黄昏
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■プロローグ
あなたは才能があって、要領が良くて、器用で、天才なんでしょう?
どうやったら、僕はあなたになれるんですか。
■苦悩
「一位はやっぱり桐島か」
「さすが桐島だな」
「ほんと天才だよねー」
「中学の時も学年一位キープしてたらしいぞ」
僕は5位か……ああ……やっぱり、届かないな………。
僕の名前は冷泉 青 。今年になって一人暮らしを始めて、高校に入学した。
そこで従兄弟である桐島 赤 に再会したが、相手は僕のことを覚えていなかった。無理もない。以前会ったのはお互いに小さい頃だったし、一度しか顔を会わせていないのだ。
だが、僕はずっと覚えていた。両親……特に父親からよく話を聞かされていたから。
「優秀な子」
そう聞いていたから、僕は一度しか会っていないその従兄弟に憧れと期待と……激しい嫉妬を抱いていた。
あの厳格な父が、一度しか会ったことのない彼を認めているなんて……。
「あの子とお前は本当によく似ている。まるで兄弟のようだ。あの子に負けないように、頑張りなさい」
僕と彼の父は双子の兄弟であり、何事にも競い合っていたようだが、それを僕達の関係にまで持ち込むというのか。正直、腹が立っていた。父にも、一度しか顔を会わせたことのない彼にも。
そんなある日、偶然にも高校の入学式で彼と再会した。長く会っていなくとも、顔を見ればすぐに分かった。
「なんだお前。オレに何か用か?」
「僕は冷泉青。あなたの従兄弟ですよ」
「……従兄弟? オレは知らないが……」
「僕のこと、覚えてないんですね。『桐島赤は優秀な子』だと父から聞いていましたが、どうやら勘違いだったようですね。記憶力が全く無い、ただのバカだったなんて……ガッカリですよ」
「……は?」
再会してすぐに冷たい態度を取ってしまい、仲は険悪だった。今、僕の隣にいる柳野 緑 が間に入ってくれるまでは。
僕らの険悪な仲を見かねたのか、緑くんはいつも僕らのことを気にかけ、気が付いたらいつも僕らのそばにいた。
三人で過ごしていくことが多くなり、次第に赤くんへの敵意は薄れていったが、嫉妬心や憧れが消えることはなかった。むしろ劣等感ばかりが募っていった。
彼はあまりに完璧すぎる。優秀というだけではなく、人を惹きつける才能がある。
性格だって僕みたいに悪くない。真面目で優秀で正義感が強くて、自分に厳しくて曲がったことは許せないまっすぐな性格。クラスの中心にいて、クラスメイトからも先生からも慕われている。いつも輪の中にいる。
――僕とは、何もかもが違う。
■劣化品
「青くん、すごいね!」
隣で僕と一緒に中間テストの結果発表を見ていた緑くんが言った。
「そうですね。赤くんはすごいです」
「赤くんだけじゃないよ?」
……え? てっきり、一位を取った赤くんのことをすごいねと言ったのかと思ったが、僕に対しての言葉でもあったのだろうか。
「僕は何もすごくありませんよ」
本心から出た言葉だ。僕は彼の劣化品に過ぎない。
「……青くんってかっこいいね」
は……?? かっこいい? 僕が? 僕のどこが?
そんなことを思いながら緑くんを見ると、緑色の瞳がまっすぐと僕に向けられていた。さっきの言葉は嘘や冗談やお世辞ではないんだろう。そもそも、彼はそういうことを言うようなタイプではないけれど。
「だって、たくさん頑張ってるのに、もっと頑張ろうとしてるんでしょ? そんな青くんのことすごくかっこいいと思う! ボクは赤くんも青くんもすごいと思うし、二人とも大好きだよ」
子どものような無邪気な笑顔で、緑くんはそう言った。
「……よくそんな恥ずかしいことが言えますね」
つい照れ隠しにそんなことを言ってしまう。本当はすごく嬉しいのに、素直になれない。
「えへへ、だって本当のことだからね!」
そうやってまた笑顔で言うが、いつも明るくて元気な緑くんの表情がそれから少し、曇った。
「だからね、青くん。そんなに自分を卑下しないで。ボク、心配なんだ。青くんがいつか壊れてしまわないかって……そんな辛そうな顔してる青くんを見るのはつらいよ」
辛そうな顔……? そこまで分かりやすく顔に出ていたのだろうか。冷静に振舞っているつもりだったのだが。表情の奥底を感じ取ったのだろうか。どちらにせよ、緑くんに心配をかけてしまった。
「すみません。心配をかけてしまって……僕なら大丈夫ですよ」
「本当に……?」
緑くんには心の中も、何もかも見透かされているような気がしてしまう。実際、緑くんはいつも周りをよく見ている。それは僕や赤くんがびっくりするほどに。
「はい。本当、ですよ」
「……そっか……」
きっと彼は僕の嘘なんて分かっているのだろう。それでも何も言わず、ただ、隣にいてくれた。
あなたは才能があって、要領が良くて、器用で、天才なんでしょう?
どうやったら、僕はあなたになれるんですか。
■苦悩
「一位はやっぱり桐島か」
「さすが桐島だな」
「ほんと天才だよねー」
「中学の時も学年一位キープしてたらしいぞ」
僕は5位か……ああ……やっぱり、届かないな………。
僕の名前は
そこで従兄弟である
だが、僕はずっと覚えていた。両親……特に父親からよく話を聞かされていたから。
「優秀な子」
そう聞いていたから、僕は一度しか会っていないその従兄弟に憧れと期待と……激しい嫉妬を抱いていた。
あの厳格な父が、一度しか会ったことのない彼を認めているなんて……。
「あの子とお前は本当によく似ている。まるで兄弟のようだ。あの子に負けないように、頑張りなさい」
僕と彼の父は双子の兄弟であり、何事にも競い合っていたようだが、それを僕達の関係にまで持ち込むというのか。正直、腹が立っていた。父にも、一度しか顔を会わせたことのない彼にも。
そんなある日、偶然にも高校の入学式で彼と再会した。長く会っていなくとも、顔を見ればすぐに分かった。
「なんだお前。オレに何か用か?」
「僕は冷泉青。あなたの従兄弟ですよ」
「……従兄弟? オレは知らないが……」
「僕のこと、覚えてないんですね。『桐島赤は優秀な子』だと父から聞いていましたが、どうやら勘違いだったようですね。記憶力が全く無い、ただのバカだったなんて……ガッカリですよ」
「……は?」
再会してすぐに冷たい態度を取ってしまい、仲は険悪だった。今、僕の隣にいる
僕らの険悪な仲を見かねたのか、緑くんはいつも僕らのことを気にかけ、気が付いたらいつも僕らのそばにいた。
三人で過ごしていくことが多くなり、次第に赤くんへの敵意は薄れていったが、嫉妬心や憧れが消えることはなかった。むしろ劣等感ばかりが募っていった。
彼はあまりに完璧すぎる。優秀というだけではなく、人を惹きつける才能がある。
性格だって僕みたいに悪くない。真面目で優秀で正義感が強くて、自分に厳しくて曲がったことは許せないまっすぐな性格。クラスの中心にいて、クラスメイトからも先生からも慕われている。いつも輪の中にいる。
――僕とは、何もかもが違う。
■劣化品
「青くん、すごいね!」
隣で僕と一緒に中間テストの結果発表を見ていた緑くんが言った。
「そうですね。赤くんはすごいです」
「赤くんだけじゃないよ?」
……え? てっきり、一位を取った赤くんのことをすごいねと言ったのかと思ったが、僕に対しての言葉でもあったのだろうか。
「僕は何もすごくありませんよ」
本心から出た言葉だ。僕は彼の劣化品に過ぎない。
「……青くんってかっこいいね」
は……?? かっこいい? 僕が? 僕のどこが?
そんなことを思いながら緑くんを見ると、緑色の瞳がまっすぐと僕に向けられていた。さっきの言葉は嘘や冗談やお世辞ではないんだろう。そもそも、彼はそういうことを言うようなタイプではないけれど。
「だって、たくさん頑張ってるのに、もっと頑張ろうとしてるんでしょ? そんな青くんのことすごくかっこいいと思う! ボクは赤くんも青くんもすごいと思うし、二人とも大好きだよ」
子どものような無邪気な笑顔で、緑くんはそう言った。
「……よくそんな恥ずかしいことが言えますね」
つい照れ隠しにそんなことを言ってしまう。本当はすごく嬉しいのに、素直になれない。
「えへへ、だって本当のことだからね!」
そうやってまた笑顔で言うが、いつも明るくて元気な緑くんの表情がそれから少し、曇った。
「だからね、青くん。そんなに自分を卑下しないで。ボク、心配なんだ。青くんがいつか壊れてしまわないかって……そんな辛そうな顔してる青くんを見るのはつらいよ」
辛そうな顔……? そこまで分かりやすく顔に出ていたのだろうか。冷静に振舞っているつもりだったのだが。表情の奥底を感じ取ったのだろうか。どちらにせよ、緑くんに心配をかけてしまった。
「すみません。心配をかけてしまって……僕なら大丈夫ですよ」
「本当に……?」
緑くんには心の中も、何もかも見透かされているような気がしてしまう。実際、緑くんはいつも周りをよく見ている。それは僕や赤くんがびっくりするほどに。
「はい。本当、ですよ」
「……そっか……」
きっと彼は僕の嘘なんて分かっているのだろう。それでも何も言わず、ただ、隣にいてくれた。