異国人設定ですが、外見は日本人と大差ないので和名でも問題ないです。
第一章:彼らの育手。
名前返還指定
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火の加減だけきちんと整えてから、ラシードは約束通り炭治郎を迎えに行った。千夜の家から鱗滝の家の中間くらいの場所で、一歩一歩、大切に積み重ねるように進んでいた少年が、照れたよう顔で迎えてくれる。
そのままお互いに無言で帰宅し、道中湯沸かしのことだけ告げておいたので、炭治郎は湯を沸かして身を清め、それから食事を執り。
「そういえば、子供たちみんなラシードさんのこと“しろう”って呼んでたけど、どうしてですか?」
六年前から日本にいるラシードは、それから生まれた子供たちを含めてこの辺一帯の連中とは顔見知りだ。
しょっちゅう顔を出すわけではないが、カタカナ名の人間なんて物珍しいのもあるし、自分の見た目から身内だと勝手に思われることも要因だが。
「お前にはそう聞こえたか。“白”だよ。昔ちょっと手助けした時からお子ちゃまどもがそう呼ぶようになってさ」
経緯を知らないものからしてみれば、四郎だとか志朗だとか人命に聞こえただろう。まあ、あだ名のようなものだ。言いえて妙だとそう呼ぶようになった年かさのものもいる。
この集落でラシードのことをラシードと呼ぶのは、千夜を含めて数人だ。
鱗滝は右京と呼ぶし。異国ではミドルネームだって存在する。右京の場合はミドルネームに該当させてもいいと思う。
「狭霧山の守り神は白い影なんだって。俺にそれを重ねてんだろうさ」
「俺も鬼殺の技を使いこなせるようになったら、そう呼ばれることもあるのかな?」
目をキラキラさせている少年を見ていると、まだまだ幼いなと微笑ましく思える。
炭治郎の場合は白い影──目にもとまらぬ速さだとかからは程遠い、どっしりと構えて見るものに安心感を与えるような戦いをしていく体つきだけど。
これからどう化けるか見ものだ。
「ラシードさんは、日本に来て数年しか経っていないんですよね? 鬼を知ったのはいつだったんですか?」
「懐かしい事思い出させるなあ。俺はオヤジの長男のツテでここを訪ねてさ」
日本に来て、まっすぐ狭霧山に来た。そこで、ボロボロの義勇と出会ったわけだけど。
異国人がどういう経緯で鬼狩りに携わるようになったのかなんて、そりゃあ気になるだろうな。
「鬼狩りになる為には試練ってのがあってさ。それを突破しないとなれないことになってるんだけど。ちょうど、義勇はそこから帰ってきた後でさ。包帯だらけなもんだから、うわあ痛そうって思ったっけ」
「とっても他人事だな。冨岡さんでもそんな時期があったのか……まあ、そうだよな……」
人は誰しも最初から強いわけではないのだから。
あっけらかんと軽い感じで笑い飛ばすラシードに、炭治郎は義勇に向けて同情の念を抱いたのか、神妙そうな面持ち。
六年前となると、炭治郎だってやっと両親の手伝いを少しできるようになった頃。とはいっても重い物は持ってやれない。
子供ながらにもっと両親や妹たちの為になにかできないかなと思考していたという。
「だから、禰豆子をはじめ、兄弟の面倒は俺が見なきゃ! って思ったんだ。子守ならば俺の小さな手でもなんとかなるからさ」
「そりゃあ親御さんたちも助かったと思うぞ。なんてったって、子供は何するかわからないからさ」
「わかる! 何が危険だとかわからないから気が気じゃなかった! 実はこの頭の傷は──」
炭治郎は家族の話を嬉しそうに教えてくれた。
もういない人間たちの話をすることは辛い事だろう。けれど、失った相手の話を、彼は“失ってから一度も口にできなかった”はずだ。
人が亡くなったら、哀しい。知っている相手ならば、寂しい。