異国人設定ですが、外見は日本人と大差ないので和名でも問題ないです。
第一章:彼らの育手。
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ラシードが竈門家に着いてすぐに気づいたのは、誰かが家の中を少しずつ綺麗にしている事実だった。
匂いで誰かなんてわかっていたのだけど、忙しいはずなのによくやるな、と苦笑したものだ。
「しばらく、拠点として使わせて貰っていた礼だ」
「無断でだもんなあ、空気の入れ替えだけしてくれてるだけでもくたびれないから、助かるよ」
この様子だと、雲取山の脅威は去ったのだろう。この近くに鬼はいない。義勇もここに来るのは最後とするつもりのようだ。
隠に後を任せるのが普通の事なのに、それをせず自分だけで後始末をつけることにしたのは、竈門兄妹を守る為だろう。
相変わらず、不器用な男である。
「間違ったことをしているだろうか」
畳を上げて壁に立てかけた青年が、ぽつりと言う。
鬼を匿うなどということは、隊の規律としては有るまじきこと。
基本的に鬼となれば人を食う。それを拒否する鬼も、一度は口にしてしまっている事実がある。
だからこそ、本当は水柱である冨岡義勇は、罰されるべきなのだ。
「俺からしてみれば、お前もオヤジも、今更だと思うけどなあ」
「あの兄妹はお前とは違うだろう。それとも、何か見つけたのか」
本当のところ、義勇の着眼点はそこだろう。
ラシードが、竈門兄妹について調べてるだろうと見越していたに違いない。
こういうところは素直に頼ってくれるんだよなあ、可愛い奴。ラシードは苦笑する。
「この家には、代々伝わっている神楽がある。一晩中舞い続ける類のものだ」
「簡単にできることではない。特殊な鍛錬法でもあるのか」
「恐らくは、呼吸かな」
鬼殺隊が身に着ける呼吸法は確かに特殊なものだが、彼らだけが呼吸法を用いているわけではない。
他の国にだって様々な呼吸法はある。鬼殺隊とて呼吸は“後から”付与されたもので、元は剣技だけだった。
「恐らく、炭治郎と禰豆子にはあって、他の人間になかったもの。それは経験と記憶だ。他の弟妹たちは幼すぎたし、母親はその技術を習得する必要はなかった」
子供は、親の真似をするものだ。
父親の真似を、するものだ。
拙くともその記憶と、経験は、二人に何かを齎した。
別に特別なことではない。二人は普通のこどもだった。
ただ、彼らは父親から託されたのだ。約束を。
「神楽と耳飾りを継承して行くことへの義務感が、鬼の本能を抑えていると?」
「禰豆子が炭治郎を食ったら約束は守れないからな。禰豆子は神楽をきちんと見ていない。女人禁制の域ではないだろうが、その呼吸法は酷だからな」
父親と兄の会話を、禰豆子は耳にしていた。
どんどん弱っていく父親の願いを、禰豆子はちゃんと覚えていたのだろう。
大切な家族。たった一人、残った家族は、炭治郎だけだったから。
「こればかりは、鬼になる人間の資質も関わることだろうからな。一概にはこれという答えは今は出せない」
あくまで推測の域だ。ラシードが両手を上げて降参の意を示すと、大人しく聞いていた義勇が傍に寄ってくる。
けれど、膝をついて隣に座った青年は、口を少しだけ開けてそのまま固まってしまった。
うまく言いたいことがまとまらないのだろう。
口下手なその青年は、頭の中ではもの凄くよく考えているのだけど、口から飛び出すのは完結系だけなので行間が狭すぎる。
そのあたりをきちんと押さえてあげるととても可愛げのある人間なのだが、良く知らない人間からすればいけ好かない人物でしかない。
鬼なのに食料である人間の兄を守った妹の姿。
そこに同情だけではなく、信じてやりたい気持ちを今一度、希望を持った義勇。
けれど、鬼は、簡単に人を裏切ってしまう。それが、今の青年にとっての一番の恐怖。「俺は義勇に感謝してる」正直な気持ちを口にする。