世間はバレンタイン企画で盛り上がる中ホラーネタを繰り出す

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ステラの弟




 いいなあ、いいなあ。
 頬を膨らませて不満を訴えているのは、お化け屋敷対決のメンバーに含まれなかったステラだった。

 メンバー間の入れ替え翌日。
 弟のリオンとの撮影が残っていた彼女は、家で顛末を聞いてからずっとこの調子らしい。ホラーな話題が大好きなステラは自分もやりたい、挑戦したいと駄々を捏ねている。



「なぜ、昨日の顔ぶれで火蓋を切ったのか理解に苦しむな」



 同じく、レイもシンとの掛け合いのために現場に顔を出していた。本日の撮影は劇場版の序盤と終盤のあたりの残り部分。劇場版では亡くなっているために出番の少ない人間も揃っている。

「俺も思った。そもそも復活権とか誰得? って感じだったし」

 ラシードもそこは不思議に思っていた。ミゲルは自分、リオンはステラ、シンの場合はレイを上げたかもしれないが。
 キラだってフレイの名はあげたかもしれないが、彼の場合は企画内容の段階で恐慌状態だったからそれどころじゃなかったろう。

 それでも、本気で取り組むような──ミゲルはマジだ──感じの雰囲気で昨日のメンバー交換に進んではいなかった。こちらの要求は“ホラーが苦手なメンツを挑戦者から外せればとりあえずいいや”のスタンスでしかなかった。

 まずキラの挑戦者外しは絶対だったし、ティアとアスランもそうと動いてくれると思っていたから心配していなかったのだが。
 前提を反故にしてパトリックが、初っ端からラクスを指名した時は本当にびっくりしたものだ。戦略的な観点からの必要な指名だったと謝罪はされたが──まあ、ひっそり遂行しようとしていた人事なのでよしとする。

「ヴォルト〜お前、祭りのちっちゃいお化け屋敷で下手すりゃ泣くのに、我慢するなよー」

 メンバー交換の関係で、ラクスとヴォルト、メイリンが現場に入ってくる。ミゲルがほっとしたような顔で迎えたが、その顔に見事な右ストレートが決まった。

「ホントもう、信じらんない……」
「本当にデリカシーのない方ですねえ。よしよし」

 恥ずかしそうな顔でその場にしゃがみ込んでしまうヴォルトを、メイリンがよしよしと頭を撫でていた。事務所の後輩に慰められるくらいメンタルをやられている。

「こちらも、そんなに盛り上がってはいないようですわね」

 ラクスが困ったような顔で、本日の撮影に向けてきびきび指示を出すパトリック・ザラを振り返った。昨日とは打って変わって、優良な現場監督として手腕を発揮している。

 ステラを宥めていたシンが、ラクスに気づいて駆けてきた。「ラクスさん、撮影のスケジュール的に本当はこっちじゃない方が良かったんじゃないの?」

 だいたいはキラとセットの部分を撮り終えているとはいえ、オルフェとシュラもあちらだし。ラクスとラシードの撮影部分は、最後にするという話だったはず。
 シンとラクスはそんなに絡みのあるシーンはない。カガリとラクスの場合は別に同じ場所でなくても問題ない。

 可愛く唸りながら、ラクスも頷く。

「そうなのですよね……円盤を出す時を想定して、即席で何か撮影とかでもない限りは──」
「今作でラクスは歌っていませんから、補完する目的もあるみたいですよ?」

 そこへ、ひょこっと入り込んできたのはニコルだった。種編で亡くなった彼も、回想シーンで大活躍だった。また、ピアノ演奏で今回も貢献してくれている。
 彼は楽譜をひらひらさせているから、ひっそりとお蔵入り前提で進行している企画がある模様。思わずラシードは手を打った。

「へえ、歌かあ。劇場版の時間軸じゃ、そんな雰囲気じゃなかったもんなあ」
「わたし、ラクスさんの生歌聞いてみたいです!」「オレも聞きたい!」

 シンもメイリンも生歌現場には居合わせていない。
 種編からいるメンバーでも、生歌体験者は限られている。だいたいは別撮りを流してしまっていたからだ。ラクスのいとこであるミーアと彼らは仲が良いので、よくカラオケにいっているだろうけど。

 それでもなんだか釈然としない。さすがに前回の不完全燃焼があったからといって、パトリックが執念を燃やすほどのものだろうか。何か別に目的がありそうな気がしてならない。「あれえ、ミレニアムクルーがいないような?」

 困惑した様子で周囲を見まわす、運命編でも自由編でも副長だったアーサー・トライン。迷子のようにおろおろしているのを発見し、ラシードは手招きしてやった。
 いくら考えても撮影があることは間違いないのだ。そろそろ集中しないと──集中しないといけないのだが。

 シンとメイリンだけでなく、レイまできょとんとした顔でアーサーを見ていることからわかる通り、彼は見事に迷子というか。「お前、今日あっちじゃね?」なるべく、指摘というより確認するような口調に留めては見たが。

 アーサーは基本的にミレニアムの中の撮影。もちろんタリア・グラディスの子供を引き取っている設定とは言っても写真程度で終わるから、艦長役のアレクセイ・コノエや、アルバート・ハインラインたちとセットだ。
 彼らは本日、ティアたちと一緒に撮影のはず。指摘された本人、口をあんぐりと開けて固まっている。

「ああ、アーサーはこっちで大丈夫だぞ」

 泣き出す大人を少年たちが慰める傍で、呆れて見守るだけにしていたラシードのところにカガリとリオンが合流する。どうやらカガリが把握している撮影があったらしく、珍行動というわけではなかった模様。

「元気出して、アーサー。ステラのおかし分けてあげる」
「見てください副長、これ限定ものですよ! やりましたね!」
「それ可愛い! 私も欲しいわ!」
「シン、これから撮影が始まるのに荷物を広げるんじゃない」
「おかしいなあ、副長が好きって言ってたシール持ってきてたはずなんだけどなあ」

 めそめそしている──現在感動も含まれている──大人を囲んでいるお子様たちを遠巻きにしながら、同じ世代のリオンがぽつり。



「あの人はあのままでいてほしいよね」



 本当にね──ボヤいたラシードの肩を、カガリがポンと叩いてくれた。









 まずはお化け屋敷企画の場所決めを終える必要があった。

 改めてリモートで画面を繋いだところ、キラがぐすぐすしながらクルーゼにひっついてぐずっている。アスランとティアがオロオロしているところを見ると、本当にこの企画が嫌なんだなとわかるというもの。

《さて、場所決めの件で──私からひとつ、確認させてもらいたいのですが》

 事務所の後輩の頭を片手でよしよしやりながら話始めるクルーゼから、イザークがキラを引っぺがし、ティアとアスランの隣に座らせた。
 彼自身は、キラの背後に立ち両肩に手を置いてやっている。やっぱイザークは優しいなぁ。

《墓場と学校を貸し切っての企画とのことだが、一般公開を視野に入れていることを考えるのであれば、墓場は問題ありと考える》
「やはり、君もそう思うか」

 クルーゼの提案を受けて、パトリックが重々しく頷いた。最初から思ってたなら選ばなければ、なんてぼやいちゃったのはアーサーである。パトリックが振り返ってきたので泣きそうな顔だ。

「私自身は、廃校の活用を、当初から訴えていたのだがな」

 ティアがハッとした様子で周囲をキョロキョロした。画面の隅の方に義兄のアズラエルがいて、彼は自分じゃないというように肩をすくめて見せる。
 それを受けて本日はこちらにいるジブリールに注目が行くが、彼も首を振って否定している。

 と、いうことは──思い至るよりも早く、パコパコと独特な音と共に男の悲鳴が。

 クルーゼとムウ・ラ・フラガにカラーコーンでぶん殴られているギルバート・デュランダル。あの人本当に楽しいことをやろうとするのに一生懸命だな。いっそ尊敬する。
 こほん、とパトリックが咳払いした。何処となく晴れやかな顔だ。

「いや、感謝する。なんだかこう、ギルバートの話術は論点がわからなくなっていくものだからな」
「確かに。犯罪者になってほしくないベクトルの振れ幅がありますものね」



 パトリックとラクスの物言いがきつい。この二人、よくデュランダルと仕事していられるな。ラシードはドン引きした。
 画面の向こうでは、問題児(大人)を制裁し終えたクルーゼが、一仕事終えたような達成感ある顔をしている。

《それでは、アズラエル氏、ジブリール氏には廃校の手配をお願いしたい。──で、当初の場所決めという前提を崩してしまったわけだが》

 朝のうちに場所に目をして、どういうお化け屋敷をつくろうかと話し合わなければならなかったのだが。学校一択になるのであればそれはそれで取捨選択は広がるというもの。

《撮影場所からそんなに離れていないエリアで考えても、まあさまざまあるネェ。先日資金繰りが上手くいかず、完成まであと一歩のところでオジャンになったところとか》
「こちらは年季は入っていますが、神殿造りの技巧を取り入れていたからか骨組みのしっかりしている年代物を押さえようとしているところです」

 いくつか候補を絞っていたのか、割と具体的な例をあげるアズラエル。墓場よりも場所を押さえるのは簡単だからか。どうやらジブリールも目ぼしい廃校は調べ終えていたらしい。
 彼は相変わらず良くない顔色だ。彼が暗いところに突っ立っているだけでもキラあたりなら泣かせられるのでは。



「ねえ、あのね、ステラ頑張るから、ステラもお化け屋敷で遊びたい!」



 そこで、我慢しきれなかったのか、ステラが立ち上がりながら訴えた。出向いた先にお化け屋敷なるものがあれば必ず挑戦する彼女だ。復活権よりも譲れないものなのだろう。

「そうだよ。一般公開するなら、別にいいんじゃない?」
「お互いに楽しんで評価し合うのも楽しいかもな!」

 シンがステラに賛同すると、カガリも後押ししてくれる。こちらのチームの面々は特に異論はない様子。

《挑戦者は三人だけだからな。このバカなど、自分は選ばれないだろうから残念だと、朝からうるさかった》
《だって、私がこういうの怖がらないの知られちゃってるじゃないですか!》

 イザークがうんざりした顔でティアの所業をぶっちゃけ、お披露目された方は駄々をこね始めた。隣でキラが固まっているぞ。

《ザラ監督。昨日のうちにこちらもスケジュールを確認してみたが、融通を聞いてくださるのであれば延びてもなんとか出来そうです。少し本格的にやってみませんか?》

 劇場版で参戦してきたオルフェが、本日から撮影に入るイングリットと並んで賛同の意。昨日はラクスの気迫に押されて顔色を悪くさせていたシュラも乗り気だ。

《話には聞いていたんですよ、ヨウランから。キャンプファイヤーのノリで放火に見せかけて家屋のセットを燃やすとか、思い切り良すぎてヤバいとか!》

 プライベートで仲良し同士の間でそんな話題になっていたらしい。蘇る絶望の記憶に意味の無さない声を上げるラシードの気持ちをわかってくれるのは、ミゲルとヴォルトだけだ。元凶のラクスなんて澄ました顔で笑っている。
 運命時の悲劇の現場に居合わせた連中の大半はティアの方にいる。画面の向こうでイザークが同情の眼差し。

「ああ、そうか。ハロウィン、こっちは盛り上がってたんだったよな」
「僕らの方も前半は楽しかったけど、後半は事件だったからねえ」

 カガリとリオンが顔を見合わせている。それは世間を騒がせてくれたので皆知っているのか、今回はそんなこと起こらないようにしよう、と意気込んでいるが。
 その辺は心配いらないと思う。そもそもあの時はデュランダルの企画に前のめりになりすぎたティアの保護者2名が油断した結果だ。
 同じ轍を踏まないというか、アズラエルとジブリールの瞳孔が開いているから本当に大丈夫。むしろ当事者である自分たちがティアと仲良くなりすぎる方が危険な予感。

「あのね、あのね! ステラ最近行ったアトラクション面白かったから、ああいうの作ってみたい!」
リオンがこの間教えてくれたやつか? オレ、ちょっとそれ気になってたから興味ある!」

 シンが完全に乗り気になってしまった。やれやれと肩をすくめるレイが、「ダメだと言ったら荒れますよ」と現実をぼやく。確かに今から勢いを削ぐようなことを言ったら泣かれそう。



リオン、それって年季入ってる建物でも出来そうか?」



 ここまで話が持ち上がってしまったら仕方ない。ラシードは体ごと反転して、しっかり者のステラの弟に尋ねる。少し考え込んだ後、リオンはこくりと頷いて。

「僕たちのいったアトラクションは建築法ギリギリの廃ビルだったし。方針によりけりだけどいけると思うよ」

 返事を受けて、ラシードはパトリックを仰ぐ。うむ、と無言の頷き。

「ってなわけで、オレらの方は古びた方で良さそうだけど。そっちはどうだ?」
《悪いねえラシード。うちの娘っ子が》

 画面の向こうでムウが照れた笑い。親元を離れて事務所で預かっている子供たちは漏れなくムウの家で共同生活。娘同然とは言え気持ちはわかるが、伴侶の女性が子沢山のイメージになってしまうからやめて差し上げろ。

《こっちは新築の学校なんだっけ? 設備とかの状態ってどうなってるんですか?》

 和やかなムードで話が進行していたからか、当初は消沈していたキラの気持ちも明るくなったらしい。加えて挑戦者枠からも外れているからか、仕掛けを整える側の思考でひらめきがある様子。

《ステラのホラー好きに関してはわかってるつもりだから、楽しめるようなのを作ってあげなきゃだね!》
「そうだなあ、うちの相棒の泣き顔を拝んでもみたいしね」

 よし、とやる気いっぱいになっているキラと画面越しに笑い合う。アスランとイザークがとっても疲れた様子でため息をついているが、まあキラが笑ってくれるならどうでもいいや。



 こうして、何だかんだで下火からじわじわとやる気を起こしたSEED自由チーム。
 それぞれ廃校を舞台に、かたや年季の入ったほう。もう一方は建築中だった新築校を扱いお化け屋敷企画を進行させる。
 とはいえ、撮影もきちんと進めなければならない。

「キャー! アスハ代表、ラシードに押し倒されて赤くなって可愛い!!」

 怖いことより可愛いことにベクトルが振れるアグネスの黄色い叫びに、カガリが反応してしまいNGになる。
 やり直しの為に起き上がったラシードの腕を、駆け寄ってきたステラが強く引いて。「ねえねえ、ステラもやってみたい!」

 場が凍る。

 ステラがやってみたいのは、カガリのほうか。はてまたラシードのほうか。どっちだ。







 ──と、盛り上がっている裏で。






 パトリックとデュランダルが密会する。

「挑戦者枠を増やして除外メンバーをくじ引きで強制参加、というルール変更はどうだろうか」

 重々しい口調で告げるパトリック。楔チームの方が、除外メンバーにホラー苦手が三人中二名と不利だというのに、リスクを承知で提案した。
 それを受けて、デュランダルが笑う。

「さすがはザラ監督。私もそれは大変いい試みかと思います」

 絶対泣くとわかっている人間が、挑戦者になるかもしれない危機を演出する。くじ引きだから必ずしもキラやヴォルト、メイリンが引き当てるとは限らないのだから不公平でもない。



「では、タイミングは挑戦日前日ということで」



 魔の手が迫っていることを、彼らはまだ知らない──。


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