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“こや”と“たま”
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「──みーつっけた!」



元気な声にびくりとなった女性が慌ててその場を飛び退くと、飛び退いた先に待ち構えていた女の子に抱き留められる。
やられた。また首を狩って貰えなかった。

「今回もわたしの勝ちね! 無惨がどうしてるか教えて!」
「教えても何も、なんの進展もありませんよ」

ぴょんぴょんと、母親におねだりするような仕草でひっついて来る──鬼の特性を得て三度目の生を受けた女の子。
本当の初対面の頃は、姿形は生まれるたびに変わっていたけれど。あれから“この子”は性別は変わる時もあるけど容姿は同じだから、見分けがつく。

「……まあ、無愛想よりは人懐っこくされる方が好みかしら」
「同じこと弟子にも言われた!」

記憶が引き継がれるだけで、生まれた先の個性は変わる。ガラッと変わる時もあれば、あまり“こや”と変わらない時もある。
鬼の紛い物になる前までは、相手は名を名乗ることはなかった。いや、名乗っていたかもしれないが、珠世にとってはどうでもよかった。

容姿が同じ──たったこれだけの違いで、名を覚えるようになった自分が滑稽に思えてくる。

「青い彼岸花だよね。彼岸花をそのままに受け取るならば、国内には存在しない。舶来品と考えるべきだけど、船旅のリスクがあるとはいえ無惨が国外に目を向けてないとも考えづらいなぁ」

珠世の住処に通された“こや”は、持参してきたらしい果物をしゃくりとかじる。
医師でもあった珠世とて、薬の材料への知識がないわけではない。もちろん扱ったことのないものも多くあるけれど。

舶来品は高価だ。なかなか手には入らない。
手に入れる術はあるし、鬼となった自分たちならば脅し取ることなど簡単だ。



──けれども、いつも失敗する。



「国外に鬼を出そうとしても、舶来品を漁ろうとしても、なぜか上手くいかない。あの人が貴方を見つける度に八つ当たりのように手を下す意味を、貴方はわかっているのよね?」
「何それ、わたしの仕業ってこと?」

青い彼岸花のこと、少なくとも“こや”はその存在を知っている。
きょとん、として目を瞬かせる女の子を、珠世は困ったような気持ちで見つめた。前回もそうだった。しらを切るには“上手すぎ”る。本当に知らないように見えてしまう。

死んだら生まれ変わり記憶を引き継いでいく化け物の、生まれる先は様々な国。その先々で得る知識は長い年月を生きる鬼より豊富だ。無惨よりも、珠代よりもずっと。機会にも恵まれているのだから。



「“たま”の言う通り、わたしが関与してそうなんだけど。わからないんだよね、どうして無惨を国外に出せずにいられてるのか」



これも、前回聞いたこと。
“こや”たちの言うことが本当ならば、別の化物の関与が疑われる。
けれど、最近そんなことはどうでもよくなってきた。

珠世は、“こや”の小さな頭を撫でる。「ねえ。どうして、私のところへ会いに来てくれるのかしら」

他に強い鬼だっている。無惨に反感を抱いている鬼は多い。
それなのに、何故ひ弱な自分なのか。

とても照れたような様子でもじもじしながら、“こや”は口籠る。
その仕草がとても愛おしい。まるで、“帰ってきてくれた”ように。
うーんと、その、ええと──いよいよ焦った様子。珠世の目からぽろりと涙が溢れる。

“こや”と会ってから、珠世は自分の行動を省みるようになった。人としてありたい──自制が効くようになった。
ああ、やはり、そうなのだ。この子は、そうなのだ──。

耳まで真っ赤になった顔で、“こや”が怒鳴った。「内緒だもん!!」












「お前の夫と子供を殺したのは誰だ?」














無惨に片腕を吸収されながら。珠世は歯を食いしばった。
病に倒れた自分は、死期を悟っていた。

可愛い我が子の成長を、見届けたかった。
鬼になることの意味を、知らなかった頃の自分の浅はかさを何度呪ったことか。

鬼となった勢いのまま、愛する人と、未練の象徴であった子を食い殺した。絶望のあまり、人を食うことに耽った時期もある。



その時に、一度だけ──“こや”の口から溢れた言葉。聞き間違えだとすっと言い聞かせてきたけれど、それが珠世を珠世たらしめた救いの言葉でもあった。



「自暴自棄になって大勢殺した。その罪を償う為にも──私を諦めないでいてくれた我が子の為にも」



絶対に──鬼舞辻無惨を、止めるのだ──。



 
2020.03.29追加
※現状これを含め2種類のみ

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