運命編のネタバレ3点
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「──駄目だ」
ディアッカは目の前の光景に閉口する。
確かにラシードや父親から話には聞いていた。とはいえ、実際に目にするまでは大袈裟に表現していただけだと思ったのだが。
「何でですか、いいじゃないですか!」
ばっさりと判断を下すイザークに、駄々を捏ねているのはティアだった。
彼女は赤服──ニコルのは先の戦時中に破れていたはずなのに──姿だ。パンツスタイルとはいえ女物だとわかる。どこで手に入れたんだ。
現在、司令官に与えられた部屋で密会中だ。
先日のオーブとの戦闘でフリーダムたちが連合軍を退けた後、ミネルバから脱走した話だけは聞いていた。てっきりアスラン達と行動を共にしていると思ったら。
「立場の曖昧な奴に手を出されては迷惑だ!」
「あ、意地悪ですか? 私がデュランダル議長嫌いなの知ってるくせに!」
アスランにしてもティアにしても、よくザフトから追われているな。あのラシードですら追っ手を放たれるまではやらかしていないのに。
「ラシードが休みなしで働かされてたこと、まだ根に持ってるのかお前は」
「いくら彼から目を離したくないからって、コキ使い過ぎです!」
「
ティアの場合はザフトではなく、パトリック・ザラから託されていた物騒な機体を受領した手前、協力者という立場だったのだけど。
「とにかく、あのレクイエムを、完全に破壊したいんですってば!」
そんな彼女から突然の通信が入った時は驚いた。しかも、ピンポイントでディアッカに。
それを伝えた時のイザークの動揺と言ったら。思い出して思わず肩が揺れそうになる。
「いくらなんでも、ティアがこれ以上表立って動くのは無茶だと思うぜ。お前さんは今、
ロゴスからばら撒かれた“彼女の家の悲劇”に纏わる情報は、世界的に広まっている。信じがたい事実とはいえ、それが真実であればムルタ・アズラエルたちが狂気の行動に走った理由としては足るものだ。
その前から彼女の事情を少しは知っていたとはいえ、もし自分の身内がティアのような被害を受けたら。ディアッカも相手を許せる自信がない。
「この艦の連中は、ほとんどお前のことを知っている奴らだ。その協力があって今の状況が成り立っている──それをわかってるんだろうな」
「それは、もちろんです。シホさんを泣かせてしまったし」
相変わらず他人を引き合いに出されると弱いのか、ティアはしょんぼりと小さくなる。さっきまで、ぷんぷんと不満をイザークに向けていたのに。
ディアッカの知る彼女は、迂闊だけどもう少し落ち着いた娘だと思っていただけに、先ほどまでのようにわがままを言う姿には正直びっくりだ。
イザークと、時々話が噛み合わないわけである。
「あの物騒な兵器は、既に我々の管理下だ。お前が今、危険を犯す必要はない!」
いくつものコロニーを破壊した“レクイエム”を、完全に破壊するという。既にロゴスの残党は捕縛、あの兵器がどこかへ向けられることはなくなっている。
「だけど」ティアは食い下がった。イザークが彼女の両腕を掴む。
「地球で起きたことは、全てではないが多少は把握している。ラクス嬢、アスラン──キラのことも含めてな」
ディアッカは目を見張った。
イザークとキラが接点を持ったのは──ヤキン・ドゥーエの戦いの後、負傷したティアを迎えた時と、アマルフィ家へのお泊まり期間の時のみだ。
キラの“人となり”が
それは彼女の方も同じだったらしい。すっかり聞くモードになって大人しくなっている。ディアッカの知っているティアの姿だ。
「お前が焦るだけの何ががあるのはわかった。だからこそ、お前が見てきたものをちゃんと話せ。今度こそ、巻き込んで見せろ!」
今なら、少しだけディアッカにも彼の気持ちがわかった。先の大戦では、彼だけがずっとザフトに残り、その視点で戦っていた。
ディアッカは、地球軍やオーブ、ラクスたちと共に中立の立場から見ていたけれど。
もどかしいのだ。わからないことが。アスランが、キラが、アーク・エンジェルが──何が起きているの何も見えないことが。
「それは……さすがに、烏滸がましく……」
「おいおい、何言ってんの」
彼女一人で単身接触してきたわけだが、アスランたちは把握しているだろうか。恐らくは知らないだろうな。彼らがそんなこと許すとは思えない。
ティアはまた、一人で何かやろうとしている。
「中途半端に巻き込まれるのはウンザリだ。どうせならさ──盛大に頼むぜ!」
おろおろしている彼女を、わざわざ下から覗き込んで煽る。けど、次の瞬間大きく一歩立ち退いた。
隊長様からの鉄槌をしっかり回避する。
「とりあえず、座れ。茶を持ってくる」
余程情報を聞き出したくて仕方ないのだろうな。ディアッカは震えそうになる腹筋に改めて力を入れる。
示された場所に腰を下ろしながら、ティアが彼を呼んで。
「コーヒーなら薄めで──」
「角砂糖3つにミルクでいいんだろう?」
黙って待ってろ、と言い残して部屋を出ていくイザークに、ディアッカはゾッとした。こんなに面倒見のいい奴だったろうか。
ティアの方はさして気にした風もなく、「そうだ、カガリからのお土産の木工細工を」とか言いながらカバンを開け始めたり。
彼女がプラントで軟禁──はたしてあれは軟禁と言えたのか──されている間、イザークが面倒を見ていたとは聞いていたけれど。熟年夫婦か。
「仲良いなあ、お前ら」
「イザークはあれで面倒見がいいですからねえ。キラと一緒のところ見ると驚くと思いますよ」
ふふっと堪えるように笑う様子を見て想像する。のんびりマイペースのキラに、きっちりせっかちのイザークのセット。
想像が難しいけど、キラの方がイザークのあたりの強さをあの天然でスルーできれば逆に相性はいいのでは。
「オーブから上がってくる時は一緒だったんだろ?」
「いいえ。別々ですよ」
きょとん、とした顔で答えられて、ディアッカは思わず素っ頓狂な声を上げた。オーブからでないならば、大西洋連邦のマスドライバーを使ったのか。
現在の彼女は有名人なのに、よくそんなことができたものだ。だが、さらに疑問なのは、ラクスたちと別行動を取っている状況だ。
アーク・エンジェルたちも上がってきたに違いないのだから、一緒にくればよかったのに。
「いやあ、袂分かっちゃったものですから!」
「はあ?」
どこか胸を張るような仕草でティアがそう宣うものだから、ディアッカは思い切り腹から声を出していた。
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