異国人設定ですが、外見は日本人と大差ないので和名でも問題ないです。
第一章:彼らの育手。
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「俺も炭治郎もそのうちここから出てくんだぞ。俺なんか日本から出てくかもなんだからなー」
毎度の返事に、つれないねぇ、と奥方は笑い飛ばすのだ。これは最後には泣き落としにかかられそう。
「ほら、お子ちゃまども! そろそろ帰り支度しろよ!」
「今日もにいちゃんたち、送ってってくれるのー?」
「だっこしてー」
おんぶーだっこーと強請るお子様達は、山の麓の集落に住んでいる。
炭治郎は小さい子供の面倒見が本当に上手かった。たまたま山菜配りに歩いていた際にぐずっていたのをあやしてから、気づけばこんなに大所帯に。
けれども、実際はこの状況に大変助けられてもいた。
眠り続けている禰豆子が気になってぼーっとするくらいならば、守れなかった家族を連想させるとはいえ、前向きにさせておいた方が良い。
「はいはい、近いやつから順番にな」
おんぶ紐で、しゃがんだ炭治郎の背中に子供一人を括りつけ、荷車にそのほかの子供たちを乗せる。
そして、炭治郎がそれを引いて歩き出した。順番に送り届けて行くのだが、帰り道には持たされる土産を積んで帰ってくる不思議。
「しろー、なんで送りも迎えも炭治郎にいちゃん、お喋りしちゃいけないの?」
荷車を引いている最中、炭治郎には呼吸に専念させていた。苦痛を和らげたり、傷を早く癒すような効果のある呼吸。じっとしている時はそれに集中出来るが、何かをしながら行う事も今後必要になる。
本当はお喋りしながらも出来るようにすべきだが、いきなり難易度を上げたところで意味はない。
「炭治郎はな、“山の神様”に会いに来てるんだよ」
そう言ってやると、子供たちの中の年長組は納得した顔をする。
鱗滝が鬼を狩る術を持っていることを知っているのかもしれないし、知らないが“自分達の家長が絶対の信頼を向けている相手”の下に時々少年たちが集い、稽古をつけてもらっているのを知っているのだろう。
「山の神様に会いに来てる──って、まるでお参りだね」
「あながち間違ってないだろ。行くのが昼夜逆転するけどさ」
帰り道、荷車を引くラシードの隣を歩きながら、炭治郎はお手玉をひょいひょい操りながら歩く。時々お手玉を追加で放り込んだり邪魔をしながらだ。
「まだ走ったりしたらダメなのか? 歩く歩幅も早さも、言われた通りにしているけど」
まだ夕陽には早い時間帯。鱗滝の家に着く頃には空は真っ赤になるのだが。
ラシードはうーん、と一つ唸って。
「それじゃあ、炭治郎。走って帰って米研いどいて」
あっさり言い放ったからか、炭治郎は一瞬きょとん、となったがどこか嬉しそうだった。喜びの笑顔で走っていく後ろ姿を見送る。
本人は気づいているのかはわからないが、初対面の頃より早くなっているのを確認して、安堵の息をついた。
荷車を壊さない程度の速度で走りながら、炭治郎の後を追う。
そろそろ鱗滝に戻ってもらいたいところだが、そうでないならば夜の山を走らせる段階に入っても良さそうだ。体力づくりは始めさせても問題ないだろう。
新年を迎えても帰ってこない家主。寄り道でもしているのだろうけど。無事ならばいいのだが。音沙汰がなさすぎる。
信頼され過ぎてやいないか。このままでは、ラシードが炭治郎の師匠になってしまうぞ。焦ろ、鱗滝左近次。
──ふと、視線を感じてラシードは足を止めた。
木陰に、小さな影がいる。あちらは気配に気づいてもらえたことに安堵したのか、ぺこりと頭を下げて、山に入っていった。
炭治郎のお節介は、いい方向に向かったらしい。
気を取り直して歩きだす。「良かったじゃん、元気そうだ」小さくぼやくと、「そうだな」と背後から声。
天狗面の老人が、隣に並ぶようにして着いてくる。
「慈悟郎に会ってきた。お前の言っていた弟子というのは、あのおどおどした子供の事か」
「おどおど? いやーうん、まあ、臆病といえばそうかもしれないけど」
ラシードは首を捻る。他人をなかなか信用しないだろう堅物、あれをおどおどと表現できるだろうか。