異国人設定ですが、外見は日本人と大差ないので和名でも問題ないです。
第一章:彼らの育手。
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少し休んでから、山の中の罠を再び仕掛けに行くのだろう。
「すみません、何から何まで世話になりっぱなしで」
「このくらいなんでもないよ。俺にとっては、お前たちへの礼みたいなもんだし」
厠に連れて行って、再びおぶったところで炭治郎が首を傾ぐ。
育手の手を離れた弟子たちが受ける最終選別。鬼を倒し続けるということは、鬼に殺される可能性も付きまとうのだ。だからこそ、その選別で命を落としても仕方がなかった。
結果──鱗滝左近次の弟子で、鬼滅の戦士として活躍しているのは現在ただ一人。
弟子たちを我が子同然に育て上げていた男の無念は、どれ程だろう。
「炭治郎はさ、オヤジのことどう思ってる? 厳しくて、おっかないかな」
「確かに厳しいけど……鱗滝さんからは、優しい匂いがします」
少し考え込むようにしながらの返答に、思わずにんまりしてしまう。
そうだろう、そうだろう! 俺のオヤジは優しいんだ。優しいから厳しくて、かっこいいんだ。
「ラシードさん、鱗滝さんのこと大好きなんですね!」
「俺だけじゃない──ここから逃げ出さなかったやつ、全員がそう思ってるはずだ。だからお前は──……」
オヤジの試練を乗り越えて、最終選別切り抜けて、鬼殺の戦士になれ。
口に出しかけて、ラシードは続けることができなかった。
炭治郎まで死んだら、オヤジはどうなるかな。
恐らく炭治郎には、これまでの弟子たち以上の試練を与えるに違いない。だから結果によっては、最終選別に向かうことはないかもしれない。
これはお礼の前払いだ。
炭治郎のサポートは全力でする。禰豆子のことも、炭治郎がいない間は面倒を見る。
だから、これ以上鱗滝左近次を追い詰めないでほしい。
どうか生き残ってほしい。
「俺は、禰豆子を元に戻したいんです。その為に鬼滅の戦士にならなければならないのならば、やります!」
自分の言葉で決意をあらわにする炭治郎に、思わず泣きそうになった。
言葉にしないラシードの思いまで引っくるめて、背負おうとしている。でも、それは彼自身のため、家族のため。
涙ぐんで足を止めた少年の頭を、よしよしとおぶられた炭治郎が撫でた。
やめて、マジで泣きそう。あ、やめてくれた。あれ、こいつなんで俺の考えてることわかったし。
「あ、それとな。ラシードさんとかやめてくれ。呼び捨てでいいから」
「いえ、それは出来ません!」
他愛ない会話をしながら家に戻り、炭治郎を寝かしつけてから、ラシードは山に入った。
鱗滝が補修するはずの罠の数を、少しでも減らしてやろうと思ったのだ。
ただ直しても面白みがないので、馴染みの猟師たち──罠の仕掛けは彼らの貢献が大きい──と工夫したりと、せっせと作業を進めていたら、鱗滝がやって来るまでに半分程度終えてしまっていた。
その為、そのまま全ての罠を直す羽目になってしまったのだが、別段やらねばならない仕事もないので引き受ける。
なんちゃって鬼殺隊員だから、仕事という仕事はないのだ。
太陽が真上に来る頃、ちょっとした旅装姿の鱗滝が改めて姿を見せて。
「藤襲山へ行ってくる。戻るまで、二人のことは任せたぞ」
「これ逃したら、あいつにいつ会えるかわかんないもんなぁ」
わかった、と快く引き受けると、鱗滝はそのまま消えてしまった。久々の遠出だろうし、もしかすると桑島──元鳴柱の老人──のもとへも顔を出して来るかもしれない。