異国人設定ですが、外見は日本人と大差ないので和名でも問題ないです。
第一章:彼らの育手。
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禰豆子と二人だけの家族だったのか。
それにしては、身なりはしっかりしていた。
少なくとも、親はいたはずだ。なぜ二人だけしかここにいないのか。
義勇はどうして炭治郎と遭遇したのだろう。
鬼の仕業と考えられる何かがあって呼ばれていたか、たまたま見回りでかち合ったのか。
結果からみれば“鬼の頭目”とは入れ違いだったことだけはわかる。冨岡義勇には、また対峙して生き残れるだけの技量はない。
禰豆子はどうして鬼になったのか。
炭治郎はどうして、人のままなのか。
──禰豆子の閉じられた瞼から、涙がぽろぽろと溢れ出した。
鬼は、眠らないのだ。必要ないから。疲れを知らない。
人を食うと、そのまま養分になる。怪我なんてすぐに治るし、四肢が欠損しても問題ない。
けれども、禰豆子は眠っている。鬼なのに。
眠らないといけないからだ。
──鬼は、鬼となった瞬間から、ある一人の鬼の細胞に“監視”されるから。
視界を閉ざせば何も見られない。意識を閉ざせば何も聞こえない。思考を放棄すれば何も悟られない。
人はもとより体力を回復したりする為に眠りは必要なこと。
それを本能的に行えたのだとすれば、禰豆子は、すごい子だ。
「その調子だ、負けるな──禰豆子」
涙を指先で拭ってやる。泣かせてしまった事よりも、健気な少女への労いの念のほうが強い。
むー、と微かな唸り声が聞こえたような気がして、長い髪を一つ撫でてから、ラシードは腕を引っ込めた。
今頃、炭治郎に合わせた速度で山を登っているだろう鱗滝。
そこから逆算して戻って来るまでに、食事の支度でも整えてやらねば──恐らく、そんなに食べないだろうけど。
炭治郎が摂れていないのに、自分だけがっつり食べるなんてことが出来る人物ではない。かといって、不測の事態に備えて食事を摂らない愚か者でもない。
まあ、あんまりにも残されそうになったら自分で食おう。そんなことを考えながら、ひとつ長い呼吸。
目に見えるところに炭治郎の怪我の手当てが出来るよう、道具一式を用意しておくことも、忘れない──。
*** ***
「彼女は、元気にしているのか」
開口一番、天狗面を外した老人が尋ねてきた。
囲炉裏の火を弱めに調整していたラシードは、おう、と返す。
「鬼殺隊の仕事に忙殺されて自分の仕事に手をつけられない程度に、元気にやってるよ。さすがは産屋敷ってとこじゃないかな」
「相変わらずお前は手厳しいな、右京」
そう言われると、人間照れるものだ。
むずがゆい感覚を無理やり隅っこに追いやって、ラシードは器を取り出すのに立ち上がった。あとの火加減くらい家主にやらせよう。
「あいつ、藤襲山で仕事だって。どれくらいの期間かは知らないけど、オヤジに会いたがってたからな……気は進まないかもだけどさ」
「うむ……私も、久しく会っていないし、あの地に足を運んでもいないからな」
しかも、どうかしてしまうと炭治郎が足を運ぶかもしれない場所だ。
粗方の経緯を知っているから、ラシードはそれ以上その件については何も言わなかった。いずれ戻るだろう炭治郎の分の食器と共に、元いた場所に戻る。
思った通り控えめに食事を摂る相手とは対照的に、ラシードはがっつり盛って食い始めた。
「──鬼殺隊に入るのか」
口の中いっぱいに頬張っているところへ静かな問いかけ。