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「──ほい」


定食を平らげてお茶で口の中をリフレッシュさせ、さて甘味は何にしようか──と甘露寺蜜璃がお品書きを手にした時。

ひょいと目の前に差し出されたのは、白いふわふわした厚めの泡のようなものに苺がちょこん、と乗せられている洋菓子だった。

洋菓子はあらかた攻めたはずなのだが、ふわふわとした生地にスライスされた苺と泡──ホイップクリームが挟まれているものは初めてだ。ビスケットのようなもので挟まれているものは食べたことがあるが。

差し出してくれたのは、名前は知らないが鬼殺隊の隊員らしい。
人懐っこい笑顔で向かいの席に座った彼は、どうぞ、と勧めてくる。



「それね、日本の洋菓子職人が試行錯誤した試作品。他の国ではこんなケーキ今のところないね。邪道?」
「試作品ってことは、まだ出回っていないのね。でも、なんで私にくれるの?」



というか、あなた誰? と問えば、「蝶屋敷の面々や、産屋敷邸にも参考のために届けたんだ」と返ってくる。

女子全員に感想を聞いて回っているならば、まあ、食べてみても良いかと蜜璃は添えられていたフォークで一口掬い、どきどきと期待に胸を膨らませながら口の中に放り込んだ。


ふわふわの食感と、苺の酸味がクリームと絶妙に絡んで口の中に広がっていく。
蜜璃は一気に残りも平らげて、あっという間になくなってしまった。とてつもなく残念な気持ち。


「お気に召したみたいだな〜やっぱ、ビスケットやムースよりスポンジの方が食感として良さそう?」
「そうねぇ、何ていうのかなぁ、優しいのよ! もう、ときめきが止まらないくらい!」


身を乗り出してしまった蜜璃は、はっと気づいて元の場所に腰を下ろす。
初対面の相手に対して馴れ馴れしすぎたかもしれない。距離感を失いすぎた。反省だ。

けれど、相手の隊員はまったく動じることなく、嬉しそうな様子でずっと蜜璃を覗き込んでいる。
なんだろう? ほんと、この子誰かしら。
蜜璃が尋ねようとしたところで、ありがとう、と言って彼は立ち上がった。


「キョーに聞いたんだ、あんたが適任だってさ!」


ほんと助かったよ──ひらひら手を振って店を出ていく少年と入れ違うように、師匠である煉獄杏寿郎がやって来る。

「甘露寺、どうだった? 美味かったか?」
「ええ、とっても! ──師範、あの子誰ですか?」

炎柱の知り合いならば、同期で腕の立つ隊員なのかもしれない。
興味津々で尋ねたところ、返ってきたのは絶句するようなもので。



「知らん! よく任務先でかち合う隊員だ!」



名前は知らないが、顔見知りだ!──きっぱりと言い切って食事を始める杏寿郎を見て、蜜璃は名も知らぬ少年が出て行った店の入り口を見つめる。

いったい誰なんだろう。名前もわからない相手からお菓子を貰うだなんて──しかも試作品ってことは珍しいものよね。

素敵だわ! 胸がドキドキしてしまうわ──ほってた頬をおさえ、蜜璃はお品書きを握り締めるのだった。



【柱たちと遊ぼう─恋─】
2019.11.4追加※現在2通り

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