アキト王子編
【人物紹介】
あなた︰承和の国で水色の曼珠沙華奪還計画に同行。両頬と寝顔を貸し出したのが一番補佐になったことには気づいていない。
アキト:承和の国で各王子と力を合わせ、水色の曼珠沙華奪還計画を遂行した。気負いすぎて単独行動しかけたことを反省している。
───────────────────
承和の国で、水色の曼珠沙華奪還計画が無事に終わりを告げた。
各所への報告やら、挨拶やらで休む間もなく行動するアキトさんについて巡っている。
なかなかついて巡る以外の役に立てず、せめてもの役立ちポイントを逃すまいと隙あらば飲み物を差し入れると、アキトさんはその心を察して「貴方が傍にいてくださる。それだけで私の心は安らぐのです」と微笑んで目をまっすぐに見つめ、両頬を包み込んで撫でてくれる。
せめてもの役立ちポイント向上に向けて、頬のスキンケアはバッチリにした。
そんな日々の中、奪還計画中とくに世話になり、今後も曼珠沙華の薬効研究のため協力していく相手へとお礼の挨拶へ行く運びとなる。
彼女と私は同じくらいの年の頃なのもあり、ヴィラスティンへ訪れた際に仲良くなってそれから何度か会ってはお茶をして話していた。
それ故、珍しくアキトさんの方が傍に控えて話すような形となる。
今回の滞在先を訪ね、挨拶をし、お茶をご馳走になり、半ば女子会のようになる。
その間、アキトさんは時折柔らかな相槌を挟みながら、ほんの少し眩しそうに、やり取りを見守っていてくれた。
会話の中には、「水色の曼珠沙華の花畑を作る夢の実現を心待ちにしている」ことも含まれていた。
その話に触れた際、傍らで彼は目を細めてしみじみと感慨に浸っていた。
「一度は諦めかけた夢ですが、こんなにもたくさんの人に支えていただき、一歩一歩確実に近づいている。……私は、幸せ者ですね」
そうして別れ際、彼は礼儀正しく一礼して、言う。
ふわりと花がほころび開くような、優しい優しい笑顔と声で。
「花畑が完成した時は、是非いらしてください。
彼女とともに歓迎いたします」
ガチャ……
「………」
「………」
しばしの別れの挨拶を終えて外へ出てしばらく。
私は呆けていた。
いつもならば話し出して、ひと段落して来たるべきお昼の期待へと移るはずが、どうにもこうにも何も出てこなかった。
そして、言葉を発する前にお腹が大きな音をたてた。
お腹に手をやって立ち止まってしまった様子を見て、先程から明らかに様子を気遣ってはらはら視線を彷徨わせていたアキトさんが、心配そうに眉根をきゅっと寄せ、口を開く。
「どういたしましたか?どこか、体調がすぐれないのでしたら……」
今日はもう戻りましょう、そう言いかけた彼を制して、首を何度も横に振る。
「アキトさん……」
きょとんと目を見開いていた彼も、こんな時の場合これから何が起こるか思い当たったようだ。
横並びの立ち位置から、お互い向き合うように歩み寄り、微笑んで短く先を待つ言葉をくれる。
「はい」
以前のアキトさんは、いつも憂いを背負っていた。
隣で言葉をかけていても、この好意までもが彼の重荷になってしまわないかと申し訳無く思い。撤回した方が良いかと考え出した頃にようやく顔を上げて、長い睫毛の向こうに揺れる瞳を見せ、はにかんで気持ちを表してくれた。
そんなアキトさんが今はこうして、最初からまっすぐ目を見つめて、全力で想いを受け止めようとしてくれている。そしておそらく彼は、名前の先に続く言葉が、抱えきれなかった好意の塊だともう知っている。
だから、迷わず伝えることができる。
「……すごく、嬉しかったんです。
アキトさんの未来に、私がいること」
もっと、しっかり、伝えたいのに。
言葉にしたら胸がいっぱいになってしまって、目頭が熱くなって、それ以上何も言えなくなってしまった。
視界が涙でぼやけて、ぎゅっと目を瞑る。
こんなところで泣いてはいけない。
しかし、その我慢は、人目から隠すようにふわりとその身で包み込んでくれた彼の、同じくらい涙を含んだ声であっさり押し流されてしまう。
「私は……貴方がいるから、夢を見られるのです」
何度も何度も、優しさ故に離された手を、必死で追いかけてつかまえて。
その度に、優しく責任感の強すぎる彼の負担になっていないか、無我夢中で諦められなくて泣いて走ったあの時の行動が、ただの自分勝手ではなかったかと思い悩んだ。
だから今、彼の思い描く未来で隣にいられること、背に回る腕に、優しくも迷いなく力が込められていること、その全てがこんなにも愛おしい。
「それに……貴方こそ、今まで何度も私に同じ言葉をくれました。諦めなければと自分に言い聞かせて、本当は離れたくないのに離したこの手を。もう一度つかまえてくれたのは……貴方なのです」
同じことを思い描いて紡がれた言葉に、もう涙は含まれていなかった。
その先の、柔らかくもはっきりと熱を含んだシンプルな言葉に、私の涙もさっぱりと乾いてふわふわになっていく。
「今度は、私の番です」
そろっと身体を離して、見つめ合う。
お互いに短く声を出して笑うと、隣に並んでゆったりと歩いた。
思い描く未来まで、いっしょに。
あなた︰承和の国で水色の曼珠沙華奪還計画に同行。両頬と寝顔を貸し出したのが一番補佐になったことには気づいていない。
アキト:承和の国で各王子と力を合わせ、水色の曼珠沙華奪還計画を遂行した。気負いすぎて単独行動しかけたことを反省している。
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承和の国で、水色の曼珠沙華奪還計画が無事に終わりを告げた。
各所への報告やら、挨拶やらで休む間もなく行動するアキトさんについて巡っている。
なかなかついて巡る以外の役に立てず、せめてもの役立ちポイントを逃すまいと隙あらば飲み物を差し入れると、アキトさんはその心を察して「貴方が傍にいてくださる。それだけで私の心は安らぐのです」と微笑んで目をまっすぐに見つめ、両頬を包み込んで撫でてくれる。
せめてもの役立ちポイント向上に向けて、頬のスキンケアはバッチリにした。
そんな日々の中、奪還計画中とくに世話になり、今後も曼珠沙華の薬効研究のため協力していく相手へとお礼の挨拶へ行く運びとなる。
彼女と私は同じくらいの年の頃なのもあり、ヴィラスティンへ訪れた際に仲良くなってそれから何度か会ってはお茶をして話していた。
それ故、珍しくアキトさんの方が傍に控えて話すような形となる。
今回の滞在先を訪ね、挨拶をし、お茶をご馳走になり、半ば女子会のようになる。
その間、アキトさんは時折柔らかな相槌を挟みながら、ほんの少し眩しそうに、やり取りを見守っていてくれた。
会話の中には、「水色の曼珠沙華の花畑を作る夢の実現を心待ちにしている」ことも含まれていた。
その話に触れた際、傍らで彼は目を細めてしみじみと感慨に浸っていた。
「一度は諦めかけた夢ですが、こんなにもたくさんの人に支えていただき、一歩一歩確実に近づいている。……私は、幸せ者ですね」
そうして別れ際、彼は礼儀正しく一礼して、言う。
ふわりと花がほころび開くような、優しい優しい笑顔と声で。
「花畑が完成した時は、是非いらしてください。
彼女とともに歓迎いたします」
ガチャ……
「………」
「………」
しばしの別れの挨拶を終えて外へ出てしばらく。
私は呆けていた。
いつもならば話し出して、ひと段落して来たるべきお昼の期待へと移るはずが、どうにもこうにも何も出てこなかった。
そして、言葉を発する前にお腹が大きな音をたてた。
お腹に手をやって立ち止まってしまった様子を見て、先程から明らかに様子を気遣ってはらはら視線を彷徨わせていたアキトさんが、心配そうに眉根をきゅっと寄せ、口を開く。
「どういたしましたか?どこか、体調がすぐれないのでしたら……」
今日はもう戻りましょう、そう言いかけた彼を制して、首を何度も横に振る。
「アキトさん……」
きょとんと目を見開いていた彼も、こんな時の場合これから何が起こるか思い当たったようだ。
横並びの立ち位置から、お互い向き合うように歩み寄り、微笑んで短く先を待つ言葉をくれる。
「はい」
以前のアキトさんは、いつも憂いを背負っていた。
隣で言葉をかけていても、この好意までもが彼の重荷になってしまわないかと申し訳無く思い。撤回した方が良いかと考え出した頃にようやく顔を上げて、長い睫毛の向こうに揺れる瞳を見せ、はにかんで気持ちを表してくれた。
そんなアキトさんが今はこうして、最初からまっすぐ目を見つめて、全力で想いを受け止めようとしてくれている。そしておそらく彼は、名前の先に続く言葉が、抱えきれなかった好意の塊だともう知っている。
だから、迷わず伝えることができる。
「……すごく、嬉しかったんです。
アキトさんの未来に、私がいること」
もっと、しっかり、伝えたいのに。
言葉にしたら胸がいっぱいになってしまって、目頭が熱くなって、それ以上何も言えなくなってしまった。
視界が涙でぼやけて、ぎゅっと目を瞑る。
こんなところで泣いてはいけない。
しかし、その我慢は、人目から隠すようにふわりとその身で包み込んでくれた彼の、同じくらい涙を含んだ声であっさり押し流されてしまう。
「私は……貴方がいるから、夢を見られるのです」
何度も何度も、優しさ故に離された手を、必死で追いかけてつかまえて。
その度に、優しく責任感の強すぎる彼の負担になっていないか、無我夢中で諦められなくて泣いて走ったあの時の行動が、ただの自分勝手ではなかったかと思い悩んだ。
だから今、彼の思い描く未来で隣にいられること、背に回る腕に、優しくも迷いなく力が込められていること、その全てがこんなにも愛おしい。
「それに……貴方こそ、今まで何度も私に同じ言葉をくれました。諦めなければと自分に言い聞かせて、本当は離れたくないのに離したこの手を。もう一度つかまえてくれたのは……貴方なのです」
同じことを思い描いて紡がれた言葉に、もう涙は含まれていなかった。
その先の、柔らかくもはっきりと熱を含んだシンプルな言葉に、私の涙もさっぱりと乾いてふわふわになっていく。
「今度は、私の番です」
そろっと身体を離して、見つめ合う。
お互いに短く声を出して笑うと、隣に並んでゆったりと歩いた。
思い描く未来まで、いっしょに。
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