夢100部屋

アキトさん:花の精の国ヴィラスティンの王子。曼珠沙華の精。隠れ家が好き。



彼女:姫。いたって庶民派。隠れ家が好き。









腕がたくさんあったらいいのに。





突拍子も無い言葉が聞こえた。



目を向ければ、大きなぬいぐるみを抱えて小さなぬいぐるみをベッドの縁から拾い上げる彼女。

その横顔は真剣な眼差しをしていた。



私の視線に気づいた大きな瞳と目が合った。



「少ないと思いませんか?」



大小のぬいぐるみを抱え、柔らかな毛並みを撫でて彼女はため息をついた。



「ええ」



短く肯定して歩み寄れば、彼女は撫でていた小さなぬいぐるみをそっと差し出す。



ベッドの縁に腰掛け、受け取ったぬいぐるみを膝にのせた。



背中に大きい方のぬいぐるみをもたせかけられる温かみと重みを感じる。



「これでようやく空きました。私の腕は2本しか無いから」



近づく優しい声と回された腕に身を委ねる。

視線を落とせば、膝にのせたぬいぐるみごと抱き締められていた。



自然と笑い声がこぼれる。



「ふふ」



「一時的に腕が足りました」



背中に満足げな声が伝わる。くすぐったい。

回された手に、自らの腕を重ねる。



「私は、貴方に出会って多くを望むようになりました」



あたたかい。

この手であたたかなぬくもりに触れることを、かつてはいつも躊躇っていた。

そのぬくもりを奪う毒を、身に宿して生まれたから。



「かつては、ただひとつだけだった。

その願いを、貴方が叶えてくださった」



首を傾ければ、柔らかな髪が頬を撫でる。



「もう望むものは無いと思ったのです。

ですが、違いました。

幸せには……果てがないのですね」



「…………」



暫しの沈黙のあと。



ふいに腕が解かれ、両脇から元気よく腕が伸ばされた。



「今から3、4本目の腕だと思ってください」



「ふふ、いいえ。貴方の腕だからこそ……こうして……愛でていただけるのです」















だから、どうか。









「…………」





我が身が闇夜に潜んで、心を凍りつかせていても。





眠る貴方がその腕に、大事に抱いた



私の弱さを、痛みを、脆さを、涙を、



離さずにいてほしいのです。





「…………ただいま、帰りました」













……きっと、腕が何本あっても独りでは抱えられませんでした。




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