異国人設定ですが、外見は日本人と大差ないので和名でも問題ないです。
第一章:彼らの育手。
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「鬼と人は手を取り合えるかもしれない。あいつへの供養にもなるもんな」
鬼は、元は人間だったのだから。人間だって身に危険が及んだ時、身を守る為に姑息な手段を用いることがある。
鬼の場合はすごく極端で意地汚いけれど、時に嫌悪感を抱くほど人間らしい。
鬼と、人間は、仲良くできるかもしれない。
人間が鬼に変質したものならば、元に戻す方法があるかもしれない。
その為には、鬼をもっと知れなければならない。鬼を説得して協力してもらう必要がある。
鬼を狩るだけを考えず、夢物語のような希望を抱いていた鬼殺隊員だっていた。毎回、上手くいかなくて肩を落としていた小さな背中を、義勇もラシードもよく見ていた。
今は、もういないけれど。
その日は勝手に竈門兄妹の近況を語り、義勇の寝食の世話をして、翌朝送り出した。
全ての扉を開け放って、全体的な掃除をし、修繕を進めるため敷地内にあった道具や材料を拝借し──数日かけて小綺麗にする。
最後に、三郎の様子を見によって、ちょうど鱗滝の家から離れて二週間が経過していた。
男の鬼の首を斬り落としながら、うーん、と小首を傾げる。
竈門家にたどり着くまでの間、人間を食べたり他に鬼を増やしたりとしていたとは思っていたが、山奥ばかりだ。
人里に興味を失ったのだろうか。まあ、千年近く探し物をしていれば、人の立ち入りにくい場所に目を向けるものなのだろうが。
人を食料としてしか見ていないから、短絡的なのだ。
可能性を自ら除外しているとも知らずに。
二つの方向から、人の匂いが漂ってくる。
知っている相手の匂いだ。ラシードは刀を鞘に納めて、危なっかしい様子の物音の方へ足を踏み出した。
思った通り、降ってきた影を支えようとしたのだが、踏ん張りが足りなくて尻もちをついてしまう。抱えた相手の下敷きになった。悔いはない。
「なんだい、ラシードじゃないか。受け止めるんならしっかりしな、男だろっ!」
勝気な声が降ってくる。男だといっても勢いよく降ってきた女人を支えられるほどの筋力はない。無茶を言わないでほしい。
仏頂面で黙り込んでいると、相手──“まきを”というくノ一はさっさと立ち上がり、頼りないねえ、と悪態をつきながらも礼を寄越してくる。
「筋肉達磨のお前の旦那と一緒にするな、ちくしょう」
「藤の花の香がするから仲間だとは思っていたけど。まさか、お前だとはなあ」
大の字に地面に身を投げ出したまま、ラシードが不満を訴えた時には、しっかりとした木の枝に取りついた大男が姿を見せた。
派手な装飾品と化粧の男、宇髄天元だ。
「なんなの。水柱と音柱が同じ区域にいるってどういうこった。情報網が混線してんのか。そもそもお前こっちのほう管轄じゃなくない?」
「藤襲山での用事の帰りだよ。嫁たちは隠に貸しててな、合流して帰るところ」
帰るついでに鬼狩りをしていたようだ。ご苦労なことである。
起き上がろうともせず頬を膨らまして口をつぐむラシードを、片手でひょいと持ち上げて吊るす天元。扱いが雑過ぎる。
「ラシードがいるなら、俺ら真っすぐ帰ってもいいかあ。十二鬼月や上弦がいるような様子はねえし」
「雛鶴と須磨は、先行して浅草へ戻っているから、帰ったらすぐ食事と入浴は出来るようにはなるかと」
至れり尽くせりじゃねえか、おい。
不味い食べ物でも口にしたかのような顔のラシードに、天元はにやにやと面白そうに笑って。
「お前さんも早く嫁を捕まえりゃいいじゃねえか。まあ、お前の方が家事得意そうだけどなあ。家事のできる男がモテるらしいぞ」
「いつの時代もそうだよ、女は月に一度苦しむことあるしな。早く帰れや、しっしっ!」
つれねえなあ、と笑い飛ばした天元は、急に真面目な顔になってラシードの手を放す。