異国人設定ですが、外見は日本人と大差ないので和名でも問題ないです。
第一章:彼らの育手。
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「やっとわかったか!」
「じゃ。俺とも勝負しよう」
女子のような綺麗な顔なのに、野性味溢れる凄みを見せていた少年がきょとん、となった。
下から見上げながら、ラシードは両手で抱えた猪頭を掲げる。
「これ、俺から取り返してみせろよ。俺が勝ったんだから、これはいま俺のもんだからな」
「俺は負けてねえ!」
追い抜きざまにひょいっと拝借したものだから、勝負なんてしていない。少年の悔しそうな顔を見上げながら、我ながら無理のある提案だなぁとは思った。
けれども、彼は宝物を取り返したいはずだ。勝負と言わずともこの後のことは想像に容易い。
「その縄には細工がしてあってな。そのうち自然と千切れて自由に動けるようになるよ。暫くはお前の住んでるこの山からは出ないと約束する」
なんせ、暇人ですし。
それだけ言って、背を向けて歩き出す。ぎゃあぎゃあ騒ぎ立てる少年が再び暴れ出した。縄が千切れる時間も短縮する。
あの様子だと、人との交流が一切なかったわけではなさそうだ。けれども、人間社会よりは自然界での生き方に偏った体幹をしていた。
鬼との遭遇もまだだろう。例の鬼殺隊員は、刀を奪われた際に色々と情報を垂れ流している。
山の王を名乗る少年は、力ある者との戦いを楽しんでいた。
彼の周りに、優れたものがいなかった。だから、彼の小さな世界で構成された強さのまま、最終選別や鬼との戦いに臨めば、稀有な才能をみすみす手放すことになる。
実に、勿体ない。
かといって、柱でもない自分にできることは高が知れている。
何よりも、あの少年は独特だ。一先ず追いかけっこなどで叩き上げて、ラシード自身の動きを見せていれば自然と自分の力にするだろう。
「とりあえずは、ひと月──かな」
体重を後方にかけて飛びのくと、怒りの形相の少年の飛び蹴りが宙を切った。
うん、やっぱり体の使い方が独特だ。なのにしなやかな筋肉の動き。
鱗滝に紹介してあげたい。
「返しやがれ!」
「だから、奪ってみなさいってー」
追いかけてくる相手に合わせた速度で逃げ出す。
実のところ不完全燃焼だった。
鱗滝が思いのほか戻るのが遅かったから、炭治郎の鍛錬を少し手厚く始めようとしたところで追い出されたのだから。
やる気満々だったところで待ったをかけられて、大人しく引き下がれるほどラシードは大人ではない。
おまけに、亡き友人のことも改めて突き付けられた上、鬼殺隊員の弱体化も感じてしまった矢先。
ふつふつとこみ上げる何かをぶつける相手、しかも優良物件が目の前に現れたとあれば。
思わぬところで暇つぶし──もとい、鍛錬をつける相手を見つけられたことに、ラシードは喜びのあまり拳を高く掲げて──ごっ、と鈍い音と共に拳に衝撃。
振りむく頃にはどすんという音を響かせて影が落ちるところ。
顎に一発食らった少年が白眼を剥いて伸びてしまった光景──ああ、やっちまった。
物言わぬ相手を見下ろしながら、ごめんね、とラシードは謝る。
仕方がないのでそのまま介抱してやり、火を起こし、川で魚を獲って、山菜もあぶって串焼きにする。