異国人設定ですが、外見は日本人と大差ないので和名でも問題ないです。
第一章:彼らの育手。
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竈門家に着くと、禰豆子の血を染み込ませた、目の模様を描いた紙を取り出して小さく畳み、ラシードは口に加えた。
そして、土の盛られた竈門家の家族の亡骸が収められている墓を暴き始める。
炭治郎の小さな手で、この人数分の墓を作るのは大変だっただろう。それを壊していることに罪悪感を抱きながら、これは必要なことだと踏ん張る。
──禰豆子は、異質なのだ。
人を食べずにいる鬼がいる事は、今は伏せておくべきだ。特に、鬼側には。場合によっては、禰豆子は狙われる。今の炭治郎ではそれを阻止することなどできない。鱗滝にだって無理だ。
今の鬼殺隊の力では、まだ無理なのだ。
禰豆子は人を食べていない。
この事実は、なるべく長く、隠し通さねばならない。
全ての鬼を監視している頭目は、それほど同胞のことを重要視してはいない。目的を果たすための手がかりとして増やしているにすぎず、充てにしているわけでもない。
だから、通常であれば墓を暴いて腐った肉を食していると見せかけるような絵面も必要はない。
けれども、念には念を入れて、せめて竈門兄妹が力をつけるまでは気づかれぬよう細工をしてやりたかった。
傷んでそこかしこが土に還り始めている、小さな手に辿り着く。
ラシードはそっと手を伸ばして、その手を両手で握った。禰豆子からもした、竈門家以外の者の匂いが残っている。
最終的に判明したのは、家族全員が──ただ食欲を満たすために殺されたのではなく“増やすため”に襲われたのだとわかった。鬼にする為の痕跡が、しぶとく残っているからすぐにわかる。
冬の凍てついた土の下で朽ちる血肉の陰で、その細胞は死を拒むかのように潜んでいた。
「生き汚いって言われても文句言えないな」独り言ちて、口に咥えていた紙にその細胞を吸わせる。六人分全てにそれを行えば、ここからは、ラシードの本領発揮だ。
鬼の頭目に対する眼くらまし──もとい、鬼狩りたちのうっ憤晴らしとして盛大な悪戯を仕掛けてやる。
るんるん、と鼻息交じりに墓を元の通りにして、ラシードは懐から取り出した小刀を抜き、柄ではなく刀身を握り込んで竈門家の敷地を歩いた。
ぽたぽたと滴る自分の血で範囲を指定するように、元の場所まで時間をかけて戻る。それから、玄関先に膝をついて──「何を始めるつもりだ」
顔をあげると、左右で羽織の模様の違う人影が、首を傾げて佇んでいた。鱗滝の弟子の一人で、炭治郎と禰豆子に何かを見出した、冨岡義勇その人だ。
気配には気付いていたが、まさか顔を出してくるとは思わなかったから密かにびっくりしつつ、歓迎する。
「いいところに来たな! 手伝ってけよ!」
「まず、その手をなんとかしろ」
大股で寄ってきた青年が素早く手拭いを巻いてくる。せっかく綺麗な手拭いなのに、勿体ない。
小刀を取り上げた義勇が、すっと立ち上がってその場で刀を抜いた。切っ先をラシードの鼻先に向けてくる。
勝手知ったるとはこの事か。やろうとしていることを言わなくても理解してくれるとは。
「竈門禰豆子の存在を一時的に忘れさせるには、それに代わる鬼の存在がいたと錯覚させて、それをお前が斬ったことにすればいい」
「無事、辿り着けたということか」
手首に垂れて来た血で、手の甲に頭、腕に胴と書いて、書かれた方の手で紙を握る。
竈門兄妹が鱗滝の元に辿り着いたことを、感慨深い様子で口にした義勇は、小さく反応を見せただけでそれ以上の事は聞いてこなかった。