運命編ハロウィン令和版(手直し中)
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# 起:台詞の代償②
──監督勢が3人して事故にあったと知らされても、役者勢は慌てるでもなく、アーソウナンデスネ、という反応だった。
普段、デュランダルたちのわがままに振り回されている中でも反骨精神旺盛な連中ばかりが集っているのもあったろう。
これがティアやキラあたりだったら素直に心配していたかもしれないが。何度もいうが、あのぼんやりさんなステラが本気で引いているというのが現実なのだ。
「撮影が遅れるにしろさ〜、結局やることには変わらないんだし読み合わせでもする〜?」
「さすがに打ち切りとかはないだろうからな」
逆立ちしながら提案するアウルに、腕を組みながらオルガが頷く。アウルは運命編で現役で活躍しているが、オルガは本編では回想シーンのみだ。
だが、円盤発売時の特典に旧連合運命編と銘打って生還バージョンを別撮り、15分程度のものを収録したところ、それが意外と人気がを得てしまったが為、短編撮影が現在恒例化していた。
おかげで、ほとんどの現役プラント勢以外のメンツは忙しい。特にムウとティアなど、旧連合三人がいるのと居ないのとの撮影のせいでよく頭を抱え、今どっちの撮影だったか混乱する時もあるくらい。
そしてNGを量産しているのだが、これがまた特典映像として需要があった。時々ラシードとカガリもやってしまうのだが、不思議とキラがNGを出さないから悔かったりするのはまた別の話。
「ねえ、アシュはこのイヤホンとこっちのイヤホン、どっちが好き?」
「なかなか難しい判断を求めてくるな……重低音を──」
そんでもって、アスランとシャニの相性が不思議と合うという。キラと三人で話し始めたら誰かが止めるまで続くくらい。
内容は聞いているとわかるのだが、話の枢軸に沿って話題を進めるアスランに対し、枢軸からは外れないのだが話を分岐させるシャニ。そこでかけ離れたことを言い始めるキラの介入に対し、双方の話を綺麗にまとめて軸に自然と戻すアスランの凄技が見られる。
しかも、アスラン本人は話が逸れていた認識がないのだから感動する。聖徳太子ってアスランだったんだな、と思うからぜひ体験して欲しい。
「みな、待たせてしまい悪かった」
そこへ、硬い表情でパトリックが戻ってくる。どこか緊迫感をもって現れた現場監督に、みな私語をやめて注目。
「まず結論を言う。本日の撮影は中止だ」
まさか、事故の話は大真面目な話だったのか。さすがにニュースになるぞ。
ラシードはアスラン、イザークと顔を見合わせた。驚きはしたが、パトリックが事故にあったなら話は別だが、他の三人がいなくなったところでそんなに支障はないはず。
別の撮影現場にはラウ・ル・クルーゼがいる。シーゲルが病に倒れた種編終盤は彼が監督代行をすることもあった。
また、キラとカガリの養父であるウズミは、俳優業を引退し後進の育成に精を出しているから補助に来てくれていたし。
割りと撮影を回すことは困難ではないと思っていたのだが。
「ザラ監督。撮影中止とはどういうことです? あの三人に駄々でもこねられましたか」
「うむ。それもあるのだが」
イザークの質問に、パトリックの本音がポロリ。思わずラシードは彼の心労を思って涙が出そうになった。視界の端でヴォルトが泣いてる。
だが、続けられた「撮影は中止だが、別の指示が出ているのでな」の返答によって秒で涙が引っ込んだ。
おのれギルバート・デュランダル。
「ところでアスラン、今日が何の日かわかっているだろうな」
神妙な顔つきで実子に問うパトリック。総監督たちから何を仕掛けられるのかと身構えていたアスランは、不意を食らったように声を漏らす。
仲違いしているとかはないが、二人は似たもの同士なので親子のコミュニケーションが大変うまく行っていない。
「今日は、諸聖人の日の前日です!」
父親に苦手意識を持つアスラン、ほんの数秒間の思考停止があったとはいえなんとか応えきった。普通にハロウィンって言って良かったと思うけどな。
満足げに頷いたパトリックに対し、アウルがつまらなそうに頬杖をつきながら手を挙げて。
「みんなで仮装して、お菓子もらったりして騒ぐやつだろ? 少し前から事務所が気合い入れて準備してるからさー」
アウルはステラ達と同じ寮なので、オルガが面倒そうにため息をついた。彼の場合、みんなで楽しむより本の世界に没頭したいのだろう。
「私は特に予定ないのよねえ。メイリンと帰り道にハロウィン気分味わいながらショッピングして帰るつもり」
「わたしは、撮影の後にイベント会場に直行予定だよ〜」
ひとり無駄にテンションの高いミーア。彼女が野良のイベントにどんな格好で行くのかは不明だが、身バレでもしたら大騒ぎになる気がする。彼女のマネージャーは何をしてるんだ。
だが──この話題の流れはまずい。
ラシードはヴォルトを振り返った。ヴォルトはミゲルとハロウィンを去年も楽しんでいたから──案の定、ミゲルと共に不満そうな顔で状況を見守っている。
ラシードはお菓子を配り終える任務を終えたら、場合によってはカガリのところで開かれるハロウィンパーティーにいく気ではいた。
彼女の侍女が作るスープにどハマりしているため、定期的にお邪魔しているのはここだけの話。
「お前らは?」とイザークとアスランにこそこそ尋ねる。
「刀の使い方の鍛錬をしようと思っていたが」
「俺はジムに行こうかと」
鬼滅の役作りのためだな。人気ありすぎて下手なことできないもんな。頑張れ。
「それで、それが、なに?」
そこで、ぼんやりと話を聞いているのかいないのか定かでなかったシャニが立ち上がる。彼は時々、こうして場を収めてくれる時がある。静謐な感じ。
騒いでいた連中が、はたっと動きを止めた。パトリックは事故にあったとかいう総監督らから、撮影はせずに別の指示を賜っていると証言していた。
そしてそのまま、ハロウィンの話題を出してきたわけだが。
講義や不安の眼差しがパトリックに向く。彼は、こめかみを指先でほぐすようにしながら頷いてみせた。
「このメンバーでハロウィンを行ってもらう。それぞれレポートを提出するように、とのことだ」
何、その学生みたいな課題。
白々しい、やる気の感じられない視線が大人へと向けられる。本日のメンツは真面目なのも若干名揃っているが、大半は反抗期真っ只中のお子様達なのに。
誰が御せるというのだ。
せめてティアを寄越せ──いや、向こうも同じ条件を提示されている気がするが。クルーゼはデュランダルの意見をすっぱり却下できる人物だ。
いるのといないのとではやっぱり違う。羨ましい!
「あー……ところでだな、パトリック」
とりあえず周囲の雰囲気を確認してから、手を挙げる。
こんな提案パトリックがただ承諾するとは思えない。普段から総監督ら3人の暴走に付き合わされているとはいえ、クルーゼほどでは無いにしても撮影の続行くらい問題ないはずだ。
撮影をしながらこの場でハロウィンを行えばいい。
なにか、パトリックが理性に負けて受け入れたとんでもない理由がありそうな気がする。
「……ご褒美はなんだ?」
だから、聞いた。この場で踏み込めるのば残念ながらラシードだけだ。
「──復活権だ!」
ラシードの問いに、男は丸めた台本を固く握り、大きくデスクに殴りつけた。
この報告書を提出したら、たとえ本編で死んでしまおうとも死亡フラグをなかったことにすることができるのだ。
つまり、運命編において現在オペレーターなどにこっそり出演している、またはこれから死ぬことになっているキャラが、生き残って最終回まで生を全う出来るという特別仕様。
すごいノリノリじゃん──思わず言葉を失ってしまったが、ハッとなって慌てて止める。「そんなバカなことが通用するわけないだろ!」
「ネオ・ロアノークが存在するのだ! 不可能ではない!」
それは言わないお約束──間髪入れずの応酬にラシードは固まった。アスラン、イザークも呆気に取られて閉口している。破天荒すぎてついていけない。
「まあ、気持ちはわかるけど」
特典映像ですでに復活してしまっているシャニは、興味なさそうに静観していた。
「特典企画がなかったらどうだったかな」しんみりとオルガがぼやく。
種編第二話で退場したミゲルが、握りこぶしをふるわせて雄叫びまであげた。
「うおっし! 本編復帰した暁には、オレの念願のあまあまライフが待ってるぜ!」
「なあなあ、オレこれから死ぬことになってるしさ。成功したらヴォルトが助けてくれるとうれしーんだけど」
敗者ならぬ死者復活戦に熱意を持つミゲルの背後で、アウルによるヴォルトへのアタックが炸裂。
戦火種終盤で彼が地球軍内でスパイだとばれた後だというのに、それもまた無茶な設定をお願いしている。
まずい。このままでは本当に収集がつかなくなる。
なんとかこの場を押さえなければと、ラシードがミゲルたちに声をかけようとした時。その肩を、ぐっと掴む腕が。
「邪魔立てするなラシード。つまりは、もしかしてもしかすると、ニコルも復活できるということなんだぞ!」
イザークが真剣な表情でずいっと距離を詰めてきた。お前もか。
「いや、さすがに無理──」
「そうか!」
ラシードの制止の声はアスランにかき消された。自分の演じたキャラのおかげで死んでしまったニコルに、ずっと負い目を感じていたものと思われる。
珍しく、イザークとアスランが無言で頷き合っていた。
喜ばしいことなのだけど、デュランダルの思惑にすっかり乗せられている点だけが残念すぎる。
ちなみに、現在ニコルはBGMでピアノの伴奏に回ることが主な仕事だ。時々その他大勢の声の一人だったりするけども。
行き場のない手をひらひらさせ、ラシードは数歩退いた。既に出演者はみんなやる気モード。
オルガとシャニは半ば諦めたような顔でイヤホンを取り出し始めたり、本を読み始めたりして時間を潰そうとしている。
復活側のいい例だから欲がないのだろう。
「う……うそだろお?」真っ暗な世界に放り投げられたような耳鳴りを覚えながら、ラシードは後ずさる。こんな理由で撮影を一日中おじゃんにするとか。
「まあ、僕はラシードたちとは違って出番は少ないからなんとかなるけど……」
「教官! この機を使って、うんと可愛くしてあげますから逃げちゃダメですよ〜」
同情の眼差しをくれたヴォルトが、ルナマリアに捕獲されてしまった。ミーアにもひっつかれ、悲鳴をあげている。
「監督の場合、ラシードがその場にいる状況ですから問題なく遂行できるのではないですか?」
「親子問題が解決していなかったからな。ユニウス・セブンの件についてだけでも私の立ち位置は活用可能だ」
イザークに頷きながら、パトリック。彼はニコルの件に関して「彼は遺伝子の特殊例という裏設定があるし、ティアくんの介入で死を回避可能と考える」と口にし、アスランが目を輝かせた。
こんなきっかけで親子の関係が少し変わるもんなんだな。ほんとなんなんだよこの企画。よかったほうに進んでるけど絶対叶わないって──。
そこで、ぽん、と優しく彼の肩を叩いたのは、先ほどまでヴォルトをめぐってアウルと喧嘩をしていたミゲルだった。
彼は、慈愛の表情を浮かべ、瞳を細める。まるでキラの出生の秘密回で彼を迎えたラクスのよう。
あまりに不似合いなそれに、ラシードは思わず気色悪さに片頬を引きつらせてしまった。
ミゲルは、続ける。
「さあ──泣いていいのですよ゛ぉっ」
ラクスの名言を使いやがった男に、「アンタは一体なんなんだあ!?」とラシードの華麗なアッパーがクリーンヒットした瞬間。
なんだかんだで、デュランダルらの思惑通り、少年たちは一つ屋根の下でハロウィンの報告書を作成することに決定してしまったのであった。
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