異国人設定ですが、外見は日本人と大差ないので和名でも問題ないです。
第一章:彼らの育手。
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ラシードは紫鼠の羽織の下に隊服を着ているのだが、実際、彼自身はその資格を持っていない。これらはすべて、鬼に食い散らかされていた亡骸から拝借して来たものだ。
刀を簡単に下げて歩ける立場が一番お手軽なのだが、警官や軍人のそれは何となく気が引けて手が出せない。
そこで目をつけたのは鬼滅の戦士の隊服だ。非公式のものではあるが、分かるものには認められているものだし、国の中枢の連中ならば把握している。
例えば警官に逮捕されたとしても、あの手この手を使って出してくれる仕組みが整えられているのも知っていた。
だから、都合が良いのだ。
「禰豆子のこと、まだ産屋敷には知らせるのは先の事なんだろ?」
恐らく、炭治郎は夜明けまでにここへ戻るだろう。
鱗滝はどちらに転んでも面倒を見るだろうが──鬼殺の技を授けるかは別──認めてやりたい気持ちはあるはずだ。珍しい相手からの推薦であるし。
「特別な計らいには“それなりの対価”が必要だろうからさ」
「……最終選別も乗り切っていない上、まだ炭治郎は戻ってもいない」
夢物語は希望だが、現実は絶望の色が濃い。
ラシードは自分のことを右京と呼ぶ男に、「そうかい」と空になった自分のお椀を差し出す。
「それなら、まだ暫くは俺は自由にさせてもらっていいってこった!」
差し出した腕から腕が離れるまで、少しの間。
呆れと諦めと、どこか安心したようなため息が聞こえた後に、その重みは消えていった。
*** ***
「そうそう。禰豆子は眠ることで“監視”を遮ってくれてる。炭治郎を守りたいんだろうな」
夜明け前に戻ってきた炭治郎は、開け放った扉に寄りかかるようにして眠ってしまった。
それを鱗滝が抱えてくる間に、用意しておいた道具を広げ手当てしやすいように並べる。
「鬼が眠るというのは、俄かには信じられんが」
「まあ、具体例を知ってるオヤジにはそうなんだろうけど。俺も関心してるしさ」
すっかり昏倒している少年の衣服を剥いだところで、ラシードはむう、と眉根を寄せた。
「あんな罠だらけの中、戦い方も知らないお子様がこの程度の怪我で済むもんなのかよ」
空気の薄い山頂から、戻って来させるだけでも良さそうなもの。
特に、大正に元号の変わった時分。一昔前に比べれば暮らしは豊かになり、人の生活も変わった。
鱗滝の幼い頃と、今の炭治郎の頃とでは体の作りも違うはず。
昨日、熊を狩るのに山に入ったけれど、仕掛けられた罠は結構えげつなかった。普通の人からしたら生きた心地はしないだろう。
何も知らない山賊でも、翌日汚物まみれで発見され、保護されるような。
「恐らく、この子も日頃、山の中で暮らしていたんだろう。罠を仕掛けたり、仕組みを理解していたからこそだろうな」
「……いつから初心者相手にそこまでやるようになったんだ」
育手として弟子を育む条件が常軌を逸している。義勇は確か街の出身だったはず。あいつはどうやって乗り切ったんだ。
「義勇とは、時々飯一緒に食ったりしてるぞ。あいつが単独任務の時は手伝ったりしてちょっかい出してるんだけどさ──そうだ! あいつな、新技編み出してやんの。スッゲーよな〜」
「新しい型を?」
今も鬼滅の戦士として活躍している弟子の話を、鱗滝は興味深そうに聞いている。
他にも、元鳴柱が推している弟子の話をしてやると、楽しそうに肩を揺らした。
和気藹々と談笑しながらも治療の手は止めず、やがて炭治郎を起こす。
このまま寝かせてやってもいいが、身体中のあらゆる力を振り絞って下山してきた幼い体には、回復を補う為の栄養──活力がない。
背後から抱え上げて支えてやると、鱗滝が冷ました食い物を炭治郎の口元に運ぶ。
そうやって介助した上で食事を終えた炭治郎に、今日一日の休息を申し渡した鱗滝は、自分の布団を引っ張り出して横になってしまった。