異国人設定ですが、外見は日本人と大差ないので和名でも問題ないです。
第一章:彼らの育手。
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何よりも鬼なんて相手にしていると、身体的特徴や外見などがデタラメだ。正直、そのうち彼も人の外見に関してはどうでもよくなっていくと思う。
「てわけで、お前もよろしくな〜ネズ〜」
籠の方へ手を差し出すと、小さな手が伸びてきて指先に触れてくる。よしよし、兄に似て妹の方も素直で良い子だ。
ちょっぴり驚いた顔の炭治郎が、不可解そうに首を傾げる。
「鱗滝さんもそうですが、あなたも禰豆子を斬ろうしないんですね」
「俺はともかくオヤジは経験則かなあ。まだ人を喰わずに頑張ってるんだ、信じたいだろ?」
確認の意味合いも込めて問いかけると、炭治郎は一瞬泣きそうになった。けれど、すぐに決意のこもった目をして頷いてくる。
そんな兄の様子を、妹はじっと見つめていた。その瞳孔は人間とは違い、獣のそれと同じ縦に長く、細く──なるだろうが、今は穏やかな、まどろんでいるような目だ。
「義勇に推薦されたって? 斬られなかったんだ?」
「妹は刺されたし俺も昏倒させられました! けど、俺も斧で殺しかけたし、信じてくださったので!」
ちょっと待て今なんて言った? 引きつりかける口元を必死で我慢するラシードに対し、さわやかな笑顔の炭治郎。むしろ迫力がありすぎて怖い。
義勇のやつ、今は容赦ないからなあ。昔は、もちろん鬼になり立ての人間を庇いたがる家族の言葉に耳を貸していたけど、悉くが後に犠牲になったし、首を斬ることになった。
その積み重ねが彼を強くしたけれど、被害が出る度にあの青年は口数や表情を減らしていったっけ。
「まあ、それが根本的な問題じゃないんだけど」
「問題?」
禰豆子を背負って立ち上がった炭治郎が不思議そうにする。ああ、こっちの話です。君の兄弟子の話。
今はまだ言う必要ないかな、とラシードは一息ついて、共に外で待つ鱗滝の元へ向かう。
「隠への連絡は」
「済んでいる。すぐにここを離れるぞ」
鱗滝から即答され、ラシードはうんと頷く。
炭治郎には、これからお前自身の技量を試す事を告げられ、禰豆子を背負って鱗滝についていく任が課せられた。
鱗滝と自分だけならば半日程度も見ればいいのだろうが、炭治郎の足ではまだ無理だ。夕暮れまでに狭霧山へ着ければ理想的だろうな。
*** ***
途中一度の休憩──炭治郎を気遣う鱗滝の意を汲んだラシードが、団子食いたいせめてお茶を、と盛大に駄々をこねた──を経て、一行は目的地へと到着する。
「たっだいまー」
家主である鱗滝よりも早く、手慣れた様子でがらがらと引き戸を引いて家屋に足を踏み入れる。
そして、整えられた薬箱と共に、添えられていた手紙を取り上げて老人に放った。
「任務あるって言ってたからなぁ。後で読むなよ、今読め、今!」
ラシードと共に昨日狭霧山を訪ねていた同行者からの便り。鱗滝は困ったような唸り声をあげてそれを紐解きながら、炭治郎を中に通して休ませる。
手持無沙汰におろおろしている炭治郎に、一先ず荷物を置かせて。奥の部屋の片づけをせっせと手伝わせた。
「あなたの他にもここに出入りしている人がいるんですか?」
布団を抱えた炭治郎は、鱗滝やラシード、あとは手紙だけ残していった人物の数よりも多い寝具を見て不思議に思ったようだ。
というよりも、この様子だと“普段常駐しているのは老人だけ”というのは把握できている様子。
勘が鋭いのだろうか。考えを巡らせながら、ラシードは頷く。
「お前をオヤジに紹介した義勇は、ここから巣立ってったやつだしな。時々、家族も様子見に来るから」
「ご家族は一緒に住んでいないんですね」
「嫁ぎ先が遠いからな。長男なんか貿易業だから国内いる方が少ないし。それに──」
室内に入る日差しをすべて遮ってから、振り返って炭治郎を指さす。
「修行の環境としては、とっておきの場所なのさ」
びくりと反応した少年は、けれどすぐに、力強い眼差しで頷いた。
胆力のある子供だな。鱗滝の息子にもこういう気概があればよかったのかもしれない。