異国人設定ですが、外見は日本人と大差ないので和名でも問題ないです。
第一章:彼らの育手。
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「ネズはいい娘じゃん。お前の事も大事にして、健気だし。俺が貰ってやったっていいくらいだし」
鬼になっても人を食べないで我慢できる器量よしだぞ、優良物件過ぎ──ラシードが沢庵を口に放り込みながらぼやいた。
炭治郎はぽかーん、となって相手を見つめる。
今、俺は、妹をください、と言われたのではないだろうか。しかも、とっても妹の事を評価してくれた。単純にうれしい。
途端、ハッとした顔でラシードが背筋を伸ばす。
「いや、今のは深い意味では……あの、お兄様、今のはなんでも……」
「ありがとう! なんか、ちょっと楽になった!」
まるで求婚の申し出をしたような体になったことを自覚したのか、しどろもどろになるラシード。
炭治郎は堪らず笑い出して、微妙な顔で黙りこくっている少年に一言詫びてから、礼を言う。
「なんにしても、俺にはまだ結婚とか考えられないよ。また、千夜さんに何か言われたらちゃんと断る」
「いや、しばらくはないと思うよ。外堀埋めるのあの二人上手いぞ、何人の夫婦作ったと思ってんの」
遠い目をするラシードの言う意味はわからないが、ちゃんと話せばあの二人もわかってくれるはず。
意気揚々と食事を再開する炭治郎を憐れむような顔で見る眼差しが一対あったが、彼は一つ長く息をついてから、そうだ、と声を上げた。
「明日は陽が昇る前に家を出るぞ。祠じゃなくて、直接奥宮に供え物に行くから」
行けるよな? と訪ねてくるラシードに、炭治郎は食器を置いて、少し体を動かし、頷く。
「ちゃんと着いていけるようにする。よろしくお願いします!」
「よし、いい返事」
白い歯を見せて満足そうな笑みを見せる相手。炭治郎は座って食器を持ち直しながら、ちらりと盗み見る。
ラシードは、不思議だ。病で亡くなった父と、鬼に殺された母と──家族と話をしているような気分になる。
ずっと自分の事を見守ってくれていたような、安心感というか。
兄というものがいたら、こんな感じなのだろうか。
炭治郎は長男だ。山を下りれば少し上の子供もいたけれど、甘えられるような間柄ではなかった。
誰かに甘える、というのはどういうものなにかちょっとわからないけれど。父親にするようなものでいいのかな。
不思議そうな顔で小首を傾げている相手に、なんでもない、と炭治郎は笑った。
多分、この人物は炭治郎が突然甘えても、迷惑には思わない気がする──。
自分も荷物を持ちたい──駄々を捏ねた半刻前の自分を、ダメ、と頑なに止めてくれたラシードにお礼を言いたい。
炭治郎は、縄に足首を取られ吊るされた状態で、「派手にはまったなあ」と笑っている少年を見下ろし──いや、目線としては見上げているのか。
「そうだった。この山は罠だらけだった」
「思い出したなら結構。ちゃんと着地しろよ」
刀で縄を斬り、炭治郎は開放された。つい先日、山を下りて来た時にはこの辺は罠がなかったはずなのに。
増えている気がする。
ということはもしかすると、あの時炭治郎が発動させた罠の数々も仕掛けなおされていたりするのでは。