異国人設定ですが、外見は日本人と大差ないので和名でも問題ないです。
第一章:彼らの育手。
名前返還指定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「俺の踏んだ場所を踏め。少しでもずれたら今みたいな目に遭うぞ」
「は、はい!」
炭治郎は慌てて返事をした。ラシードと炭治郎の歩幅は違う。山を登りながら、しかも彼が踏んだ場所を踏まねばならないともなると、大変そうだ。
何より、辺りはまだ暗い。おまけに数歩は距離を開ける事になる。しっかり見ていないといけない。気を抜いたら罠にかかる。
すると、いつの間に用意していたのか、ラシードが提灯を手渡してきた。これで、足元を見るための手段が確保された。
それに、歩幅を合わせてくれているのか、炭治郎は本当に、先導の踏みしめた場所だけを見ていればいいだけになる。
「ちゃんと出来てるじゃん。わかってないかもしれないけど、一応これは鍛錬になってるからな」
「鍛錬に?」
びっくりして顔を上げる。足元見なさい、と怒られて、慌てて目線を下げた。ここだぞ、と見落としていた場所を再度踏んで教えてくれる。優しい。
気を遣ってもらっているな、申し訳ないな、という炭治郎の気持ちを嗅ぎ取ったのか、ラシードは種明かしをしてくれた。
歩幅を合わせて貰っていると思っていたが、気づけば少しずつ、ラシードの歩幅になっていた。一生懸命に踏むことだけ考えていたし、そのせいで歩く速度がゆっくりになっているのにも気づかなかった。
言われてみると大股になっていて、驚いたものだ。
「すみません、ご来光に間に合わないですよね」
「間に合うわけないだろう、俺たちは登ってるんだぞ。というより、別にご来光の為に登ってるんじゃないからな」
それなら昨晩のうちに登ってるよ──笑い飛ばす少年に、炭治郎は自分が勝手に勘違いしていたことに気付く。
夜明け前に出るとは聞いていた。だから勝手に、陽が昇る前に目的地に着きたいのかと思っていた。
「山頂は空気が薄い。暗い中行く場所じゃないからさ。今日の目的は、安定感の改善と呼吸の訓練だ」
普段、人はそれぞれ無意識に、安定感からくる歩幅で動いている。少し不安定であっても人はそれを調整できる平衡感覚を持っているが、めったに使うことはない。
今、炭治郎はラシードの歩幅で歩き、自分が気づかなかったくらい安定した動きで山の中腹まで続けてきていた。持っていた平衡感覚を使っていたのだ。
そして呼吸の訓練。ラシードは炭治郎の呼吸も聞き分けて、彼から習った回復の呼吸を無意識に使わされていたらしい。
「言われてみると、俺、疲れてない……?」
「いや、実際は疲れてるんだけどな。持久力はあがってるはずだし、使ってなかったいろんな機能が総動員されてるから、まあ、疲労度はそんなにないだろうな」
よくわからないと首を傾げると、ラシードは竹筒に入った水を差しがしながら、「少し強くなったと思えばいい」と苦笑いした。
わかりやすい。
「奥宮といっても、山頂ってわけではないからさ。昔のはもっと上の方だったけど壊されたから」
「壊される? そんな不届きな人が里にいるのか?」
祀られている神様を蔑ろにするなんて、なんて罰当たりな。
水を飲んで喉が潤った炭治郎が眉を吊り上げると、話題を広げてしまったな、と頬をかいたラシードが、岩場が多くなり始めた木陰──恐らく休んでも大丈夫な場所なのだろう、腰を下ろして、ここに座れと手招きしてくる。
狭霧山だけでなく、山に人が立ち入れば例え標高が低くても人は遭難することがある。事故も当たり前に起きて、命を落とす事も良くあること。
けれど、ここ、狭霧山ではそんなことはほとんどなかったという。
「狭霧山には守り神がいるって言ったな。それは、狐の面をつけた小柄な化生らしい」
この守り神というのは、千夜の旦那を始め、猟師たちには広く知られているし、肝試しで山に入った子供たちも昔はよく見ていたという。
けれど、鱗滝が狭霧山に居つくようになる前、その化生がわんわんと泣いているのを多くの住人が目撃した。
それからは、山でも不運なことが起きるようになった。あの化生を誰も見なくなってから。それまでは、事故も遭難も、なかったのに。