第1章 鬼舞辻無惨を認めなかった存在。
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『俺は炎柱の煉獄杏寿郎だ! よろしく頼む、ティア!』
『──っ‼︎ はい!』
距離を詰められ、ビクッとなった少女はそのまま後退し、玄関に背中をぶつけて痛がりながら勢いよく返事。
困惑と不安にいっぱいな様子で見上げてくる相手に、杏寿郎は苦笑。
『怖がらせてすまない。だが、あの守り神が俺に抱いてくれた評価をどうか、君にも抱いてもらいたい! そして、もっと彼らの話を聞かせてほしい!』
きょとん、となっているティアから一歩退く。逃げられてしまったから追ってしまったのだが、少々距離感を間違えたかもしれない。
けれど、なんとなくこのまま離れてしまったら別の意味で間違ってしまう気がして、杏寿郎は足を止めることが出来なかった。
実際、その時の行動は間違っておらず、今ではティアも杏寿郎のことを名前で呼んで懐いてくれている。
「杏寿郎、どこか怪我とかないですか? ちゃんと申請しておかないと損しちゃいますから、隠さないでくださいね」
準備が整ったと連絡があり──どうやって知ったのか杏寿郎にはわからない──並んで麹町の目的地に向かう。
ティアは申込書を手にしていて、器用に記入しながら尋ねてきた。
任務では無傷だったので、負傷や不調を感じるところはないと告げる。
自分で自覚していない部分に関しては、ティアが診てくれるだろう。
相手からは、満足そうな笑顔が返ってくる。
「うん。問題ないみたい。でも、どうしたんですか? 合間に参加したいなんて突然に」
「変わった血鬼術をつかう鬼でな。鏡のように左右の感覚を反転させるというものだったのだ」
相手がまだ血鬼術を使いこなせていなかったのが幸いしたのだが、咄嗟とはいえ杏寿郎は危機感を抱いたのだ。日頃鍛錬しているとはいえ、利き腕とは別の腕を鍛える必要がもっとあるのではと思い至った。それだけではない、足が手になったりすることも今後あるかもしれない。
決して努力は裏切らないから、早めに少しでも鍛えたく思ったのだ。
「フランソワさんの得意分野ですね。問題なくいけると思いますよ」
「そうか! では、彼が同行してくれることになりそうだな!」
目的地──華山会館に着くと、ティアは門前で塀を変わった拍子で叩く。すると、扉が内側から開いて、ひょこっと男が顔を出した。扉の側で寝そべって首だけ挙げているような感じで。
「いらっしゃいませ、お客様。お待ちしておりました」
「人面さん、お散歩から戻っていたんですか?」
「ティアちゃんか。今日もスカートじゃないのか……」
舌打ちをかます男の顔が残念そうに歪む。
人面の魂胆を理解した杏寿郎がむう、となるのと、スカートなんて久しく履いてないですねぇと呑気に返事をするティアとで反応が異なった。
杏寿郎が先だって扉をに手をかけると、人面がさっと中に入っていく。外側に開け放つ構造のため、外から見えない位置まで下がる必要が相手にはあった。
犬の胴体に、人間の頭。人面犬の男。
毎度その姿を見るたび、これはどういう構造になっているのだろう、と杏寿郎は疑問を抱く。これはどういった経緯でこうなったのか。
まさか、女性のスカートの下を正当な理由で覗くためとか、そんなことではない──と思いたい。
「おい、煉獄の小僧。お前、たまにはティアちゃんに袴でも履かせてみろよ見繕えよ、お前にもついてんだろ、ちんけなんだか立派なんだかは興味ねえが」
「それは名案だ! 善処するが、あなたにお披露目する気はないな!」
バチっと視線が交錯する。
ティアは扉を閉めてパタパタと奥に進み、受付と札のかかった部屋をノックしていた。薄暗かった室内が、パッと明るくなる。
外からは想像できないほど高い天井を伴った大広間が姿を現した。
ここが、変わったスタッフたちが巣食う株式会社鹿鳴館の本社であり、彼らの住処だった。
ここは外からの呼び出しに内側から開けて貰うか、鍵がない限り辿り着けない仕組みらしく、普段は本当に華山会館として限られた身分の連中が使用する会場だ。
ティアのような化け物枠が、身を寄せ合っている場所、というわけだ。
「毎度、煉獄くん。いつもご贔屓に」
受付から顔を出したのは美女だったが、頭に釘が刺さっていたり、大きな傷をざっくばらんに縫い付けた痕が残る。自分で自分を改造しているそうで、もとは男性だったとか。
杏寿郎はここを妖怪の世界のように位置づけていた。そんな中でティアは一見普通なのでよくわからなくなるが、まあ彼らは自分たちの脅威になることはしてこないと判断している。
何より、彼らは普通と化け物の立ち位置をそれなりに線引きできている理性を保つ連中。時にはティアのように“普通”の人間を守ってくれる。
「ご無沙汰していたな、フランソワ。突然押しかけて申し訳ない!」
「構わないよ。こっちも人手は欲しいからね、社長がサボり気味だから正直、鬼殺の連中の参加は願ったり叶ったりなのさ」
弱いのはごめんだけどね──フランソワはそういって笑うと、ティアの持っていた申込書に許可印を押し、杏寿郎に木札を差し出す。そこには205と書かれていて、これが会場番号であった。
「ちょうど先日、宇随くんも来てね。聴覚を遮断して欲しいってんでそういう調整をしていたんだよ。今回の君の要望の感覚反転も面白い試みだ。楽しんで行っておいで」
「おや。フランソワが付いてくるのではないのか」
正直、間近で見学でもするのかと思ったのだが、違うようだ。
目を丸くする杏寿郎を前に、フランソワが豪快に笑った。