異国人設定ですが、外見は日本人と大差ないので和名でも問題ないです。
第一章:彼らの育手。
名前返還指定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「お社が壊されたから?」
「山伏っているだろ。全てがそうってわけじゃないんだけどさ、視えないくせに力ばかり強いやつってのは質が悪い。更に異質なものに対して過敏反応する奴は最悪だ」
呆れた様子で肩を落とすラシードの話を要約すると、鱗滝が狭霧山に来る前に、そういう人がやってきて、強すぎる守り神に勝手に脅威を感じて攻撃してしまったらしい。
こういった場合、祟り神になって災厄の種になることが多いらしいのだが、狭霧山の神は優しかった。
誰も災いを被らずに済んだけれど、今まで遭難しかければ化生が化けて出て道案内して助けてくれたり、事故に遭いかければ弦が伸びて助けてくれたり、動物が助けてくれたりといった加護も失われた。
わんわんと泣いていた化生。みな何か起きたとすぐにわかったらしく、問題を起こした原因をすぐに割り出したりした事も要因であったのかもしれない。
辿り着いた、立派なお社は詫びの形のようだった。けれど、炭治郎にはそれが空っぽであることが、なんとなくわかる。
「謙虚過ぎなんだよなあ」
「謙虚?」
「こっちの話。さ、お供えしたら、元の場所にも案内してやる。行ってみたいんだろ?」
ラシードは、炭治郎にお供えの準備を任せてお社の掃除をして整えてくれる。
少し豪勢に盛った膳は二つ。炭治郎の住んでいた雲取山、ヒノカミ様の分だ。
「──これが?」
そのあと、案内された場所には木の棒に幣の着いたものが、突っ立てられているだけの場所。
いや、棒は折れていて、根本しか刺さっていないけれど。
これは、壊されたというより経年劣化で壊れたのでは。山伏は直そうとしただけなのでは。
抱いていた印象とかけ離れた現実を前に、炭治郎は黙りこくる。
神様って寿命とかあるのだろうか。もしかして真相はそういうものなのでは。
「それは身代わりになったせいだな。毎年新しいのにしてたから劣化ってことはないからさ」
「山伏が何かしてしまったというのは紛れもない事実ということ?」
うん、と頷くラシードに根拠を問いたいところだったが、炭治郎は視界の端に小さい影を認めて目を向けた。
山頂に近づくほど木がなくなっていく。一つ、木陰からそっとこちらをうかがうような影がはっきりとわかった。
不安そうにしているから、怖がられているのかもしれない。
「どうしてこんなところに子供が。なあ、一人じゃ危ないぞ!」
「……俺たちみたいにお供えしに来た里の家族だろ。驚かせて足滑らせるとかのほうが問題だ。追うなよ」
駆け出しかけた炭治郎は、ラシードに捕まえられた。
木陰から慌てて新しい社の方にかけていく子供の陰を見送る。大丈夫そうだ。
炭治郎は、折れて泥まみれになった幣のついた棒を、両手で持ち上げる。
「これって、あの新しい社にもっていってはダメなのかな?」
振り返ると、びっくりした顔でラシードが固まっていた。
あれ、もしかしてこれって駄目なことだったのだろうか。炭治郎は手に持った幣を、下ろすべきなのか迷う。
なんとなく、このままではいけないような気がした。寂しい。
「さすがは雲取山の加護持ち……障りを防ぐのか」
「籠屋じゃないぞ、炭屋だ!」
良く聞こえなかったが、間違いは訂正しなくては。炭治郎がむんっと言い返すと、ラシードは破顔して。
彼は荷物の中から絹の肩掛けを取り出して、それで木の棒をくるくると包んでしまう。
さすがに布の質の良さくらいわかる。炭治郎は震えた。とっても高価なものだ。自分のわがままに付き合わせてしまった。
「神様も贔屓ってのはいるんだろうな。この幣は毎年つける人間を変えるからさ。一等大事なのかもしれない」
鱗滝が来る前ということは、千夜の話からすると二十年以上は経過していると思われる。
ずっと野ざらしだった
新しい社の前には、ラシードが言ったように数人の里のものがいて、千夜たちもいる。
炭治郎が元神籬を社の中、邪魔にならない場所に置くのを、誰も文句を言わなかった。ただ、何をしているのだろうか、と不思議そうにしていたけれど。