世間はバレンタイン企画で盛り上がる中ホラーネタを繰り出す
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
2日目:ルナの暴走。
『──闇に堕ちろだあ? 勝手いってんじゃねえぞ、このバァーカ!』
クロトが吠えた。自由編冒頭より少し前の時間軸での撮影だ。
ブースデッドマンとしての人生から、奪われて、やっと手にした一握りの当たり前の重みを理解している彼らと、自由編の敵対陣営の相性は最初から悪い。
「クロトは……いつになっても落ち着きないな」
「この手の役柄は軽くこなすからねえ、一人足りないけど久々に歌っちゃう?」
一番遅くに取り掛かっている企画ものなのにこの熱の入り様──ムウとイザーク、目を丸くしてびっくりしている。彼らは少し前にユニットを組んで歌手活動をしたりしていたから、別の意味でも新鮮なのかもしれない。
(※実際声優ユニット組んでたしその深夜アニメもやってた)
旧連合運命編では、ザフト、オーブ、連合にそれぞれ入り込んで暗躍していた三人。操縦することのできなくなった者も中にはいるが、それは置いておいて。
ザフトに席を置き続けているイザークもその引取先の一つだった。彼の場合は出番の関係でそんなにNG祭りに陥ることがなかったが、ティアとムウは白旗を上げるレベルで大変だったのが昨日のことのよう。
「強化人間の皆さんはなんというか、他の方々とはまた気迫が違いますよね」
「対極の立ち位置だからかな。正直、賑やかしすぎてあんまり近づきたくない」
イングリットとオルフェが半ば気後れするレベル。ティアは慣れているから問題ないのだけど、そういえば運命編の撮影時、シンたちも最初は怖がっていた気がする。
ガンダムSEEDシリーズに配されている少年たちは、異例の経歴持ちが多い。
好奇心の赴くままに電脳世界にのめり込み、気付けば天才ハッカーとして補導されるに至ったキラを筆頭に。
幼い頃家族と向かった旅行先が突如紛争地帯になり、必死で生き抜いていたら停戦に至らしめる功労者になってしまっていたラシード(年齢と学歴の不一致の原因)とか。
学校ごと集団神隠しにあい、半月後に試験飛行中の無人旅客機で発見された数十名に含まれる連合役の少年たちとか。
占いに分類されるものに手をつけたら内容を問わず“当ててしまう”という便利なようで不遇なスキルを持つことが判明してしまったアスランとか(本人が興味を持っていないので被害激少)。
古傷をメディアに載せてあえてネタにすることで、非現実的なものとして錯覚させ、社会復帰させて貰った恩を感じているものは多い。
共演者である同年代や大人たちもみんな面倒見が良く、今では家族以上に仲良しだ。
「オルフェさんたちも、結構大変でしたよね」
「ティアも大概だと思いますけど」
イングリットからのカウンターに絶句すれば、オルフェが肩を揺らしながら笑う。
「超能力者開発の施設出なんて、メディアの格好の餌でしたからね。少し前まではプライバシーもなにもあったもんじゃなかったな」
実際何ができるのかまでは知らないが、オルフェたちが保護されたのは一番最近だ。そうはいっても数年前のことだから彼らも多感な時期だったと思う。
彼らにとってもガンダムSEEDシリーズでの活動が楽しいものとなってくれたらとても嬉しい。
「おなじく壮絶な経験をしているからなのか、ラシードの側が一番静かで、私たちは落ち着くんですよね」
ちなみに劇中ではラシードとオルフェたちの相性は抜群で、ラシードはとっても楽しそうだった──オルフェたちの方からすると最悪なのだが。
なお、ティアは彼らに勝てる要素がないので散々な目にあった。半ば事故で押し倒されるカガリより恥ずかしいシーンがあり、思い出すだけで居た堪れなくなる。
「おい、クロト! 三者面談の時間ヤバい、急ぐぞ!」
思い出して赤面するティアの脇で時計を見たムウが素っ頓狂な声を上げた。名指しされた赤毛の少年も飛び上がる。
「マジだ、悪いけどちょっと中抜けすんな!」
ムウはコンパスの制服をきちっと着ているが、クロトはパイロットスーツ姿のまま走っていってしまった。超難関高に進学したクロトの事情は把握されているはずだから、びっくりはされるだろうけど問題ないのかな。
「ティア、申し訳ないのだけど、またダンスの練習に付き合ってもらっていいだろうか。どうも上手くできなくて」
オルフェが申し訳なさそうに拝んでくるので、快く受け入れた。ラクス自身も本格的なダンスに四苦八苦している。ほんの少しの時間とはいえ、プロ並みに仕上げなければならない二人はかなりしんどいだろう。
ティアは社交ダンスならば幼少時から家族で嗜んでいたので一通りこなせる。快く引き受けてオルフェの手を取った。今頃ラクスの練習には、カガリかアーサーが付き合ってくれているだろう。
「オルフェの動きはまだ固いな。ここは趣向を変えて、いろんな型に手をつけてみてはどうかね」
「ええー……鬼の首領に提案されるとなんか微妙ですね」
一曲終えたところで、ラウから提案。
別番組で共演しているオルフェからするとなんだか微妙な模様。そちらの番組だとアスランも部下だが、イザークは逆に敵対側である。
そういえばキラも部下だったな。収録は1日だけだったらしいが。
「確かに、それはいいかもしれませんな。例えば恋ダンスやパプリカ辺りを皆でやってみれば余計な力も抜けるのでは?」
そろそろ撮影の出番だと言うのに、アレクセイ・コノエがアドバイス。
半ば言い逃げる形で去っていくその背に「ねえちょっと、元柱の発言力が半端ないのわかってます?」とオルフェが行き場のない手。
「なんか皆さんノリが軽くないですか? 私の頭が固すぎなのかな? パプリカとか始めたら社交ダンスが抜けていきそうで怖いのですけども」
「大丈夫よ、オルフェ。あなたをフォローが出来るように、私は目と耳を塞いでおくわ」
おろおろと戸惑う様子を見せるオルフェに、アイマスクと耳栓を手に持って、送り出す準備万端のイングリット。その頃には呆れた様子で状況を見守る体裁のオルガとイザークの側で、「ヨウランがしっちゃかめっちゃか言ってた意味を理解」とシュラがぼやいている。
ティアは困った。恋ダンスってなんですか?──と問いづらい状況だ。パプリカにしても、野菜の名前ではなさげ。
「ティア、わかってないでしょ。ほら」ラウに現物資料を出すよう請われたキラが、液晶画面を指し示す。子供が四人で歌いながら踊っている。
なんだ、パプリカって体操の名前だったのか。かわいい。
「どうせやるなら、会社名変わっちゃったけど大手アイドルグループの完コピやってみたい! それも難しいやつ!」
「おっさんたちにゃキツくないか? 簡単なやつとで分かれりゃいいじゃねえか」
軽く趣向を変えるだけのはずだったのに、ルナマリアの一声で別の企画が持ち上がってしまった。
それにオルガが年配組に配慮を見せてしまったが為に、お化け屋敷企画だけでも手いっぱいなのに歌と振り付けまで覚えることに。
「歌が歌えるやつをボーカルに添えて配置すればいけそうですね、クルーゼ隊長」
「名案だな、イザーク。それならば進行役の私も参加できそうだ。現状のメンバーの出来る範囲を把握しなければ」
絶句しているティアとオルフェそっちのけで各々が動き始めてしまった。少し向こうではミレニアムのブリッジ撮影が進んでいる。
ちなみにその隅っこでは、アズラエルとシャニが、アスランと共にお化け屋敷企画の主軸を整えていた。
彼らはこの事態を把握しているのだろうか。していない気がする、止めてもらえるかもしれない! オルフェと顔を見合わせ、慌てて向かう。
「それじゃあ、オレが友達を呼べば良いだけだね」
「あんなに盛り上がっては全ての企画に全力は無理だろうからな。負担をかけるが頼んだ」
なんだか気合の入っているシャニに対し、疲れた様子で肩をすくめるアスラン。アズラエルも珍しく途方に暮れた様子で、ルナマリアたちの方を眺めている。
これは──止めるのを諦めたな。
オルフェが愕然とする。「そんな、嘘でしょう……このまま完コピ企画を進めてしまうんですか」
「あの連中は思ったら即行動なんですよネェ。本当に止められる人がいるとしたら、ウズミさんとか、シーゲルさんじゃないと、とてもとても」
僕には無理ですよ、無理〜と両手をあげてヒラヒラ振る。そう言いながらも、アズラエルは立ち上がって綺麗にお辞儀を一つ。
「その代わりといっては何ですが、まあ、社交ダンスに関しては僕も手を貸しますヨ。君、今日からうちに泊まりなさい。私生活で少し矯正するだけでも割りと変わります」
にっこりと笑うアズラエル。ティアが出来るのはパートナーからのアドバイスしか出来なかった。プロ級の腕を持つ義兄ならば確かに間違いないかも。
心の底からお礼を言うと、頬を赤らめて「いいんだよ、僕はティアの負担を少しでも軽くしたいだけだもの」と目尻を下げて。
「それは、ありがたくはありますが……アズラエルさんの家って、ティアも一緒なのでは?」
おろおろとオルフェが、本当にそんなこと許してもらって良いのかと確認の意味合いで尋ねれば、アズラエルはキョトンとした顔をして。
「キラもシンもほとんどウチに入り浸りますしねェ。ラシードだって一角に住まわせてるし? もうSEED関係者の保養所みたいなモンです。オイタさえしなけりゃ安全ダヨ?」
「……下手なことをしなければ大丈夫だ。後でマズいことだけ教えてやるから」
ほっとした様子だったのにまた青ざめるオルフェに、アスランが苦笑いで助言する。
アスランはそのセキュリティにたまたま引っかかってしまって大変な思いをしたからか、あれから二度と泊まりに来てくれない。
パジャマパーティー、楽しいのに。
不満の眼差しをアスランに向けていたら、ルナマリア主導でアイドル振り付け完コピ企画が確定してしまった。
「まず簡単なのだとパプリカ、恋ダンス、青春アミーゴあたりよね。難易度高めだと仮面舞踏会、ツキヨミ、モンスター──」
イングリットが教えてくれたのだが、BTSなど幅が広くなっていきかけたところ、日数的に仕上げに足らないものに手を出すな、と撮影を終えたハインラインがピシャんと止めてくれたらしい。
どうせなら完コピ企画そのものを止めて欲しかった。
「難関曲に関しては、向こうにも話してメンバーを募るのはどうかな」
「ふむ。あちらの方が平均年齢も低いからな」
ラウがぽんと手を打ってしまう。どっしりチェアに腰かけてティーセットに手を伸ばしているデュランダルの思惑に乗せられてしまっていることに気づいていない。
シュラが指折りながら首を捻る。
「二人組って言ったらアスキラ、シンレイ、ムウラウ、イザディア、あとは──」
「あら、私はラクス様とアスハ代表ですとか、ホーク姉妹とかも良いのではないかと」
イングリットが頬を赤らめながら提案。そういえば彼女は宝塚歌劇団が好きだったはず。
早速デュランダルがスキップしながら提案しに行ってしまった。本当にこう言う時のフットワークが軽い御人である。
「残念だがオレは歌えないから。どんな振り付けでも覚えてものにすることに専念させてもらう」
「僕は踊りは自信ないから、やるならパプリカがいいなぁ」
キラとアスランが怯えている。それぞれ苦手分野を数日で完璧にするなど無理だとわかっているのだろう。ティアとしてもパプリカならば頑張れそうだ。恋ダンスはどうだろう。他に比べれば何とかなりそうだが。
「オレはバックダンサーかな。シャニもクロトも行けんだろ」
オルガがシャニを振り返れば、「モンスターなら踊ったことあるよ」と返答が。この三人はムウに仕込まれて歌えるし踊れるから問題なさそうだ。
「信じられない……こんな破天荒な現場なんて……」
すっかり打ちひしがれてしまっているオルフェの肩を、豪快に笑いながらばしばし叩いたのはコノエ艦長だった。彼は腰を痛めないようにしないとなあ、と笑っている。
「さあ、そろそろ腹を括りなさい。何事も呼吸が大事だ!」
「火力上げたの間違いなくあなたでしたよねぇ?!」
涙目で非難する少年の頭をぐりんぐりん撫でながら、「私は恋ダンスやってみたいですねえ」とかわしている。
シュラとイングリットは、オルフェに比べて適応能力があるのか、「仮面舞踏会とかマスターできたら面白そうだ」「やったことがないのでちょっと挑戦してたいかも?」と乗り気な様子。
三日間でお化け屋敷の本筋を決めて、舞台を整えるまでを合わせて1週間という限られた期間なのに──振り付け完コピ企画が勃発するなんて。
アスランが大丈夫と思っているのならば、間に合うのだろう。だが、本日の撮影のスケジュールが完全に押している。
「どうしよう、ラクスが完璧に社交ダンスを踊れるのに私ができないままだったとか、申し訳なさすぎて無理過ぎる!」
「オルフェさん、落ち着いてください? 大丈夫、まだ日数ありますから!」
もはや半泣きで膝抱えてしまったオルフェを宥めようと、ティアはそばに膝をついた。こんなに繊細な男の子だとか思っても見なかったが、こんな雲行きが変わり過ぎる現場であれば確かに精神的に辛いかもしれない。
ふと、ハインラインがオルフェの背後に立つ。
「私の計算では、あなたはこの後割とすんなり社交ダンスを者にできるようになるでしょう。君は頭でっかちすぎだ」
「ごめんなさい、今はちょっとしたことですぐ泣けます!」
素直な心境を口にして本当に泣き出してしまったオルフェ。
ハインラインが仕方ないですねえ、と早口で何か助言を始めるが、泣き止む様子がない。
周りでは、ルナマリアとイングリット、シュラで何やら盛り上がり始め、オルガとシャニが体を動かしている。イザークとラウが背中合わせになって何やら振りを試していたり。
「ティアー! オルフェのことは鬼滅組に任せて、僕らの撮影進めちゃおう!」
泣いているオルフェの頭をよしよしと撫でたキラが、でも容赦なく現実を告げた。アスランがドリンクを持って、コノエに預けて手招いてくる。
二人ともこう言うところは徹底しているのだ。
小さく言ってきますね、と残して、ティアはキラとアスランを追いかけるのだった──。