異国人設定ですが、外見は日本人と大差ないので和名でも問題ないです。
第一章:彼らの育手。
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彼は拙い字で何事かを書付け、まず主たる膳を備えた後に、ヒノカミ様の膳を運んで行った。
炭治郎にとっての神様は、家族を守ってくれるようなものではなかったのだろう。彼にとっての神様は、恐らくは別の目的の上に、成り立っていた。
だから、なじるような神様ではないのだろうし、そもそも、炭治郎はそういう思考を持たないのかもしれない。まあ、人それぞれだけれども。
ラシードはその間もてきぱきと家事をこなして、炭治郎が戻ってしばらくする頃には朝餉を用意し終えた。
既に朝日は昇っていて、禰豆子の部屋をしっかり戸締りしてある。
「鱗滝さん、毎日お供えされているんですね。綺麗に整えられているし、雑草なんか見当たらなかった!」
「あの人会った事あるからな、狭霧山の神様に」
えっとびっくりした拍子に食べ物を喉につっかえさせた炭治郎。
水を差しだしてやりながら、ラシードは箸を進める。
その守り神は、今は不在にしているけれど。まあ鱗滝がいるから守り神の真似事だってなんとでもなる。
猟師の中には、鱗滝が何者か知っている者もいるし。
「今日は里の連中のところ回るから。気心でも知れた相手が出来たら聞いてみな──会った事あるやつは、割といるもんさ」
興味津々な様子の炭治郎が何か言う前に釘を刺し、さっさと食べ終えたラシードは隅のほうに陣取って道具を広げる。
先日、里の連中に捕まった際に薬を頼まれていたのだ。各家に配る為に分ける準備をしなくては。
他にも、お酒や調味料など、頼まれていた品を届け終えていないし。
こんな山奥ともなると、人はあまり外に出たりしないから、ラシードのように移動範囲が大きい存在は頼まれごとをすることが多いのだ。
「ラシードさん、薬の調合なんてできるんですか」
「お前も傷薬とか、簡単なのくらい覚えたほうがいいよ」
損な知識ではないからさ、と手招きして手伝わせる。まあ、下手な知識で間違った植物に手を出して大変なことになるとか、危険な事態を招くこともあるけれど。
この少年ならば、そんな間違いはなさそうだ。もしかすると、竈門炭治郎は──。
ふと、二人は顔を上げて入り口に目を向けた。外が騒がしい。誰かこちらにやってくる。
率先して立ち上がった炭治郎をしり目に、ラシードは大きく肩を落とした。こんなに朝早くに押し掛けるとか、せっかちが過ぎる。
戸口の向こうには老若男女が数名、列をなすように談笑し始めていた。
炭治郎の姿に気付いて、一番年若い女性が笑い声をあげる。
「一昨日、鱗滝さんの後を追っていた子供だよぉ。いやあ、久々だね。義勇くん以来じゃないかしら」
相変わらず目ざといな。ラシードはよいしょと立ち上がって、手早く拵えた小包をいくつか持つ。
目当てのものを手にした人だかりが、口々に礼を言って去っていく中、最初に声をかけてくれた女性だけは残った。
その女性は千夜といって、猟師を旦那に持つ、この界隈の中では若手に数えられる。とはいっても一番上の娘は炭治郎と同じくらいの年齢だが。
「すまないけど、子守を頼まれてほしいんだ。放っていくのは不安でね」
「ああ、年越しの準備か。男手はちゃんと足りてるのか」
なんだい、右京ちゃんから聞いていたのかい、恥ずかしいねえ──照れたような笑みの千夜が、問題ないと答える。
彼女からの申し出に諾と頷き見送ると、炭治郎が寂しそうな様子でぽつりとつぶやいた。