異国人設定ですが、外見は日本人と大差ないので和名でも問題ないです。
第一章:彼らの育手。
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あの男はとても穏やかでめったに怒らないから、傍目から見ていても“この人大丈夫かな、なんで貿易業なんて出来てるんだろう”と思ってしまうが。
「オヤジ、布団こっちに敷いていいのか?」
「いや、今はこちらでいい。これから山に登る」
手紙を読み終え、丁寧に懐へしまい込んだ天狗面から発せられた今後の予定。
ラシードが首を巡らせた先、炭治郎は顔を真っ青にさせて、でもなんとか布団を取り落とす事だけは耐え抜いていた。
「相変わらずせっかちだな。ダメだぞ、少し待ってろ!」
大きなため息をついて、立ち上がってさあ山へ行くぞ、と踏み出しかけている老人の動きを制する。
ラシードは炭治郎に布団を置かせてから、腕を引いて井戸まで引っ張っていき、水を飲ませ、用意されていた握り飯一つと沢庵数切れを食わせた。
半刻も要していないが、昨晩から現在にかけて飲まず食わずに近い状態だった未発達の体への栄養補給は最低限、これくらいでいいだろう。
「体は小さいけど体格や体力はしっかりしてるから、あのまま登らせても良かったんだけどな」
「甘えたことを言ってしまうと、助かりました」
正直へとへとだったし、と素直に頭を下げる炭治郎。けれど、甘やかされた自覚もあるからか、一つ礼を言ってから自ら進んで鱗滝の元へ走っていった。
狭霧山への道中で無理やり挟んだ休憩時から思っていたが、まだ元服は迎えていないのではないかな。年齢を聞いていないから何ともわからないが。
今時の子供の体力と比べても抜きん出いているから、育った環境がそうさせたのか。なんにしても、情報不足だ。育成計画というのは大事なのに。
鱗滝は基本的に体で覚えさせる教育方針。説明が下手だというわけではないが、彼の場合は嗅覚が優れいていた為に普通の人とは感覚にずれが出る。
もちろん、その鼻のおかげで育成はとても上手い。
けれど、それもぎりぎりのところで大変な事を回避する程度のことだから、自分や既にここを去った人物が制止に回ることは少なくなかった。
「では、右京。禰豆子を頼んだぞ」
「あいよ。任せとけー」
布団に横たえた禰豆子を心配そうな顔で覗き込んでいた炭治郎が、お願いしますと頭を下げ、山へ登って行った。
それを見送ってから、ラシードは懐から一枚の油紙を取り出し、指先を噛んで自らの血で横に二本、縦に二本の線を──鳥居を描いて、土間に石を置いて固定。
それからすぐに、奥の部屋の最終確認をする。万が一にでも陽が差したら禰豆子がつらい思いをする。それは責任をもって預かると宣言した手前、絶対に起きてはならないこと。
それが終わってからは、昨日自分で狩った熊の毛皮の手入れに入る。出来る範囲で肉を削ぎ、毛皮の方を洗い込んでほとんどの下処理が終えてられていたから、もう臭みは弱くなっていた。
初期処理の状態なので、更に腐るものは断ち、数日かけて陽の光が扉から入るなんて事故が起きないように部屋の入り口に吊そう。
こういう時、中途半端とはいえ剣技と呼吸を会得しているのは大層楽だ。
布団に横たわる禰豆子に、出入りの際に陽が差さないよう、梁に縄を渡して絶妙な加減で毛皮を干す。
そこでやっと、ラシードは起きる様子もなく眠っている禰豆子の枕元に腰を下ろした。手を伸ばし、白い額に触れる。
禰豆子のような鬼は、端的に言うと怪談話や妖怪などとは、別種の存在だった。その鬼は人を食う。餌にありつけない場合は動物を食うこともあるが、基本的には人間。
そして、食われた人間の中には、自身が鬼化してしまうこともある。これは、鬼の細胞との“相性”の問題だとラシードは考えていた。
細胞への拒否反応で絶命する人間と、鬼化する人間が存在する事実がある。たった一滴の血だけでも、まるで感染するかのように鬼は増えるけれど。
「竈門禰豆子、ごめんな。悪いようにはしないから」
静かに謝罪しながら、探るように額を撫でた。
鬼化させることが出来るのは、たった一人の鬼だけだ。
その鬼の側近であれば、血が濃い分許可の元、鬼化させることもできるだろう。
けれども、禰豆子からは、“鬼の頭目”の濃い匂いがする。
直接、襲われたのだ。
どうして炭治郎は無事だったのか。