第1章 鬼舞辻無惨を認めなかった存在。
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よく見ると、普段は隊服でわからなかったが、よくもまあ隠の手伝いや鬼殺隊の中をくるくると走り回っていられたな──と思うような体格をしているのがわかる。
杏寿郎は、しげしげとティアのこと見やった。
異性という認識もしていたし、年頃だというのも知っていたし、好ましいとも思っている。
けれども、欲情するような相手かと言われるとそこまで考えていなかった。
仲間とかそういう感じか。はてまた、彼女は自分たちとは違う枠という認識が無意識下にあったのか。
兎にも角にも、今目の前で居心地悪そうにしているのは、紛れもなく一人の女子である。
「おかしいな。俺も男だ。その肌が透けて見える薄手の着物姿を前にして、据え膳云々の色欲を覚えないほど人間はできていない!」
「は、はあ」
真面目な様子の相手から飛び出したとんでもない発言に、ティアはあわあわしながらも頷いてくれる。
けれども、不思議なことに本当に、異性に興味でもなくなってしまったかのように“恋慕の感情”が湧かなかった。
前からだったのか。この夢の中だからなのかはわからない。
妙にそこが引っかかる。
うん、と杏寿郎はティアに決意を持った眼を向ける。「すまないが、頼まれてほしい」
その決意の強さに、動揺しながらも相手はこくこくと頷いてくれる。
「うむ! いつからかはわからんが、俺は異性に対する情緒が失われているようだな!」
一つわからないことが確定した。喜ばしいことだ。
清々しい気持ちになっている杏寿郎とは逆に、ティアの方は両手で胸元を押さえて項垂れていた。
白黒はっきりつけるためにはいっそ触れてみるのが一番だ。医師としての立場から、ティアも了承したとはいえ恥ずかしいものは恥ずかしいだろう。
「すまなかったな、ティア。まだ未婚の女性にこんなことを頼んでしまい申し訳なく思う! 責任はとるから、気にしなくていい!」
「……一つの重大な事実を前にそこまでポジティブでいられる杏寿郎でよかったです」
普通すごく落ち込む人の方が多いですよ──気遣わしげにティアが応じると、青年は不思議そうに首を傾けた。
鬼殺の剣士となって、もはや自身で家族を設けることは叶わないかもしれない──そのくらい覚悟は持っていた。
だから、子供を産む機能が失われた可能性を認識しても、一つの事実としか思えない。死ぬわけではないのだから。まだ鬼を狩れる。
「ただ、この夢の中だからという可能性はあります。戻ったら機能するかもしれませんので」
「勿論だ、頼りにしているぞ──話を戻すが、街の外壁沿いを調査したい。君は動きやすい隊服に着替え直した方がいい」
そう促して周囲の様子を確認してから、ティアを着替えさせる。杏寿郎は離れたところで人が来ないように見張りに徹した。
それにしても、自分は以前どう女体を見ていただろうか。興味がなかったことはないはずなのだが。不思議なものである。
これがボケの始まりだとでもいうのか。鬼と間違えて仲間たちをぶった斬るとかそんなミスはしたくない。
「お待たせしました。行きましょう──それと、」
「うん? ──ああ、羽織は役に立ったか!」
照れた様子で彼女の方にかけてやっていた羽織を返却される。
それを受け取ってばさっと羽織直すと、ティアは縮こまりながらはにかみを見せた。
「今流行りのエンパイアドレスっていって、腰を締め付けるコルセットというのをやめて、ハイウエストでリボンなどで縛ったりするものなんですが、生地に関しては過激なのもありまして」
だいたい、肩掛けやショールなどで補完するそうで、大変助かったのだと一生懸命教えてくれた。装束の構成は杏寿郎にはよくわからないが、役立ったというのがわかればそれでいい。
共に連れ立って、ひとまず街中から塀を伝う。
特に何もないが、途中の見晴らし台が妙に気になった。見張りが立つはずのそこに、人がいない。
「上りますか?」
「立ち回りが難しくなりそうだな。夢魔の倒し方なのだが、鬼と同じで良いのだろうか」
改めて尋ねると、ティアは頷く。
夢魔にとっては夢の中は有利だ。血鬼術で空間を支配する相手と似ている。
「杏寿郎は反転感覚にすっかり慣れたようですね」
「うむ。もう体中がしっちゃかめっちゃかだ!」
そう発言した瞬間、杏寿郎はハッとなった。ティアも同じなのか、唖然として、指差してくる。
「しっちゃかめっちゃか……? ええと、右手は今どこに……?」
「うむ……左腰だな」
「腰⁈ え、と? じゃあ、左足は……?」
「口だ!」
一つの驚愕の事実に行き着いて、ティアが言葉を失った。
杏寿郎が満足したら他の部分も感覚が反転する──のがもしも無制限ならば。つまり、不能になったと勘違いした場所の感覚だってどこかで機能していたかもしれない!
「よもやよもやだ! すっかり忘れていた!」
そして、一生懸命思い出そうとする。どこがあの時反応していたか。
だが、全く思い至らない。やっぱり機能してないのだろうか。
「ああもう、なんか気になってしょうがない! 杏寿郎、さっさと終わらせて出ましょう!」
話はそれからだ! と言わんばかりに訴えてくる。
色々吹っ切れたのか、ティアはやる気満々のようだ。色々と恥ずかしい思いをさせてしまったので少々心苦しい。
感覚反転に満足感を杏寿郎が覚えたら箇所が増える──ならば、満足した瞬間は想像するに簡単だ。