異国人設定ですが、外見は日本人と大差ないので和名でも問題ないです。
第一章:彼らの育手。
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年の離れた夫婦のようだが、二人ともお互いの事をよく気遣っているのか、円満だというのは見ても匂いでもわかった。
「お前が来ないと仕事が進まないと、ばあ様たちがしびれを切らせて待っているぞ」
「あらやだ、そんなに長居したかしら。炭治郎君、ちゃんと考えておいておくれよ!」
慌てた様子で、千夜がぱたぱたと出ていく。それを見送った男──鱗滝よりは若いくらいの年齢か──が、眉尻を下げて詫びてきた。
言葉数の少ない男性だが、とても周囲を気遣える人物だ。どことなく気遣い過ぎて頼りなさげにも見えるけれど、猟師のまとめ役としてしっかり仕事はこなしている。
炭治郎はこういう性質の大人たちとはすぐに仲良くなれる。恐縮しきりの男に、慌てて首を振って気にしないでほしいと訴えた。
「自分の婚期が普通の娘よりずれた事で、少し後ろめたい気持ちを抱いていたらしくてな。娘に同じ思いをさせたくないようだ」
昨日、ラシードは千夜が戦で大切な人を亡くしたと言っていた。婚期のずれはそのせいだろう。立ち直るにも時間が要ったはず。
「私も妻を流行り病ですぐに亡くしてね。年の離れた弟の思い人に手を出してしまった。酷い兄貴だろう」
「お二人は、だからあんなに思いあっている匂いがするんですね。素敵だと思いますけど」
気づかわし気な顔の炭治郎に、男は少し目を丸くしてから、くしゃっとした笑みを見せた。
くたびれていながらも、しっかりとした大きな手が少年の小さな頭をよしよしと撫でる。ああ、懐かしいな。炭治郎は思わず照れた。
「鱗滝さんと同じで、鼻が利くのか。今のは、いい話を聞いた。そうかそうか」
自称、千夜や亡くなった弟に対して酷い兄貴だろうと名乗った人物は、肩を揺らして千夜の消えていった先へ去っていった。
今のは言わないほうがよかっただろうか。思わず口に出してしまったから、止められるものではなかったけれど。
昔からよくやってしまうのだ。思ったことを口にすること。
悪い事にはなったことはないのだけど、迷惑だったろうか。
「でかした、炭治郎!」
迎えに来たラシードと家に戻ってから、夕食時に失敗談として相談したら、めちゃくちゃいい笑顔でラシードに褒められた。
鱗滝の立場から言うのもダメで、ラシードもいうわけにはいかなかったらしい──というか、ラシードも鼻が良かったのか──。あまりにも千夜夫妻に近しすぎて、事情を知っている人間では口にする意味がなかったからだ。
けれど、最近ここに来たばかりで、よく事情を知るはずもない炭治郎が言った。
鱗滝たちの人となりを知っている連中からしてみれば、他人の事情をぺらぺら喋るとかそんなことはしないとわかっているからだろう。
炭治郎は千夜の事はラシードから聞いていたけれど、それだけだったから。
「あーあ、こうなったらお前覚悟したほうがいいよ。夫婦そろって婿に来いって始まりかねないからな!」
「ええ!? いや、それは困る、俺は禰豆子を嫁に行かせるまでは結婚するわけにはいかない!」
とんでもないことを言い始めるラシードに、炭治郎は思わずお椀を取り落としそうになりながら声を上げた。
その為には、禰豆子をまず人間に戻す方法を見つけ出す必要がある。それから、禰豆子を幸せにしてくれる相手を。
自分の結婚などまったく思い描けない。例えばそういう相手が見つかったとしても、炭治郎は求婚などという手段には出ることはしない。
それが相手への精一杯の炭治郎の誠実な思いだ。問題が解決するまで、待たせておくことなどできない。
「ネズが鬼でもいいって相手もいるかもしんないのに、お前重く考えすぎじゃないか」
「確かにいるかもしれないけど、鬼の禰豆子を守ってくれる相手でないと……」
禰豆子の首を斬ろうとした冨岡義勇は、自分たち兄妹を信じてくれたから見逃してくれた。
でも、他の鬼狩りの人はそうではないかもしれない。
禰豆子が目を覚まして、自我を取り戻せたとして、好きな相手が出来てその相手も鬼のままの禰豆子を受け入れたとしても、守れなければ禰豆子は殺されてしまう。