世間はバレンタイン企画で盛り上がる中ホラーネタを繰り出す
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5日目:進捗状況は良好につき
いつぞやのハロウィン企画では、確か楔チーム側が色々やらかしていた感じだったのに。
今回は、戦火チーム──ティアは悪くない──がやらかしてくれた。
突然アイドルグループの振り付け完コピ企画が勃発。ギルバード・デュランダルからの一報に、パトリックが台本を落としたくらい衝撃的だった。
「そんなに自分たちを追いこんで何が楽しいのですか?」とラクスが真顔で呟いたのは怖かった。誰が言い出しっぺかは知らないが、若手ザフトっ子が多い楔チームは閉口しつつも受け入れるしかなく。
基本はあちらがメインなので、こちらからは難関曲と優しい曲でそれぞれ余裕のある人間が参加する、で落ち着いたけれど。
残念ながら、こちらの人員は真面目というか感を詰めるというか。
「センターはやはりシンが良さそうですね」
「えー、レイの方がよくない?」
汗を拭きながら、端末の録画を覗き込む少年たち。水をラッパ飲みし終えたシンが、口元を手の甲で拭いながら眉を寄せて。
Grandeurの振り付けを、戦火チームと送りあいながら誰をどこに配置するか相談中なのである。
通話する方が早いのはわかっているが、現在自分たちはお化け屋敷企画の準備のために現場入りしてしまっている。下手なことが出来ない為、互いに音声は消しBGMと映像の状態で双方提出しあっているところだ。
「なんかさー、ルナがめちゃくちゃ気合い入ってるんだよね」
「お姉ちゃん、こういうミッション系好きだからなあ」
シンから空になったペットボトルを回収するメイリンが困った顔。その隣で汗を拭いながら、アグネスがいい加減な相打ち。
「そもそも、ルナマリアがしかけたんじゃないのー? 大方、社交ダンスでつまずいてるオルフェさん見たりしててさ。あの人真面目すぎるから?」
「ミーアがいたら相乗効果でそういうこともありえるだろうが、さすがにルナマリアもそんな嫌がらせじみたことはしないだろう」
レイがここにいないルナマリアを擁護してくれたのだが、実際はコノエ艦長が起爆させたとはいえルナマリアの提案である。
そんな後輩たちを横目に、ラシードはラクスたちと顔を突き合わせながら、本来のお化け屋敷企画の最終調整に入っていた。
ステラとリオンからの情報をもとに、戦火チームのメンバーを泣かすにはどうするべきか若手に色々案を出してもらった。
それらを取りまとめて企画に反映させていくのは、ダンス一曲分にしか参加しない勢がやるべきということで、この配置である。
「お化け屋敷とはいえ、機動戦士ガンダムSEEDの世界観を壊すような安直なことはしたくありません」
「恐らく、あちらはそこまで用意することは難しいだろうからな。こちらだけでも企画に見合う形にしなければ」
ラクスとカガリの言に、パトリックも頷く。
「戦火チームの面々は簡単なことでは泣きはしないだろう。その点、ニコル・アマルフィの提案は我らにとって目の覚めるものがあった」
「恐縮です」
照れた様子で一同の視線を受けるニコルの頭を、ディアッカがよしよしと撫でた。
「ラシードの提案したオチは、なかなか客層を選ぶからな。確実に泣かしにかかってるから根管は間違いねえけどよ」
「誉め言葉として受け取ってやる」
対して、ラシードに向いてくる視線はドン引きだ。
「お前ってほんと、目的と結果が一貫してるよな。悪い意味でも」
「……相手を泣かすのが前提って決めた奴らに文句言ってくれよ」
ミゲルからの指摘に、ラシードはぐっと詰まった。戦場で生き抜くためには取捨選択が大事だったのだ。こればかりは癖です。ごめんなさい。嫌だったら止めてくれよ。
「僕はラシードの案はすごくいいと思うよ。多分、ハマる人たちには絶対ハマる」
「恐らく常時設営可能な範疇だし、要素の変更もやりやすいからな」
ラシードの提案に納得しているからか、何でそんなに問題にされているのかとカガリとリオンは首を傾げている。
そんな脳筋グループを前に、ラクスとミゲルは首を左右に振って肩をすくめた。その背後で、ヴォルトとその兄であるカーグは我関せずを貫いている。
ここまで決めてしまって実際進行もしてしまっている。ラシードは「はい、御託終了!」と号令をかけた。
「それじゃ、easy、normal、hardの三段階の設定で決まりだ。分岐の判定パターンは、ジュール隊とミゲル、特務隊に任せたぞ」
「おう、任せとけ!」
ディアッカが端末を持って、ミゲルと共にイザークを除く隊のメンバーのもとへ向かっていく。主に彼らが舞台設営をジブリールたちと共に担ってくれているのだ。
「恐らくティアは出てくるから、これで一人確実に泣かせられるな」
「そうですわね──それでも、アスランや自由編参戦のオルフェさんたちがどうなるか読めないのが痛いですわ」
そうなんだよなあ、とカガリが腕を組んだ。
戦火チームは、除外対象となった、キラ、ハインライン、イザークを除き、“泣かせる”という点に関して不確定要素が多すぎるのだ。ラウ・ル・クルーゼが実況で抜けようが抜けなかろうが、状況はあまり変わらない。
「楔チームなんか予想しやすいもんなあ。勝手がわかるっていうか」
「リンドヴォーグがオルフェたちのことはわかるんじゃないの?」
そこで、カガリの隣で大人しくしていたリオンが、ラクスの付き人のように寄り添っている彼女の幼馴染その1を名指しした。ヴォルトが横目で、無表情の兄を見据えている。
ラクスが不安そうな顔で幼馴染を見上げると、カーグは首をゆるゆると振って。「私は施設を早くに脱走してしまっていたので」と彼らの人となりを把握するほど認知できていないことを明かす。
「まあ、アスランとイザークだと難しいでしょうが、normalかhardで大半の方は泣くと思いますし」
しんみりとしかける雰囲気を、パンと手を打ったニコルが変えた。
それを受けて、ヴォルトが深く頷く。
「本当、normalの時点で鬼畜の所業だしね」
「ヴォルトお前、提案した時真っ先に賛同してたよな?」
まさかの手のひら返しにラシードが素っ頓狂な声を上げると、ヴォルトは聞こえない振りをしながら「僕も振り付け練習しなきゃ~」と逃げていく。
ちくしょう、いい逃げ道だな。本当に完コピ企画言い出したの誰だよ。
「ラシードは振り付け、覚えたんですか? 貴方もシンたちと同じで2曲参加でしょう?」
ニコルに問いかけられて、ラシードは言葉を濁す。実は、もうどのパートも覚えちゃった、とは言いずらい。
後はどこのポジションになるか決まればいいだけだ。全体がおかしくならないようバランスを整える場所にしろ──とだけはシンとイザークに伝え済である。
「ニコルは参加しないのか? イザークたちが面白い事しようとしてるんだから、混じってしまえばいいのに」
カガリの提案に、リオンが大きく身を乗り出して頷いている。
実はザフト一同で歌って踊ることが決まっているものがあるのだ。SEED世代の人物がそれに混じるとなったら話題をかっさらうに違いない。
「来週、コンサートがあるんです。万が一があってはいけないので」
「突発的な企画となると、そういうところが残念ですわ」
ラクスも同じような立場なので、参加はできないらしい。パプリカだか恋ダンスだか踊るような話は聞いているので、伴奏や歌い手で参加してしまえばいいとは思うのだけど。
こればかりはめぐり合わせだ。仕方がないだろう。
「ラシード、話まとまったんだって?」
そこで、シンが駆け寄ってくる。レイはヴォルトと振り付けについて相談を続けているようだ。手招きされたカーグが足早に向かっていくのに気づいたラクスも、倣って着いていってしまう。
「大筋は変わっていないが、細かなことは決定した。ティア君を完全に無力化する手筈だけは抜かりない」
「ええ……ティア狙いって、結構難易度低いって話になりませんでしたっけ?」
神妙な顔で迎えたパトリックからの返答に、びっくり顔で空いた席にシンは座る。彼はニコルの持つ端末を覗き込み、何やら操作しながら唸った。
「あっちはステラ以外の連合の連中がいるし、ブラックナイツもいるし。ミレニアムやアーク・エンジェルの面々も揃ってるんですよ?」
そうなのだ。登場人物的には向こうの方が豊富だ。
楔チームは運命までに登場したメンバーだらけで、ぶっちゃけ新しい顔ぶれがないから読まれやすい。
しかも、向こうには集団神隠しにあった連中がいる。
「超能力集団と霊能力集団なんて、企画以前にリアルお化け屋敷に違いねえだろ」
変な話、舞台設定なんて必要ない。特にシャニが全力で介入すればその場がお化け屋敷になり果てる。
戦場で大抵の地獄を見てきたラシードからすると、グロい感じとかは問題ないから、完全なる第六感の世界の介入に関しては泣く以前に途方に暮れるしかないのだが。
カーグから聞いた話からすれば、オルフェたちの独壇場になりかねない。彼らが仕掛け人として介入してくれば、こちらの弱みを容赦なく付かれて泣く連中が溢れるに違いないのだ。
最初から負け戦なのである。勝てると思って臨む構えでいたらもう終わりなのだ。
「パトリック……本当にお前、なんであのタイミングだったんだよ」
問えば、ニコルとシンも黙って総監督の事を見つめている。
両手を組んで、口をつぐんでいたパトリック・ザラ。ふっと息をついて。「なに、簡単なことだ」
「くじ引きで負けたのだ」
「ちょっとあのワカメの頭を毟って来る」この場で最年長に違いない男の頭を撫でこ撫でこしてから、昇降口に向かって踏み出す。
「いってら──ってダメだ、ラシード!」
見送りかけたシンは、間一髪でラシードの腰に引っ付いて相手チームへの乱入という一発退場フラグをへし折ることに成功した。
とても深刻そうに肩を落とすパトリックのことを、慌ててニコルが宥めている。運の悪さに関して、血は争えないようだ。
「ところで、わたし気になっているんだが」
目の前で起きた茶番劇を、リオンと二人して静観していたカガリ。彼女は現在、芸能事務所の社長としても手腕を発揮し始めているのでこのくらいではめげはしない。
「キラたちが外れたじゃないか。あれって、本当に確定事項なのか?」
「除外メンバーだろ。当然じゃんか」
シンが何を今更、と応じる。事前に聞かされていた当企画の前提条件。
相手チームのメンバーを泣かせた人数が多い方が勝ち。
挑戦者は三名。うち一名は相手チームが指定することも可能。
入れ替えメンバーは除外することが出来る。
実況メンバーは参加できない。
指折り数えながら反芻していたリオンが、あ、と声を上げる。
「挑戦者は三人から増えたよね。でも実際、何人まで増やしていいのかの明確なルールってどうなったの?」
「あ、オレもそれ、聞いてない!」
シンとリオンの視線を受けて、パトリックは口を真一文字にする。
「まず参加したい人数分の増員。それに加えどうせ、くじ引きかなんかで除外メンバーを復活させて、その人数具合で人数増減だろ」
落ち着きを取り戻したラシードが席に戻る。ステラが参加したいと言い始め、それが許可されたことまでで完結していた話題。
確信めいたラシードの視線を受けたパトリックが、声を潜める。
「前日まで伏せることになっている。内密で頼む」
「だろうな──お前、ステラに賭けてたな?」
「賭けというほどではない。まあ、わたしが言わなくとも、ラシードがその辺は追及してくれると思っていた」
ラシードの突っ込みに、パトリックがにやりと笑った。シンたちは思わず感嘆のため息をつく。
くじ引きで不利を被りながら、一縷の望みをお化け屋敷大好きなステラが駄々を捏ねることに賭けたのだ──これが、大人!
「御見それしました、ザラ監督!」
「アスランのお父さん、すごい!」
カガリとリオンがわあ、と感動しているが──復活権を振りかざしこういう企画を始めたのは確実にパトリックだ。ラシードは口に出しかけて、やめた。
それを悪質化させたのはパトリックではない。デュランダルだ。今晩でも顔面踏みに行こうかな──いや、だめだ、失格になってしまうかもしれない。
現在、楔チームで除外されているのは、ラクス、ヴォルト、メイリンである。彼女らはレイたちと振り付けの話で盛り上がっているから聞こえてはいない。
お化け屋敷対決前日に、阿鼻叫喚地獄に陥るかどうかは運しだいだ。
「そのくじ引きの件だが、その日は楔・戦火両チームとも合流したところでやろう」
「最終日ですよね、最終調整などでギリギリまでかかるのでは?」
ニコルからの慎重な問いかけ。うん、とラシードは頷き、カガリに指示を出した。
「お前、今からクルーゼに一報入れろ。振り付けのことも合同で調整する必要が出たから、七日目の昼までは各自現場。その後ミレニアム撮影ブースで合流にしないか、と」
わかった、とカガリが応じ、さっそく電話をかける。向こうから取り込み中の為一度切られるが、お互い連絡を取り合う為の前振りなので単なる合図だ。文面を打ち、一報を入れる。
是、との返事があったことを確認し、ラシードは声を潜めた。
「恐らく、これでクルーゼは前日に何かあることを察したはずだ。後は当日、必ずアナログで籤をやらせることに専念すればいい」
「あたりが1つで、はずれが2つとかなんだよな?」
シンが、不安そうな顔をしている。せっかくキラは免れたのに、確率が上がってしまったら不憫すぎるからだろう。シン自身もあまり得意ではないはずなのに、思いやりのあるやつである。
「そうとは言えなくない? ホラーが苦手な人を除外してるんだから、参加させた方がエンターテイメントとしては話題性はあるよ」
リオンの指摘に、シンが「やばいじゃん!」と呻いた。カガリもニコルも顔色を悪くさせている。こちらのチームには、ヴォルトとメイリンがいる。二人ともホラーが苦手だ。
「そこは、考えてある。神のみぞ知ることではあるが、参加と除外の二択のくじをそれぞれ引いてもらうようにするつもりだ」
パトリックも苦悶の表情。六人全員が参加することになる可能性もあるし、六人全員が参加しないことになるかもしれない。
更に、除外メンバーの参加人数の二倍を、相手チームは選出する必要があることになる予定だとも聞いた。楔チームが一人参加になってしまった場合、戦火チームは二名増員しなければならなくなる、というものだ。
「まあ、落としどころとしては妥当ですね」
「さすがパトリック、そこら辺考えてくれてたか」
ニコルとラシードからの賞賛の声に、パトリックは大きなため息をついた。ずっと一人で抱え込んでいたのだろう。明かす事なんて許されなかったはずだ。
こちらがたまたま気づいたから、こうして明かして貰えただけで。
「じゃ、これはラクスさんたちにはまだ内緒ってことだな!」
「そういうことだ。というわけで、ディアッカ達に後は任せて、私たちは振り付けに今日は専念しよう!」
ボロを出さないようにな──カガリの号令に、シンとリオンが元気に返事。運命編では二人は終盤まで反発しあう間柄だったが、ステラの一件でわだかまりが解ける間柄だ。
元々は、ステラの家が引っ越すまではお隣同士の幼馴染という間柄だったというが。
「ラシード、あなたの配置が決まりましたよ」
レイからの呼びかけに、ラシードは返事をしながら立ち上がる。
さて──七日後、キラたちは参加権を回避できるだろうか。
願わくば、何事も穏便に過ぎる事を祈る──。
いつぞやのハロウィン企画では、確か楔チーム側が色々やらかしていた感じだったのに。
今回は、戦火チーム──ティアは悪くない──がやらかしてくれた。
突然アイドルグループの振り付け完コピ企画が勃発。ギルバード・デュランダルからの一報に、パトリックが台本を落としたくらい衝撃的だった。
「そんなに自分たちを追いこんで何が楽しいのですか?」とラクスが真顔で呟いたのは怖かった。誰が言い出しっぺかは知らないが、若手ザフトっ子が多い楔チームは閉口しつつも受け入れるしかなく。
基本はあちらがメインなので、こちらからは難関曲と優しい曲でそれぞれ余裕のある人間が参加する、で落ち着いたけれど。
残念ながら、こちらの人員は真面目というか感を詰めるというか。
「センターはやはりシンが良さそうですね」
「えー、レイの方がよくない?」
汗を拭きながら、端末の録画を覗き込む少年たち。水をラッパ飲みし終えたシンが、口元を手の甲で拭いながら眉を寄せて。
Grandeurの振り付けを、戦火チームと送りあいながら誰をどこに配置するか相談中なのである。
通話する方が早いのはわかっているが、現在自分たちはお化け屋敷企画の準備のために現場入りしてしまっている。下手なことが出来ない為、互いに音声は消しBGMと映像の状態で双方提出しあっているところだ。
「なんかさー、ルナがめちゃくちゃ気合い入ってるんだよね」
「お姉ちゃん、こういうミッション系好きだからなあ」
シンから空になったペットボトルを回収するメイリンが困った顔。その隣で汗を拭いながら、アグネスがいい加減な相打ち。
「そもそも、ルナマリアがしかけたんじゃないのー? 大方、社交ダンスでつまずいてるオルフェさん見たりしててさ。あの人真面目すぎるから?」
「ミーアがいたら相乗効果でそういうこともありえるだろうが、さすがにルナマリアもそんな嫌がらせじみたことはしないだろう」
レイがここにいないルナマリアを擁護してくれたのだが、実際はコノエ艦長が起爆させたとはいえルナマリアの提案である。
そんな後輩たちを横目に、ラシードはラクスたちと顔を突き合わせながら、本来のお化け屋敷企画の最終調整に入っていた。
ステラとリオンからの情報をもとに、戦火チームのメンバーを泣かすにはどうするべきか若手に色々案を出してもらった。
それらを取りまとめて企画に反映させていくのは、ダンス一曲分にしか参加しない勢がやるべきということで、この配置である。
「お化け屋敷とはいえ、機動戦士ガンダムSEEDの世界観を壊すような安直なことはしたくありません」
「恐らく、あちらはそこまで用意することは難しいだろうからな。こちらだけでも企画に見合う形にしなければ」
ラクスとカガリの言に、パトリックも頷く。
「戦火チームの面々は簡単なことでは泣きはしないだろう。その点、ニコル・アマルフィの提案は我らにとって目の覚めるものがあった」
「恐縮です」
照れた様子で一同の視線を受けるニコルの頭を、ディアッカがよしよしと撫でた。
「ラシードの提案したオチは、なかなか客層を選ぶからな。確実に泣かしにかかってるから根管は間違いねえけどよ」
「誉め言葉として受け取ってやる」
対して、ラシードに向いてくる視線はドン引きだ。
「お前ってほんと、目的と結果が一貫してるよな。悪い意味でも」
「……相手を泣かすのが前提って決めた奴らに文句言ってくれよ」
ミゲルからの指摘に、ラシードはぐっと詰まった。戦場で生き抜くためには取捨選択が大事だったのだ。こればかりは癖です。ごめんなさい。嫌だったら止めてくれよ。
「僕はラシードの案はすごくいいと思うよ。多分、ハマる人たちには絶対ハマる」
「恐らく常時設営可能な範疇だし、要素の変更もやりやすいからな」
ラシードの提案に納得しているからか、何でそんなに問題にされているのかとカガリとリオンは首を傾げている。
そんな脳筋グループを前に、ラクスとミゲルは首を左右に振って肩をすくめた。その背後で、ヴォルトとその兄であるカーグは我関せずを貫いている。
ここまで決めてしまって実際進行もしてしまっている。ラシードは「はい、御託終了!」と号令をかけた。
「それじゃ、easy、normal、hardの三段階の設定で決まりだ。分岐の判定パターンは、ジュール隊とミゲル、特務隊に任せたぞ」
「おう、任せとけ!」
ディアッカが端末を持って、ミゲルと共にイザークを除く隊のメンバーのもとへ向かっていく。主に彼らが舞台設営をジブリールたちと共に担ってくれているのだ。
「恐らくティアは出てくるから、これで一人確実に泣かせられるな」
「そうですわね──それでも、アスランや自由編参戦のオルフェさんたちがどうなるか読めないのが痛いですわ」
そうなんだよなあ、とカガリが腕を組んだ。
戦火チームは、除外対象となった、キラ、ハインライン、イザークを除き、“泣かせる”という点に関して不確定要素が多すぎるのだ。ラウ・ル・クルーゼが実況で抜けようが抜けなかろうが、状況はあまり変わらない。
「楔チームなんか予想しやすいもんなあ。勝手がわかるっていうか」
「リンドヴォーグがオルフェたちのことはわかるんじゃないの?」
そこで、カガリの隣で大人しくしていたリオンが、ラクスの付き人のように寄り添っている彼女の幼馴染その1を名指しした。ヴォルトが横目で、無表情の兄を見据えている。
ラクスが不安そうな顔で幼馴染を見上げると、カーグは首をゆるゆると振って。「私は施設を早くに脱走してしまっていたので」と彼らの人となりを把握するほど認知できていないことを明かす。
「まあ、アスランとイザークだと難しいでしょうが、normalかhardで大半の方は泣くと思いますし」
しんみりとしかける雰囲気を、パンと手を打ったニコルが変えた。
それを受けて、ヴォルトが深く頷く。
「本当、normalの時点で鬼畜の所業だしね」
「ヴォルトお前、提案した時真っ先に賛同してたよな?」
まさかの手のひら返しにラシードが素っ頓狂な声を上げると、ヴォルトは聞こえない振りをしながら「僕も振り付け練習しなきゃ~」と逃げていく。
ちくしょう、いい逃げ道だな。本当に完コピ企画言い出したの誰だよ。
「ラシードは振り付け、覚えたんですか? 貴方もシンたちと同じで2曲参加でしょう?」
ニコルに問いかけられて、ラシードは言葉を濁す。実は、もうどのパートも覚えちゃった、とは言いずらい。
後はどこのポジションになるか決まればいいだけだ。全体がおかしくならないようバランスを整える場所にしろ──とだけはシンとイザークに伝え済である。
「ニコルは参加しないのか? イザークたちが面白い事しようとしてるんだから、混じってしまえばいいのに」
カガリの提案に、リオンが大きく身を乗り出して頷いている。
実はザフト一同で歌って踊ることが決まっているものがあるのだ。SEED世代の人物がそれに混じるとなったら話題をかっさらうに違いない。
「来週、コンサートがあるんです。万が一があってはいけないので」
「突発的な企画となると、そういうところが残念ですわ」
ラクスも同じような立場なので、参加はできないらしい。パプリカだか恋ダンスだか踊るような話は聞いているので、伴奏や歌い手で参加してしまえばいいとは思うのだけど。
こればかりはめぐり合わせだ。仕方がないだろう。
「ラシード、話まとまったんだって?」
そこで、シンが駆け寄ってくる。レイはヴォルトと振り付けについて相談を続けているようだ。手招きされたカーグが足早に向かっていくのに気づいたラクスも、倣って着いていってしまう。
「大筋は変わっていないが、細かなことは決定した。ティア君を完全に無力化する手筈だけは抜かりない」
「ええ……ティア狙いって、結構難易度低いって話になりませんでしたっけ?」
神妙な顔で迎えたパトリックからの返答に、びっくり顔で空いた席にシンは座る。彼はニコルの持つ端末を覗き込み、何やら操作しながら唸った。
「あっちはステラ以外の連合の連中がいるし、ブラックナイツもいるし。ミレニアムやアーク・エンジェルの面々も揃ってるんですよ?」
そうなのだ。登場人物的には向こうの方が豊富だ。
楔チームは運命までに登場したメンバーだらけで、ぶっちゃけ新しい顔ぶれがないから読まれやすい。
しかも、向こうには集団神隠しにあった連中がいる。
「超能力集団と霊能力集団なんて、企画以前にリアルお化け屋敷に違いねえだろ」
変な話、舞台設定なんて必要ない。特にシャニが全力で介入すればその場がお化け屋敷になり果てる。
戦場で大抵の地獄を見てきたラシードからすると、グロい感じとかは問題ないから、完全なる第六感の世界の介入に関しては泣く以前に途方に暮れるしかないのだが。
カーグから聞いた話からすれば、オルフェたちの独壇場になりかねない。彼らが仕掛け人として介入してくれば、こちらの弱みを容赦なく付かれて泣く連中が溢れるに違いないのだ。
最初から負け戦なのである。勝てると思って臨む構えでいたらもう終わりなのだ。
「パトリック……本当にお前、なんであのタイミングだったんだよ」
問えば、ニコルとシンも黙って総監督の事を見つめている。
両手を組んで、口をつぐんでいたパトリック・ザラ。ふっと息をついて。「なに、簡単なことだ」
「くじ引きで負けたのだ」
「ちょっとあのワカメの頭を毟って来る」この場で最年長に違いない男の頭を撫でこ撫でこしてから、昇降口に向かって踏み出す。
「いってら──ってダメだ、ラシード!」
見送りかけたシンは、間一髪でラシードの腰に引っ付いて相手チームへの乱入という一発退場フラグをへし折ることに成功した。
とても深刻そうに肩を落とすパトリックのことを、慌ててニコルが宥めている。運の悪さに関して、血は争えないようだ。
「ところで、わたし気になっているんだが」
目の前で起きた茶番劇を、リオンと二人して静観していたカガリ。彼女は現在、芸能事務所の社長としても手腕を発揮し始めているのでこのくらいではめげはしない。
「キラたちが外れたじゃないか。あれって、本当に確定事項なのか?」
「除外メンバーだろ。当然じゃんか」
シンが何を今更、と応じる。事前に聞かされていた当企画の前提条件。
相手チームのメンバーを泣かせた人数が多い方が勝ち。
挑戦者は三名。うち一名は相手チームが指定することも可能。
入れ替えメンバーは除外することが出来る。
実況メンバーは参加できない。
指折り数えながら反芻していたリオンが、あ、と声を上げる。
「挑戦者は三人から増えたよね。でも実際、何人まで増やしていいのかの明確なルールってどうなったの?」
「あ、オレもそれ、聞いてない!」
シンとリオンの視線を受けて、パトリックは口を真一文字にする。
「まず参加したい人数分の増員。それに加えどうせ、くじ引きかなんかで除外メンバーを復活させて、その人数具合で人数増減だろ」
落ち着きを取り戻したラシードが席に戻る。ステラが参加したいと言い始め、それが許可されたことまでで完結していた話題。
確信めいたラシードの視線を受けたパトリックが、声を潜める。
「前日まで伏せることになっている。内密で頼む」
「だろうな──お前、ステラに賭けてたな?」
「賭けというほどではない。まあ、わたしが言わなくとも、ラシードがその辺は追及してくれると思っていた」
ラシードの突っ込みに、パトリックがにやりと笑った。シンたちは思わず感嘆のため息をつく。
くじ引きで不利を被りながら、一縷の望みをお化け屋敷大好きなステラが駄々を捏ねることに賭けたのだ──これが、大人!
「御見それしました、ザラ監督!」
「アスランのお父さん、すごい!」
カガリとリオンがわあ、と感動しているが──復活権を振りかざしこういう企画を始めたのは確実にパトリックだ。ラシードは口に出しかけて、やめた。
それを悪質化させたのはパトリックではない。デュランダルだ。今晩でも顔面踏みに行こうかな──いや、だめだ、失格になってしまうかもしれない。
現在、楔チームで除外されているのは、ラクス、ヴォルト、メイリンである。彼女らはレイたちと振り付けの話で盛り上がっているから聞こえてはいない。
お化け屋敷対決前日に、阿鼻叫喚地獄に陥るかどうかは運しだいだ。
「そのくじ引きの件だが、その日は楔・戦火両チームとも合流したところでやろう」
「最終日ですよね、最終調整などでギリギリまでかかるのでは?」
ニコルからの慎重な問いかけ。うん、とラシードは頷き、カガリに指示を出した。
「お前、今からクルーゼに一報入れろ。振り付けのことも合同で調整する必要が出たから、七日目の昼までは各自現場。その後ミレニアム撮影ブースで合流にしないか、と」
わかった、とカガリが応じ、さっそく電話をかける。向こうから取り込み中の為一度切られるが、お互い連絡を取り合う為の前振りなので単なる合図だ。文面を打ち、一報を入れる。
是、との返事があったことを確認し、ラシードは声を潜めた。
「恐らく、これでクルーゼは前日に何かあることを察したはずだ。後は当日、必ずアナログで籤をやらせることに専念すればいい」
「あたりが1つで、はずれが2つとかなんだよな?」
シンが、不安そうな顔をしている。せっかくキラは免れたのに、確率が上がってしまったら不憫すぎるからだろう。シン自身もあまり得意ではないはずなのに、思いやりのあるやつである。
「そうとは言えなくない? ホラーが苦手な人を除外してるんだから、参加させた方がエンターテイメントとしては話題性はあるよ」
リオンの指摘に、シンが「やばいじゃん!」と呻いた。カガリもニコルも顔色を悪くさせている。こちらのチームには、ヴォルトとメイリンがいる。二人ともホラーが苦手だ。
「そこは、考えてある。神のみぞ知ることではあるが、参加と除外の二択のくじをそれぞれ引いてもらうようにするつもりだ」
パトリックも苦悶の表情。六人全員が参加することになる可能性もあるし、六人全員が参加しないことになるかもしれない。
更に、除外メンバーの参加人数の二倍を、相手チームは選出する必要があることになる予定だとも聞いた。楔チームが一人参加になってしまった場合、戦火チームは二名増員しなければならなくなる、というものだ。
「まあ、落としどころとしては妥当ですね」
「さすがパトリック、そこら辺考えてくれてたか」
ニコルとラシードからの賞賛の声に、パトリックは大きなため息をついた。ずっと一人で抱え込んでいたのだろう。明かす事なんて許されなかったはずだ。
こちらがたまたま気づいたから、こうして明かして貰えただけで。
「じゃ、これはラクスさんたちにはまだ内緒ってことだな!」
「そういうことだ。というわけで、ディアッカ達に後は任せて、私たちは振り付けに今日は専念しよう!」
ボロを出さないようにな──カガリの号令に、シンとリオンが元気に返事。運命編では二人は終盤まで反発しあう間柄だったが、ステラの一件でわだかまりが解ける間柄だ。
元々は、ステラの家が引っ越すまではお隣同士の幼馴染という間柄だったというが。
「ラシード、あなたの配置が決まりましたよ」
レイからの呼びかけに、ラシードは返事をしながら立ち上がる。
さて──七日後、キラたちは参加権を回避できるだろうか。
願わくば、何事も穏便に過ぎる事を祈る──。
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