自分を連れていってくれないかと持ちかけ、それなのに漸く打ち解けてきた頃に突然いなくなってしまう。
それを何人かのもとで繰り返し、そうして点々と移動している内に、この辺りに現れるようになったそうだ。
「分からないことだらけですね…。特に後半の、突然いなくなっちゃうのって何なんでしょうね?」
係員さんはうーんと首をひねった後に、思い出したように言った。
「あ、そうだ。あんまり答えにはなってませんが、連れていってくれと申し出られたのはみんな、まだ幼い女の子だったそうですよ」
「………今の話を総合すると、心配性でロリコンでショタコンで、特に小さい女の子が好m……あ、いや何でもないです!教えてくれてありがとうございました!!」
色んな疑惑が出すぎて言葉にするのが忍びなくなってきたので、##NAME1##はゲートからノモセシティへ飛び出した。
皆が慌てて後をついてくる。
「はー…そ、そんな訳ないよね!だって、あんなキリッとした感じだったし」
『デモ、イッタイ、ナンナンダロネー!』
『謎が多すぎて分かりませんなー』
『…(←強そうだったなと思っている』
『………』
実は「あのルカリオぐらい慎重派なのが仲間にいたら俺の心労も減るのになあ」とか思ってたとは言えない狭霧であった。
****
翌日。
##NAME1##たちは気を取り直して、またノモセの東側ゲートを出て進んでいた。
……が。
「……私たち、もしかして何処かで道から逸れたかな?」
何だか、どんどん高みへ登ってる気が。
しかも周りがちょっとした森みたいになってる。
『…マップを見ながら歩いた方が良かったんじゃないか?』
すぐ後ろを歩く狭霧が言うと、##NAME1##はいじけて頬をふくらませた。
「…だって、マップ見ても自分がどこら辺歩いてるのか分かんないんだもん…」
最近、可愛いからって何でも許している気がする。
でもやっぱり可愛いんだ、仕方ないだろ!
狭霧が自分で自分に言い聞ながら葛藤していると、マグナがズイッと前に進み出た。
『ソンナトキニハ、マグナニオマカセ!!
…タブン、コッチダヨー!』
「わー!待ってよマグちゃーん!」
・
・
・
結果的に道には出られず、むしろ一番高そうな場所に出た。
「こっちで良かったのかな、マグちゃん…」
『アッレー、オカシーナー☆』
マグナはテヘッ!と誤魔化した。
『(何だかすごいデジャビュが…)』
『おっ、でもここからならこの辺り全体を見渡せますぞ!!』
ボスが思いついたことを聞いて、##NAME1##はほっとひと安心した。
「ホントだ!じゃあ、これで道を見つけられるね!」
そして、##NAME1##がもっと前へ歩きだそうとした時だった……
『何をしている!』
「うわっ!?」
びっくりした。
物凄くびっくりした。
だって、シュタタタッて足音が聞こえたような気がしたら、次の瞬間にはもう目の前にあのルカリオがいたんだもの。
しかも何故かやけに慌ててて、私をぐいぐい押し戻そうとしてる。
「えっ、えっ、何?
私、なにかとんでもない事してたかな?」
『ああ、していた!』
「ええっ!?」
わっととと、と私がある程度後ろに押し戻されると、ルカリオは、肩を上下させてはーっと息をついた。
『此処はダメだ!お前のような奴は、特に近寄っちゃいけない』
「えっ、何で…?」
ルカリオは一瞬言葉に詰まって、それからゆっくり言った。
『…此処で昔、大きな崖崩れが起こった。』
「そうなの?」
##NAME1##はびっくりした。
こんな、花がいっぱい咲いているようなのどかな場所で、そんな大事件があったなんて。
それから、微笑んだ。
「心配して止めてくれたんだね、ありがとう!」
ルカリオは何だか、##NAME1##の笑顔を見て、驚いたように目を瞬かせた。
しばらく、じーっと見つめている。
##NAME1##が首を傾げ始めた頃、彼はハッと我に返って言った。
『…礼には及ばない。分かったら早く道に戻ることだな』
「……そのことなんだけど…」
『?』
まだ何かあるのか、と言いたげに怪訝な顔をしたルカリオに対し、マグナが元気よく言った。
『アノネ、ミチガワカラナクナッチャッタノー!』
******
『………』
スタスタスタスタ
「………;」
結局、ルカリオにもとの道まで案内してもらっている。
みんなでわいわい話しながら歩くのも何なので、とりあえず狭霧だけついてきてもらって、他の皆はボールに戻ってもらった。
歩くのが速いルカリオについていくのは大変だと最初思ったが、彼は何故か時々立ち止まるので意外とついていけた。
「何をやってるの?」
『お前がつまずきそうな石を蹴飛ばしている』
「わ、私そんなに転ばないもん……ね、さぎりん?」
『……ごめん、##NAME1##。
それはフォローできない…』
「ええっ!!」
##NAME1##はちょっといじけた。
私そんなに転んでたかな……あ、転んでたかも…。
そもそも、小さい子を注意しに現れるはずのルカリオが私の前に現れる時点で、私そうとう危なっかしいと思われてるよね。
何とか話題を変えようと、##NAME1##は道の端に石をはじきながら前を歩くルカリオに話し掛けた。
「そのスカーフは、あなたのなの?」
彼は一度足を止めて、ちらっとこちらを見た。
それから自分の首元に手をやり、地面に視線を落としてまたスタスタ歩きだす。
『……大事なものだ』
「…そうなんだ」
それっきり会話が途絶えてしまった。
あれ?
私なにかマズいこと言ったのかな?
『此処からなら、いくらお前でも迷わないだろう。
だが、油断はするな。寄り道などしようと思うなよ』
##NAME1##たちを元の道に送り届けると、相変わらず有無を言わさない調子でルカリオが念を押した。
##NAME1##は、自分はどれだけ頼りなく見られているんだろうと思って口を尖らせる。
「……私、そんなにドジに見えるの?」
しかしルカリオはキッパリハッキリ断言した。
『ああ、見える。私が今まで見てきた中で間違いなく一番危なっかしい奴だ』
##NAME1##が何だかもう涙目になりかけていると、さすがに見兼ねた狭霧がかなり控えめに反論してくれた。
『…さすがにちょっと言い過ぎなんじゃないか?』
ありがとう、さぎりん!
だがしかし相手は動じなかった。
『甘いな。
その甘さが命取りになることもある』
気の弱い狭霧はもうその一言で完璧に黙らされてしまった。
凄くさぎりんらしいんだけど、もうちょっと頑張って欲しかったかも。
『…お前たちには、どうせ言っても分からないだろうが』
小さな声でそう呟くと、ルカリオはまたあっという間に姿を消してしまった。
ああっ、まだお礼言ってないのに!
追いかけようかと思ったけど無理っぽいので諦め、くるりと振り返ると何やら狭霧がどんより落ち込んで、負のオーラを放っていた。
「さぎりん、どうしたの?」
『…##NAME1##、色々とフォローしてやれなくてごめんな…』
まだそれを気にしてたんだ!
##NAME1##はぽんぽんと狭霧の肩をたたく。
「大丈夫だよ!それは何ていうか、自分でもしょうがないなと思ったから」
『それだけじゃない。あいつの方が俺よりよっぽど頼りになりそうで……。
俺も、あのルカリオを見習ってもっとキッパリハッキリ行動できるようにした方がいいんだろうか…?』
##NAME1##はさらに慌てた。
狭霧があんな感じになったら今度は##NAME1##自身が落ち込みっぱなしになってしまう。
「さぎりんはそのままでいいんだよ!私は今のさぎりんが大好きなんだから、ねっ!」
ぎゅーっと抱きついてそう言うと、狭霧はやっと声を明るくした。
『そ、そうか…?
お前がそう言ってくれるなら、俺は…』
「あの…」
『!?』
「はい?」
いきなり背後から声をかけられたので狭霧は硬直し、##NAME1##は狭霧の体の横からひょこっと顔を出した。
控えめに話し掛けてきたのは、40歳台くらいの女の人だった。
彼女はためらうような素振りを見せた後、話しだす。
「突然ごめんなさい。あなたたちがルカリオの話をしていたから気になってしまって…」
「あっ、首に赤いスカーフ巻いたルカリオですか?」
「ええ…もしかして…そのルカリオ、十年くらい前、うちにいた子かもしれないの」
##NAME1##は驚いて目を瞬かせた。
女の人の目はどこか悲しげで、それでも##NAME1##たちに向けて微笑みかけてくれた。
「もしよかったら、うちに来て話を聞いていってくれるかしら?」
****
##NAME1##と狭霧は女の人の家に行って、だいぶ前に撮ったらしいホームビデオを見せてもらった。
そこには、元気いっぱいの幼い女の子と、いつもその子と一緒にいるリオルが映っていた。
いかにもおてんばで無鉄砲な女の子に対してリオルは臆病で気弱で、最初はカメラにも怯えていた。
けれど女の子にはとても懐いていて、「リオル、おいで!大丈夫だよ!」と言われると迷った末に駆けていき、カメラの前で一緒に遊び始め、しまいには追いかけっこになって楽しそうに笑い合っていた。
これを見ていると、逆にビデオに映っているリオルとあのルカリオが同じだとは余計信じられなくなるような…。
そう思っていると、女の人は懐かしそうにビデオを眺めながら話し始めた。
「この子もリオルも、ほんと元気でしょう?
でもね、これを撮ってから1ヶ月くらい後かしら……この子ね、崖崩れに巻き込まれて、死んじゃったのよ…」
「えっ…!?」
あのルカリオが、##NAME1##が崖に近づくのを必死にやめさせようとした時のことを思い出した。
その時の言葉も。
『…此処で昔、大きな崖崩れが起こった。』
あれは、この子が亡くなった時のことを言っていたんだろうか。
「その頃は、私も、うちの主人も仕事で忙しくてね。いい遊び相手になってくれればと思って、リオルを娘の最初のパートナーにしたの。
私たちの願い通り、娘とリオルは本当に仲良しになって、いつも一緒に遊んでた。
その分、娘がいなくなったショックは大きかったみたいで…リオルは、それっきり家を飛び出して、帰ってこなくなってしまったわ」
彼女は時折涙を指で拭いながらそう話した。
狭霧と##NAME1##は、顔を見合わせる。
じゃあ、子供たちを早目に帰したりしているのも、危ない目に遭わせないようにしているのも……
「…もしルカリオが、うちにいたリオルだったとしても…帰って来いとは、言わないわ。
でも、もしまた会ったら伝えておいてくれないかしら。
…あの子は、あなたと巡り会えてこれ以上ないくらいに幸せだったはずだから、自分のせいだと思わないで。…って」
彼女はそこまで言って顔を上げ、そうして驚いた。
「…あらあら。ふふ、優しい子ね」
##NAME1##はこらえきれなくなってズズーッと鼻をすすり、目をこすったところだった。
微笑みながら優しく髪を撫でられて、余計にボロボロ涙が出る。
「もしあの子が生きていたら、ちょうど今のあなたくらいの歳ね。
…今日は、成長した娘に会えたみたいで嬉しかったわ。
ありがとうね」
笑って##NAME1##を見つめる彼女は、優しい、母の眼差しだった。
この家のご主人は今日は仕事に行っているらしいけど、ビデオを撮りながらときどき娘とリオルにかける声はとても愛情深かった。
あの女の子も、生きていたかっただろうなあ。
こんな温かい家族の中で、もっともっと過ごしたかっただろうな。
そう思うとまた涙がこぼれてきて、うまく言葉にできなくなって、##NAME1##は玄関での別れ際になってようやく一言話せた。
「…が、崖には、気をつけます…っ!」
すると、彼女は、全部分かっているように、優しく微笑んでくれた────
****
『…うっ』
パタン、と玄関のドアが閉まるなり、それまでずっと黙りっぱなしだった狭霧がいきなり声を上げた。
具合でも悪いのかなと思って心配しながらそっちを見ると、なんと狭霧も泣いていた。
まだ涙の収まらない##NAME1##は涙声になりながら聞く。
「さぎりん?」
『……ひ、人前だとどうしても我慢してしまうんだが…今回は今が限界だった…ううっ…』
さぎりんらしいなあ、そう思いながら、##NAME1##はぽんぽんと優しくその背を叩いた。
しばらくして狭霧はふいに真剣な目になって、##NAME1##を見つめる。
『##NAME1##…本当に、これからはもう少し慎重になってくれ、頼む。』
「うん!」
素直に頷くと、狭霧はほっとした顔をして微笑んだ。
さぎりんの心配性に拍車がかかっちゃった気がするけど、本当に気を付けなくちゃ。
そうじゃないと、またあのルカリオにも……
『お前たち……あれほど寄り道するなと言ったのに何故こんな時間に此処にいる?』
あっれーー?
早速怒られてしまった!
くるっと振り返った先には、やっぱりあの赤いスカーフのルカリオが、じとーっとした目でこっちを見て、腕組みして立っていた。
…あっ、あの家で話しこんでる内にこんなに時間たってたんだ!
『お前もお前だ。パートナーなら、腑甲斐ないトレーナーを叱りとばすくらいしろ』
『えっ、あっ、これには事情が…』
すごい言われようだし、さぎりんはいきなり怒られてあたふたしてるし。
昼間見たビデオに映っていたリオルの様子を思い出して、##NAME1##は改めてじーっとルカリオを見つめた。
『……何だ?』
彼は怪訝そうに、鋭い目つきでこちらを見返す。
あんなにおどおどしていたリオルが、どうしてこんなキッパリした態度に変わ…
あわわわわ
いつまでも見ていたら、ルカリオが痺れを切らして手でぐいぐい背中を押してきたので、私は慌てた。
さすが格闘タイプ。
そんなに大きくないのにすごい力!
『もう暗い。そこのホテルにでも泊まっていくんだな』
前を見ると、「ホテルグランドレイク」という看板があって、いかにも上品な建物があった。
要するに、高そう。
「あわわ、ちょっと待って、お金ギリギリかも…」
いくら料金が1人分だからといっても不安である。
が。
『多少の出費と安全の確保、どちらが大事だ?』
後ろから冷静極まりない声で問われて口をつぐむ。
ちらっと狭霧の方を見ると、狭霧は何を言おうか一生懸命に考えているように見えた。
しかしやがて、しゅーんと下を向いてしまった。
何も思いつけなかったらしい。
…さぎりんも心配性な側だし、仕方ないかなあ。
狭霧にしろ自分にしろ、どのみちルカリオに言い負かされるのが目に見えているので、##NAME1##は諦めてホテルの入り口までぐいぐい背中を押されていった。
****
受付でおそるおそる一泊する時の料金を聞くと、幸いそんなとんでもない値段でもなかった。
やっぱり、多少は高いけど。
此処はリッシ湖のほとりで、ちょっとしたリゾート地みたいなものだから仕方ない。
##NAME1##が受付を済ませたのを見届けたルカリオが何も言わずに出ていこうとする。
もし本当にお金が足りなかったら街まで送っていってくれるつもりだったんだろうか。
##NAME1##はぱたぱた追いかけていって、はっしとルカリオをつかまえた。
咄嗟につかまえたのがしっぽだったからか、ルカリオは飛び上がるほど驚いた。
『ななな何だいきなりっ!?』
あの冷静極まりなかったルカリオが、声が裏返るほど驚くとは思わなかった##NAME1##は逆に驚いてあわあわしたが、手は離さなかった。
「ねぇ、一緒に泊まろう?
まだ何にもお礼できてないし」
『礼など要らん』
「そんなこと言わないで。
それに、もうちょっとあなたと一緒にいたいなー…なんて……ダメ、かなあ…?」
じーっと目を見つめて言うと、ルカリオはしばらく何も言わずにこちらを見返していた。
しばらくして。
『とりあえず離せ』
「…えーと…一緒に泊まるって言ってくれたら離す」
離したら行ってしまいそうだと思って##NAME1##がささやかながら反抗すると、彼はふーっとため息をついた。
『……仕方のない奴だ』
******
『……』
「……」
『『『『……』』』』
何とかして引き止めたものの、部屋の中は沈黙に包まれていた。
マグナ、メタろう、ボスの3匹もボールの中でずっとやり取りを聞いてはいたが、このルカリオにどうとっついていいやら右往左往している。
『…コンナトキニハ、コレダ!』
マグナが器用にも磁石の手でテレビのリモコンの電源スイッチを押した。
「(ナイス、マグちゃん!)」
そう思ったが、間の悪いことにちょうど映ったのが怖い話特集だった。
しかもその怖い話の一番怖い部分の再現VTRが流れている最中だった。
『その時、テレビのザーッというノイズに紛れて不気味な声が……』
「ひゃあああ!」
『ヒィィイ!!』
『うわあああ!』
リモコンを取り落としたマグナに変わってボスがあわててチャンネルを変えた。
賑やかなバラエティー番組が流れる中、一同はしばらくシーンとしていた。
そのうち狭霧が呟く。
『今、悲鳴上げたのは……マグナと##NAME1##と、あと誰だ?』
『あんまり聞き慣れない声だった気がしましたぞ』
ボスがそう言い、メタろうも頷く。
この3匹は、悲鳴を上げていない側である。
狭霧はこういう事(怪奇現象)に関しては何ともなく、ボスは楽観主義で、メタろうは無関心だからだ。
…となると、あと残っているのはビビりなマグナと、怖がりな##NAME1##と、あと……
皆がちらっとルカリオの方を見ると、彼は壁に寄りかかって腕組みをして、明らかに目を逸らしていた。
再びの沈黙のあと、マグナが流れを断ち切った。
『ソンナ、マッサカー☆』
『…そ、そうだな。まさかな…』
狭霧は昼間見たビデオを思い出して何かひっかかったが、この空気を変えようとマグナに同意した。
マグナは再び何か面白いのないかなとチャンネルを回し始めた。
皆がテレビの画面を見ていると、やがてパッと映り変わった先が…
『あの声は忘れよう、そう思いながらシャワーを浴びていた。しかし、ふと顔を上げて鏡を見ると背後にはなんと……』
「きゃあああ!」
『ヒェェェエ!』
『……!…!!』
『マグナお前なんで一周して戻ってきた!?』
『ダッテ、コワイケド、キニナルンダモン…』
狭霧に言われ、##NAME1##と一緒にガクブルしながら答えるマグナ。
メタろうはむしろ怖がる##NAME1##とマグナの様子を面白そうにじーっと見ている。
皆は気づいていないが、ルカリオはさっき口を押さえて悲鳴を押し留めた後、ずっとテレビとは違う方向を見ていた。
本当は耳もふさぎたいが、不審すぎるので一生懸命聞かないようにしている。
「さ、さぎりんは平気なの?」
『えっ、ああ、まあ信じてない訳じゃないが怖くはないな…』
自分の経験上、生きてる者の中にもっと怖い奴がいるから…とは言わない。
「ふえぇ…じゃあ、こっち来てー。さぎりんが居てくれればちょっと心強い…」
思わずキュンときた。
あ、いやそうじゃなくて…とりあえず、##NAME1##の涙目は俺がオチるのには充分すぎる可愛さだった。
…何考えてんだ自分は。
「…結局見るのか?」
擬人化して、##NAME1##のすぐそばにあぐらをかいて座ると、##NAME1##は組んだ脚の上にぽすっと座って寄りかかってきた。
…さっきからやること為すこと全部が可愛いんだが、俺はどうすればいいんだ?
マグナは、座っているボスの後ろに隠れて影からこそこそテレビを見ている。
『シンレーシャシントカ、コワーイ…』
『この幽霊殿もなかなか大変な身の上だったのですなー、お痛わしや…』
ズレた発言をしながらホロリときているボス。
「(さすがボス、見方が一味ちがうや…)」
メタろうは相変わらずテレビではなくマグナと##NAME1##を交互に見て楽しんでいる。
##NAME1##はふとルカリオの方を見た。
彼はついつい画面(しかも怖い場面)を見てしまったところらしく、冷や汗をかいて目を見開いていた。
##NAME1##が見ていることにハッと気づくと、慌てて目を逸らす。
「…ルカリオ?」
『……な、何だ』
「怖いなら、ココに来る?」
怖い場面が来る度に狭霧になでなでしてもらっていた##NAME1##は、ひょっと左端に寄って狭霧の膝あたりに腰掛けた。
ルカリオは驚いた。
…いや、それ以上に狭霧が「えっ」と驚いているが。
『…わっ、私は怖がってなどいない!』
「でも、さぎりんにくっついてるとすっごい心強いよー。あったかいし」
思わぬ流れに照れていいのやらツッコミを入れた方が良いのやら、狭霧が一番あたふたしている。
が、ルカリオにとっては、怖がっているのを悟られたことの方が問題だった。
『…っとにかく、私はこんなもの怖くなどない!
…あの頃の私とは、もう違うんだ…』
最後に聞こえるか聞こえないかくらいの声で呟くと、彼はベランダに出ていってしまった。
「あれっ?なんでベランダに…」
【続く】